表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/18

3.

 耕治が机の上に置いた平らな青いアルミ缶を、ヴィラニカはじっと見ていた。

 目の醒めるような青い地に、白い文字で商品名が書かれている。昔から定番の、冬場の強い味方スキンケアクリームだ。耕治の場合肌のお手入れではなく、髭剃りあとにつけることが多い。

「これは何ですか?」

「クリームです」

 英語の教科書の例文みたいなやりとりになってしまった。

「手荒れとかにも使えます」

「手荒れ? ……ああ」

 ヴィラニカは苦笑して、自分の手を撫でた。耕治の目にもがさがさして痛そうだ。

「あかぎれとかで血が出たら書類汚れますしね」

「そうですね。じゃあ、使わせていただきます」

 本人もそこは気にしていたようだ。

 極上の風呂と豪華なベッド、美味過ぎる朝食をふんだんに味わわせてもらった身として、せめてものお返しのつもりだった。高価なものなど周りに溢れているだろうからと、実用品を考えたときに思い浮かんだのが、青缶入りのスキンケアクリームだった。ワンコイン(税抜き)で買えるのに、成分が外国の高級化粧品と同じだとかいう噂で、近年女性に人気らしい。

 それはともかく、実用品の方がいいだろうという耕治の考えは正解だったようだ。物珍しそうにそっと缶の蓋を開けるヴィラニカは、楽しそうだ。

「いい匂いがしますね」

「あんまりつけたらべたべたするから、少しずつにしたほうがいいです」

「わかりました」

 頷いたものの、たかだかクリームをすくうだけの動作になかなか入れずにいるヴィラニカ。なぜかやり方がわからないらしい。指を恐る恐るクリームの表面に触れさせては微妙な顔をしていた。

 耕治はついじれったくなり、その手をぐいとひったくった。

「耕治さん?」

「こうです」

 指先に適量つけて、ヴィラニカの手の甲に置いたあと掌で馴染ませるように塗り込む。がっさがさだ。皇子様なのだから水仕事をするわけではないだろうに、どうしてこんなに荒れるのだろうか。

「どうですか?」

「わあ、治った!」

 すべすべになった手を見て、ヴィラニカはとぼけた歓声を上げた。目もきらきらしている。

 子供か、と耕治はつい口元を緩める。

「すごい! 魔法のようです!」

「あ、でもしばらくしたら戻りますから。こまめにつけてください」

「はい、ありがとうございます」

 大事そうに缶に蓋をして、ヴィラニカは満面に笑みを浮かべた。

「こんな貴重なものを、わざわざ持ってきてくださって。とても嬉しいです」

「や、そこまでのものじゃ……」

 ワンコイン(税抜き)だ。あまり大げさに喜ばれると気が引ける。

 それでも、嬉しげに缶を引き出しにしまうヴィラニカを見ていると、買ってきてよかったと思うのだ。

 きっと、こういう彼だから周りが何かと放っておけないのだろう。

 受け取った行為に対する感謝も喜びも、少しも惜しまず表す彼だから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ