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3

 世界を創った――

 言葉の意味を考えようとして、息苦しさに襲われた。身体の内側で何かが膨れ上がったような。

 男を見る。長身痩躯で色白、艶のない顔には老いを窺わせる皺が刻まれている。やはり見覚えはない。

「マルスを呼んでくるといい。今なら入れるだろう。制限は解除した」

 男はこちらの事情を知っている。この場にいる全員の名前、マルスがこの世界に入れないこと、そしてその制限を解除したと。

 誰も反応しない。男もそれっきりで立ち尽くし、こちらの返答を待っている。

「この事態を説明してくれるわけか」

 ややあってモーフィアスが聞く。頷く男。

「うた、マルスを呼んできてくれ」

 指示された女学生、うたがメタトロンを取り出して何か操作した。

 目を疑う。自分が見ている前でうたの姿が消えた。まばたきの間に消えたような感覚。彼女が立っていた場所にはもう彼女の痕跡は何もない。初めからいなかったように。

 あの時と同じだ。夕方、マルスに公園に呼び出された時と。場所もほぼ同じ。

 園内を見渡す。ぽつぽつと設置されている街灯は園内全体を十分に明るく照らしている。低い生垣と木々。動くものはない。自分達以外に誰もいない。うたが消えたのに、モーフィアスと猫は何事もないみたいに男を見ている。消えたことをわかっているのか。

 うたは最初からここいたのか。一瞬、わからなくなる。

 モーフィアスと猫はここにいる。だからうたもここにいたんだ。そうやって自分を納得させようとしても、確信は持てなかった。

「一つ聞きたい」

 モーフィアスが男に尋ねる。

「お前は仮想の住人か?」

「私は実在する」

 実在する。それはモーフィアス達と同じくここに来た人間ということか?

 ここに来た? うたは消えた。メタトロンを操作して。あの時のマルスと同じように。

 では自分もメタトロンで現実世界に戻れるのか。だがメタトロンは家にある。今から戻るか。何と言ってここから離れる? それよりこの男に聞けばいいのではないか? 

 いや、なぜこの男に? この男が……

 足音が聞こえて、考えは中断された。他の三人も気づき、顔をそちら向ける。見知らぬ女性がこちらに駆けてくる。

「マルスも来るって」

 女性の言葉。まさか。

 この世界に来るたびに姿が変わる。まさかこの女性がうたなのか? 先程の女学生ではない。細身の顔に髪型、服装も違う。声も違う気がする。

「そうか」

 モーフィアスと猫はこの女性の名前を聞きもせずに受け入れた。うただとわかっているから?

 息苦しさは治らない。身体が動かせない。自分だけ状況が理解できていないかのような不安、疎外感。

 さらにまた別の女性がうたと同じ方向から現れた。こちらは歩いて近づいてくる。

「私はマルスよ」

 名乗った。たったそれだけの短い言葉だが、日本語の発音のぎこちなさがうかがえた。

「モーフィアスだ。こっちが不破、猫、うた。そして」

 視線で男を示す。

「あなたは誰?」

 マルスが問う。

「話し合いの場所は用意している。ついてきてくれ」

 男は見た目に反し、しっかりとした足取りで移動する。その後をぞろぞろと皆がついていく。それを見送る。

 椅子から立ち上がれなかった。気分が悪い。怖い。このまま男について行っていいのか。

「不破?」

 男が二人、戻ってくる。

「大丈夫か?」

「落ち着いてから話を聞くか?」

 息苦しい。息を吐いた分だけ胸の苦しさは軽くなるが、吸い込んだ分だけまた重くなる。

 そもそも何の話だ。知らない人達が自分を見ている。この状況は何だ?

 違う。知らない人達ではない。モーフィアス。それにうた、猫、マルス。この人達はわかる。ではこの男は?

 沈黙。皆、こちらを見ている。待っている。何を? 自分だ。自分が動かなければ、何も動かないような空気。耐え切れない。

 膝を押さえたまま立ち上がる。どうするのか。一つしかない。だが言葉が出ない。深い呼吸を繰り返し、言った。

「今、聞く」

 男は背を向けて去る。モーフィアスは何も言ってくれない。顔を伏せた。やがて彼も去り、そこで顔を上げてのろのろと皆の後をついていく。

 これでいいのか。歩くうちに息苦しさは少し楽になったが、気持ちは落ちつかない。

 男は公園を出てすぐの民家に皆を案内した。二階建ての特徴のない家。ただその家だけ住人がまだ起きているように家全体に明かりが点いている。

「警戒しなくてもいい」

 男に促され、皆が家に入っていく。自分が最後だ。玄関に入る時、前にいる女性、猫と一瞬、目があった。

 家の中はどこか自分の家に似ていると思った。壁の色か、階段の位置か、照明の明るさか、廊下の長さか、家具の配置か。どこがどう似ているのかはっきりとわからなかったが、なんとなくそう感じた。

 玄関からすぐ右手にある部屋にみんな入っていく。中は広く、中央には三段の段差があり、その分、部屋の左右で高低差があった。長方形の真ん中に段差が走り、二つの正方形に分けたような。右の低い部分はテレビモニタやクッション、椅子が無造作に置いてある。団欒の場所という感じ。左の高い部分は奥にキッチン、手前にテーブルと椅子が並んでいる。

 男は段差を下り、椅子を段差の前に持ってきて腰掛ける。対するようにみんなは段差に腰掛けた。一番左端に座る。隣は男性、モーフィアスだ。その横顔に〈赤の雫〉での彼の面影はない。

 この状況はなんだろうか。外見は全く知らない人間。けれど正面に座る男以外の中身はわかっている。いや、本当にモーフィアスか、うたか、猫か、マルスかどうか。彼らが名乗り、自分がそう判断しただけだ。

「私はオーヴァの人間だ。まずこの事態について説明させてもらう」

「待って」

 マルスが止めた。

「私の日本語は完璧ではないわ。聞き取りも」

「メタトロンをこっちに。翻訳機能を使う」

 マルスがメタトロンを男に手渡す。男もメタトロンを取りだし、二つを操作する。同期させている。

「英語で構わないか?」

「ええ」

 返されたメタトロンをマルスは耳にあてた。男は自分のメタトロンを手に持ったまま。

「翻訳に問題は?」

「恐らく、大丈夫」

「では」

 男が全員を見渡す。手でメタトロンを弄ぶ。

「ある新種の花を見つけたとする」

「花?」

 隣のモーフィアスが聞き返したことで、男の言葉が自分の聞き間違いなどではないとわかった。

「そう。新種の花だ。それを見つけた発見者は生態調査の為にその細胞や種子を摂取しようとした。だが花の種子は成長が充分ではなく、種子としての機能が整うまで待つ必要があった。しかし問題が発生する。花は種子が育つ前に枯れてしまう恐れがあることがわかった」

 男は何の話をしているのだろうか。花の話?

「何を言っている?」

 モーフィアスが疑問を代弁した。

「見つかった新種の花が、人類にあたる」

 新種の花が人類。言葉の意味がわからない。思い浮ばない。

 男は何と言った? 花を見つけたが、成長が充分ではない。枯れてしまう恐れがある。

「エイリアン?」

 マルスの発音は滑らかだ。

 花を見つけた発見者。花は人類。発見者はエイリアン、宇宙人?

 頭の中で単語を組み合わせ、理解しても、それらは透明なままのような、何の現実味もない言葉の組み合わせのように感じた。

「そうだ」

 男は肯定する。

「では、お前は宇宙人か?」

 隣のモーフィアスが聞く。少しおどけた調子で。

「接触してきた〈使者〉は一人だけだ。彼から提案を持ちかけられ、オーヴァができた。私は人間だ。宇宙人ではない」

 これは何の話だろうか。何故、宇宙人という言葉が出てくるのか。理解できない。話についていけない。

「彼? 提案?」

 またマルスが尋ねる。英語で。

「使者は発見者の道具であり、代弁者だ。我々は発見者を〈栽培者〉と呼んでいる。名の通り、その目的は人類の栽培だ。植物の種を植え育てるように、人類という種を別の惑星、別の星系に移住させ、どのような進化を辿るか観察したいようだ。あるいは鑑賞か」

 男は区切るように一息つく。

「栽培者と人類の関係は、人と植物だ。私達個人は、その植物の細胞。栽培者と細胞は直接意思疎通ができない。人間はまだ栽培者を知覚できない。そこで〈使者〉が送り込まれた。〈使者〉はいわば、花にある作用をもたらす為に注入された細胞のようなもの。その作用は花の成長促進や病気への耐性、生存維持に関する作用だ。その結果がオーヴァだ」

 オーヴァは宇宙人。その手先。ネットスラングを思い出した。

「人類の為にオーヴァができたと?」

 モーフィアスはこんな話を信じているのだろうか。

「そうだ。そして〈栽培者〉の目的は人類という花の種子の採取だ。その種子とは、人類の文明、文化、それを維持する人口だ。採取する人口が多ければそれだけ強い種子になる。厳しい環境に耐え、適応進化し、新たな文明の花を咲かせる。強い種子を作る為、人口の増加と維持がオーヴァに課せられた役割だ。その為の技術も与えられた」

「ナノマシンか?」

「それと、仮想世界だ」

「今回の誘拐はそれに関係しているの?」

 何故、マルスはそんな質問ができる? こんな話を信じているのか。受け入れているのか。

「直接は関係していない。準備の一つだ」

「何をしたの?」

 マルスの声に怒りが混じっているように思えた。

「何もしていない。確保した人達はじきに解放される」

「それを信じろと?」

 モーフィアスに怒りはない。声も淡々としている。

「確保した人たちには何もしていない。種子の採取はまだ先だ。今回の事件は安全装置の動作確認と警告の目的があった。これまで関わってきた〈赤の雫〉の記号は、その安全装置の一つだ。栽培者との協定が破られた時、私のような監視員と接触するための」

「協定?」

「種子の採取を何度も行わせるわけにはいかない。そこで協定を交わした。強い種子を作る為に協力し、採取はその一度だけにすると」

「栽培者とやらが本当にいるなら、そんなもの相手次第だろう。植物は人にされるがままだ」

「種子の採取を続ければ、人類は必ず気づく。種子の採取とは大規模な人口消失だ。その行いを許さないだろう。敵対する。栽培者はそれを危惧している」

「どうやってそんな人口消失を?」

「答えられない」

「な」

 絶句するモーフィアス。

「そこまで話せない」

「こんなふざけた話を自分からしておいてか?」

 強い口調で責める。

「真偽は君達が決めればいい。私が話せることは話す。不破のことも」

 今、自分の名前を呼んだだろうか? 男と視線が合う。まっすぐにこっちを見ている。 

 耐え切れず視線を逸らした。

「話を戻そう。栽培者は人類が敵対することを危惧している。なぜか。植物と人間の力関係は一方的だ。採取する者とされる者。だが植物は毒を持つことで種を防衛することができる。栽培者は人類にその毒を持たせたくはないのだ」

「毒?」

「栽培者への敵意だ。人類が栽培者の存在を知れば、採取を回避し、栽培者への攻撃手段も模索するだろう」

「本当にそんな奴らがいるなら、そうすべきだろう」

「栽培者は種子を必要としているが、人類の進化、成長に干渉するのは本意ではない。毒を獲得させるにしても、採取し栽培した種子でよいのであり、原点である我々が毒を持つ必要はない。栽培者の介入によって毒が生まれるような、人為選択による成長は避けたい。自然選択による成長を観察したいのだ」

「すでに介入しているだろう。オーヴァがそれだ」

「もし人類が他の惑星や星系に種を播いていれば、そこで咲いた花から種子を採取していただろう。〈使者〉の話からもそれは窺える。許せないことだ。だが人類が栽培者に見つかった時、そのような状況ではなかった。

 彼らの主張によると、花は種子を播く前に枯れてしまう可能性があったという。そんな状態ならば、種の保存に取り掛かるのは理解できる。あくまで人と植物との関係性であれば。そして種子を採取するための処置で花が毒性を獲得するようなことはできる限り避けたい」

「勝手だな。それにその言い方、人類が滅亡しかけたと言っているのか?」

「栽培者の分析基準が不明な以上、本当に差し迫っていたのか知りようがない。しかし私ですら当時は平和が遠のいているように感じていた。国家間の緊張、進む環境破壊、終わらぬテロ。人類滅亡とまでは思わなかったが」

「当時だと?」

 沈黙する。男はモーフィアスの問いを無視した。

「オーヴァに参加した全員がそう感じていたわけでもないだろう。ナノマシンや仮想世界に惹かれ、三ンかした者もいる。私もその一人で、その為に協力したと言っていい。

 それに協力を拒否しても花に先はない。栽培者は必ず種子を採取する。その場合、採取の手法は荒くなる。無理やり引きちぎったように隠しきれない傷痕が残る。結果として毒を獲得するかもしれないが、種子を手にした栽培者はもう干渉しない。毒をもつ個体として経過を観察するだけだ。目的は達したのだから。

 だが栽培者はそれでよくても、花にとってはよくない。枯れてしまう可能性が残ったままだ。協力すれば、一度の採取と引き換えに花は強くなれる。種子を育てる期間に成長できる。また新たな種を播く可能性も残されている。協力を拒否し、種子を採取され、そのまま枯れるのを待つか。どちらを取るか明白だ」

「滅亡から救う代わりに、人間を差し出せと?」

「そうだ」

「差し出された人間はどうなる?」

「最初は地球と似た環境で暮すことになるだろう。そして文明という花が咲き、その種子を採取し、また別の地で栽培する」

「お前達が勝手に決めた協定とやらで、人間が攫われるわけか」

「そうだ」

「罪悪感はないのか?」

「拒否しても栽培者は種子の採取を必ず行うだろう。協力した際の得を選んだ」

「反抗ではなく服従を選んだわけだ」

「自然選択の成長は支配ではない。その意向はオーヴァの行動にも現れている。ナノマシンと仮想世界による肉体、精神の支配、誘導、矯正などは許されない。〈使者〉と私達は互いを監視している。そのようなことを行わせない為に」

「じゃあ今回の事件は?」

「栽培者が協定を破り、二度、三度と採取を行う場合、あるいは進化の誘導、操作、人為選択がなされた場合、我々は種を守る為に毒を獲得しなければならない。それには栽培者と使者の存在を知る私のような〈監視員〉と接触する必要がある。協定が破られたと判断された場合、〈監視員〉のもとへ誘導する〈安全装置〉が働く。この装置に触れた人間こそ、今回の行方不明者だ。〈赤の雫〉にも〈安全装置〉は組み込まれている」

「では装置が作動したのか?」

「いいや。今回は動作確認の為に作動させた。もっともそれは表向きで、他の目的はあるが」

 男は気づいたように付け加える。

「あぁ、〈赤の雫〉に関わった人間だけが行方不明になったと思っているようだが、それは違う。他にも作動した安全装置はあり、それに触れた人達も回収されている。安全装置に関わった人物のリスト、それを回収対象とする人間のリストとして使用した。

 何故人体操作をしてまで回収したのか。重要なのはナノマシンによる人体操作という事実だ。この事件を契機にして、オーヴァは撤退する。ナノマシン、仮想世界、〈使者〉によってもたらされた技術をすべて処理する。オーヴァ撤退の為に今回の事件が計画された」

「撤退? 何故?」

 マルスは驚きを隠さなかった。

「元々、いずれ人類が獲得する能力という理由でナノマシンがもたらされた。だがあれは先を行き過ぎていた。人体操作のみならず、限定的な記憶の操作も可能だった。その技術を目の当たりにしたからこそ、協力した。

 監視員の記憶も操作される可能性はある。だがそれを知る手段もある。もし記憶操作を行えば信頼関係は崩れる。それは〈使者〉も望んでいない。私がこの話をしていることも、自由の証明ではあるだろう。

 そのナノマシンを医療用として能力を限定し、提供した。その為にナノマシンの可能性は閉じたが、必要な処置だった。借り物の技術で人類の形が変わってしまうような事態は避けるべきだった。

 今回、人体操作という事件を起こし、今一度、ナノマシンの可能性、危険性を開く。その在り方を議論すべきだ。オーヴァのナノマシンは能力と安全性で議論の一切を跳ねのけた。それを取り去りたいのだ。事態に直面することで見えてくることもあるだろう。今回の事件発生後の対応も見ても明らかだ。これは人類のナノテクノロジーがオーヴァのナノマシンに追いつきつつある今が適切であると判断された」

「オーヴァがなくなるのなら、お前の言う安全装置も機能しなくなるはずだ」

「ナノマシン、仮想世界を利用した安全装置は一部だ。それ以外の誘導装置は存在する。だが撤退にあたり、装置の数が減ることは事実。それを不安に感じた〈監視員〉たちが動作確認を〈使者〉に提案した。設置した際にも動作確認はしたが、念のためにと。装置に関わった人物のリストを事件の為に回収する人物のリストとした。〈使者〉にとって重要なのは人体操作が行われたという事実で、リストに異論はなかった。

 〈安全装置〉に引っかかり、〈監視員〉と接触した人たちはこれまでの話を伝えられるだろう。彼らは人類が毒を獲得するための因子になる。

 ただリストの人間全員が〈監視員〉に辿り着くわけではない。この話が広がっても困る。せいぜい数人だろう。

 それに毒の因子を作ることを〈使者〉は容認していない。それでもこの件に関して監視が緩いのは、毒を獲得する直接の要因にならないと判断されているからだろう。世間のオーヴァへの認識を見ても明らかだ。オーヴァが宇宙人の手先だという説も、その最たるものだ。あるいは他の監視員が広げたものかもしれない。酷似した内容はいくつもある。だが、果たして誰がそれを信じようか。誰も本気で信じない。だから〈使者〉も見逃しているのだ。

 今回の事件でその説は加速するだろうが、いずれ忘れ去られるだろう。人体操作の表向きの原因も用意されている。

 君たちにしても、これが私の作り話か否か、判断できないだろう。実際に種子の採取が行われるまでは。行われても信じないかもしれない。〈栽培者〉は己の存在など感知させない手法で採取を行うだろう。その時は〈監視員〉も協力せねばならない。人類が栽培者を知覚できない限り、信じることはできない。

 そしてそれは〈監視員〉たちも同じだ。我々が接触できたのは〈使者〉ただ一人。〈栽培者〉の存在が〈使者〉という種族の創作ではないと断言できないのだ。

 それでも我々は協力し、今日まできた。〈栽培者〉と〈使者〉、二つの調査をしつつ。結果は何も得られないままだが、今後も監視は継続していく。それによってまた監視員の状況も変わっていくだろう」

 大きく息をつく男。

「オーヴァの撤退には時間が必要だ。もたらされたすべての技術の処理の時間が。完了次第、確保した人たちは解放される。もうしばらくだ」

 男は椅子の背もたれに身体を預ける。話し終えたという風に。

「じゃあこの状況も、その安全装置の一つということ?」

 猫が聞く。

「いいや、違う」

 耳を疑う。半ばそうだろうと感じていたのに、否定された。男が自分を見る。

「ここからは不破、お前の話だ」


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