ホワイトデーのクッキーすら作れない馬鹿。
ホワイトデーは男子がバレンタインにチョコもらってなくても好きな人に渡せる日になればいいのではないかと思う日々です。
僕は、料理が、苦手だ。
家庭科で試作品というものを作った。
作ろうとしたものはクッキー。
出来たのはポイズンサムシング。
「何故だっ!!!!!」
イスに座り手で髪をかきあげる。
まずい。
このままでは雪ちゃんにみせる顔がない。
このまま作れなかったら買ってきた物を渡そう。
「…もやし炒めなら作れるのになあ。」
「時人くん。」
クラスの女子が話しかけてくる。
確か名前は林さん。
「何?」
「すごい出来だけど、すごいわね。」
なんだ、それを言いにきたのか!?
「言わないでよ〜」
「食べてみていi「それはダメ。」
死人を…出してしまう!
「もやし関連ならうまく作れるんだけどね〜」
きんぴらもやしだって美味しく作れるんだけどな。
「ホワイトデー返すの?」
「う、うん、まあね。」
付き合ってないけど。
「へえ」
にやけてる、すごくにやけてる。
「付き合ってないからね!?」
「どうだか…あ、こんなに話してたらヤキモチやかれちゃうわね」
ヤキモチ!?
雪ちゃんが!?
いつも「もやし」って言ってくる雪ちゃんが!?
あ、ちょっと嬉しい。
「な、ないない」
「うわ、にやけてる。」
口角が上がりまくってるのは自分でもわかってる。
恥ずかしくなってつい口を手で隠す。
「あ、本題にはいるの忘れてた。時人くん、余ったからこれあげるね。」
クッキーの入った袋を渡される。
「ギリ?」
「ギリ!」
ホワイトデーなんだけどな。
ああ、できなかった。
結局市販のものにした。
あんな毒を食べさせるわけにはいかない。
「明日って…。」
一緒に歩いてる雪ちゃんに声が聞こえたのかこちらを見る。
「すごく落ち込んでるけど、どうしたの?」
「え?別に?」
誤魔化すのが下手過ぎる。
「明日ホワイトデーだね。」
そしてはっきり言ってしまう。
「時人からもらうクッキー楽しみだなぁ。」
心にグサグサと刺さる。
「も、もし作れなかったら…」
少し考えた表情をして、雪ちゃんはこたえた。
「じゃあ時人食べる。」
「…へ?」
「う、嘘。」
顔を真っ赤にしている。
可愛い。
「僕雪ちゃんに食べられちゃうの。」
「た、食べる。食べてやる。」
「じゃ先に俺が雪ちゃん食べていい?」
「は!?」
困ったように目をうろつかせている。
正直に反応する君は可愛いよ。
「楽しみにしてるからね。」
「私時人食べれないじゃん。」
「ちゃんと僕は雪ちゃんに食べられるからね〜。」
もやしの味がしませんように。
ホワイトデーだ。
「市販のクッキーでごめんなさい。」
土下座込みの渡し方で雪ちゃんに渡す。
今日は休みの日で、雪ちゃんは家にきた。
「市販だね。」
「ど、毒と市販じゃ迷わない…。」
毒になったのか、という顔をされる。
「もやしクッキーは本当、心の中の自分が止めに入ったから。」
後で食べてみようと思って型はとってあるけど。
「市販ね…。」
機嫌をが悪くなっていっている気がする。
手を広げ目をつぶる。
「ど、どうぞ好きにしてください…。」
これも定めだ…煮るなり焼くなり好きにしていただければ…。
「じゃあ、甘える。」
「え?」
そういって背中に手をまわして体重を寄せてきた。
雪ちゃんの事だからなにかいたずらをしてくると思っていた。
「や、雪ちゃん、あの。」
腹の中がくすぐったく感じる。
「時人がくれるっていったから。」
冗談のつもりでいったことだったから、驚いている。
反射的に自分も雪ちゃんの背中に手をまわす。
まずいと思ったのか雪ちゃんは僕から離れようとする。
「あ、もう、その、いいかな…。」
起き上がろうとする身体をはなさない。
まだ少ししかたってない。
「ん〜…。」
「一日僕は雪ちゃんのものだから。」
「一日中こうしてるの!?」
「そうゆう訳ではない!」
一日中こうしていたいけど。
我慢だ、俺。
「でも、やっぱり時人のクッキー食べたかったな〜…」
チラッと上目遣いで見てくる。
ズルい!その目つきはズルい!
「だ、だめ。」
「食べさせて欲しかったな〜。」
雪ちゃんはなお甘えた目で見てくる。
可愛い、ハイって言いそうだ。
「あ、じゃあ市販のを…。」
「なら、いい。」
えええええええ…
ダメだ、雪ちゃんがわからない!
…たまに雪ちゃんの考えてる事がわからなくなる。
「今から作るの?」
「作ってくれたら、喜ぶ。」
まあ、冷蔵庫に型をとって焼く直前のクッキーはあったりする。
もやし入りだけどな!
「じゃ、待ってて。」
「え!?いいの!?」
「ホワイトデーだから。」
「ありがとう…!!」
雪ちゃんは嬉しそうな表情をした。
それだけで、何枚だって作ってやりたくなる。
「あの…何分焼けばいいんですか…」
「…私も手伝う。」
なんとか、焼いた。
「型は作ってあったんだね。」
「うん、間に合わなかったからやめたの。」
雪ちゃんが何か言いたげにこっちを見る。
「私、クッキーで六十分焼こうとする人初めてみた…。」
何も言い返せない。
「もやし炒めなら作れるのになー。」
もやし炒めだけ。
いや、サラダだって…作れるはず!
呆れたような顔をされる。
「外食ばかりじゃ健康に悪いよ。」
「将来は作ってくれるお嫁さんがいるから大丈夫なんですー…」
恥ずかしいから顔を見ずに言う。
「誰?」
「内緒。」
「誰?」
しつこく聞いてくる。
恥ずかしくて言えない。
一人だけ浮かれてる気がして。
あまりに迫ってくるので、キスをした。
チーン、と音がなる。
「クッキー焼けたね。」
「う、うん。」
「まず、僕が毒味します。」
もやしのクッキーを口へといれる。
「………!!!!!!」
「ど、どう!?」
「味が……ない。」
場が氷った。
雪ちゃんがクッキーに手を差し伸べる。
「味が、ない。」
二人して真顔になった。
「ソースとかつけたら美味しくなるかもね〜…」
「あ、あるかも。」
調味料コーナーを見るとチョコソースと練乳を見つけた。
…クッキーにたっぷりと練乳をかけたものを口に入れてあげたい。
垂れる。
練乳が口から垂れる。
「チョコソースあった!」
「すごい!!!」
クッキーにチョコソースをかけ、雪ちゃんの口元へ運ぶ。
「え?」
「食べさせてもらいたいんでしょ?…あーん。」
はずかしそうに口を開ける。
あーんなんて言う方も恥ずかしい。
口の中へクッキーをいれる。
「美味しい?」
「うん、おいひい!」
チョコソースが口についてる。
入れ方が下手くそだったみたいだ。
いたずら心で口についたチョコソースを舐めた。
「ひっ!!」
甘い。
「…サービス。」
自分へのサービスみたいなもんじゃないか…。
「そういえば、まだ私時人の事食べてない。」
「ほ、本当に食べるの!?」
痛い!その歯で噛まれたら痛いよ!!
肩を掴まれそのまま首筋を舐められる。
「あっ…ちょっ…。」
舌が上に移動するにつれて身体がピクピクとする。
これ以上舐められたら理性が持たない、というところで止まる。
「しょっぱい。」
立場が、逆だ!
「雪ちゃん、美味しい…ですか。」
「いっぱいいっぱいな顔がたまらない。」
そんな顔してるんだろうか。
そう思うと恥ずかしい。
「あんまり見ないでよ…」
耳が熱く感じる。
「時人の手作り食べれて良かった。」
優しく微笑んでくれる。
こんな笑顔が見れるなら料理上手くなりたいかもしれない。
「雪ちゃん、卒業したら、結婚してくれたりする?」
「他にいなかったらね。」
そんなの、作らせないよ。
そっと抱きしめられ、僕は雪ちゃんに身を任せた。
耳元で言われる。
「時人が、いい。」
「雪ちゃん…!!!」
キスをしようとしたところで顔面をつかまれる。
「だ、だめ。私からするの…。」
顔が熱くなる。
はっきり言われると照れる。
「じゃあ…よろしくお願いします…」
目を閉じる。
いつくるのかわからない緊張感に身体が固まる。
柔らかいものが口に触れた。
「んっ…」
舌が入ってくる。
積極的すぎないか?
抑えきれず、雪ちゃんをソファに押し倒した。
「ちょっ…時人…。」
「今よりもっとドキドキさせてあげるから。」
今日くらい良いよね。
雪ちゃんの表情が僕の気持ちを高ぶらせた。
…来年は美味しいものを作ってみせるから。
もやしクッキー食べてみたいです。