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おまけ2 ギデオンとファントレイユ。初めての出会い

軍教練校の入校式で、ギデオンに始めて出会った時の事だった。


新たな入隊者と、それを出迎える上級者が沸き返す中、ファントレイユは、はぐれたいとこを探していた。

母方のいとこテテュスは自分と違って、軍の重要ポストに居る父を持つ大貴族の息子で、テテュスが付いていれば大抵の事は乗り切れるし、彼の父でファントレイユには叔父に当たるアイリスは、息子共々面倒を見ると、約束してくれていた。


軍では、ギデオンの父に当たる、絶大なる信頼を集めていた右将軍が戦死。

その死を悼む間もなく、ギデオンの叔父が次期右将軍を継いだ。


右将軍となったドッセルスキは、亡くなった兄と違い、剣の腕も勇敢さも人望も持ち併せてなかったから、軍では彼におべっかを使う貴族達が、幅をきかせるようになっていた。


実力よりも、将軍に上手く取り入る事が出来る者か、もしくは右将軍とて気を使わなければならない大貴族達が、重要ポストを占めるようになっていた。

ファントレイユのように、身分の高くない貴族の息子等はいくら実力があったとしても大貴族達に、さげずまれる存在だった。


…現に、テテュスとはぐれたファントレイユはごったがえす人波の中、もう何人かの慇懃無礼な身分の高い青年に、突き飛ばされたり、ぶつかられたりした。

彼らはぶつかった相手を見て、謝罪を言うべきかどうかを判断した。

テテュスには間違いなく詫びただろうが、ファントレイユを見るなり、ぶつかった相手は眉根をひそめただけで、侮蔑の表情を、浮かべて薄ら笑った。


腕を掴む者が、居た。

ファントレイユが振り返る間も無く、横についたその少年は、ぶつかった大柄な青年に言い放つ。

「…謝罪すべきだろう?」


…当然だ。と言わんばかりの、強い口調だった。

ファントレイユはその言葉を発した、隣の少年を、見た。

自分より少し小柄だった。

が、何よりその美しさに驚いた。


少女かとも思った。

金の髪。白い肌。つんと尖った鼻。

大きな青緑の瞳。

赤いぷるんとした艶やかな唇。


少女ならば今までお目に掛かった事の無い、素晴らしい美少女だった。

だがファントレイユは噂をテテュスから聞いていた。

前右将軍の子息は少女と見まごう美少年で、だがその勇敢さは父親譲りだと。


「(彼が、ギデオンだ…!)」


相手はギデオンを一目見るなりその綺麗な顔に見惚れ、そしてそれがギデオンだと思い当たると途端、先ほどの無礼な態度を一変させた。

「…ああ、失礼。ぶつかりましたか?」


明らかに上級生だったが、その青年はファントレイユを見ず、視線をギデオンにくべたまま謝罪の言葉を告げる。

ギデオンはその綺麗な顔を、憮然と歪めて言った。

「…ぶつかられたのは彼だ。彼に謝罪したらどうだ!」

きっぱりと、その愛らしい赤い唇から出る言葉。

ファントレイユは胸が、踊った。

ここに居る誰よりも身分高い彼が、一介の、取るに足りない平貴族の自分の為に、年上の青年に『謝れ』と公然と言い放つ。

青年はファントレイユを見た。

相変わらず、機嫌を取る対象ではない。

と言う侮蔑の表情を浮かべたが、ギデオンの手前歪んだ笑みを浮かべ

「…失礼した」

と小声で言った。


ギデオンはそれでも眉を顰めたが、取りあえずその場を納めた。

青年はこれを機会に、とギデオンに話しかけようとしたが、ギデオンはファントレイユの腕を掴んだままさっさとその場を退いた。


「…どこまで行くんだい?」

引っ張られ、ファントレイユが言うと、ギデオンはようやく歩調を弛め、ファントレイユを、見た。

一瞬ファントレイユの美貌を目の当たりにし、怯んだような驚きの表情を浮かべ、呟く。

「ああ…悪かった。

ついあの男に腹が立って…」

そして、ゆっくり、労るようにファントレイユの腕を放すと、その素晴らしく綺麗な顔で見つめた。

ファントレイユは首を、傾けた。

「…だが、嬉しかった」


ギデオンは予想していないようだった。

あんまり素直な感謝の言葉に、一瞬戸惑うような表情を見せる。


「…ファントレイユ!」

長身のテテュスが人波の向こうから、彼を見つけて叫んだ。

「…いとこが呼んでいる。もう行かないと…

本当に、嬉しかった。

…ありがとう」

丁寧にそう言い、その場を去ろうとした時、ギデオンは慌てて叫ぶ。

「…違う!…私は…君の事を庇ったんじゃない!

あの男につい、腹が立って…」


ファントレイユの感謝を受ける資格が、自分には無いと言うように、ギデオンはその綺麗な顔の上に困惑を浮かべていた。

ファントレイユは振り返り、ギデオンに微笑んで告げる。

「…それでも、嬉しかった!」


ギデオンは人波掻き分け、背の高いいとこの元へと歩を運ぶ、ファントレイユの背を見つめた。

目を逸らそうとし、けどやっぱり再び振り向き、その背に視線送る。


やがてその綺羅綺羅しい美貌の同級生は、背が高く柔和な笑みを湛える濃紺の瞳の、栗毛の少年と合流し、微笑みをかわし合う。


そしてようやくギデオンは、二人より背向け、自分の立ち位置へと歩き去って行った。




          END

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