研究所の侵入者
~103
朝、昨日俺が考えて実行予定にある悪ふざけがこちらに飛び火しても面白くないので早々とセイムの町を出る。
「こっちなのだ」
町から南に向かうと森に突き当たる、そうこの森こそ研究所のあるケイブ森林、とか言いたいのだが残念ながらこの森の名前はホクブ森林というらしいよ。
とか考えながら森の中をテレ-ズが先頭になって案内していく。
因みにテレ-ズが間違いなく道を歩けるのは俺がテレ-ズの耳に直接道を教えているからだ、テレ-ズは実際は全く道を知らない。
そんな中、敵襲があった。
懐かしのワニたちだ・・・カテゴリは動物らしいけど何故かギルドの討伐リストに載っていた、Dランクだったけど。
「のだ!」
テレ-ズが颯爽と切りかかっていく、盗賊にはめられたとはいえ一端の武芸者だったんだなと分かる動きでワニを切り伏せていく。
といってもテレ-ズだけに任せていては時間が無駄にかかるため皆チャチャッと戦闘に参加して片付ける。
そんな感じで襲い掛かってくる魔物とかを無力化しながら進んでいくと、かつて2度ほど見た山を発見この山の中腹が緩やかな坂になっていてある程度歩くとまた急な坂になる、そんな場所に洞窟がありそのまま中を進むと研究所の入口があった。
見覚えのある扉の前にテレ-ズが立つと扉を勢いよく叩いてノックする。
家主のアーノルドはいなくなっているのだが、とりあえずテレ-ズの知り合いの許を訪ねている体で来たので一芝居だけうってもらう。
ノックしても反応がないことを確認してから。
「なんだか反応がないのだ、ついに寿命でぽっくり行ったかもしれないのだ」
「でしたら勝手に入らせてもらいましょう」
テレ-ズのセリフの後に間をおかず勝手に侵入するように段取りはしてあったニコルがだれも止める間を与えずに扉を開けて侵入する。
俺は行儀がいいから「ただいまー」って言ったよ?内心で。
ニコルが一人で先に侵入した後に、あっけに取られている(設定)テレ-ズが正気を取り戻してから。
「まずいのだ、ニコルが勝手に入って行っちゃったのだ!」
と慌てだす。
「何かまずいことでもあるの?」
と慌てているテレ-ズにサラが訪ねる。
「まずいのだ!ここに住んでるのはコミュ障の爺さんで勝手に入ったら何されるか分かったもんじゃないのだ!」
と叫んだ瞬間に扉が閉まる。
「しまったのだ!」
閉まった扉を見てさらに慌てるテレ-ズが扉を開けようとするがびくともしない、見かねたサラたちが手伝うがやはり開かない。
「どうなってんのこれ?」
彼女たちの中で一番力の強い雪鱗がお手上げポーズでテレ-ズに質問する。
「多分あの爺さんが扉を閉じちゃったのだ、このままだとニコルが心配・・・でもないのだ、逆に爺さんの身のほうが心配なのだ」
すでに死んでいるが一度も会ったことのない錬金術師のアーノルドの心配をポーズだけでも心配するテレ-ズ。
「このままここで待っててもしょうがにゃいから移動でもしにゃい?」
とニナが暗に他の出入り口を探そうと提案してくる。
「ダメなのだ、私が知っている出入り口がここだけなのだ。
他の出入り口があっても多分緊急用の脱出口だろうから外からじゃ開けられないと思うのだ」
「それじゃ~ニコル君が~出てくるまで~ここで待ってましょ~」
ライカの提案に一同、仕方ないなと溜息をつき賛成する。
「そうと決まったらもしもの為に野宿の準備もしておきましょう。
いくらニコル君でも相手のテリトリーでケンカを売ったらそれなりに時間がかかるかもしれないし」
というサラの提案に各々で野宿の準備を始める洞窟の中で夜を明かすために雨の心配がないのが救いのようだ。
『さて、久しぶりの研究所のだが・・・どうも何者かが入った形跡があるな』
俺は閉じた扉に”ロック”の魔法をかけてからニコルに情報を伝える。
「何者かって・・・分からないから何者かってことなんですよね?」
ニコルは「何者ですか?」って聞きたいのをこらえて俺の言葉の意味を勝手に理解してくれたようだ、言われたように俺にもわからん、といいたいのだがまぁ候補はいるんだよね、そのために”ロック”もかけた。
『ニコル』
「はい」
『狩りの始まりだ』
薄暗い廊下を歩くニコルに俺が声をかける。
『さて、ニコル』
「なんでしょう?」
『狩りを始めるにあたって注意がある』
「注意ですか?」
『恐らく、ここに侵入できる存在を考えてみたら多分あいつかもって奴はいるんだよ、実は』
「えっ?じゃあさっき何者か分かっててもったいぶったんですか?」
ぐふっニコルめ痛いトコを突いてきたな・・・。
勝手に勘違いしておいて言いたい放題だな・・・確かに勿体ぶったけどさ。
『まぁいい、注意事項は敵の攻撃には一切触れるな!
敵の攻撃は恐らくカニじゃ防げんドランも無理だろう、だから最初からシャイたんで行くぞ』
「シャイたんが必要な相手ですか!」
ニコルが驚くと突然金属音が聞こえて来る。
ガッシャンガッシャン
『どうやら出迎えをよこしたようだ、ニコル抜け!』
「はい、”抜刀”シャイたん!」
いまいち締まらんな、まぁ悪いの俺だけど。
金属音をたてて迫ってきてたのは金属製のゴーレムたち、数は3体。
この程度ならニコルの敵じゃないので迫りくるゴーレムに向かって駆け出すニコル。
所狭しと迫るゴーレムたちを軽く躱しすれ違いざまにバラバラにしてしまう、こちらの情報を極力与えたくないので俺はただのよく切れるおしゃべりな魔剣だ、”オールイーター”や”ソウルイーター”は使わない。
正直ニコルと喋っちゃったのも失敗したなって思ってるくらいだし、もし監視されてたらただの剣じゃないってバレバレだもん・・・いや、ニコルが痛い子認定されるだけかも。
とりあえずどこにいるのか分かんないのだがゴーレムが来た方に進んでいく。
進んでいくとまたゴーレムが来る。
片付けてゴーレムが来た道を進む分かれ道に着く、待つ、ゴーレム来る、ゴーレムがきた道を・・・。
を繰り返して一つの部屋からゴーレムが出てくるのを確認してその部屋に入る。
そこには・・・。
「よく来たな侵入者!」
部屋の奥にいる何者かが大声で怒鳴りつけてくる。
「初めまして空き巣さん」
ニコルも負けじと皮肉で返す。
「誰が空き巣だ!」
叫びながらゆっくりと近づいてくる空き巣、この部屋大分広いと思ったらアーノルドが俺の試し斬りにゴーレム斬りまくってた部屋だ。
「空き巣でしょう?家主の留守中に勝手に上がりこんで家のモノを勝手に使い込んでいるのだから、それとも寄生虫ですか?」
「誰がニートだ!」
なんだよ、ニートかよ警戒してて損こいた。
「俺はこの至高の体に生まれ変わったんだ!
この体があれば体はとっかえひっかえ!
イケメンの体をのっとれば女もとっかえひっかえだしな!」
しかも調子こいてるニートか、ニート相手に口げんかしても不毛だしさっさと終わらせたいのだが・・・安全マージンはほしい。
『ニコル』
ニコルを小さく呼ぶと事前に決めていた行動をとる。
アイポからさっきバラバラにしたゴーレムの残骸を数体分バラマキ。
『”クリエイトゴーレム”』
数体のゴーレムを創りだす。
『行け!』
ゴーレムたちに指示を出すとゴーレムたちは空き巣に向けて駆け出す。
[甘えんだよ!」
ニートが向かってくるゴーレムたちを切り裂いていく、切り裂いていくたびに光の粒子となってニートの持つ剣に吸収されていく。
これで確信したなこいつは俺と同じで異世界、日本から呼び出されて俺同様に剣の材料にされた俺の先輩だ。
まぁ先輩だからなんだって言うと、俺と同じ存在ってことは”オールイーター”や”ソウルイーター”なんかの俺特有の技がこいつにもできるってことだし、あいつの切れ味もとんでもないってことだし、少しでも刃が通ればそれでアウトってことでもある。
同じ存在だから仲良くしたら?って思うだろうけど今こいつは調子に乗っている、自分がこの世界で唯一無二の存在だって。
そんなこいつの前にのこのこ名乗り出たらどうなるか、俺の方が後にできた存在だから性能は俺のほうがいいって馬鹿でも分かる、ならどうするか。
多分俺に一時的に降伏して常に隙を窺いほんとに嫌なタイミングで寝首を掻きに来るだろう。
はっきり言ってめんどい。
だからここで片付ける。
今、ニートがゴーレムを派手に片付けたことでニートの最大射程と伸縮の速度なんかが分かった、どうも俺に比べたらナンもカンも劣化品のようだ、ニコルならどこに来るかが分かれば簡単に躱せるようなスピードでしかない・・・訂正ニコルのような化け物ならだ。
さて、光る粒子になったゴーレムたちに照らされてニートの輪郭なんかが照らされる・・・暗すぎないかこの部屋?
ニートは先ほどイケメンを宿主にしたって言ってたので顔はまぁイケメンかな?
金髪ロン毛で碧眼、日本人の夢なんだろうな身長も高めで180はあるかな?
服はぴっちりとしたタイツみたいなものを穿いてて上半身は裸・・・江が・・・ちぃ!3時前じゃないか!
まぁ装備に関してはなんかあるんだろうな、じゃなきゃあれは無い。
さてと、ニコルに俺が纏めた奴の戦闘データを表層意識を共有するシャイたんで伝える・・・今度からこの共有化を”マインドリンク”とでも呼んどくかな。
「なるほど、これなら勝てそうですね」
ニコルが余裕発言、アレっこれってフラグじゃなったかな?
「調子こいてんじゃないぞ!」
と叫んだニートの左肩がずれ落ちる。
「いつ斬ったか・・・分かりましたか?」
俺も分からんかった・・・どうやったの?
まぁ消去法でアレを自分で使ったんだな。
「ぐうううぅぅぅあああぁぁぁぁぁぁ!」
ニートが落ちた左手を目にし唸りだす、聞くに堪えない痛覚くらい切っとけよ。
「くぅぅぅぅそぉぉぉぉ”ヒール”」
ありゃ?回復呪文?・・・ああ”カスタマイズ”は持って無いのか。
「どうしてくれるんだ!片腕になったらこの体の価値が下がるじゃないか!」
知らんがな、こいつはアレだな。
俺みたいに切った相手を吸収することで相手の能力も奪えるんだろうし普通じゃ考えらんないくらい魔力も持ってるんだろうけど。
いまいち魔力の使い方って言うかなんて言うかその・・・下手なんだなきっと。
「この体が一番人気があったんだぞ!キープしてる女どもにこんな、片腕になった姿を見られたら・・・」
『だったら拾って切断面つけてから”ヒール”使えば繋がったんじゃないのか?』
素朴な疑問、まぁ痛みで我を忘れてたんだろうけど・・・痛み感じる暇あったのかな?
『切断面治っちゃったしもう一回傷口作ってやるよ、優しいだろ?』
そういって俺はニートの斜め後ろに刺さってる剣翼の一振りを操ってニートの左肩口でスライスハムを一枚作ってあげる、我ながらいい腕(?)だ。
「え?へっ?・・・ぎゃぁぁぁぁ!」
今度はちゃんと痛みを感じる間があったようだな、やっぱり腕が丸ごと無くなるよりこっちの方が気持ちに対する衝撃的なもので緩和されない分痛みを感じるようだな・・・自分で検証したことないから知らんけど。
ニートは俺のアドバイス通りに腕を拾おうとしたので剣翼で左手を奪ってニコルの手元まで運ぶ。
「がぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぜぇぇぇぇぇ!」
声が間延びして聞こえる・・・ニートが言い終わる前にニコルが手元に来たニートの手を細切れにして。
「”ファイアボール”」
焼却処分する、燃えるゴミだったか。
「あ・・あ・ああああああぁぁぁぁぉおおおぉぉぉまぁぁぁえぇぇぇぇぇ!」
うるさいな。
「うるさいですよ見苦しい」
ニコルも俺と同意見のようだ。
「代えの効く体ならギャ-ギャー叫ばないでください」
そうなんだよな、こいつの口ぶりだと他にも体を忍ばせててもおかしくないんだけど・・・意志がない木偶だとどうにも”サーチレーダー”に引っ掛かんないんだよ・・・意志がないのにゴーレムは引っかかるのは・・・なんでなんだろ?
まぁいいや、奴が剣を伸ばす・・・って攻撃前に伸ばしちゃうの?
伸ばした剣がまるで鎖みたいにジャラジャラと床に転がる・・・どうも剣と剣を連結させてるのかな?接合部には鋭利な円状のパーツを用いているみたいだ。
ほう、成る程ね~普通ならそんな形状の武器じゃ戦えないだろうけど俺らなら別だね。
『ニコル、回避に専念してあいつの今の形状の動きを覚えろ』
超使ってみたいから!って言う言葉は何とか飲み込んで指示を出す。
ニコルは苦笑を少しこぼしてうなずいた。
「しぃぃぃぃねぇぇぇぇぇ!」
相変わらずうるさい、てか左手止血しないの?別にいいけど。
ニコルに向かって突進してくるニート、連結剣になった剣で斬りかかってくる。
パッと見この形状の弱点は簡単に見抜ける・・・接合部の関係で縦には器用に稼働できるけど横には動かない、ついでに長さがあるため振りかぶる必要がある。
つまり大振りになる、ゴーレムたちなら躱せないだろうけど、今ニートの前に相対しているのはニコルだ、縦に斬り込んだ姿を見せられたら失笑せざるを得ない。
あの形状で、一節一節が俺と同じ切れ味なら横振りしなきゃ・・・逆上してそんなことも分かんなかったのかな?
もしかしたら一度横振りに振った時にブレーキをかけ損ねて自分をきっちゃったことでもあるんじゃないかな?
最もこいつが俺と同じ存在だというなら縦切りで剣の距離を一気に詰めて”ニードル”をニコルに放つかもしれないから注意だけはしておく。
「くそ!なんで当たらない!」
しばらく、といっても数分も足ってないのだがニートがなぜか縦切りに拘って連結剣を何度となく振り下ろしてくる、”ニードル”を警戒していたがこいつにはその手の発想はないようだ。
それにしてもあいつの体そろそろ出血多量で動かなくなると思ったんだけどいまだに動いてる、なかなかしつこいな。
『ニコル・・・飽きた、片付けよう』
「はい!」
『肉体じゃなくあいつの剣の横っ腹を斬れ、多分それで終わる』
俺が指示を出すとニコルが狙いを定めて振り下ろされたニートの本体である剣のジョイント部分に垂直に切り込む、そのまま水面に刃を沈めるようにニートの剣を真っ二つに切り裂く。
「なっぐ・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ニートが驚き、悲鳴を上げる・・・きっと初体験だろうからね。
切り口から何やら靄のような物が湧きでておりニートが悲鳴をあげながら必死に止めようとしているが・・・片手じゃね・・・。
俺としては”オールイーター”で吸収してもよかったんだけど・・・せっかくの機会だし俺らが破壊されたらどうなるのかをこの目で見たいと思ったので使わないことにする・・・目ん玉ないんだけどね。
「そんな!おれ・・・こんな、嫌だまだ死にたくない・・・せっかく新しい人生が始まったのに!」
『人生は始まってないぞ?剣になった瞬間人生は無くなったんだから』
俺のつい口(?)から出てしまった呟きにニートが目を見開き驚き・・・一人で納得し、目に憎悪を宿す。
「お前もあのジジイの作品か!なんで俺を殺す!?」
『殺すんじゃない、壊すんだ・・・ついでに答えるとお前は俺に危害を加えられる存在だからな、早めに壊しておきたかったってのもある』
そう、俺は不安要素にいつまでも存在されてて心穏やかでいられるほど器が広い存在じゃない。
「くそ・・・お前が・・・正体がわかってたら・・・ちくしょう・・・」
その言葉を最後に肉体の動きは止まる、するとニートの本体がさっき入れられた切り口からひびが入っていき・・・黒い霧になって消えていった・・・
砕け散るとかじゃないのね・・・アディオス・ニート!
結局名前はなんだったんだろう、まぁどうでもいいけどね。




