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失恋勇者と崖っぷち世界  作者:
始まり
4/43

驚きの嬉しい事実

 優奈はいつの間にかウトウトしていたらしい。

 ふと目を開けると室内は暗闇に包まれていた。


(あ、れ・・・?)


 現状の把握がうまくできず、ベットの上に座り込む。

 とにかく優奈は寝起きがよくない。

 不機嫌になるとかそういうことはないが、頭の働きが鈍くなる。


(寝ちゃってた・・・? なんか、変な夢・・・見てた気がする)


 ぼうっと働かない頭で考えながらベッドの上に座り込んでいると、ガチャリと音がして光が差し込んできた。


「起きたか?」

 問いかけと共に人影がこちらに歩み寄ってくる。


「・・・あっくん?」


 声が微妙に違った気がするが、それ以外に部屋に入ってくるものはいないだろう。

 泥棒でもない限り愛する夫以外がこの家に自由に出入りできるはずはない。

 そう思い、優奈はいつものようにあっくんへと両腕を伸ばす。


 だが影は優奈の前で立ち止まり、そこから動こうとはしない。

 優奈は首をかしげた。


「・・・あっくん?」


 もう一度呼びかけると影はすっと動き優奈をゆるく抱きしめた。

 優奈も抱きしめ返すように影の背に手を回し、そして首をかしげた。


(・・・あっくんじゃ、ない)


 気づいた途端にビクッと体がはね、影を突き放そうと体をよじる。

「や、やだ、だれ? 放してっ」

 優奈が身をよじると影はあっさりと優奈を放してくれた。

 あまりにもあっさりと離してくれた事に驚きつつ、優奈は影から距離をとった。


 一体何がどうなっているのか、状況を把握しようと働かない頭を必至で動かす。

 寝て起きたら知らない人物が部屋に入ってきた。

 つまり、これ・・・強盗?

 こ、殺される?!


 飛躍しすぎた考えに体がガタガタと震える。

 優奈がベットの上で震えていると影が動いた。

 それに対し優奈は過剰なくらいビクッと跳ね上がった。

 恐ろしさから近くにあった布団を体に抱き込み、キュッと目をつむった。


(あっくん!!)


 愛しい人の名を呼び、襲いくる恐怖に耐えていると、存外優しげな声が耳に聞こえた。

「大丈夫か? 悪かったな、怯えさしちまったみたいで・・・」

 そう言われ、優奈はそろそろっと目を開けた。

 暗かった室内はいつの間にか明るくなっており、目の前にいる人物の顔も、室内も確認することもできた。

「あ・・・」

 そうして優奈は気づいた。


(夢じゃなかったんだ・・・)


 そう思った途端、体から力が抜けた。

 そしてこみ上げてくる感情の波にさらわれた。


 ポロポロとこぼれる涙は止まらず、自分がなぜ泣いているのかもわからなかった。

 唯々悲しく、そして寂しかった。

 ここにあの人はいないのだと、そう思い知らされ、そしてこれが夢ではないのだと思い知らされ、優奈はただ泣き続けた。


 涙が止まるまでどれくらいの時間がかかったのだろう。

 ロアン何も言わずにずっと横に座って優奈の髪を撫で続けてくれた。

 最終的には縋り付く様にしてワンワン声をあげて泣きついてしまったが、それでも嫌な顔一つせず、優奈をあやし続けてくれた。


「ご、ごめんなさい・・・」

 涙を流し尽くし、大きな声で泣きわめいた後優奈はロアンに頭を下げた。


(ほぼ初対面の人に対しわんわん泣きついてしまうとは・・・)


 しっかりと頭が働いてこればかなり恥ずかしい状況であったことを自覚する。

 ロアンは気にするな、と笑ってくれたが、優奈は穴があったら入りたいくらいだ。

 優奈が恥ずかしさから顔を俯けていると、ロアンが何かを差し出してきた。

 布にくるまれたそれを素直に受け取ってみると冷んやりと冷たかった。

「食事にいくから、外に出る。・・・目を冷やした方がいい」

 そう言われ優奈は恥ずかしさのあまり顔を赤く染めた。


(あんなに泣いたのだ。目が腫れぼったくなるのは当然だろう。・・・それを気にしないとか、私、女として終わってる・・・。)


 内心愕然としながらも優奈はありがたく冷たい布の塊を使わせてもらった。

 冷んやりとしたそれは目に心地よく、しばらく当てているとだいぶ目の腫れぼったさがなくなったように感じた。


(鏡とかないのかな・・・? 確認したいんだけど・・・)


 そう思いロアンに尋ねると、洗面所のようなところに連れていかれた。


 思えばこの世界にきて始めて優奈は自分の姿を確認した。


 そして思ったのは、どうしてもっと早く鏡を見せてもらわなかったのか、ということだった。



(何じゃこりゃー!!!!!)


 と実際声に出して叫ばなかっただけでも偉いものだろう。

 優奈は鏡に詰め寄ってじっくりと自分の顔を確認した。

 多少目は腫れているものの、そこまで酷くはない。見慣れた自分の顔だ。

 ただし、十年程前に見慣れていた顔だ。


(わ、若返ってる。・・・なんで?)


 皆様、たかが十年と言いますが、されど十年です。

 女にとって十年は偉大!

 十代と二十代の差はもちろん大きい!

 まずお肌のピチピチ感が違います!

 いくら努力しようとも年齢は肌に現れるもの!

 努力なくして保てなくなるのがその証拠です!


 だが、見よ!


 このピチピチ感溢れるお肌!


 手入れ? そんなの無用よ、と言わんばかりの輝き!


 だが、そうしてサボったツケは二十代、三十代になった時に払わされるんです!



 ややも興奮気味に優奈は心の中で熱く語っていたことを知る由もないロアンは、鏡を見つめて固まっている優奈を心配そうに覗き込んできた。

「大丈夫か?」

 優奈はそう聞かれ、自分が鏡を凝視したまま固まっていたことに気づいた。

 バッ慌てて鏡から離れて体裁を取り繕う。

「だ、大丈夫です。ありがとうございました」

 そう言ってお辞儀をすると、ポンポンっと頭を軽く叩かれた。

「気にするな。よし、じゃぁ飯にいくか!」

 そう言ってロアンはスッと手を差し出した。

 その手を見て優奈は首を捻る。


(手を、繋げってことかな?)


 優奈はおずおずとロアンの手に自分の手を重ねた。

 どうやら合っていたようでロアンは破顔して優奈の手を握りしめてくれた。

 優奈もその笑顔に釣られてほっとし笑い返した。


 そうしてそのまま優奈は夜の村へとロアンに誘われて繰り出した。

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