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鳥の娘 ~見えない明日を、きみと~ ≪改稿版≫  作者: 灯乃
神々の章

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“雷電”

 翔とあきらが、端から見れば幼女を虐待しているようにしか見えない『調教』をカミサマ相手にかましている様子を眺めながら、桐原は今回の顛末をどう上司に報告したものかと溜息をついた。


 いくら天下の公務員と言ったところで、所詮はお役所のひとつでしかないのだ。


 湯水のように、どこからともなく予算が湧いて出てくるはずもない。


 この国に生まれた異能持ちの子どもたちは、すべてその存在を把握されていると聞く。


 しかし、よほど社会生活に支障をきたすレベルの子どもでなければ、国がその保護や教育を親元から引き剥がしてまで行うことはない。


『香奈』のことをまともに上司に報告した場合……なんとなく、明緒ではないが「触らぬ神に祟りなし」が適用されるような気がする。


 とはいえ、その辺りは下っ端の桐原が頭を悩ませるところではない。


 金勘定は、責任者の仕事である。


(しかし……まさかあのガキが、“雷電”だったとはな)


 かつて、コードネームに雷鳴の鬼の名を与えられるほど非常識な異能を持つ子どもが存在し、それが桐原の所属する組織に保護されることもなく、一般家庭でそのまま普通の子どもとして育っているという噂話を聞いたときには、なんの冗談だと思ったものだ。


 桐原が今まで出会った「要保護認定」を受けた子どもたちは、そのほとんどが自分自身の異能に怯えるか溺れるかで、とてもまともな関係を周囲の人間と築けるような精神状態ではなかった。


 彼らは親にさえ恐れられ、社会の中で明らかに自分が異質なのだと、排除されるべき存在なのだといやというほど思い知らされて育った者たちだ。


 桐原が知る限り、彼らは新たな保護者となった教育担当の者たちに心酔と言っていいレベルで依存しきっている。


 自分と『親』がいればそれでいい。『親』以外の人間のすべてを、『親』にとって有害か無害かでしか区別できない。


 そんな者さえ、決して珍しいものではないのだ。


 そういった現実を目にしてきた桐原にとって、“雷電”の存在は信じがたいものだった。


 ――“雷電”が『佐倉』の庇護下にあると知った瞬間桐原の胸に去来したのは、やはりあまりに異質な力を持って生まれた子どもというのは、普通の幸せを手に入れることなど叶わないのだろうかという思いだった。


 人の身には強大すぎる力を持って生まれてこなければ、あんなふうに傷だらけになることも、十代の子どもには重すぎる現実と向き合わねばならないこともなかったはずなのに。


 そんな桐原の思いを見透かしたかのように、おい、と明緒が声をかけてきた。


「おまえには、アイツが不幸なように見えるのか?」


 静かな声に促され、もう一度彼らに目を向ける。


 全身傷だらけで、下手に関わればどんな厄介ごとに巻き込まれるか分からない『カミ』という存在に、自らずかずかと踏み込んで。


 だが一見「小学生の女の子に土下座させながらハイタッチを交わす高校生の少年少女」というちょっとアレな光景ながら、彼らの浮かべている笑顔に曇りや陰りといったものは感じられない。


 まるでごく普通の若者たちのような、明るい笑顔。


「……いや」


 彼がこれから、どんな人生を歩んでいくにせよ。


(多分――大丈夫、なんだろうな)


 ああやって笑っていられるのなら、きっとそれは彼自身が選んだものなのだろう。


 だったら、大丈夫。部外者が余計な心配をする必要などない。


 そう思っていると、隣で腕組みをした明緒が呆れ返った口調で言った。


「大体、おまえが不幸自慢をして勝てる人間が、そうそういると思うこと自体がおこがましいというんだ。恥を知れ」


「……っひとを当然のように、この世の不幸人間代表みてェに言ってくれてんじゃねえーっ!」


 ぎゃあと喚いた桐原に、明緒は眼鏡の奥で淡紅色の瞳を見開いた。


「何!? 今まで自覚がなかったのか!?」

「わざとらしく驚いてんな!」

「いや、だってなぁ。おまえほど不幸体質の人間なんて、おれの知る限り……」


 言いさした明生の携帯端末に、着信が入ったらしい。


 相手を液晶画面で確認した明緒が、「わーお」と驚いているのか引きつっているのかわからない顔をして通話を受ける。


「――よう、久し振り。……ああ、まぁな。……は? って、そりゃどういう――あーハイ、なるほどな。ああ、それはこっちでなんとかする。……あぁ、わかった。ん、あとでな」

「どうした?」


 通話を切った明緒が、軽く肩を竦める。


「そういや、ひとりいたわ。おまえ並の不幸体質人間」

「はぁ?」

「今の電話。――おれの兄貴から」


 兄貴って、と桐原は目を瞠った。


「佐倉の次期当主か?」

「そ。おれの知る限り、最強の不幸体質なヒトー。あんまり愉快な不幸体質なモンだから、見てると結構笑えてくるぞ?」


 そんなことを言いながら、明緒はひらひらと手を振った。


 ……そのとき、まだ見ぬ佐倉家次期当主の最大の不幸とは、こんなフリーダムで女王さまな弟を持ったことではなかろうか、と思った自分は間違っていないと思う。多分。

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