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鳥の娘 ~見えない明日を、きみと~ ≪改稿版≫  作者: 灯乃
祓魔の章

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京都の街は油断なりません

 その日遙は大学の空き教室で、友人の秋川健介と来週からはじまるテスト期間への対策として、それぞれの親しい先輩から貰ったノートや過去のテスト問題などのコピーを交換していた。


「……まぁ、ここいらは大体毎年同じような系統の問題が出るからいいとして」

「っちゅーか、ちょおええか? コレ、ドイツ語のポイントメモやのうて、カンペやない?」


 健介が取り出した小さな紙片を見て、遙は思わずおぁ、と感嘆の声を零す。


「ここまで縮小をかけてもきちんと内容を一目で識別できる、このすんばらしいカンペを作る根性と執念があるなら、何もカンペなんぞ作らなくてもよさげなもんだが……」

「きっと、カンペを作ること自体に達成感を感じるタイプなんやろうな」


 遙と健介は、揃って軽く眉を寄せた。


「むう。他人事ながら、卒業後に傾けるべき情熱対象の選択を間違わないか、ちょっと心配だ」

「なんや、追跡調査してみたい気ぃもするけどな」


 しかし、数年前はどうだったのか知らないが、現在遙たちが選択しているドイツ語の教授は、曲がったことは大嫌い、カンニングなんぞしようものならその場で「勉強する気がないんやったら、今すぐ大学なんぞやめてまえ」とおっしゃってくださるような人物である。


 芸術的なドイツ語のカンペは、ありがたく勉強の参考にさせていただくことにして、遙たちはそのコピーをクリアファイルに大切にしまった。


「――けどなんや、テスト期間前んなると知らんヤツに声かけられるようになるんが、やっぱ大学て感じやね」

「なんだそりゃ?」


 首を捻った遙に、健介は意外そうに続ける。


「あれ、遙はないんか? オレ、こないだいきなり三年だっちゅー先輩に、ノートコピーさせてくれへんて訊かれたで?」

「……させたのか?」


 思わず胡乱な目で見遣ると、健介はあっさりとうなずいた。


「一枚百円でな」

「なるほど」


 さすが、健介は商売人の聖地・大阪の生まれなだけはある。実に商魂逞しい。

 まさか、あの限りなく暗号に近い悪筆で書かれたノートで気の毒な先輩から金をむしり取るとは、実に天晴れだ。


「まぁ、好みのべっぴんさんやったらタダでもよかったんやけどな。野郎にタダで親切にしてやる趣味なんぞあらへんし。……せやけど、遙? おまえほんまに、なんでそのツラで男やねん」

「ああ?」


 反射的に眉を寄せた遙に、健介はわざとらしく溜息をついた。


「その超絶和風クール系眼鏡美人なツラを毎日毎日見とるせいで、オレの『美人』の基準はえらいインフレ起こしてもうたんやで? もう大概の美人を見ても驚かんわ」


 遙は美人と言われて喜ぶシュミの持ち主ではないので、びしっと言い返した。


「おれの顔に文句があるなら、母親に言え。おれの身長を二十センチ縮めて眼鏡を外し、常にほわほわと笑わせながら若干天然成分をつけ加えた物体が、ほぼおれの母親だ」

「……っ!」


 よろめいた全身で「がーん!」と表現した健介が、次いでふるふると震えながら固めた拳で何度も机を叩いた。


「おい?」

「ちょお待っとれっ! オレは今、おまえのオヤジさんに世の男たちを代表して、嫉妬という名の怨念を送っとるんや……!」


 そうか、と遙はうなずいた。


「ちなみに、マザコンと呼ばれるのを覚悟して言うなら、うちの母親の手料理は絶品だ」

「……っこーんちくしょー!!」


 相変わらず、実に愉快な男である。


 そのまましばらくの間、健介は遙の父に怨念を送っていたようだが、ようやく満足したらしい。

 ふぅ、と息を吐くと、何ごともなかったかのように口を開いた。


「あーオレ、ちょお喉渇いたわ。なんぞ買うてくるけど、遙はどないする? 一緒に買うてきたるで?」

「悪いな。じゃあ――コーヒー、無糖で」


 学部棟の各階に設置されているドリンク販売機は、どれも八十円の紙コップ方式だ。

 財布から百円玉を出して健介に放ると、器用にぱしっと受け止める。


「ほな、行ってく、る――?」

「健介?」


 よろめいた健介が、額に手を当てて立ち直る。


「あ……いや、なんやちょお、一瞬ぐらっと……」

「大丈夫か?」

「おう、なんともないわ」


 なんやったんやろ? と首を捻りながら、健介は教室から出ていった。

 遙は筋肉が固まったような肩と腕を、軽く伸ばしてストレッチする。


(テストはこれでどうにかなりそうだし……。終わったら、息抜きにどっか遊びに行くかな)


 生まれは京都とはいえ、遙はこのちょっと歩けば世界遺産だの国宝だのにぶつかる街を、いまだにじっくりと堪能してはいないのだ。

 中学の修学旅行で一度来たときには、あちこちの表面をさらっと見学しただけである。

 観光地を空いている平日にのんびりと満喫できるのは、地元学生の特権だろう。


 だがちょっと油断ならないのは、そんな軽い気分で有名所の観光地を訪れてみても、前もって見学の申請をしておかなければ入ることのできないという場所が、結構あったりするのだ。

 正しい地元民であれば、もしかしたらそんなことも常識なのかもしれない。

 だが、つい先頃まで東京にいた遙は、夏にふと思い立って桂離宮を見学しに行ったのに、「予約がなければ……」と門前払いを食らったという悲しい経験の持ち主だった。


 あれ以来、なんとなく桂離宮に行ってみようという気がなくなっていたのだが、あそこは世界に誇るニッポン最高峰の建築美なのである。リベンジの意味も込めて、改めて足を運ぶのもいいかもしれない。

 そんなことを考えていた遙は、かちゃりとドアの開く音に、健介が戻ったものと思って顔を上げた。


(なんだ……?)


 そこに現れたのは、古風なワンピースを着た見知らぬ女子学生だった。

 化粧気のない青白い顔と、腰まで伸びた長い髪。何より、病人じみて細く折れそうな体つきが、奇妙に現実離れした雰囲気を彼女に添えている。


 最初は、自分たちと同じようにテストに備えて空いている教室を探しているのだろうか、と思った。


 だが、普通ならば先に使っている者がいたら残念そうな顔をして去っていくか、軽く会釈して離れた席に着くものなのに、その視線は戸惑うほどの強さで遙に真っ直ぐ向いている。


「……見ぃつけた」


 ゆるりとほほえんだ女の声に、遙は全身に鳥肌が立つような心地を覚えた。


(な……)


「ホンマ、大変だったんよ……? あんたはんを探すん。こないキレイキレイになってもうとったら、なぁ?」


(なん――だ、コイツ……っ)


 こちらを見ているのか、見ていないのか。こちらに話しかけているのか、そうでないのか。


 くすくすと笑い混じりの声も、どこか焦点の緩んだ瞳も、遙という存在を正しく認識しているのかさえ判然としない。


「キレイやわぁ……。あぁ、ホンマにキレイや。……なぁ? 恭二はんもそない思うやろ?」


 女が振り返った先には、ひとりの若い男が佇んでいた。

 しかし――


「っ!?」


 がたた、と無意識に後退ろうとした遙に蹴飛ばされた机が揺れる。


 虚ろな――あまりに虚ろな男の瞳が、自分を映していることに対する生理的な嫌悪感。


 気持ちが悪い。

 これが、人間の瞳なのか。

 人間が、こんな――意思も感情もまるでない目をするものなのか。

 して、いいのか。


 女は楽しげに口を開いた。


「ほんまになぁ、最初っからこないしとったらよかったわ。……なぁして思いつかんかったんか、今から思うたらようわからんねやけど。なぁ? キレイなもんをキレイな中から探そ思たら、こないするしかないやん?」


 くすくすと。

 笑いながら。


「……周りをぜぇんぶ、きたなくしたったらええだけや」


 何を、言っている。

 わからない。わかりたくもない。


 ただ遙にわかっているのは、この女が既に――


(狂ってる……)


 他人には理解のできない、自分だけの理屈で動く者を狂人というのなら、確実にこの女は狂っている。

 うふふ、と響く虚ろな笑い声に、ぞっとする。


「ほんなら、ちょお、つきおうてな? あんたはんがいてくれはったら、なぁんでもできる。……なぁんでも。なぁ? 恭二はん?」


 女に促された男が、奇妙にぎこちない動きで近づいてくる。


 見えない何かにまとわりつかれているような息苦しさに、遙は指先ひとつ動かすことができなかった。

 呼吸するたび、肺が、血がゆっくりと腐っていくかのような気持ちの悪さに眩暈がする。


「ぐ……っ!」


 だがそんなものなど、男の手が遙の腕をぎっちりと掴んだときの衝撃に比べれば、ほんのささやかなものだったのだと知った。


(なん……だ、これ……っ)


 一瞬で視界が暗くなり、手足が鉛のように重くなる。

 それまでどうやって自分の体を動かせていたのかさえわからなくなる。


 掴まれた腕から伝わってくるのは、まるでそこから腐汁を体内に注ぎ込まれるかのような、ひたすらおぞましい感覚。

 あまりの気持ち悪さに、恥も外聞もなく泣き喚きたくなる。


 なのに、自分のものではなくなったような体はぴくりとも動いてくれない。


 ただ女の声だけが、毒のように頭に響く。


「ほな――行こか」


 遙が男の腕に引きずられ、その肩に担ぎ上げられようとしたときだった。


 金色の、光が。

 溢れた。


「……そない汚い手ぇで、遙に触んなや、こんダボがあああぁっっ!!」


 ばきぃっ! と、とんでもなく景気のいい音とともに、遙の腕を掴んでいた気持ちの悪い感触が消え失せる。


「か……は……っ」


 支えているものがなくなり、床に崩れ落ちた遙のがんがんと痛む頭に、その痛みをますます助長するようなわめき声が叩きつけられる。


「遙! 大丈夫やな!? まだどっこも食われてへんな!?」

「……気持ち悪ぃ……」

「なんやて!?」


 あぁ、本当に。


「……ピンチのときに、颯爽と現れたイケメンに助けられるヒロイン役を、地でいってる今の自分が……心底、最悪に、気持ち悪い」


 束の間、沈黙が落ちた。

 ライが妙に平坦な声でぼそりと言う。


「……大丈夫そうやな」

「大丈夫じゃねぇよ……。マジ、吐きそうだ……」


 うっぷ、と込み上げてきたものをどうにか堪える。


 霞む目を何度か瞬かせてみると、すぐ近くに奇妙なものが落ちているのを見つけた。


 それは、スーツ姿の青年と――その下に押し潰されるようにして倒れているのは、恐らく異国の血が混じっているのだろう、明るい髪を持つ細身の少年。


「……ライ」

「なんや?」

「……おまえがどこからどうやってここに来たのかは、ユーレイなんだからいいとして。――そこでぐったり気絶しているおふたりは、一体、どこのどちらさまだ?」


 いやな予感のままに尋ねた遙の疑問に返ってきたのは、「ありゃ?」というなんとも間の抜けた声だった。


「しもた……。急いでおまえんとこ行かなあかんかったし、ついでになんや使えそうな坊主やったから、手伝わせたろ思うて連れてきたったんやけど。――そういや人間て、いきなり跳んだら死んでまうこともあるんやったな……。おーい、生きとるかー?」


 ざぁっと遙の顔から血の気が引く。


「……っだあああぁっ!? あの、大丈夫ですか!? 大丈夫ですよね、お願いだから大丈夫だって言ってくださいいいいいぃーっっ!」


 わたわたと床を這うようにして近づき、少年を下敷きにして気絶している青年を、火事場の馬鹿力でえいやと細い体の上からどかせる。


 本当にまったく何がなんだかさっぱりだが、我が家の居候がしでかしたことで人死にが出てしまうなんてことは、心の底から断じてご免被りたい。

 そんな遙の必死の願いが通じたのかどうか、背広姿の青年がわずかに身動ぐ。


「う……」


 遙の心に光が射した。


「ああぁっ! 生きてますね!? 生きてるなら生きてるらしく、しっかりすっぱり返事をしてくださいー!」

「……遙ー。そないビシバシにどつき倒したら、起きるモンも起きひんと思うでー?」


 遙は固まった。

 言われてみれば、なんだか掌がひりひりする。


「なんと! スイマセン、悪気はなかったんです、スイマセンーっ!!」

「うぅ……っ」

「ほやから、そない襟首とっ捕まえて揺さぶらんでも……」


 ライが何やらぼやいているが、遙はほとんど聞いていなかった。


 そうしてがくがくと激しく頭を揺らされた青年は、ふっと瞼を持ち上げると、不思議そうな顔をして何度か瞬いた。

 ようやく焦点の定まった彼の瞳と、視線が合って――


「へぶっ」

「あぁっ、遙ー!?」

「――失礼しました。つい」


(つい、で人の顎に見事な掌底を叩きつけてくださるなんて、一体あなたはどこのアニキでございましょうか……)


 脳が揺れて、再び意識が遠のきかける。


 目を覚ました青年は、床に倒れ込んだままの少年を目にした途端、音が聞こえるような勢いで青ざめた。


「……っ大地くん! 大地くん、しっかりしてください!」


 青年は少年の頬を何度も叩き、呼吸と首筋の拍動を確かめるとすぐさま心肺蘇生をはじめた。


 リアルに心肺停止状態の人間をはじめて目の当たりにした遙は、せめて青年の邪魔をしないように、黙ってそれを見ていることしかできない。


(ああぁ……っ、神さま仏さま阿修羅さま観世音菩薩さまマリアさま帝釈天さま鬼子母神さまア○パンマンさま薬師如来さま! この際誰でもいいですから、どうかこの子を助けてくださいいいいいいぃーっっ!!)


 誰も聞き届けてくれなさそうな祈りを捧げながら、息を詰めて見守っていると、かはっと少年が息を吹き返した。


 苦しげな喘鳴を繰り返し、喉に指を食い込ませようとするのを、青年が慎重な手つきで抑える。


「は……っ、くろ……っさき、さん……?」

「はい。――まだじっとしていてくださいね」


 ゆっくりと言い聞かせられた言葉に、少年が目を細める。


「状況……は……」


 少年が言葉を紡ぐことに安心したのか、ようやくその顔から目を離した青年が、辺りの様子を確かめるように視線を巡らせた。


「……どうやら、先ほどのライという異形の作った結界内のようです。今のところ、ライに敵意は見えませんが」


(本当になんだかわけがわかりませんが、ウチの居候がご迷惑をお掛けしてしまったようで、申し訳ありません!)


 その場の深刻な空気を読んで、とりあえず脳内で力一杯謝罪する。


 すいと動いた青年の視線が遙を素通りし、先ほどライに(多分)蹴り飛ばされたまま起き上がろうとしない男に取り縋っている女を捉える。


「もう……恭二はんたら、ええ加減起きてぇな。ほんなん、大したことあらへんやろ?」


 ひどく、楽しげな声だった。


「うふふ……そんでこそ、恭二はんや。うちのこと、守うてくれはるんやもんなぁ?」


 その笑い声に応じるように、びくん、と男の手が不自然に震える。

 そうして体を起こした男の姿を再び目にした遙は、全身に鳥肌が立つのを感じた。


(う……そだろ……っ)


 ぎこちない動きではあったが、それでものろりと立ち上がった男の首が、曲がっていた。

 あり得ない方向に、あり得ない角度で。

 なのに、男は動いて――歩いて。


「なんやぁ、あの術。気色悪いわぁ」


 あんなモンを気色悪いの一言ですますな、と全然気色悪そうに思っていない口調で言うライを睨みつける。

 しかし、今ここで口を開いたら支離滅裂な悲鳴を上げてしまいそうだったので、きつく奥歯を噛んで我慢した。


「くろさき、さん……?」


 男の様子は、床に横たわったままの少年からは見ることができないようだ。ちょっと羨ましい。

 覚束ない口調で呼ばれた青年が、はいと応じる。


「狂骨が一体。それを操っている術者がひとり。恐らく、田島沙織と思われます」

「そう……ですか。――アルファ」

「大地くん!? 何を……!」


(……うん。ここは「うっぎゃああぁああーっ!!」って悲鳴を上げてもいいとこだと思うよ、おれ)


 突然、ぶわりと目の前に現れたのは、漆黒の翼と毛並みを持つ巨大な狼に見えた。


(うぅむ、どんなキメラだ。つうか、今どこから出てきたんだ)


 ふかふかのつやっとした毛並みが実に美しい、見事な狼である。翼つきだが。

 ここで眼福眼福、と思わず現実逃避してしまったとしても、今の状況では許されると思う。


 現実逃避中の遙をよそに、少年は途切れ途切れに獣に命じた。


「狂骨、は……核になっている骨を砕けば、終わる。――やれ」

『御意』


(喋ったし!?)


 今度こそ、遙は仰天した。


 あの姿で人間の言葉を喋るとは、一体どんな構造をしているのだろうか。


 しかし、少年の言葉に応じて黒狼がぐっとその四肢に力を込めたとき、ライがその鼻先にすいと手をかざした。たったそれだけのことで、巨大な黒狼が首筋の毛を逆立て、警戒するように低く唸りながら後退る。


「ちょお待ち、坊。あん動く死体、見たとこちゃんと血肉があんねやで? 神聖なる学舎を、あないモンの血ぃで汚す気かいな」


 呆れたように言うライに、少年は苦しげに応じた。


「おまえには……関係、ないだろう……」

「大地くん! そんな状態で使役を出すなんて、何を考えているんですか! 今すぐ戻しなさい!」


 青年の切羽詰まった声に、ライが呑気に同意する。


「そやでー、坊。人間、疲れすぎても死ぬんやで? 過労死ちゅー立派な日本語があるて、ワイかて知っとるわ。――えぇから、使い魔戻し。やないと、ワイが潰すで。おまえが死んだら、なんや遙がえらいへこみそうやからなあ」


(ああぁ……っ、なんだかライが自分が原因のくせに他人事のように、偉そうだけど中身は正しいことを言っている気がする! ムカつく気持ちはとってもわかるが、少年! 今は黙って言うことをきいておいた方がいいんじゃなかろうか!)


 つい今さっきまでガチで半死人だった少年の額は蒼白で、びっしりと汗が滲んでいる。


 どう考えても無理をしているようにしか見えない彼は、くっと悔しげに目を細めると、掠れた声で口を開いた。


「――アルファ。戻れ」


 ……少年がそう言った途端、全長三メートルはありそうだった狼(翼つき)が一瞬で姿を消したことは、とりあえず流しておくことにする。でないとそろそろ、神経が保たない。

 ライは満足げに笑った。


「ええ子や。……けどなんや、キョウコツ? どない術やねん、それ」


 その疑問に応じたのは、視線だけで少年を制した青年だった。


「死者の骨を核に、生前の姿を復元する外法だ。全身の骨のどこにその核があるかはわからないが、それを砕かなければ、狂骨が滅することはない」


 青年の説明を聞いたライが、一拍置いて、くりっと少年を振り返る。


「……坊。まさかおまえ、こないなとこで使い魔に、アレん骨を体丸ごと粉々にさせるつもりやったんか?」


 少年はその問いに、気怠そうな顔でうなずいた。


「それが……一番、手っ取り早い……」

「……っアホかーいっ! そら一体、どない血みどろスプラッタやねーん!」


 少年の物騒極まりない言葉を聞いて、ぎゃあと喚いたライの主張に、遙は心の底から賛同した。

 だがしかし。


(人間よりも、胡散くさい外国人ユーレイの気持ちの方が理解できてしまうだなんて……)


 一瞬、自分がもの凄く寂しい人間なのかと疑ってしまった遙だったが、こればっかりはライの言うことの方が正しいと思う。絶対。


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