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2.

 耕治の職場はヴィヅにある大陸の中の一国、ザークレイデス皇国だ。さらに詳しく言うと、そこの宮殿の中。つまり耕治は、国の中枢で働いているということになる。

 しかしやる事はすべて雑用で、これまでの仕事と何ら変わりはない。違うのは、パソコンなどのOA機器が皆無であることくらいだ。最初は戸惑ったが、多少仕事のペースが遅くなったというだけで大した支障があるわけではなかった。

 機械は作業効率を早めるが、そんなものなかった時代でも人はどうにかやってきていたのだ。機械は所詮道具、ないのならば人の力や知恵を使えば済むことだ。

 というわけで、耕治は至ってアナログな職場環境にもすぐに順応した。同じく元の世界で雇われている正社員の若い女性は特殊なパソコンをこちらの世界で使用しているらしいが、そもそも耕治はパソコンがそれほど得意なわけではなかった。逆にあんなものを使わない方が馴染む気がする。

「耕治さん」

 ヴィラニカが部屋に入ってきた。休憩を取っていた耕治は、椅子から立ち上がり彼に向き直る。

「すみません、休んでいるところに」

「いえ、大丈夫です」

 干支一回り以上年下なのだろうが、ヴィラニカは耕治の直属上司。適当に丁寧に接するのが無難だ。

「書類、もらっていきます」

 そしてヴィラニカは例によって、大量の書類を抱え上げる。耕治は、黙ってそれを見ていたのだが。

「ヴィラニカ」

 いつもの光景が、今日は多少変化した。

 無駄のない動きで部屋に入ってきたのは、青灰色の長い髪をした長身の男だ。ヴィラニカとは傾向が違うがやはり整った顔立ちをしている。名前は、シディアといったか。

「一人では無理だ」

「大丈夫だよ」

 やんわりと首を振るヴィラニカから、シディアは強引に書類の山を奪う。

「顔色が悪い。眠っているか?」

「大丈夫だよ。シディアは心配性だね」

「ヴィラニカがすぐ無茶をするからだ」

 耕治には一瞥すらせず、シディアはヴィラニカに話しかけている。

 耕治に軽く挨拶してヴィラニカは扉を閉めていったが、その瞬間どっと疲れを覚えた。

 職場でオトモダチを作る趣味はない。適当にうまくやればいい。それが耕治の信条だ。誰がどんな交友関係を持っていようが、興味もない。

 ましてここは日本ではなく、異世界。会社での上下関係よりも厳しい、絶対的な身分の壁というものが未だに存在する場所だ。

 ヴィラニカは、ザークレイデスの第三皇子。そしてもろもろの事情により、いずれは皇帝として即位するのが暗黙の決定となっているらしい。

 関わるのは、無意味だ。

 耕治は煙草に火を付けて、元の世界から持ってきたペットボトルを傍らに仕事を再開した。


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