断罪
~83
「魔倫会に目を付けられた」
俺は宿でパーティメンバーにそう告げた。
「魔倫会?なんですそれ?」
ニコルは知らないようだ、あとニナと雪鱗も。
「魔術倫理委員会とやららしい」
「魔術倫理委員会!なんで!?」
サラが食いついてきた、そうだねそう来るよねサラなら。
「いや、なんか浜辺でカニ狩りしてたらさ、カニの殻とか使って体を強化できないかなって試しにカニの殻を”カスタマイズ”で取り込んでたんだけどそれを見られた」
「なっ!」
サラが驚きと共に絶句する。
「二人一組だったらしいけど一人は仕留めたが、もう一人の行方はちょいと掴めなかった・・・困ったもんだ」
「魔倫会ってにゃんにゃの?」
ニナがサラに質問をする。
「魔術倫理委員会っていうのは簡単に言うと現在禁忌とされている魔術の運用法を取り締まる機関で、本部は神聖ハーモニア王国にあるそうよ」
「本部ってことは支部もあるんですね?」
ニコルの質問にサラは頷き。
「あるわ、この町にも・・・町の出入り口近くにある少し大きめの建物ね」
俺も建物のことを思い返す、そういやあったなそんなもの、だが。
「俺を襲ってきたやつはここの支部の者じゃない、シーフォートからケイベルに向かう途中だったようだ」
まぁシーフォート所属でもないらしいが、この情報は”ライブラリ”の情報だしいうに言えないんだよね。
まぁここまで来た理由が本来巨大な海洋モンスターに襲われないように魔術を施されているはずの船が港付近で襲われ沈んだことの究明らしい、まさかあの冗談がここまで後を引くとは驚きだね。
因みに今日仕留めたあいつの所属は本部だったりする、強いわけだ。
「今回の事であなたは犯罪者となる可能性があるわ、正当防衛って言っても聞いてもらえないでしょうね」
と声を落として、ついでの肩も落としてサラは言う。
「罰金や~投獄で~すんだらいいですけどね~最悪死刑もあり得ますよ~」
ここにきてライカが口を開く、人が嫌がるタイミングでよく言ってくれるな。
「兄さん!すぐにここから離れましょう・・・今ならまだ逃げられるかもしれません!」
ニコルは心配なのか逃げるよう促してくる、まぁこの際捕まっちゃうのも面白いだろうから捕まるつもりなんだけどね。
「まぁ今日はもう寝ちまおう、明日ケイベル支部の方に行くことにするよ」
「にいさん!」
「心配すんなって、いろいろ考えてるからさ」
そういってニコルを安心させてニコルと俺以外部屋から出ていき自分の部屋に向かって行った。
「さてとニコル、人の死体は持っているか?」
「何を唐突に、あっ!・・・すみませんどうやら持って無いようです」
まぁしょうがないかな・・・んじゃあ適当に調達してくるかな・・・。
さて、俺が魔倫会のエージェントを殺して大体2週間ほどたった。
「これより魔術倫理委員会職員殺害の罪にてこの者、ブレド・ファルシオンの死刑を執行する」
たった2週間で死刑とか異世界は展開が早いわ。
「また、本人の自首によって早期に解決したということでこの者と関係した者達には今回の犯行には関わりがないという供述を認めるものとし、ニコル・ファルシオン及び”ファルシオン”メンバーには罪がないものとする」
まぁ実際今回のことに関してはこいつらは関わっていない、当然の判決ではあるのだがな。
「それでは刑を執行する、囚人を壇上の上へ」
小さいとはいえ町であるからこういうものもあるんだな。
などと考えながら歩く、俺を知っている人たちのいろんな顔が見える、泣いてる顔、怒ってる顔、笑ってる顔、無表情・・・笑ってるやつらの顔は覚えておこう。
壇上、執行場所に着くと布の袋をかぶされる、視界が隠され前が見えない。
と、いきなり後ろからちょいと強い力が加わると腰を曲げさせられて首を固定される、どうやら斬首らしい・・・まぁ知ってたけど。
なんかいろんな声が聞こえんでもないけど一番よく聞こえるのが近くでなんか祈りの言葉(?)をしゃべっている神父の声、次が俺のパーティメンバーたちの声だ。
「師匠なんで!そんな簡単に・・・もごもご」
雪鱗が叫びそうになって誰かがそれを押えてくれたようだ、実力的に言ってニコルとライカだろう。
なんかの合図があったようだが気が付いたら浮遊感のような物を感じ次に強い衝撃、その時に首が飛ばされたんだなって気づく。
痛覚は遮断してないのだが斬られた痛みは感じなかった、落ちた時のがよっぽど痛い。
そして意識が薄れるように視界が閉じていく。
なかなか貴重な体験だったな、ニコルにはこの後にことを伝えておいたけどみんなをどう説得するのかな?
今の俺は壇上の首の無くなったブレド・ファルシオンダミーの近くに隠れている眷属のネズ太郎の背中にいる。
まぁファルシオン本体の大きさはいくらでも変えられるからこのくらいお手の物、離れすぎなきゃリンクを維持できるしね。
因みにフレッシュゴーレムだと死んだ直後に肉体が腐敗を始めるようなので生きた人間を”ソウルハック”で乗っ取って”カスタマイズ”で見た目からなんから変えておいた。
魔力量は誤魔化せないだろうけど、魔力の質は俺が創った疑似魂なので問題ないって寸法だ、量をはかられなくてよかった。
とまぁいろいろ悪い事してるけど、使用したのはそこら辺にいた盗賊とかだから別にいいよね?
さてと、それじゃあ行きますかね、眷属のネズ太郎を走らせる、正直人がもっと少なくなってから走らせるべきだったと後悔したのだが・・・これはこれで楽しかったので良しとして置く。
ネズ太郎に乗ってケイベルの門をくぐりワンツーサン太郎と合流してニコルを待つ、ニコルにはパーティを維持するか解散するかはお前に決めろと伝えておいた。
なので、しばらく待つことにする・・・。
そして翌日の昼にニコルたちは現れた・・・。
全くまさかまさかといろいろ考えてたから若干心配になってたじゃないか。
ニコルたちが門をくぐりワンツーサン太郎の許まで歩いてくる、走れお前ら!などと大人げないことを思いながら眺める。
因みに今の本体は普段の片手剣状態で鞘に入った姿でワン太郎の背に乗ってる状態だ・・・置いた状態ともいえるが。
ネズ太郎は気が付いたらいなくなってた・・・ツー太郎の所にいたと思ってたがどこ行ったのやら、もう会えない、そんな気がする。
そんな事よりニコル達なんだが。
「ワン太郎」
とニコルがワン太郎を呼びながら近づいてくる。
「ファルシオン・・・ワン太郎が隠し持ってたのね」
サラも続いていたようだ、隠し持っていたのはネズ太郎だがね・・・もう会えない、そんな気がするが。
「師匠の形見・・・ウチが使う!」
「いや、使うのはニコルじゃにゃい?」
雪鱗が図々しくも俺を使うとか言いだしニナに突っ込まれる・・・まぁ誰が使ってもいいんだけどね、一応皆には俺とニコルの家系に伝わる宝剣という設定にしてるからニコルを使うけど。
あくまで俺が主だからニコルに使われるんじゃないぞ!俺がニコルを使うんだぞ!・・・まぁどっちでもいいか、どうせ周りからはどう映るかなんて考えりゃすぐわかるし。
まぁ周りの眼なんかどうでもいいんだけど。
「ええ、兄さんから託されたので僕が使います」
「でも~確か~この剣使い手を選ぶんじゃなかった~?」
ライカが突っ込みを入れてくる、しかし問題ない。
「はい、ですがどうやら僕の家系は僕以外は死に絶えたようなので仮の主として使うことを兄さんが魔剣に頼んだそうです、ダメもとで」
「それが通ったと?」
サラが驚きながら訊ねる。
「それはこれから使ってみないことにはわかりませんが・・・兄さんの形見は僕が使います」
「ウチに・・・」
「雪鱗ダメ!」
食い下がろうとする雪鱗にニナからダメ出しが出る、話がまどろっこしくなる前に切り上げてもらうかな?
俺はワン太郎以外に気づかれないように指示を出す。
指示どうりにワン太郎がニコルに近づき俺を咥えてからニコルに渡そうとニコルの方を向く。
「ワン太郎もレッドから聞いてたみたいね」
サラがぼそりと呟きこう続けた。
「私たちには遺言一つ残さなかったのに」
と。
やばい、忘れてた・・・テヘッ★




