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アデンの命令

†‖:登場人物紹介:‖†


アイリス・・・ファントレイユの叔父で、『神聖神殿隊』付き連隊の、長。


      大貴族で、軍の実力者。反ドッセルスキ派の最右翼。


      参謀、マントレンと、反ドッセルスキ同志で秘かに


      交友があり、情報交換を、している。


ギュンター・・・中央護衛連隊の、長。都周辺の警護を一手に引き受け


      その信望は厚い。


      “どんな激戦でも部下を見捨てない男"として、周囲から


      信頼を得ているが、とっても遊び人。


      だが誰もが“見事な騎士”と認めるローランデに


      ベタ惚れ。して以来、彼には頭が、上がらない。


ローランデ・・・アイリスより一級上の、北領地[シェンダー・ラーデン]大公。


       地方大公は、剣の腕が抜きんでていないと務まらない。


       とされているが、彼はその中でも、更に抜きんでている。


       誠実な人柄で、好感を持たれているが、


       ギュンターに惚れられて人生が変わった人。


       ある意味、かなり、不幸かも。



オーガスタス・・・アイリスより三つ先輩の、地方護衛連隊、会議長。


        「死人が出ない地方護衛連隊会議」を仕切れる


        ただ一人の人間と、周囲の信望が厚い。


シェイル・・・ギュンターの、部下。都護衛連隊長。ローフィスの、義弟。


      美貌でならした人で、外伝になるが、


      軍神ディアヴォロスの恋人。


      影の実力者ディアヴォロスを動かしたのも、この人。


      (二人の会話シーンは省きました・・・・・・。書くべきか?)



ローフィス・・・アイリスの部下。『神聖神殿隊』付き連隊、顧問長。


       シェイルの、義兄。オーガスタスの親友。


ディングレー・・・大貴族で、王家の血を継いでいる。


        腐った貴族が嫌いで、彼らとつるんでいる。


        王家の血で顔がきくので、重宝されているが、本人は


        面倒くさがり屋。一応、ギュンターの部下に当たる


        宮中護衛連隊の、長。


レイファス・・・19歳。『神聖神殿隊』付き連隊所属。


       ファントレイユのいとこ。ファントレイユ同様


       小柄で目立つ美青年だが、性格はきつい。


       理路整然と、口で相手を言い負かすのを得意とし


       周囲からは“無敵"と思われている。




ファントレイユ・・・19歳。ブルー・グレーの瞳。


        グレーがかった淡い栗色の髪の、美貌の剣士。


        王子の護衛をおおせつかる。近衛連隊、隊長。


ソルジェニー・・・アースルーリンドの王子。14歳。金髪、青い瞳。


        少女のような容貌の美少年だが、身近な肉親を全て無くし


        孤独な日々を送っている。


ギデオン・・・19歳。小刻みに波打つ金の長髪。青緑の瞳。


        ソルジェニーのいとこ。王家の血を継ぎ、身分が高い。


        近衛准将。見かけは美女のような容貌だが、


        抜きん出て、強い。筋金入りの、武人。


アデン・・・ギデオンよりうんと年上だが、同じ近衛准将。


     ギデオンの叔父で、現右将軍、ドッセルスキに指令を


     受けて、ギデオン暗殺を企む。









 テントに向かう途中に、ソルジェニーが何度も物言いたそうにファントレイユを伺い見る。


もういいかと、人気の無い場所で周囲を見回して確認し、ファントレイユがとても優雅な微笑みを王子に向け、告げる。


「…どうしてギデオンに、暗殺の事を告げないか…ですか?」

ソルジェニーはじれたように彼の腕の袖口を掴んで言った。

「…だって…注意して置いた方がいいでしょう?」


それが当たり前だとソルジェニーは思ったが、ファントレイユの表情が、厳しく成った。

「…必要だと思えばマントレンがそうギデオンに告げる。

それに、ギデオンはああ見えて、アデンの部下に見張られていますからね…!

迂闊に彼の周囲で耳打ちなんて、出来やしない」

「…でも暗殺は阻止できるんじゃないの?」

「…ここで逃れて、それで…?

次が無いと、思いますか?

叩くなら、出来ればここで一気に敵を叩きたいから、マントレンはギデオンに告げない」

「………じゃあ……じゃあこの後は、どうするの?」


それは不安げな王子に、ファントレイユは軽やかに笑って見せた。

「奴らが尻尾を出してくれるのを待ち…後はマントレンに、任せればいいんです…。

そして自分の果たしたい役割を、もう私は彼に告げてある。

私が動くべき時彼は私にそう、告げに来る。

その時、覚悟を決めて全力を尽くせばそれでいい…。

人にはそれぞれ、その人に出来る役割がありますからね!」


ソルジェニーはそう微笑む、ファントレイユのその美貌を見つめた。

が、心細げにささやく。

「…貴方が命を落とすような事はありませんね?」


ファントレイユはそれは軽やかに微笑むとそれでも嬉しそうに、弾んだ声で言った。

「…会って間も無いのに私の心配をして下さるなんて、本当に光栄です!

でもまあ、ギデオンが認めてくれたように私も剣は、そこそこ使えますからね…!」


ソルジェニーは、ギデオンがあれだけ真剣に認めているその剣士の『そこそこ』と言う言葉に呆れた。

そしてギデオンが

『あの男は何を考えているのか、いつも自分の評価を下げて相手に伝える』

と言った言葉を、思い返した。


「…あの…。ファントレイユ。

本当に、自分はそこそこしか剣が使えないとか、思っているの?」

ファントレイユはその、真面目な疑問に思わず真剣な顔をして言葉を探した。

「…まあ…そりゃあ、近衛にいれば生き残る為には必要で、私なりには頑張っていますが、天賦の才にも体格にも、それ程恵まれてはいませんしね…。

…マントレンは別にして。

彼は才能が全部頭脳に行ってしまって、剣ときたら本当に、からっきし、どうしようも無い程使えませんから…」


ソルジェニーはマントレンの小柄でひ弱そうな姿を思い出すと、思わずファントレイユの言った事が理解出来て、心の底から頷いた。



「…あんた……!あんた、総大将だろう?

あんただよ!金髪の、別嬪さん!」


捕虜達が縛られて、転がされている中をギデオンと隊長達が見回っていたが、そう叫ぶ命知らずな男の言動に、その場の兵達全員が、思わず凍り付く。


が、ギデオンはその男の前で不遜に腕組むと

「…私を別嬪(べっぴん)とのたまう以上は、大層な情報だろうな?

お前が私に言いたいのは」


男はさっき、レンフィールに締め上げられていた若い盗賊だった。

「……あの砦に、入るんだろ?子供を助けに」

ギデオンは彼の前にその豪奢な金髪を揺らして、立つ。

「…そうだ」

「……一つだけ抜け道が、あるんだ」

ギデオンの後ろにいた、シャッセルもアドルフェスもレンフィールもが、身構えるようにその男を見つめた。

近くにいたヤンフェスも、そっと様子を伺う。


ギデオンは、笑った。

「…まさかお前が、案内するとか、言うんじゃないよな?」

そう言ってその男に屈むと、男はムキに成った。

「…騙して逃げ出したい訳じゃない…!

あんたがその場所が見当付けば、俺がわざわざ案内する迄も無い…!

俺はここに居てもいいんだし、第一………その方がいい」

ギデオンは頷いた。

「…命が、惜しいからか…。

折角命乞いして助かった命だものな。

で、その場所とは?」 





 アデンは、ギデオンの報告に、頷いた。

「…いいだろう…。

夜襲を掛ける、許可を出す…しかし」

そう言って、アデンは蛇のような瞳をいかつい顔の上に浮かべ、言った。

「君の部下には引いて貰おう。

ローゼ隊長とその配下で乗り込んでくれ。

…それが飲めないようなら、許可出来ない」


瞬間、後ろで控えていた黒髪のアドルフェスが、いかにも不満げにその立派な体格の肩を前に押し出し異論を唱えようとするのを、咄嗟にギデオンが手でその頑健な肩を押し止め、つぶやく。

「……いいだろう…。では許可を貰おうか…!」


アデンは自分を睨み付けるギデオンの部下、シャッセル、アドルフェス、レンフィールを、顔を揺らして見据える。

「…お前達。命令違反をしたら近衛を除隊だぞ…!

いくら父親が、大貴族だろうがな…!」


アドルフェスがその男前の顔を歪め、凄まじい瞳で睨み付け、シャッセルは白に近い金の髪を肩で揺らし碧眼の視線を落として唇を噛み、レンフィールはその整った女顔の細面の上に、底冷えする微笑を浮かべた。





 すっかり暮れた篝火の灯りの中、ローゼとその隊員達がこちらを伺い、寄って来るのを目にし、黒髪の精悍な面構えのアドルフェスが、その美しい金の髪を背に流したギデオンの肩口で、彼の耳元に吼えた。

「…本気ですか?」


ギデオンは答えず、繋いである馬の方へと歩み行く速度を緩めなかった。


銀髪のレンフィールはその髪を肩の上で揺らし、彼より少し背の低いギデオンを、気取って伺うように見つめながら隣に並んで歩くと、すまし顔を造りアドルフェスに、振り向いて告げる。

「…命令違反が何だ?

あいつはとにかく、宮廷に手柄を立てて見せたいだけだ。

子飼いのローゼに子息を救わせてな…!」


ギデオンが、そう誇らしげに横に並ぶレンフィールを見、思わず足を、止める。

「…レンフィール………」

レンフィールは後ろのアドルフェスに気を取られ、ギデオンを追い抜いたが振り向き、彼に言い放った。

「君に付いて行く。当然だろう?」

ギデオンは一つ、ため息を付くがレンフィールを真っ直ぐ見据える。

「今後近衛に、お前が居ないと困る」


『殺し文句だ』アドルフェスもシャッセルもそう思ったが、その通りだった。

レンフィールは一瞬ギデオンの、自分を見つめる宝石のような碧緑の瞳に魅入られ、それでもまだ何か、言いたそうだったが、口を、閉じて俯いた。



ギデオンは取り巻き三人をその場に残し、代わりに取り囲む、薄い金髪の鞭のようにひょろりと背の高い、しなやかで頑健な肩をした冷ややかな氷のように色味の無いグレーの瞳のローゼとその配下に囲まれ、彼らに一つ、頷いて、合図を送った。


それを遠目で見ていたヤンフェスが、そっと側のフェリシテに何か告げ、女性のように綺麗で華奢なその男は、その場を後に、した。



 テントの戸がさっと、開いた。

女性を思わせるその美しさに、ソルジェニーは一瞬入って来た青年に見惚れた。


けぶるようなプラチナに近い、綿飴のように緩やかにくねる髪で肩の上を覆い、美しい紫の瞳を、していた。

細い顎も頬も、それは綺麗な曲線で彼をそれは華奢に見せていたし、何より、軍所属とは思えない程体付が細っそりとしていた。


ソルジェニーより背は高かったが、ファントレイユと比べても頭一つ程低かった。

「…フェリシテ」

だがファントレイユは彼の名を呼ぶと、急いで駆け寄る。

「…ギデオンに、ローゼと出動命令が下りました」

フェリシテは小声で急いでファントレイユにそう告げた。


場が場で無ければそれは綺麗な佳人にファントレイユが、告白を受けて居るような光景で、ソルジェニーは二人の美しさに一瞬呆けて見とれた。


が、ファントレイユが、フェリシテから告げられた言葉を耳に止め、途端に厳しく顔を引き締め、剣を掴むと脇に携え、足早に出口へ歩くのを見、王子は慌てて彼に駆け寄ってその腕を必死で掴んだ。


ファントレイユの、その今では見慣れたいつまでも見ていたい美貌の顔が、それでも優しく見つめ返す。

「…ギデオンを……!」

ソルジェニーは喉が引きつったが、ファントレイユはゆっくりと頭を揺らし、微笑んで頷いた。


だがソルジェニーはとうとう我慢出来ずに涙を溢れさせて低く叫んだ。

「…貴方も……どうか、死なないで………!」

その、頼るべき相手のあまりにも少ない王子のその境遇を思い遣って、ファントレイユは静かに頷くと、顔を寄せてささやく。

「フェリシテが、代わりに貴方を護ります。

彼はああ見えて凄腕の短剣使いですから、それは安心ですよ。

それに…」


ソルジェニーが、その後の言葉を促すようにファントレイユを見つめ、彼は微笑んで頷いた。

「…貴方が夕食を残さず食べたら、私はちゃんと戻って来ますから」


それでも微塵も陰りを見せないファントレイユの微笑みに、ソルジェニーは涙で掠れた声でささやいた。

「必ず、全部残さず食べるとお約束します…!」


ファントレイユはその返答に、鮮やかに笑って見せると、後ろに控えるフェリシテに一つ頷き、さっとテントの入り口の、布を払って出て行った。


ソルジェニーが俯いて肩を震わせ、フェリシテが心からその不遇の王子に同情を寄せて、その肩にそっと手を、乗せた。

とても優しい温もりで、ソルジェニーはその綺麗な男性を見上げる。

紫の瞳は煌めくように輝いていて、その柔らかそうな紅色の唇が開く。

「…ファントレイユとギデオンはいつでも必ず死地から、戻って来ます…」


ソルジェニーが、震える声で聞き返す。

「…本当に……?」

フェリシテは、頷く。

「…私はそれを幾度も目に、していますからね…!」

ソルジェニーはようやく濡れた青い瞳を、その凄腕の短剣使いに向けて微笑んだ。

 



 ギデオンがローゼとその配下に、取り囲まれるように出立したその様子を見守り、暫くその場から、アドルフェスもシャッセルも、レンフィールすら足が動かず立ちすくんでいた。


が、その多数の馬が繋がれている場所に姿を現すファントレイユを、レンフィールが目にした。


彼の、自分の馬の手綱を解き、さっと馬に跨って、見慣れたグレーがかったたっぷりの栗毛を散らして駆け去る姿を目にし、レンフィールは手近にあった長身のシャッセルの腕を、思わず掴む。

「…どうした?」

シャッセルに、顔を下げ見つめられてそう言われ、レンフィールが馬が繋がれている場所を指差し、叫ぶ。

「…ファントレイユだ…!

確かに、あいつだった……!

馬に跨って………!」


黒髪のアドルフェスの、顔が曇った。

「…あいつは王子の警護だ。抜け出す訳が無いだろう?!」

レンフィールが幻覚でも見たと言いたげな、気の毒げな声音でそう言う。


だが、その後ヤンフェスとマントレンが、人目を忍んで王子のテントの方へとこっそり足を運ぶのを見て三人は、目を見交わしてその後を、付けた。 


テントがまた開いた時、相変わらず親しげな微笑を浮かべたヤンフェスが顔を覗かせ、ファントレイユが

『彼に任せて置け』

と言った小柄なマントレンの青白い顔が頷いて、ソルジェニーがどれ程安堵したか知れない。


ヤンフェスとマントレンは王子に

『心配無い』

と告げるような顔をして見せた。


マントレンはソルジェニーの隣迄来たが、ヤンフェスはファントレイユが、もう発ったのを確認すると直ぐに入り口へと取って返し、乱入しようとするレンフィールと鉢合わせた。

「…レンフィール」


マントレンが王子の隣でささやいたが、レンフィールは中にずけずけと入って見回し、ファントレイユの姿が無いのを確認する。


後ろからアドルフェスとシャッセルの姿が見え、彼らもファントレイユの姿がその場に無いのに呆然とした。

アドルフェスが途端、唸る。

「何を考えてるんだ!あの男は…!

俺達ですら除隊なのに、王子の護衛なんて放り出したらそれこそ、投獄だぞ!」


その不用意な言葉に顔を青冷めさせる王子を見つめ、マントレンは力無く肩をすくめて見せた。

ヤンフェスは彼らに構わず、こっそりとその場を抜けようとしたが、長身のシャッセルに立ち塞がれ、その淡い金髪を背に流す美しく整った容姿の、体格の立派な騎士にその腕を掴まれた。

「…ファントレイユの、加勢に行く気か?」

ヤンフェスは、静かにそうつぶやくシャッセルに軽く肩を、すくめて見せた。


レンフィールとアドルフェスが、その言葉に思わず二人同時に振り向く。

シャッセルは、親しみを感じる茶髪と茶の瞳の、田舎臭い緑のベストを付けたヤンフェスを見下ろしながらぼそりと言う。

「…お前は弓使いだから、フェリシテが同行しないと背後が危ないだろう?」


ヤンフェスが、長身のその高貴な白碧の騎士を見上げ、告げる。

「…フェリシテの代わりに君が、王子の護衛に残ってくれたら、私だってフェリシテに同行して貰って背中を護られ、安心して弓が使えるんだがな……」


シャッセルが、ぼやくヤンフェスの腕を放さぬまま素早く言った。

「君の背は、では私が護る」

そう言い、二人は目を見交わすと同時にテントを出て行こうとし、アドルフェスに怒鳴られた。

「…どこへ行く!」

シャッセルが、振り向いて叫んだ。

「…投獄覚悟の奴がとっくに出かけたと言うのに、たかだか除隊でここに残れるか?」


シャッセルがさっさと背を向け、とっくに先に消えたヤンフェスに続くと

『それもそうだな』

と、レンフィールがすっと彼らの後に、その身を進める。


アドルフェスが消えた二人に何か言おうと口を開き、言うより動いた方が早いと気づき、一声唸って後を、追った。

「…抜け駆けするなよ…!」

そう怒鳴りながら。


残ったマントレンは、王子がその次々と訪れた来訪者のさっさと出ていく様子に、目を丸くしている姿を見、フェリシテに肩をすくめて見せた。

そしてぼやく。

「…どいつもこいつも…。

最高位身分の王子に礼を取らない、礼儀知らすばっかりだ…!」


だがフェリシテは、王子に微笑んだ。

「…二人が無事に帰る確率が、ぐんと上がったようです」

フェリシテのその言葉に、ソルジェニーは思わずそれは嬉しそうな笑みを、その顔に浮かべた。 





 アイリスが室内に戻り、出かけた皆が帰って色好い報告をして間もなく、“荒野亭”からの使者が訪れ、ギデオンがアデンの部下の暗殺者達と盗賊の討伐に出かけた。との報告が、入った。


オーガスタスは、ふて切っていた。

ギュンターはそれでも友に、すまなそうな様子で帽子を、被った。

その様子を目にし、ギュンターの部下、都護衛連隊の長である銀髪美貌のシェイルが、気の毒げにささやく。

「…私が、君の代理で会議に、出ようか?」


だが同じくギュンターの部下に当たる、宮中護衛連隊長、黒髪男前の大貴族ディングレーは、即座に怒鳴った。

「俺が代理の方が、まだマシだ!

君なんか出たら、あの男女お構いなしの地黒(南領地ノンアクタル)の好色野獣がヨダレ垂らすに、決まっている!」


これには皆が、同感だった。

シェイルは時々自分の容姿を綺麗さっぱり忘れているようで、義兄ローフィスに労るように見つめられ、そうか。と下に視線を、落とした。


中央護衛連隊長、金髪のギュンターは、彼の部下に当たる二人の男の様子を見て、

「代理は、ディングレーに頼む」

と、告げた。


ディングレーはその艶やかな黒い長髪を揺らし、男らしい顔をギュンターに向けて即座に、頷いた。


が、宮中の護衛連隊長の立場すら面倒臭がるディングレーが、もっと面倒な地方護衛連隊会議に出るだなんて。とギュンターは内心笑った。




出かけるギュンターとアイリスを見送りながら、ローフィスがそれでも大柄な親友オーガスタスを、慰めるように告げる。

「あいつらは睡眠時間無しだが、俺達は少なくとも、会議迄は眠れるぞ」

オーガスタスは慰めにもならない思いやりに、その軽やかな伊達男に見える金に近い栗毛の親友に、思い切り肩を、すくめて見せた。







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