理不尽ニコル
~110
再びこの研究所に舞い戻り懸念事項でもあった俺と同じ存在を片付けた今、温めてたプランを始動させるいい機会だな。
そんな計画を俺の中で勝手に計画、進行してる中も時は流れる。
まずめぼしい道具機材などは回収しこの研究所は閉鎖する、といっても扉のある洞窟を埋めただけなので掘り出したい奴がいたら頑張れば研究所にまで届くことだろう、そこまで責任はもたんめんどいし。
次にセカンド・ライフ(笑)に捕まっていた?女性達は彼女たちの意見を尊重し俺たちについてきたいものと帰りたいものに分かれることになった。
といっても4人中3人が付いて来たいといっていたので帰りたいか迷っていた女性には冒険者ギルドに預けることにしたのだが、セイムのギルドに行ったら何やらごたごたしてて面倒くさくなったので結局連れていく事になった。
ギルドがごたごたしたらみんなが迷惑するじゃないか何があったか知らないが迷惑な話だな。
そのままケイブ森林の拠点に戻ることにしたが道中ニコルに変化を与えてあげようと私一肌脱ぎました!・・・剣が一肌脱いだら抜き身になるがね!
その名もテレ-ズ、ライカ、アンナを唆してニコルの貞操を奪っちゃえ作戦!
せっかくニコルを英雄に仕立て上げる予定なのにこの子ったら浮いた話がちっとも上がってこないの。
兄さん不安になってきたので吹っ掛けることにしました!甥っ子の顔が見たい!
そんな彼女たちの奮闘が功を奏してニコルの緊縛技術はなかなかの上達ぶりだ、彼女たちもそっちの道を進みだしたようだ・・・ごめんよ。
道中ツー太郎も進化してツインドックからツインウルフになった、むぅオルトロスになると思って楽しみにしてたのに!
見た目はほとんど変わらず体躯が少し大きくなって牙やら爪やらがかなり鋭くなった・・・これって進化ってより成長って言うんじゃないかな?
とにかく無事に拠点まで着いた頃には行きと違い一月くらいしかかからなかった、まぁ十分のんびり移動してるけどね。
さて、拠点に着いたし、まずはニコルに話をつけないとな、というわけで。
『ニコル君ニコル君』
俺はニコルに話しかける。
「なんですか兄さん?改まって君づけするなんて」
あからさまに警戒をするニコル、そんなに怪しいかな?
『実はこれから”ファルシオン”メンバーに重大な決断を迫ってもらうことにしたんだ、改まったりもするよ』
「言葉遣いもおかしいですよ?正直気持ち悪いですね」
そこまで言いますか!・・・まぁいいけど、俺も気持ち悪いなって思ってたしね。
『まぁそんなことどうでもいい、みんなを集める前に話す内容を伝えておくぞ』
「僕に選択肢は?」
『必要か?』
「内容次第ですね」
『内容次第か・・・なら必要ないな』
ニコルの意見を切って捨てる剣だけに。
ここはケイブ森林に人知れずに聳え立つ、かつて盗賊たちの根城だった俺たちの拠点だ・・・正直いうと研究所と天秤にかけたのだがこっちを取った、研究所には俺的にいい思い出が無いからだ。
この拠点にもないっちゃないんだけどね。
それはさておき拠点にある最も大きな建物通称「アジト」、ここに”ファルシオン”のメンバー他複数人が部屋の奥にある教卓のような机を前にして黒板のような物に背を向けて立つニコルを注視している。
全員を代表してファイルが質問するようだ、軽く咳払いをしてから訊いてくる。
「んっうん!それでは、重大なお話とは何なのでしょうか?ニコル様」
「そうですね、そろそろ話しましょうか」
というわけでニコルが全員に説明するが、簡単に俺から説明すると。
1つニコルは兄、ブレド・ファルシオンから英雄になるように遺言で言われていた、というより生前からしょっちゅう言っていた。
2つその願いを叶えるために冒険者のランクを上げSランクまで行くつもりだった。
3つしかし、今この大陸には北からの侵略軍に攻め込まれている。
4つ戦争で手柄あげちゃえば態々Sランク冒険者にならなくてもいいんじゃない?
5つここからが重要これから神聖ハーモニア王国に仕官しに行く予定。
6つ国に仕官する以上冒険者を続けるのは難しい為ニコルはパーティから抜ける。
7つニコル以外のパーティメンバーはニコルの手駒として冒険者を続けてもらう。
等とニコルが淡々と説明する、その様に激昂して声を荒げながら質問するのはサラ。
「手駒ってどういうことなのよ!私たちをそういう風にしか見てなかったってことなのかしら?」
ここで「はい」とか言ったら修羅場になるからやめて欲しいけど・・・ニコルだしな。
「はい、そうですよ?」
ニコルは、何言ってるんだろうか?って顔をしつつ首を傾ける。
パーティの女性陣ががっくりと肩を落とす、ライカにとっては予想内らしく動じてないようだ。
むしろそんなクールなところが痺れると言わんばかりに目を輝かしている、こいつもやばい奴になりそうだな。
その後もサラを筆頭に軽くやり取りがあったが、ニコルは一度意見を決めたら迷わないので最終的にはサラたちが折れる。
結局4人とも冒険者としてニコルの手駒扱いでこの際いいらしい、ただしあまり無茶な要求は聞かないという条件付きで、アジトに待機させてある俺の眷属たちには引き続き自宅警備を指示する。
これで次の目的地が決まった。
「それでは明後日、このケイブ森林を突っ切って直接、神国の王都ハーモニアに向かいます。
メンバーは僕と雷凄です」
ニコルが宣言するとブーイングが起きる・・・年頃の娘たちがブーブー言わない全く!
「僕と雷凄なら最短ルートで行けますし、残念ながら神国はヒューマン至上主義の国です。
サラさんはともかく他の皆さんがいると僕の邪魔になるでしょう」
『もっとオブラートに包みなさいよニコル君!・・・あっ』
ニコルのあまりの言葉につい突っ込みを入れてしまった俺、眷属たちは俺の声だと知っているから大した動揺もなく固まっている。
問題は・・・。
「今の声って・・・レッド?」
「師匠の声サラさんも聞こえたの?」
「あたしも聞こえた!」
「じゃあ~ニコル君の態度に~受けたショックによる~幻聴では無いのね~」
あちゃーやっちゃったよ・・・まぁいいか、そのうち話してもいいかな~程度には考えていたんだし。
ここで俺の説明するのも一つの選択支ってことだな!
・・・とはいえ。
『さて、何から話したらいいのやら・・・』
とりあえず俺は自分のことを適当に説明することにしたが、始点をどこからにするかが難しいな。
「とりあえずあなたはどこにいるの!」
サラがきょろきょろして声の発信者(俺)を探している。
ああ、まぁ剣がしゃべってるとは思わないよね、鞘に収まってるし。
等と考えてたら、
「兄さんもういろいろと手遅れ気味なのでとりあえず名乗り出ませんか?」
ニコルが腰に差してある俺を鞘ごと教卓の上に置く。
「今の声はこの魔剣ファルシオンから発せられた声です」
とニコルが俺を手で示す・・・皆の注目が集まるのって恥ずいね。
『どーも、ファルシオンです』
とりあえず挨拶だ、何事も挨拶は大事なのだ。
「その魔剣喋るの?・・・というかニコルが今兄さんって呼んでたわよね?」
さすが知能担当だ、そりゃあ気づくか。
『そうだな、なんか死んだ後にこの剣に魂を吸収されてな、俺以外にも剣の中にいろいろな魂たちがいたんだけど・・・なんか俺が一番強かったらしい、今は俺がファルシオンになってしまった』
とりあえず嘘をつく、世の中言っていい嘘と悪い嘘があるらしいが嘘は嘘だ、言っていい悪いがあるわけがない。
あるのは開き直っていい嘘と悪い嘘だ、俺の場合は正直に全部言っても信じてもらえないから開き直ってそれらしいことを言ってるだけだ!
と自分を正当化しつつ皆の様子を見る、といっても俺のことを知っていた元盗賊団たちは特に動揺はないようだ、問題は”ファルシオン”メンバーだ。
「それじゃあ生きてたのに黙ってたということなのね?」
動揺が一段落したのかサラが俺に質問してくる、まぁブレド・ファルシオンはもう生きてないからこれはNOだな。
『いや、正確には生きてないからな?それに死んだやつが生きてる皆に”俺、参上”とか言っても気味悪いだろ?
俺なら気味が悪いからやってほしくないな』
と俺が名乗り出なかった事に対する言い訳を適当に話す、剣の姿なら顔の表情から嘘ってばれないのがいいな。
「ほんねは?」
『死んだことにした方が楽だし、こっちの姿の方がニコルを育てるには都合がよかったからな・・・誰だ今俺をはめたのは!』
と怒ったふり、ナイスフォローのおかげで二重の嘘が完成、まぁニコルの下りも楽だってのも実際そう考えてた部分があるから嘘ではないのだけどね。
「にゃるほど、めんどくさがりは人の姿すら捨てると」
なかなか辛辣な物言いだね、そもそも自分の意志で捨てたわけじゃないんだがな・・・まぁそういう事でいいか、めんどいし。
『まぁそんなところだな、それじゃあめんどくさがりなりに簡単に今までのことを説明するぞ』
ということで簡単に説明した、といっても大体はパーティで行動していたニコルの腰に会った俺のことだ説明するまでもなく。
『大体ニコルと一緒にいた、風呂とかプライベートな時間を除いてな』
で終わる、何?悪いの?
『んじゃあ本題にうつろう』
「本題?」
誰ともなく俺の言葉を訊き返す。
『そう本題、なぜ今回ニコルと雷凄が出るのか』
「戦場に出るから足手まといは排除したいんでしょ?」
『ニコルを基準に敵兵士の事を考えればそうなるが、基本にするならテレ-ズだな。
そうなるとサラでも圧倒的な戦力になれる、なのに今回はニコルと雷凄のペアを送るのは、まぁ移動スピードとニコルの知名度を上げるために戦闘はニコル単騎でしてもらいたいからだ』
「それはニコルを殺すって言ってるように聞こえるわね」
サラが眉間にしわを寄せながら俺の意見に食いつく。
『ニコルなら問題ない、タイプドランとタイプシャイたんの能力で一昼夜全力戦闘しても疲れないし、俺を使えばニコルに魔力切れも起きない・・・そもそもニコルが戦場に立てば戦局が大きく変わるはずだから戦闘も長く続ける必要もないんじゃないかな?』
「楽観的過ぎるわね」
まだ食いつくサラ、でも。
『簡単な説明だが作戦を教える、まずは雷凄が戦場に降り立ちブレスを魔王軍の前線に放つこれで大分相手側味方側に動揺が走るだろう、その後にニコルが大声で名乗りをあげる、この時に俺が補助してさらに遠くまで声を響かせる予定だ。
その後に魔王軍が大挙してニコルに向かってくるだろう、因みに名乗りを上げて敵がニコルに向かって攻撃を始めてから鎧を纏ってもらう、勿論安全を期してドラン以上の鎧を使ってもらう』
「大群がニコル君に押し寄せるじゃないの!」
ここまで黙って聞いてたライカも話に参加してきた、感情的になってるためかいつもと口調が違うようだが。
『それも問題ない、大群で向かってこられるのはむしろこちらにとってはプラスになる。
俺は魂を喰らう魔剣で悪食な魔剣で無慈悲な魔剣だ、喰らうのは相手の全て、斬るのは敵意ある全て、そして俺は斬れ無いモノは殆ど無い存在で俺の切れ味は喰らうほどに研ぎ澄まされていく。
敵が多いならその数だけニコルは俺と共に強くなっていくだろう』
「それでも・・・」
『心配だからという理由で反対するのはやめとくほうがいい、ニコルや俺にとって今回の計画はお前たちより大事なんだから。
これ以上の問答はめんどくさい、止めたければそうだな。
・・・ニコルより強くなれたら考えてやるかな』
まぁ無理なことだけどね、絶句しているメンバーの顔がそれを物語っている。
ついでにこれ以降の”ファルシオン”メンバーへの”ソウルブリーダー”は辞めることにしとくかな。
これ以上育てる気もないし、あまり強くなりずぎて増長して今回みたいに食い下がってこられても鬱陶しいしな。
・・・こんな考え方はブレド・ファルシオンだった時には鳴りを潜めてはいたが、どうやら剣単体に戻ったせいで人間性が薄れてきたようだな。
まだ愛着があるからか排除してしまうという考えが出ないだけましだが。
『リミットは明日の夜まで、まぁ頑張ってみろ・・・複数でかかってきてもいいし不意打ちを仕掛けてもいいぞ』
まぁ敵意がある方が”サーチレーダー”に引っ掛かるからこんくらい煽ってた方が逆にいいか。
『それじゃあ開始』
俺の開始宣言に一番最初に動いたのは・・・ニコルだった。
『・・・』
まさか俺が絶句する事になるとは・・・。
目の前には縄で拘束されている”ファルシオン”の女性陣がいる。
「確かに不意打ちはOKってレッドが言ってたけど」
「これは酷いよ~」
「まさかニコル君からも不意打ちOKにゃんて考えてもいにゃかった~!」
「いくらなんでもウチまで瞬殺とは・・・」
まぁ説明するまでもないのかもしれないが何があったかというと。
俺が”複数同時”に”不意打ちして”OKと言っていたので、は開始の合図を出した瞬間、ニコルが”複数同時”に”不意打ちして”無力化しちまった。
ニコルらしいって納得できた自分がちょっと残念だったね、予想しておくべきだったな。
彼女らの心ぼっ切りいってるねこりゃ。
「こちらから仕掛けてはいけないとは言われてません、戦場に行く人間を試すのに気を抜いていた皆さんの落ち度です」
そんなことを言われては皆すぐに反論が出なかったようで、シーンと無音の瞬間が生まれる。
「反論もとっさに出せないならこれまでですね、ファイルさん、彼女たちを明後日僕達が出発するまで地下の牢に入れておいてください。
下手に妨害されても迷惑ですので」
「はっ!了解であります!」
ファイルもビビっているようだ、まぁ怖いよね俺の弟。
ファイルがレベッカたちと共に拘束されてる者たちを連れていくとニコルが。
「全く・・・兄さんの考えに偉そうに反論するだけじゃ飽き足らず妨害までしようなんて信じられませんね!
あんな方たちと今まで行動を共にしていたなんて自分が許せませんよ!」
ずいぶん憤っていらっしゃる、俺も若干イライラしていてニコルがここまで我慢していたことに気づかないままにあんな提案してしまったから起きた・・・悲しい事故だったんですね。
そんなこんなで出発しました。
”ファルシオン”メンバーはいろいろ諦めてしまったのか地下牢から出る気配はなかったらしい。
目指すは神聖ハーモニア王国西部、王都に続く最後の決戦地ハーモニア街道!
ここからなら雷凄に乗って空を移動し途中休憩を入れて三日かからないくらいかな?
北のノスモニアから南に行くと広大なホクブ森林があるために軍で行動するとなると西と東のどちらかに迂回しながら移動しなければならない。
別に両方に軍を展開してもよさそうな気もしないでもないのだが、実はここで問題が起きている。
東に軍を進めると隣のハーモニア共和国の国境に近づきすぎる為、最悪混乱に乗じた第三者の介入で無駄な損失が起きる可能性があるのだ。
なので魔王軍側は東ルートは使わず国境からもだいぶ離れたセイムの町で陣取り、西の比較的に人為的な不測の事態が起きないであろうルートを選び侵攻していった。
そして戦力の大半を投入している魔王軍と戦力を共和国の警戒にも当てねばならない神国側、それでも数では神国が勝っていたのだが、質の差で連敗に次ぐ連敗、現在のハーモニア街道まで押し込まれているわけだ。
ハーモニア街道はホクブ森林とセイブ山脈の間を通る街道でそこまで狭いわけではない、それでも軍として攻め込むには狭く長い道が続き途中途中にある広がった地形に立ててある砦に神国側が陣取って守っていた。
当初は相手の勢いを止め、後は相手の軍が疲弊して引いていくのを待ち、引いていくたびに後ろから叩くという予定だったのだが。
そううまくいかないから現在、神聖ハーモニア王国を守る最後の砦での防衛線が開始していた。




