目覚めたら・・・
ぐらんぐらんと視界というか世界が回っていた。
目を固くつむりそれを何とかやり過ごそうとするが、全く持って効果がない。
いつまでたっても取り戻せない平衡感覚に、気分は最悪だ。
何か声をかけられている気もするが、頭で理解するに至らない。
優奈はひどい眩暈にと呼ぶには凶悪すぎるそれに耐えきれず、そのまま気を失った。
目が覚めると真っ白な天井がまず目に入った。
眩しいくらいの白に目がくらむ。
もぞっと身体を動かし、身じろぎすると肌触りのよいシーツに手が触れる。
(・・・?)
優奈は夢うつつながらも首をかしげる。
ロアンの家の布団はただの布っきれに綿を詰めただけの、いわゆる粗雑品だったはずだ。
では、どこか?
魔王サマのとこか、と思ったが、すぐに違うと気付く。
魔王サマの元からはすでに脱出したはずなのだから・・・。
とりあえず起きなければ、と身体を起こし、周囲を見ればここか何処なのかわかった。
いや、正確には、知らない場所にいるのだという事が分かった。
「・・・どこ?」
真っ白の壁に包まれた室内に、優奈の声に答える人物はいない。
見れば着ていた服も変わっている。
村で借りた簡素なブラウスとスカートではなく、今着ているのは真っ白なワンピースだ。
「・・・誰が?」
着替えさせてくれたのか。
これに答えてくれる人もいない。
どうしたものかと迷っていると、扉がノックされ、返事を返す前に勝手に開かれた。
「失礼します」
声と共に入ってきたのは優奈と同年代くらいの女性であった。
二十代後半くらいであろう女性は室内に入ってくると、ベットの上に腰かけた優奈を見て驚きの表情を見せた。
「あ・・・起きておいででしたか。失礼いたしました」
「いえ、あの・・・」
「すぐに皆様をお呼びしてまいります」
女性は優奈が何か言う前にそそくさと退室していってしまった。
皆様というのはロアン達の事だろう。
優奈は仕方なしに大人しく皆が来てくれるのを待った。
ほどなくしてロアン達が部屋に入ってきた。
すっかりくつろいだ服装となった四人の中で、唯一ハルトだけが仰々しい格好のままだった。
「ユーナ、よかった」
入ってくるなりにロアンが優奈を抱きしめた。
強すぎるくらいの抱擁にぐっと息が詰まる。
「く、くるし・・・」
「ちょっと、ロアン! ユーナが苦しそうだから離れて!」
「ったく、ただの魔法酔いっつてただろうが。取り乱しやがって」
そう言ってぎゅうぎゅう抱きついて離してくれないロアンをハルトとラグが半ば力づくで引き剥がしてくれた。
息苦しさから解放された優奈は、はぁはぁと荒い息をつく。
「・・・大丈夫か?」
荒い息をつく優奈を心配するようにアランが背を撫でてくれた。
もう大丈夫だと身振りで示すと、アランはすっと離れてくれた。
「ありがとう、ございます」
礼を言うとアランは微かに首を振った。
「・・・気分は?」
「もう大丈夫」
「・・・悪かった」
アランの唐突な謝罪によくわからず首をかしげて見せると、ハルトが言葉を次いで説明してくれた。
「魔法酔いしたのは、アランの移動魔術のせいなんだよね。だからそのこと」
なるほど、と優奈は頷いた。
「・・・って移動魔法?」
「ん? あぁ、そうか。嬢ちゃんには内緒にしてたんだったな」
そういえば、といった感じで言ったラグの言葉に優奈は首をかしげる。
秘密にしていたとは何をだろうか?
まぁ、十中八九このよく知らない場所にいる事だろうが・・・。
「それは食事をとりながら説明しよう。ユーナ、腹減っただろ?」
ロアンの提案に優奈は小さくうなずき了承する。
何故か一端着替えをさせられた。
用意された服はやはり真っ白な上等なワンピース。何枚も布が重ねられ、細かな刺繍が布全体にびっしりされているそれは、胸の下でリボンで縛るタイプのものだった。
着替え終わると、食事をする場所へと移動させられた。
連れ出された部屋の外は、どこもかしこも白塗りで目に痛い。
天井、床、壁・・・白以外の色が見当たらない。
辿り着いた部屋にはさすがに白以外の色があった。
床には赤い絨毯が敷き詰められ、テーブルとイスは木のぬくもり感じられる茶だった。もっともテーブルには真っ白なテーブルクロスが掛けられていたが・・・。
テーブルの上に既に用意されていた食事も色とりどりであった。
それを見て優奈はごくりと息を飲み込む。
実はかなりお腹がすいていたのだ。
いつお腹の虫が鳴くかとひやひやしていた。
外の明るさからそんなに時間がたっていないと思っていたが、お腹の梳きぐあいからして結構な時間がたっている気がする。
誕生日席に座らされると、優奈は目の前に並べられた食事に手をつけた。
素朴な味付けと美味しさに顔がほころぶ。一口食べると空腹が更に刺激され、手が止まらなくなる。
ここまで空腹を感じた事は久しぶりだった。
優奈が一通り口にし終わり、手の運びが緩やかになった頃ロアンが口を開いた。
「ユーナ」
呼びかけられ優奈は顔をあげる。
すっかり食事に夢中になっていた事に気づき顔を赤らめる。
(は、恥ずかしい・・・)
「まずは、黙ってこんな場所まで連れてきてしまってすまなかった」
突然の謝罪に優奈は慌てて首を振る。
きっと何か理由があったに違いない、ということくらい優奈にもわかっている。
大体にして世話になっている身なのだ。文句を言うつもりもない。
「ここは、何処ですか?」
まぁ何処だかわかったとしても優奈にはどうしようもないのだが・・・。
それでも一応聞くべきだろう。話の流れ的に・・・。
ロアンが答えてくれると思ってロアンを見つめていた優奈であったが、声は違うところから飛んできた。
「ここは王都にございます中央大神殿にございます」
優奈の問いに答えてくれたのは見知らぬおじさんだった。
白いその服はハルトが着ているものとよく似ていた。違いがあるとするとなら、赤が混じっているところだろうか。
「お会いできて大変光栄です、聖女様」
優奈はその言葉にピシッと固まった。




