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2.

「まずは服をどうにかせねばな」

 とりあえずヴィヅ企画事務所に通路を開いて、アザゼルに成り行きを説明したらこう言われた。

「服ですか」

「そんな異世界っぽい服では、コスプレと間違えられてしまう」

 そこでようやく耕治は、ヴィラニカの服装に思い至ったのだった。見慣れていてうっかりしていたが、彼の身につけているものはもちろんあちら製だ。どうごまかしても日本の既製服ですとはいえない感じのデザインの。

「ヴァルに訊いてみよう」

 アザゼルは端末を取り出して操作した。メールか何かを送ったのだろう。返事はすぐに来たようで、振り返ったマネージャーは満面の笑みを浮かべていた。

「豊富に取りそろえて待っているそうだ」

 さすがモデル。

 というわけで、物珍しげにきょろしているヴィラニカを連れて、アザゼルの自宅に寄ることになる。ヴァルディエルとは同じ家に住んでいるそうだ。ここでも便利な鍵が役に立って、数秒後にはヴァルディエルの待つ部屋に三人で入っていた。

「身長がそのくらいだったら、あとは……」

 ヴァルディエルは簡単な挨拶のあと、ごっそり服が掛かったクローゼットに入っていった。本当に入っていった。耕治のアパートの狭い物入れみたいなスペースではなく、ほぼ部屋みたいなクローゼットに。

 さすが現役モデル。

「これとかよさそうだな」

 しばらくして無造作に彼が持ってきた数着の服は、どう見ても耕治の普段着より倍以上は高そうだった。横文字のなんとかかんとかというブランドの品に違いない。ちなみに耕治は、カタカナ四文字あるいはアルファベット六文字で表記される横文字のメーカーとか、ひらがな四文字の服屋の商品を愛用している。

「そっち試着室だから、好きなの着ていいぞ」

「は、はい……」

 こちらの世界に着てから妙に大人しいヴィラニカは、ヴァルディエルに促されるまま服を手に試着室に入っていった。というか自宅の自室に試着室とはこれ如何に。

「ど、どうでしょうか」

 ややしばらくして出てきたヴィラニカは、恥ずかしそうにグレーのジャケットの袖を引っ張っていた。

 無地の黒いカットソーと、黒いスキニージーンズ。同じ黒でも濃淡が違い、重苦しくなっていない。白金の髪色と白い肌、緑の瞳によく映えている。

 もっとも耕治は、服の名称すら気にしたことがない枯れ中年。めかしこんできたなーくらいの感想しか抱かなかった。

「耕治も、ついでに好きなの着ていっていいぞ。スーツじゃ堅苦しいだろ?」

 ヴァルディエルがヴィラニカの靴とかアクセサリーを合わせるのをぼうっと見ていたら、ひょいとヴァルディエルが振り返って急に話を振ってきた。

「俺ですか?」

「よく撮影に使った服とかもらうから、増えすぎて保管も大変なんだ。もらってくれた方が助かるし」

「スーツはクリーニングに出しておくぞ」

 アザゼルも謎の申し出をしてくる。英語だか何語だかわからない言語のブランドの、やたら高そうな服をもらっても耕治も困るのだが。

「草臥れたスーツの中年男性と外国人の美青年が居酒屋にいるだけでも目立つのに、服装の取り合わせがこれではなにやら薄い本が発行されそうな関係だと思われるぞ」

「薄い本?」

「こういうのだ」

 と言ってアザゼルが端末で見せてきた画像を目の当たりにして、耕治は五秒ほど硬直した。

 そして。

「着替えます」

 適当なワイシャツとズボンを手に、試着室へ飛び込んだのだった。


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