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失恋勇者と崖っぷち世界  作者:
始まり
6/43

パーティー揃いました

 一通り腹に入れると、優奈は食事を終えた。

 もともと食が細いのでそこまでの量は入らなかった。

 もういいのか? とロアンに聞かれたが優奈はもうお腹いっぱいだと返した。

 食事している間ロアンはラグと何か話していたようだったので、まだ話しがあるのなら大人しくしているから気にしないように言った。


 優奈がそういうとロアンはありがとう、と優しく笑い優奈の頭を軽く叩いた。

 優奈もそれに釣られてニコっと笑い返した。


(愛想って大事だよね!)


 そうやってロアンとニコニコ笑いあっていると後ろから驚きを多分に含んだ声が掛かった。

「おゎっ! 何、ロアン、君とうとう頭がいかれちゃった?!」

「・・・過去が忘れられないからって幼女趣味に走るのはどうかと思うぞ」


(幼女趣味・・・? ロアンが?)


 優奈はその言葉に首を捻る。

 今の言葉は明らかにロアンに向けられたものだ。

 その証拠にロアンの表情が苛立ちに染まっている。

「おい、お前ら。何勝手なこと言ってくれてるんだ?」

 かけられた言葉に答えるロアンの声は表情と同じく怒りを含んだものだった。いつもより幾分か低い声は唸るように響き、周囲を圧倒した。

 自分が怒られているわけではないが、恐ろしさから優奈は思わずビクッと体を縮めた。


「あ、ちょっとロアン!」

 少し高めの少年のような声がロアンを非難する声をあげ、次いで優奈を暖かな何かがふわっと包んだ。

 見ると白い袖が優奈の胸の前で交差しており、どうやら声の主に後ろから抱きしめられていることに気づく。

 ここは抗議すべきか、大人しくしているべきなのか迷っていると、後ろから続けて声が発せられた。


「君が怒るから彼女が怯えちゃったじゃないか」

 そう言って声の主はよしよしと優奈の頭を撫でた。


 普通はここで安堵するのだが、とても安堵できるような状態ではない。

 何故ならロアンから発せられる怒りオーラが増している気がするのだ。


 優奈はビクビクとさらに身を縮こまらせた。


 そんな優奈をよそに会話は続けられる。

「おい、ハルト。ユーナから離れろ」

「やだ。だって離れたら君に何されるかわかったもんじゃないからね」

「安心しろ。ユーナの前ではやらん」

「それ、安心できない。でも、ま、いいよ。離れてあげる」

 そうして優奈は無事に声の主ーハルトの腕から解放された。


 ロアンが優奈に一言謝ると、後からきた二人に座るように促した。そこで二人のことも紹介してもらう。


 優奈に抱きついた少年ぽい声の主は、声の通り15、6の少年で、白の貫頭衣に身を包んだふわふわの金髪をしていた。愛らしい、と表現すべき顔立ちは、その筋のお姉様方にはきっと人気だろう。名前はハルトといい、神官なのだそうだ。


 神官と言われてピンとこない優奈は、そうなんですか、とだけ返しておいた。


 もう一人紹介された人は、寡黙? なのかあまり口を開かない性格らしい。黒い長髪、切れ長の瞳の色は紫、鼻筋が通った美人さんといった感じだ。こちらは魔術師をしている、アランという人だそうだ。


 神官同様、魔術師といわれてもピンとこなかった優奈はそこも、そうですか、と流しておいた。


 ちなみにラグはロアンと同じで剣士、みたいなものらしい。



 そして現在、絶賛みなさんでお話中である。

 優奈は特に混ざれる話題もないので、話を聞きながらこの世界の情報を収集している。

 といっても、大した情報はなかなか入ってこない。

 というか、何の話をしているのかさっぱりわからないでいる。


「ざっと見たけど異常はないよ。でも何か魔力の気配がするんだよね。そっちは僕の専門じゃないからアランから聞いて」

「魔力? おい、アラン」

「・・・体に害があるものじゃない。物理防御、魔法防御、自動回復、治癒向上、それと追尾、危機警報がかかっている」

「何だそりゃ。随分過保護な術が沢山かかってんな?」

「一体何者? って感じだよね」

「一つ言えることは、これだけの術を複数編み込んでかけるのは容易なことではない。かけたやつは間違いなく腕の立つ人物だ」

「賢者とか?」

「宮廷魔術師とかでもいけるんじゃねぇか?」

「ラナスティア国の王族は魔術に長けてるらしいな?」

「・・・俺もやろうと思えばできるぞ?」

「そこは別に張り合わなくていいよ」

「にしてもだ、本当に何者だ、お嬢ちゃん?」


 ラグがそう言って優奈を見ると、一斉に皆さんの視線が集まってきた。


(え、私?)


 突如話を振られ、優奈は目をまたたく。

「え、あの、何者って・・・どういう意味ですか?」


(何、もしかして、私なんか疑われてる?!)


 四対の視線に晒され、優奈は体を縮こまらせる。

 一体何を疑われているのかは、わからないが、ここを今追い出されたら再び路頭に迷うことになる。厚かましいことはわかっているが、せめて社会常識を覚えて働き口が見つかるまでは面倒を見て欲しい。


「いや、ユーナ。悪い。怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、あまりにも不思議な点が多くてな」

 そう言って隣に座っていたロアンが優奈の髪を撫でた。

 その感触にホッと安堵の息を漏らし、肩から力を抜く。

「ユーナは何処から来たとかもわかんないんだよね? ・・・誰と一緒に住んでたのか、とかは?」

 ハルトにそう聞かれて優奈は愛する人の顔を思い浮かべた。

 まだこちらに来て1日目だというのに、その存在がひどく懐かしく、そして遠く感じた。

「あっくんと・・・住んでた」

 左手薬指にはまった指輪を右手で確かめながら優奈は答えた。

「ユーナ・・・」

 ロアンから気遣うような声が漏れる。

 優奈はいけない、と頭を振って気持ちを切り替えた。


(ここで暗くなっても仕方ないからね、ロアンにも心配かけるし)


 案の定心配げにこちらを伺っていたロアンに、優奈は大丈夫、とでもいうように笑った。

 ロアンは困ったように眉をハの時にしながらも笑い返してくれた。


「アックンっていうのはユーナの家族?」

 ハルトがそう尋ねてきたので優奈は頷く。

「他に一緒に暮らしていた人は?」

 その問いには首を横に振った。

「アックンっていう人は魔術使えた?」

 首を横に振る。使えるわけがない。

「じゃ、身近にそういう人はいた?」

 もちろんいない、と首を横に振る。

 ハルトはそうかぁ、と呟き、考え込み始めた。


「お嬢ちゃん、何だってあんな森にいたのかは本当にわからないのか?」

 今度はラグに聞かれ、優奈は困る。

 何であの森にいたのか、と聞かれれば持ち合わせている答えは一つある。

 優奈は言ってもいいのか不安だったが、ここまで親身になってくれている人達に悪いと思い、おずおずと口を開く。

「お、・・・」

「お?」

 優奈が口を開くと、一斉に四人から注目を浴びた。

「大きい鳥に、落とされました」

 優奈がビクつきながらもそう言い終えると、四人は難しい顔で再び悩み始めた。


(流石に魔界のことまでは言えないよ。だかこれくらいで許して)


 そう思いながら優奈は何やら話し合い始めた四人を見守る。

 話し合いのお題は『大きい鳥』についてだ。

 単に巨大化した動物なのか、魔物なのか、はたまた魔族か、それとも神鳥か、と話し合っている。


(あれは、魔族の方の使い魔らしいですよ)


 と優奈は心の中で答えを言ってみる。

 もちろん聞こえる由もない四人は、何が面白いのかそれだけのことを結構な時間をかけて話していた。

 他にも何か言っていた気はするが、優奈はもう眠さの限界だ。うとうと寝ぼけ半分の頭で聞いていたため内容が全く頭に入ってこない。


 その内四人の話し声がちょいどいい子守唄の様に感じられてきて、優奈はいつの間にか本当に眠ってしまった。


(も、限界。おやすみなさい)

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