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失恋勇者と崖っぷち世界  作者:
始まり
5/43

食堂にて

 ロアンに連れられてやってきたのは人の賑わう酒場のような場所だった。

 人々の喧騒が騒がしく、賑やかしくもある。

 店内はほぼ男一色で、給仕の女性や取り仕切るおかみさん以外には女の人はいない。


「おぉ?! ロアン、どうした、お前? 女連れなんて珍しい」

「なんだぁ? マジじゃねえか! ロアンが女連れてるよ!」

「おぉ、本当じゃねぇか!」

「随分とちっこいなぁ」

「なんだ、ガキか?」

 人相様々な男が入ってきたロアンと優奈を取り囲んだ。

「騒ぐな、見るな、構うな、あっちにいってろ」

 ロアンは不機嫌そうな声を出しながら優奈を庇う様に自分の背に隠した。

 優奈もたくさんの人間の視線にさらされるのは御免なのでロアンの背にしがみつき男たちから隠れる。

 するとすぐに威勢のいい罵声がカウンター内から飛び出した。

「ちょっと! あんた達! 女の子を寄ってたかって虐めるんじゃないよ!」

 その声に男たちは「おぉ怖っ」「虐めてねぇって」などとガヤガヤいいながら自分たちの席に戻って行った。

 優奈は人の気配がなくなったのを感じると、そろっとロアンの背後から顔を出した。

 すると、先ほど会った恰幅のいいおばさんが優奈に視線を合わせるようにやや屈んで目の前にいた。

「よく来たね、お嬢ちゃん。ロアンに変なことはされてないかい?」

 そう言っておばさんは優奈の頭を撫でてくれた。

 ロアンはその言葉にため息をついたが、諦めたのか何も言い返したりはしないようだ。

 ここはきちんと弁明しておいてあげねば、と優奈が首を横に振った。

「とても良くしていただいてます」

 そう答えると、おばさんは嬉しそうに笑った。

「そうか、そりゃ良かった。でも何か困ったことがあれば私に言うんだよ? 今日はたんと食べておいき。腕をふるってやるからね」

 おばさんはそう言ってカウンター内に戻っていくと、ロアンは少しキョロキョロし何か見つけたのかスタスタと店の奥まで進んで行った。


 少し奥まった席に向かってロアンは優奈の手を引いて迷いなく進んで行った。

 はじめは空席にでも座るつもりなのか、と思ったが空席を通り過ぎたのでどうやら違うことに気づいた。

 そうしてロアンが向かう先にいたのは一人の男だった。

 男はロアンに軽くてをあげ挨拶すると、座るように促してきた。


 ロアンは男の横に腰掛けると男とは反対側の隣の椅子を引き、優奈に座るように促した。

 優奈は大人しく椅子に腰掛け、そわそわと落ち着かないように周囲を見渡した。

 店内は本当に男性客ばかりで、二十人はいるだろう。酒らしきものを飲みながらガヤガヤと騒いでいる。時折こちらを見てくるものもいるが、その度におかみさんから喝が飛んでいた。

「あんた! あんまり見てると嫁さんに言いつけるよ!」

 と言った感じだ。


 優奈はどこか別世界の様に微笑ましくその様子を見ていた。


「で、そこの嬢ちゃんが今話題のロアンが引き取った子か?」

 優奈がキョロキョロする横でロアンと男が話を始めた。

 自分の事が話題に上ったので、優奈は視線を男に向ける。

 ロアンの知り合いのようだし、ここは挨拶をした方がいいのか? と悩みつつ男を観察する。


 男は焦げ茶の髪に無精髭を生やしており、ちょっと見方を変えれば怖そうな人だ。髪は短く切られており、頭の上でツンツンと立っている。顔は整っているのだが、如何せん清潔感というものが感じられない。だが、こういうタイプの男性が好みの人も多いだろう。・・・イケてるおっさん系? くわえ煙草が似合いそうな感じだ。


 優奈は一人妄想の中で想像してウンウンと頷いた。

「ユーナ、こいつは俺の知り合いでラグだ。もし俺がいない時に何かあればこいつに言うといい」

 妄想に浸っていた優奈はロアンの声で現実に引き戻される。

 男はラグというらしい。

 優奈はぺこりと頭を下げて自己紹介をする。

「優奈と言います。よろしくお願いします」

 そう挨拶をするとラグがニカッといった感じで笑った。

「おう、こっちこそよろしくな。腹減ってんだろ? 遠慮せず食え」

 そう言ってラグはテーブルの上に並んだ食事を勧めてきた。

 優奈は食べてもいいのかとロアンを伺った。

 ロアンは優しい微笑みを浮かべながら優奈に向かって頷いた。

 お腹も空いていたし、お許しも出たことなので優奈はいただきます、と言って食事に手をつけ始めた。


 並んでいる料理は肉系の炒め物、揚げ物メインで野菜があまりない。主食となるようなものも少ない。

 それでも食べられるだけいいと思わなければ、と優奈は食事を進める。


「お嬢ちゃん、これお食べ」

 そう言って横から差し出されたのは生野菜が盛られたサラダのようなものと、パンだった。

 差し出してくれた相手を見上げるとおかみさんだった。

「・・・いいんですか?」

 優奈がそう聞くとおかみさんは気にするな、と言ってテーブルにそれを置いていった。

 優奈はありがたく持ってきてくれたサラダを口にいれる。


(やっぱり野菜も食べたいもんね)



 ◇◆◇◆◇◆


 優奈が機嫌良くサラダを食べている横でロアンはそれを微笑ましく見守っていた。

 そんなことはもちろん食事に集中している優奈の知る由ではなかったが、それを珍しいものでも見るようにラグは見ていた。

「・・・なんだ、随分気に入ってるんだな?」

 ラグがそう尋ねればロアンは視線を優奈から外して誤魔化すように咳払いした。

「・・・いいだろ、別に。それより・・・」

 誤魔化しもせず肯定と取れる発言をしたロアンにラグはまたも驚いた。


(こいつが素直に認めるなんて・・・)


 ロアンにそこまで気に入られた少女にラグは少し興味を惹かれる。

 見た目はどう見ても普通の少女。

 黒髪は珍しいが、探せばいなくはない。顔立ちは綺麗というよりも可愛らしいと表現すべきだろう。だが見惚れるほどのものはどこにもない。全体的に作りが小さい少女は庇護欲をそそった。だが、それくらいだ。それ以上は特筆することもない少女だろう。


「おい、それよりハルクとアランは?」

 少し不機嫌そうなロアンの声にラグは視線を戻せば、声と同じく少し不機嫌な顔をしたロアンがいた。

 どうも優奈を観察することに気を取られてロアンの話を聞いていなかったようだ。悪い、と返しながらロアンの質問に答えてやる。

「彼奴らはまだ来てないぜ。待ってりゃそのうち来るんじゃないのか?」

 そう答え、何か用でもあったのか、と尋ねればロアンは気難しげに眉を寄せた。

「・・・ユーナの事でな。どうも、何処からきたのかもわからないらしい。本人はどこもなんともないと言っているが、もしも、ということがある。ハルクとアランに見てもらえば安心できるだろ」

 ロアンの言い分にラグは成る程、と頷く。


 優奈は森の中に一人でいたという。

 しかも魔物の蔓延(はびこ)るあの森に、だ。

 どう考えても誰かが意図的にあの場所に捨てた、と考えるのが妥当だ。

 あの場所に置いておけば魔物が勝手に始末してくれるのだ。これ以上いい捨て場所もないだろう。

 どうして捨てられたかはわからないが、体を弄られていない可能性が皆無とは言い難い。しかも優奈は幼いが女だ。


 そこまで考えてラグは吐き気のする想像を唾棄した。

「まぁ、ゆっくり待ってろよ。そろそろハルクがアランを引っ張ってくるだろうからよ」

 ラグと同じように苦い顔をしたロアンに明るい声で声をかけながら酒を勧めてやった。

 ロアンは短い返事をして、軽く酒を煽って優奈をまた見た。

 その瞳が優しげに細められてるのを見てラグはその想いを勘ぐった。


(庇護欲か? 恋、だとか言わんでくれよ? こんなお嬢ちゃん相手じゃ、犯罪もんだぞ?)

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