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3 空、飛んでない?

 また、憂鬱な正午がやってくる。


「……里紗、被害届を出しても良いのよ?」

「…被害といえる被害を受けていないもの。そもそも被害として受け止めてくれないんじゃないかな」

「じゃあ、警察に相談だけでもしましょう?」

「……そう、だね」


 最初に男が来てから一週間。これまで、一度も欠かさずに男は来ている。

 花束か菓子だったからよかったものの、精神的な疲労が激しかった。


 好いてもいない、そもそも会社に勤めていた頃からストーカーしてきている男に見舞いに来られても嬉しくないし、嫌悪感ばかりが募っていく。 幾ら顔が良くても、得体の知れない(ストーカー)男に熱っぽく見つめられても慕情なんてわかない。


 いい加減にしてほしいと思う。


「……こんな時間に貴女を一人にしたくないのだけど……お父さん、ぎっくり腰になっちゃって、そっちの病院にも行かなきゃいけないのよね……」

「お母さん、私の容体も安定はしてるんだから、お父さんのほうへ行って来ても大丈夫だよ?」

「お父さんは貴女のほうへついて欲しいって言ってるのよねえ……お父さんは誰かに付き纏われている訳ではないし、か弱いわけでもないから」

「……」


 私は、武に心得がないわけじゃない。義務教育で剣道をやったから。

 ただ、力の差、性別の差、というのはよく知っている。


 父は元自衛官。だから、仕事の関係で父以外の自衛官の人をお持て成しする機会もあった。

 例えば、ある女性自衛官さん。

 同じ自衛官同士でご結婚なされている方で、よく旦那様と一緒に来ていた。

 その時に、鍛錬している人間との差、性別が違うだけでも大きな差が生じることを教えてくれた。

 実践授業もして頂いた。

 だから、よく知っている。





 正午になった。

 転寝していたところ、ドアの外から聞こえてくる怒声に目が覚めた。

 聞き覚えのない男性の声に、あのストーカー男の声。

 看護師や医者の諌める声もするが、あまり効果はない様子。

 私はともかく周りの人達に迷惑がかかるんじゃないかと思いつつ、晴れ渡る空のほうを向いて、目を瞬いた。


「……薬の副作用に幻覚はなかったはずなんだけど」


 ここは、地上八階。

 凸凹のないこの病院の壁をよじ登るのは不可能なはず、というか、


「空、飛んでない?」


 少年が、いた。

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