後片付け
~106
『こうなるのか・・・』
何とはなしに呟いてしまう・・・考えたことを魔力の振動で創る言葉だからON/OFFに注意しないと心の声がダダ漏れだな。
「こうなるって兄さんも壊れたらこうなるというのですね?」
ほらニコルが食いついたじゃん。
『壊れたらっていうより破損部から漏れ出た魔力が多すぎて存在を維持できなくなったんだろう』
「そんなにたくさん漏れ出てるようには見えませんでしたが?」
ニコルは首を傾げて訊いてくる、
『見えていただろう?本来可視化されてないはずの魔力が黒い煙のようになって』
ニコルが「あっ!」っと声をあげる。
『あれだけ密度の濃い魔力が漏れ出てたんだ、すぐに枯渇してもおかしくない。
俺も破損する時は気を付けねば・・・”カスタマイズ”使えば簡単に治るだろうし、そもそも破損した時にそういう形状だと俺が無理やり納得すれば問題ない気もするが、その時に冷静でいることが肝になるな・・・剣だけど』
「最後のはどういう意味の言葉でしょうか?」
なんでそんなどうでもいいとこの食いつくの?説明とか恥ずかしいじゃないか。
『そんなことはこの際どうでもいい、実は問題が一つ判明した』
無理やり話を切り替える。
「問題ですか?」
素直なニコルは切り替えた道を歩いてくれる、これがサラたちならまだ俺をいじめていたことだろう。
『うむ、実はニートとの会話からこの研究所に人がまだいるんじゃないかな?って思ってるんだが・・・情報源が消滅してしまいました』
「あ・・・」
『ということで人海戦術にしたいと思います、この割と広い研究所を”ファルシオン”メンバーとテレ-ズで・・・』
俺の”ライブラリ”の中にあるこの研究所のマップは洞窟の扉から階段を下りて着く階を1階とすると上が3階、下が4階もある。
上の階は登るほどに狭くなるが・・・逆に下の階は下りるほどに広くなる。
そのことをニコルに伝えてさっさと皆を迎えに行く。
「なるほど、あの爺さんは侵入者に殺されていたのだな」
まずは家主と知り合いという設定のテレ-ズにニコルが話す。
「テレ-ズさん、あまり動揺がにゃいようだけどあまりにゃかはよくにゃかったの?」
「仲は良くなかったのだ、人の話は聞かないし人の命も簡単に実験に使っちゃうような奴だったのだ、むしろ嫌いだったのだ」
テレ-ズは俺からの情報をもとにアーノルドのことを説明する。
「そんな人としてどうか思う奴に会うために、こんなに時間をかけてまで来たというのは・・・少し考え物よね」
ここに来て訪ねた相手の人間性を聞いて眉をしかめるサラ、実際に人間性は最悪だったと言えるしね。
「ま~そんな事より~中にまだ~残党がいるかもしれないなら~捜しましょ~」
ライカが話を進めてくれた、とりあえずニコルとツー太郎、サラとライカとワン太郎、ニナと雪鱗とテレ-ズはサン太郎と組んで各階を探索することにした。
もちろん何かいいものが見つかったら各自回収してもらう。
「さて、出発しましょうか?」
ニコルが全員に確認すると準備のできてた残りの二組がOKを出す。
「では、確認しておきますね。
今からこの研究所の探索を始めます、時間は3時間ほどで時間になったらこの扉まで集合、そのままここの宿泊施設を使うのは不安要素がいる状態では危険なのでここで野宿という感じです」
集合時間にあまり遅れないようにお願いしますね、では出発」
ニコルの号令で全員出発する。
まぁ、戦闘は起きないだろうけどね・・・。
現在ニコルは最上階を探索中である。
「ここにはいろんなガラクタがありますね」
淡々とした口調で詰み上がっているガラクタをひっくり返すニコル。
ひっくり返ったガラクタの中にいい物発見!
『ニコル!あれ!あれ!あれが欲しい!』
俺が見つけたのは何かの金属塊、じじい+金属と来れば連想できるのはミスリル銀だ!
「これですか?分かりました」
ニコルが拾い上げると俺が早速”カスタマイズ”剣の刀身を作る。
「兄さん・・・人が持ってる状態でいきなり”カスタマイズ”をかけるのは遠慮してもらえませんか?」
おっと、弟君が軽く切れてるようだ声が少し低い。
『すまん、あっ後は柄とか創る材料が欲しいな』
「もういいです」
ニコルが溜息をしつつ作業を進める、ツー太郎は物珍しいものを見つけるたびに咥えて遊んでる・・・手伝う気は皆無か、別にいいけど。
ここは研究所の最下層サラ・ライカ・ワン太郎組が捜索中だ。
「これなんかどうかしら?」
サラがたてかけてあった杖を手にライカに質問する。
「いいけど~こっちの杖の方が~サラちゃんには似合ってるよ~」
とライカがサラに渡したのは杖・・・で無く鞭だった。
「ライカ、これは杖じゃないわ鞭よ・・・貰っときましょう」
サラは鞭をアイポに入れて探索を続ける。
ワン太郎は各部屋に潜んでいる者がいないかを確認して周っている。
相変わらず真面目な子だね、えらい!
最上階が3階で最下層が地下7階ならここは地下2階ニナ・セツリン・テレ-ズ・サン太郎組が探索をしている。
「ここってお風呂?」
雪鱗が驚きに喜びを混ぜて叫ぶ。
「やったのだ、これで汗を流せるのだ!」
テレ-ズがそう言いながら服を脱ぎだす。
「STOPテレ-ズさん!服を着て!どうせにゃらみんにゃが揃ってから入ろう!」
ニナがテレ-ズをとめる、しかし。
「お先~」
いつの間に脱いだのか雪鱗が裸で浴場の湯気の中に突入していく。
「あ~ずるいのだ!」
「セッちゃん!も~」
結果3人とも先に風呂を済ませることになった。
「いい湯だね~」
雪鱗が湯船につかって呟く。
「ええ、本当に」
横からそんな声が返ってくる。
「やっぱりこうして湯船につかるのが一番だよ」
「そうですね、こうして心身共に暖かく癒されますもの」
と会話をしていると。
「セッちゃん・・・その人誰?」
ニナが雪鱗と会話している女性について質問すると。
「誰だろうね~考えたく無いからほって置いて欲しかったよ~」
雪鱗が涙声交じりにそう返す、ニナはそういえばセッちゃんはお化けとかダメな子だったよなと思いだす。
「怖がらせちゃいましたね、私はここに連れてこられたアンナと申します。
他にも3人ほどあなた方の先輩がいますよ?」
雪鱗が青ざめた顔をして。
「ウチ達も・・・幽霊になるって事・・・?」
という質問に噴き出すアンナ。
「ぷっふふふ、違いますよ。
ここにいる女性は皆セカンド・ライフ様に連れてこられた愛人たちですよ。
貴方達も連れてこられた口でしょう?」
少し悲しげな色を瞳に宿してアンナが雪鱗達に質問するが。
「誰それ?」
「初めて聞くにゃ前だね」
彼女らには全く心当たりのない名前である、ニコルたちが倒した相手の名前をニートと伝えた弊害である。
「では外部からここまで来たのですか?」
「そうなのだ」
ここでテレ-ズが会話に参加する。
「では私たちを助け出してくれませんか?
確かに顔はいいのですが、あんな気持ち悪い男にこれ以上体をいい用にされるのは嫌なんです!
どうかお願いします」
アンナが涙ながらお願いしてくると、
「多分その男はもうアンナに触れることないのだ」
とテレ-ズが伝える、アンナがきょとんとしている。
しかし、気を取り直すと。
「どういう意味でしょうか?」
恐る恐る聞いてくる。
「この子らのパーティリーダーがさっき、ここの主面していた奴を片付けたのだ。
多分そのセカンド・ライフ?って奴のことだと思うのだ」
テレ-ズがそういうとアンナの眼に失望の色が宿る。
「それだけじゃダメなんですよ。
あの男は殺しても姿を変えてやって来るんです。
しかもその姿は彼を殺した者の姿になってくるんです。
何度期待し・・・絶望したか」
アンナは諦めた顔でこう続ける。
「きっとそのパーティリーダーも体を乗っ取られてしまうに決まってます。
今頃、あの気持ち悪い笑い方で貴方たちのパーティリーダーの体を貶めていることでしょう」
テレ-ズが口で言っても信じてもらえないかと溜息を吐き。
「なら直接ニコルに会ってみるのだ。
多分アンナの思っている状態にはなってないはずなのだから」
立ち上がり腕を組みながらそういった。
アンナ視点
「なら直接ニコルに会ってみるのだ。
多分アンナの思っている状態にはなってないはずなのだから」
先ほど湯船に入りセッちゃんと呼ばれた子たちとアンナとの会話に入ってきたビーストの女性が立ち上がり腕を前に組んでそう言い放った。
「分かりました、そのニコルさんに会わせてもらいます。
いえ、どうせ夜になったら勝手に私たちの寝所にまで来ると思いますから会う必要もないと思いますけど」
アンナは話ながらどうせ今夜もまたあの男が、いや、あの男に体を乗っ取られたモノが自分たちの寝所に来るだろうと考え着き態々会いに行く必要がないことに気づく、だが。
「来るわけないのだ、ニコルはああ見えて身持ちが固いのだ。
私が時々迫っても表情一つ変えずに無視するくらいなのだ。
力づくでいっても返り討ちに会って裸で外に宙づりにされたのは記憶に新しいのだ!」
アンナは彼女が何を言っているのか理解できなかったがニコルという男は身持ちが固いんだということは理解できた・・・女が嫌いなだけという可能性もあるが。
「あれってそういうことだったんだね・・・」
ひそひそと話し合っているセッちゃんたち。
「分かりました、でしたら私が自ら会いに行きます、ご案内お願いしますね!」
こうしてアンナは新たなセカンド・ライフに会いに行くことに決めた。
道中お互いの自己紹介を終え集合場所に指定されているという出入り口に到着する、そこに。
「遅かったですね?」
邂逅一番にそう言ってきた子供にアンナは絶句した。
今までに現れたセカンド・ライフの中でも跳びぬけて、いや、ケタ違いに美しい少年がそこにいたのだ。
正直この子の体ならもう諦めてもされるようにされてもいいのでは等と言う考えすら過る。
「その方は?」
ニコルがそんな質問を先頭を歩いていたテレ-ズに質問する、そんなやり取りを見てアンナは「ワザとらいい!」と苦虫を噛んだような表情になる。
「なるほど、恐らくそいつはさっき話したニートで間違いないですね」
さっき倒したニート?・・・ニートって何だろうとアンナは疑問に思い。
「失礼ですがニートとは?」
素直に訊いてみる。
「ニートとは・・・寄生虫と言う意味らしいですよ?
僕も余り知らないので確信持って言えるわけではないのですが」
といって苦笑いを飛ばしてくるニコルを見てアンナは顔を真っ赤にする。
今日からこの子供に体をいい用にされるのかと思っていたせいで沸点がさらに下がっているようだ。
「それで・・・彼女は僕があの気持ち悪い存在に体を奪われているのではないかと疑って会いに来たと」
ニコルは少し低い声で確認してくる、ニコルの仲間たちの眼が泳ぎ出す・・・どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
「それなら安心していいですよ、僕はニコル・ファルシオン。
この魔剣ファルシオンに魅入られた一族の人間にしてファルシオンの現使い手です。
この体を奪おうとした者をこの魔剣は決して許しません。
奴を倒した時に何やら出てきましたが、ファルシオンのおかげなのか何もできずに消滅しましたよ」
と最後に「安心してください」と微笑む。
アンナはその微笑みを見て心臓を撃ち抜かれる。
アンナは2年ほど前に17歳でセカンド・ライフに拉致され連れまわされてきた。
それから今まで何人も彼女たちを解放しようと屈強な男たちがセカンド・ライフに挑んでは返り討ちになりあるいは体を乗っ取られたりした。
その都度絶望を味合わされてきたのだが今回は何やら事情が違うようだ。
長かった囚われの生活が終わりを迎えたと理解して膝から崩れ落ちていくアンナ。
両手で地面について泣き出したアンナを見てニコルがこう勘違いをする。
「あなたの思い人を消してしまったみたいですが、こちらも命を狙われた身ですので謝るつもりはありません。
ですが、最低限責任は取りますので泣くのを辞めてもらってもいいでしょうか?
正直目障りです」
アンナは何を言われているのか一瞬理解出来なかったが、とりあえずセカンド・ライフが死んだことに泣いていると思われたことは理解して弁明を始める。
「違います、よっひっく、これは」
泣きながらなのでうまく声にならないので慌てる、それでかえって声がつまる悪循環に陥る。
見かねてテレ-ズが補足してくれた。
「ニコル、これはきっと解放してくれたことに感極まって泣き出したのだ。
今まで何度も希望を打ち砕かれてはその・・・セカンド・ニートに付き従わせられてたのだから」
テレ-ズの補足にアンナは大きくうなずき肯定する、名前が違う気がしたがどうでもよかった。
ニコルは少し考えるような顔をしつつ「兄さ・・けんで・」と小さく呟く。
「申し訳ありません、どうやらあなたにとって不愉快な勘違いをしてしまったようなので謝らせてもらいます。
今日はもう遅いので明日か明後日に冒険者ギルドに・・・連れていっても保護は難しそうですね」
ニコルが左手で右手の肘を持ち右手の人差し指をこめかみに当てて考え事をしだす。
そんな仕草の1つ1つに魅入っているアンナを鋭い視線で睨んでいる女性がいたのに気付きアンナは震え上がる・・・確かライカという女性だ。
その視線から彼女のニコルに対する感情が何となく分かったので、近づいて耳もとでこう呟いておいた。
「手を出すにしてもあなたの次でいいですよ、序列もあなたの下に置いてくださってもいいので独り占めは無しでお願いします」
その言葉を聞いたライカがほかの皆に気づかれないよう小さく舌打ちし顔を背け。
[約束ですよ」
と、聞いていた彼女の特徴と違う言葉遣いで了承を得るのだった。




