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一振りの剣に戻りまして

~86

 何やかんやあって、今俺はニコルの腰の鞘に収まっている。

 これからはこの状態を俺のスタイルにすることにした。

 まぁ理由はニコルが十分に強くなってきたことと、俺自身が体を使って戦うのにはあまりセンスがないってことに気づいたってことだ。

 半面ニコルの伸びは中々なものがあると俺は思っている。

 最初にそう思ったのが自分の元主の娘、お嬢様の首を鈍ではねた姿を見てそう思ったんだけどね・・・まぁこの時点では伸びもくそも言えないかな?

 まぁこないだの浜辺での戦闘で技術だけの奴に手こずったってのが決めてだったってのもある。

 あんだけ身体能力で優っておいて手こずったんだ、多分本体からの意志が肉体に反映するのにわずかにラグがあったんだろ。

 そう・・・いいわけでもしないとやってらんないのだ。

 単純に60倍の戦力で一瞬とはいえ負けかけたのは俺にセンスがないというには十分な理由になるってなもんだ。

 なまじ剣としての俺と扱う肉体の性能が良すぎたために調子に乗っていたが、実際使っているのは俺の意志、つまるところ自殺寸前までいった社会の底辺野郎なのだ。

 そんな奴が調子に乗っててひどい目に合わないはずがない。

 おかげで今回はブレド・ファルシオンを失ったのだ、まぁ自分で人の体を辞めることにしたのだが・・・はっ!

 俺は人間をぉぉぉぉ!

 ってよく考えたら大分前から捨ててるんだから今更言っても面白くないな。

 とか下らないこと考えててもニコルたちは勝手に行動してくれるし、一々俺が指示出さなくてもよくなるし剣の姿なら悠々自適でいいな・・・まぁ話し相手とか不自由しちゃうんだけどね。

 


 夕方頃にニコルたちは元盗賊たちのアジトに到着する。

『よく来たな、我が主の友たちよ』

 とこのアジトの守護を任されている雷凄が迎えてくれる、その言葉に表情が曇るニコル以外の4人。

『むっどうしたのだ?何やら元気がないようだが』

「雷凄、彼女たちはレッド兄さんがいなくなったことを悲しんでいるんですよ」

 ニコルが雷凄に俺の体が死刑になった経緯を伝え、未だに彼女たちが俺の正体を知らないということも小声で伝えた。

『なるほど、どうやら我は失言をしたようだな・・・済まぬ』

「いえ、彼女たちも主が知らないところで死んでしまったあなたにどんな顔をしたらいいのかが今は分からないだけなんだと思います」

『知らないところで死んだ・・・か』

 その言葉を聞きさらに表情が曇っていく4人、そんな4人を見て雷凄は。

『我が主の事だ、あれだけ面白い方がこのまま死んだままということもあるまい』

 とおかしなことを言いだし更には。

『そのうちひょっこり復活するやもしれんぞ?』

 等と無駄に彼女たちにあり得もしない事をいい出した・・・全く、できんこともないから厄介だ。

「雷凄どうしたのだ?」

 特に騒いでいたわけでもないのだが雷凄の大きな体がおかしな動きでもしていたのか、アジトの方から赤毛で肉付きのいい体をきわどく露出させた服と鎧に身を包んだ赤目のビーストの女性が現れた。

 見覚えはあるんだが名前が分からない、そういや聞いて無かったなって今気づいた俺・・・まぁ全員初対面だし適当に自己紹介でもしてくれるだろう。


 元盗賊アジトの中まで先ほどのビースト娘に案内されるニコルたち。

「テレ-ズさん案内ありがとうございます」

「これも見張りの仕事なのだ、礼はいらないのだ」

 ビーストの娘はテレ-ズというらしい猫人族らしいが赤毛の猫なんているのかすごいな異世界。

「ところで兄さんから僕にとあるものが届けられていると思いますけど、それはどこにありますか?」

「それは・・・」

「それは私が預からせてもらっております」

 とテレ-ズの言葉をさえぎって話に乱入してきた男が言葉をつづける。

「お久しぶりです皆さん!私は此処を亡き主ブレド様に任されておりますファイルにございます、皆さんのご到着心よりお待ちしておりました」

 とファイルが仰々しい挨拶をし頭を下げる、毎回思うけどこいつ何なの?

「お久しぶりですねファイルさん、早速ですが僕に兄さんの遺品を渡してもらいたいのですが?」

「はい、それではニコル様はこちらにいらしてください・・・他の方々にはその間湯あみでもしていてください、テレ-ズ案内を頼みます」

 とファイルはテレ-ズに指示を出す。

「チッ偉そうに・・・皆さんこっちなのだ」

 あからさまに舌打ちをした後テレ-ズは4人を案内し始める。

 テレ-ズのせいで流しかけたけどこのアジト、木の上に立っているからにはここは樹上になるのだが何故か温泉が湧き出ている場所があり温泉を立てていたりするんだよね。

「明らかに舌打ちされてますけどファイルさんどういう事ですか?」

「はい、彼女はかつてここに捕まっていた女性です。ここまで言えばわかってもらえますでしょう?」

 おい、ニコルはこう見えて12だぞ、もうすぐ13らしいけど。

「なるほど、ではもう興味もないので案内をお願いします」

「はっ!こちらです」

 ・・・なかなかドライなニコル君。

 まぁ俺があった頃にそういう体験したみたいだし、まぁいいか・・・いいかな?


「あれが兄さんが僕にと残した物ですか?」

 ファイルに案内されて着いたのは宝物庫だった場所だ・・・今は部屋の中央に俺が用意したものがポツンとあるだけの広い部屋だ。

「はっあちらが・・・」

『あれがお前に持っておいてもらいたいものだ』

 ここなら事情が分かってる者しかいないので声を作ることができる。

『あれは、俺が創ったお前用の鎧になる』

 そう、あそこに置いてあるのは俺が2週間暇だったのでブレドダミーを牢屋に置いて(自暴自棄になって無気力なのだと牢屋番に思わせていた)砂浜でブレドの体に戻ってカニ狩りしまくって集めた殻を”カスタマイズ”なんかで創った赤い鎧だ。

 もちろんカニ狩り中は顔は隠して周りはワンツーサン太郎に警戒させていた、同じ失敗はしたくなかったからネ。

「兄さんには悪いんですけど僕にはあの鎧は大きいと思いますよ?それに僕の戦闘スタイルには重さは邪魔になるかと」

 確かにニコルの戦い方は力任せってよりスピードをうまく乗せて戦うスピード特化の戦い方だ。

『それを踏まえてお前用なのだ、こいつには大きな機能がいくつかある』

「いくつかの機能ですか」

『そう、まずは俺を抜き身状態にしてから”納刀”と唱えろ』

 とニコルに指示を出す、ニコルは指示どうりに俺ことファルシオンを抜くと。

「”納刀”」

 と唱える。

 すると部屋の中央にあったカニアーマーがまるで液状化したみたいに形を変えて抜き身の俺に纏わりついてくる。

「これは?」

 ニコルも少し驚いたみたいだが、驚いた拍子に俺を離して落とさなかった点は評価しよう+10点だ。

『普段からあんなもんつけてたらだるいだろ?重いだろうし、だから形状を変えられるように設定しておいた』

「そんなことができるんですか?」

 ニコルの疑問も当然だろう、俺もうまくいった時に出来るもんなんだなーって感心したもん。

『ある状態であるワードを唱えるとこういう機能が発揮される状態になるって条件付けをしてみたら意外と簡単にできた、因みに俺を背中や腰に添えながら”納刀”って言うとベルトまで着くぞ』

「つまりこの形状は兄さんの鞘ってことですか?」

『そういう事だ、しかも俺の形状に合わせて形や大きさが変わる優れものだ・・・まぁ宝飾なんかは無いんだけど』

 因みに今の俺の形状は普段ブレド・ファルシオンの時に使ってた片手剣状態である。

「これは便利ですね」

『そうだろう!んじゃあ次はその状態で”抜刀”って唱えてみて』

「はい!”抜刀”」

 その瞬間俺を纏っていた鞘がまた液状化して今度はニコルに纏わりついていく。

 すぐに赤い全身鎧に身を包んだニコルが現れる。

 この鎧状態になった時は俺の鞘状態の時と同じように纏った者の体格に自動で合わせるようになっている。

「これはかなりぴったりですね」

 ニコルが感想を述べる、口元まで覆われてるため若干ぐぐもった声になっているようだ。

『自動調整付きだ』

「なるほど」

 フェイスガードを開いて話すニコル息苦しかったらしい。

『形はお前が纏うときにお前に意思を反映して決まる、今回はそこに置いてあった時の形を想起して組み上がったんだろう・・・ところで重さなんかはどうだ?』

 俺は最もニコルが危惧していたであろう重さのことを聞いてみた。

「あっそういえば重さは全く感じません!これはどういうことなのでしょうか?」

 ふふふ、さすがに驚いたであろう。

『種明かしするとドラゴンたちの体重調整用の魔法を使ってるんだ』

「ドラゴンは魔法で体重調整を行っているのですか?」

 あっ変なとこに食いついちゃった。

 そういやこの世界だとあんな巨体でも飛んでいる者は飛べるから飛べるんだって感じで物事はこういうものって変に納得して、なぜ飛べるか?ってことまで考えること自体無かったんだろうな。

 まぁいいや、詳しく説明しないでも。

『そうドラゴンなんかのでかい連中は魔力で重さを誤魔化して飛んでんだ、で、この鎧も魔力で重さを誤魔化してるってわけ』

 簡単に説明してみる。

「なるほど」

 わかってるのかね?別にいいけどさ。

『因みにこの鎧は自己修復も可能だ、またいい感じの素材があれば鞘状態鎧状態に関わらず”吸収強化”と対象に触れた状態で唱えれば対象を吸収して強化されていく』

「それって兄さんと同じ力ってことですか?」

 うん、今説明しておいて俺もあれ?って思ったよ。

『まぁ似たような力だな、だが俺と違って意志を持っていないし魂や魔力の吸収まではできない』

「そうですか」

 ニコルはほっとしたような残念なような微妙な顔をして溜息をつく。

『それからこの鎧は魔力を吸収する事は出来無いが各種機能を使うためには魔力が必要となる、その魔力は基本は俺が供給していくのだが何らかのトラブルで俺から離れた時には使用者であるお前に負担がいくから気をつけるようにな』

「分かりました、因みにどれくらいの供給量が必要になるのでしょうか?」

『今の鎧の強さならニコルの魂が生成する魔力でお釣りがくるくらいだろうが、鎧が強化されていくたびに必要魔力が上がっていく仕様だ』

「分かりました、今後気をつけていきますね」

『さて、この鎧の名前なんだが』

「決まっているんですか?」

『決まっているぞ』

「なんという名前でしょう?」

 俺は少し間を溜めてこの鎧の名前を放つ。

『レッドアーマーだ!』

「なるほど、まんまですね」

 俺は無いはずの胸に酷い痛みを感じながら、あれ~いい名前だと思ったのにな?

等と無言で考えていた・・・。


 暫くして。

「それがレッドが残した物・・・」

 俺がニコルに送った鎧を見てサラがそう呟く。

「はい、これが兄さんが創っていた物らしいです”納刀”」

 ニコルは腰にファルシオンを添えて鎧を鞘に変える、もう使い慣れてきたようだな。

「それってウチが”抜刀”って言っても機能しないの?」

「はい、いくつか発動に条件があるそうで・・・その条件の一つが”僕”が”ファルシオン”を持って唱えることが条件らしいです」

 そう、一応盗難防止にってそんなセーフティーを付けてみた・・・まぁ盗まれたら俺自身でかたを付けるけどね。

「それにしても~レッドさんの形見になるだろうからって~レッドアーマ~って名前は~どうなんですかね~」

「えっ?僕はてっきり鎧の色で決めたのかと」

 俺も色で決めたつもりだったけど、そういう受け止め方があったか~。

「少し気ににゃってたけどニコルはレッドが死んでもあまり堪えてないみたいだよね?」

「ニナ!」

「ニナちゃんそれはあんまりな物言いですよ~」

 ニナの物言いにサラとライカが注意する。

 一気に場の空気が悪くなってきた、確かにニコルは堪えてないよな俺生きてるもん。

 ・・・この剣の体でいる事でも生きてるって言えるならね。

「二人ともありがとうございます、ですがいいんですよ、確かに僕は兄さんの死にあまり堪えて無いように見えるでしょうね」

 ニコルからの開き直り宣言にニナの眼が細くなる、なんか怒ってるのかな?

 そんなニナを放って置きニコルは言葉をつづける。

「ですが兄さんは死んでません」

 ハイ爆だ~ん。

 何言っちゃってるのこの子、もーやだー何なのー。

「死んでにゃいってどういう事」

「兄さんはこの剣の中で生きています、代々この剣の・・・ファルシオンの継承者の魂はこの剣の中に取り込まれるそうです」

 何その設定?アドリブ?

「僕もその話を兄さんに聞いていた時には半信半疑でしたが、代理人としてですがファルシオンの継承者となった今、この剣から兄さんの存在を感じるんです」

 その設定無理ないかな?ニコルがファルシオン回収したのって今日の昼じゃん、時間的に俺の存在感じるまでのラグ広すぎるじゃん。

「そんにゃはにゃし信じらんにゃいよ!」

 だよねー無理あるよねー。

「それじゃあ死んでもあの魔剣に憑りつかれてるもんじゃにゃい!それじゃあレッドも浮かばれにゃいよ!」

 あっれー?信じてるっぽい?信じたうえで否定しなきゃだめ~って流れっぽい?

「それならもしかしたら師匠生きかえらせることもできるんじゃない?」

 あー雪鱗余計なこと言った~。

「・・・それはダメよ」

 よし!常識人サラよく言った、どうせなら「それは無理よ」って言ってほしかったけど。

「レッドは魔法による禁忌に触れて死刑になったのよ?なのに私たちまで禁忌である死者の魂を弄ぶ術を探すわけ?レッドはなんで無抵抗だったのかを考えなさい」

 場に沈黙が訪れる。


 しばらくして沈黙を破る者が現れた、レベッカだ。

「なんだいこりゃ?みんな湿気た顔しちゃってさ!こんなんじゃ旦那が浮かばれないよ」

「失礼ですがあなた方は?」

 ニコルが的確に突っ込む、後ろにライラもいたようだ。

「あん?ああ悪ぃ自己紹介はした気になってたわ」

 とレベッカは笑い出す後ろでライラも笑ってた、対照的にニコル以外は彼女たちを警戒しているようだが。

「それじゃああたいはレベッカこっちはライラ、ここの維持を任されてるもんさ」

 といって親指で後ろを差す、もしやそれでここってジェスチャーのつもりか?

「レベッカさんとライラさんですね、僕は・・・」

 と順々に自己紹介をしてゆく、最後の雪鱗まで終わるとレベッカが。

「この際だから全員挨拶してもらった方がいいね、さっきみたいに声かけただけで殺気放たれてたら大変だし」

 といい始めたので急遽アジトにいる者たち全員を集めて自己紹介が始まる、”カスタマイズ”で治療した連中もいるようだ。


 一通りの自己紹介が終わり”ファルシオン”メンバーのファイルに対する目が厳しくなってきたころ夜も深くなってきたので解散し各々の割り振られた部屋へと向かう・・・。

 

 そして日が昇った頃、俺からニコルにある提案をしてみる。

『ニコル・・・俺をこの剣の姿にした錬金術師の研究所にそろそろ行きたいと思っているのだが?』

「そうですね、最初の目的の一つでしたし行きたいのですが・・・皆をどう説得しましょうか?」

 そう、そこが問題だったのだがラッキーなことに、このアジトにはどこから来たのかがよくわかっていない武芸者がいるのだ。

『テレ-ズに案内させればいい、あいつに腕のいい錬金術師の知り合いがいたって言わせてそこを訪ねに行くんだ』

「なるほど、でその知り合いの錬金術師に兄さんを調べさせたらどうかって話を進めれば訪ねる口実にもなりますね」

『決まりだな、テレ-ズを探すぞ!』

「はい!」

 こうして俺とニコルで、ニコルを英雄に仕立て上げるって方針の次の段階に移行する。

 今ニコルは英雄的エピソードに必要な大切な肉親を亡くしたってエピソードができた、今度は何らかの武勲を多数挙げて名を広める番だ。

 その為にはパーティのメンバーにもいいものが必要になってくる足を引っ張らせるわけにはいかんからね。

 あの研究所にはなかなかいいものが多数あったので(情報提供:”ライブラリ”)そろそろ行っておきたいと思ってたんだ。

 というわけで次の方針も決まり次の目的地に向けて準備をする。

 俺たちの物語はこれからだ!

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