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人生に絶望したとき、トラックにはねられて死んだら異世界に転生できるといわれているらしい。
杉村耕治は、若者向けエンターテインメント小説など読むような年齢ではなかったので生憎そんなジンクスは知らなかったのだが、その時人生に絶望していたのは確かだった。会社をリストラされたのだから。
今年四十二歳、堅実に勤めてはきたものの取り立ててスキルだのキャリアだのというものがあるわけではない。求職活動をしてみたところで、先に希望があるとは思えなかったのだ。
このご時世よくあること。この世の最後の饗宴とばかりにしこたま酒を飲み、ふらつく足取りで交通量の多い通りへ向かった。
夜もだいぶ更けてきていたが、乗用車もトラックもまだまだたくさん通る。すごいスピードで、跳ねられれば確実に死ぬだろうなと耕治は思った。できれば即死がいい。苦しいのと痛いのはいやだ。
タイミングを見計らい、ひときわ明るいヘッドライトが近づいてきたところに、耕治はよろよろと踏み出そうとした。
の、だが。
「おい」
よくあることが非日常に転換されたのは、まさにこの瞬間だった。




