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召喚成功

 儀式の場は玉座の間。

 魔術師達が気合をいれて描きあげた魔法陣にその魔力を注ぐ歌が玉座の間に響き渡る。


 それをハラハラしながら見守る青年。

 この国の第一王子ルッツオード。王家代表として今回の召喚を承認、執行責任者。

 その青年を特に見守っているのは四人。

 少し離れた位置にいる宰相アップフェール。

 玉座の間の大扉付近を警備している王子の乳兄弟にして王室騎士のフォルサ。

 宰相アップフェールのそばで周囲を好奇心たっぷりに見回す王子付き侍女長トゥリパ。

 召喚魔法を実行する王室魔術師団の長である魔術師マイルズ。

 この四人だ。


「宰相様は、この召喚の儀、王子にとってどのような影響を与えると思われますか?」

 近くに居る宰相にトゥリパは物怖じすることなく喋る。

「さて、どうでしょうね。魔王の意識を刺激しなければ良い儀式だとは思いなすがね」

 宰相もさして気にすることなく対応する。そっけなく否定的だが、問いかけ自体は問題にしていない。

「王子は両陛下のことを心配なされて、少しでも気鬱を減らそうとなされてるんです」

「ええ。その通りでしょうね。だからと言って善意の行動がすべてうまくいくとは限りませんよ。トゥリパ嬢。さぁ、そろそろおとなしくして魔術師達に仕事に集中させて差し上げましょう」



 パシン



 何かが弾ける音が玉座の間に響き渡り、術の歌が途切れた。


「泡……?」

 小さな泡が玉座の間に散る。

 甘い優しい匂い。

 薄いピンクの靄が玉座の間に広がる。

「あたたかな空気ですね」

「勇者様はどこなんでしょうか?」

「見えませんね」



 こぽ

 こぽこぽ


 小さな音が魔法陣から漏れていることに王子が気がついた。

「水? ……いや、お湯?」


 ざっぱーん


 唐突に大きな音と共に水柱、いや、湯柱が立った。

 薄いピンク色の。


 巻き上がり、広がり落ちたお湯は玉座の間を濡らした。


 かすかに宰相が舌打つ。


 その湯柱のひいた後には人影が残った。


 それはずぶぬれの少女だった。

 栗色の髪は腰までを覆い、その薄桃がかった肌を強調している。

 引き締まった腰、スラリと伸びた手足。豊かな胸元と臀部。

「なんてこと……」

 トゥリパが声を上げて少女の元に駆け寄る。

「人払いを」

 そう声をあげたのは宰相。

「さぁ、王子も勇者様とのご挨拶は後ほどになさいませ。フォルサ殿は鼻血の治療後、精神鍛錬に励まれますよう」

 明らかにバカにした口調で王子と騎士に告げる宰相の姿に周囲の気配が苛立ったささくれたものに変わる。

「皆様、この儀式の成功の詳細は勇者様の名誉を守るためにも沈黙をお守りくださりますように。洩らされた場合、全力をもって討伐させていただきます。無論、王子との契約の元に。ですが」

 マイルズの発言にあわせ、魔術師たちが杖を掲げ、短く歌う。


 それは束縛の魔法だった。

 今回の詳細、特に勇者召喚の状況を口に出せば、魔術師団に筒抜ける束縛魔法。

 幾人かが不服そうに魔術師たちを睨む。



「さぁ、玉座の間をもとどおりにしておくように。暇を持てあましてると言うのなら、いくらでも片付けていくといいでしょう。そうでないというのなら、余興は終わったのですから仕事に戻りなさい」

 その場は、勇者召喚を余興と言い放つ宰相に誰一人言い返す事なく散って行った。

 マイルズは苦笑しつつ、宰相に腰を折る。

「感謝します。さぁ、もとどおりより美しく玉座の間を取り戻せ!」

 マイルズの言葉に魔術師達が一斉に頷く。

「「承知!!」」



「暑っ苦しいですね」



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