表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失恋勇者と崖っぷち世界  作者:
始まり
1/43

ここはどこでしょう?

「そうだな、とりあえず何処かの街にでも置いて来い。・・・いや、何処かの王の目の前のがいいか? お前、どちらがいい?」

 目が覚めるなりそう言われ、私こと朝霧 優奈は固まった。



 一体なんの話をしているのだろうか?


 その前にここは何処なのだろうか?


 そして、この人達は誰なのだろうか?


 いや、こいつら人か?


 明らかに違うよね?


 羽生えてるし・・・あっちの人は角あるし、半分腐ってる・・・胴体が動物? 人じゃないね! これ!


 でも、じゃぁ人じゃなかったら、何?

 



 ぐるぐると混乱する頭はまともに働かず、私はとりあえず現実逃避のために気絶した。






 再び目が覚めた時、優奈は豪奢なベッドの上にいた。

 黒を貴重とした天蓋に、紗幕、布団は所々に金銀で飾りが施されている。明らかに上質な手触りのシーツは今までに触れかことのないものだ。

 これが自分のベットでないことは明白だ。


 何があったのか、と思い返せば思い当たる節があった。



 あの時、私は買い物に出かけるつもりで家を出た。そして少し離れたところに借りている駐車場に停めている車に向かって歩いていた時、いきなり後ろから何かに引っ張られたのだ。そのまま意識は暗転。目覚めたらさっきの状態だった。



(これはつまり、誘拐?! 27歳になって誘拐された?!)


 優奈は呆然と考える。

 誘拐説は正しい気がするが、正しくない気もする。

 そもそも優奈を誘拐しても得するものはいないはずだ。

 身代金要求するにも、実家は平々凡々。夫の稼ぎも並。

 身売りさせるにも優奈は美人ではない。平々凡々、並な容姿だ。

 ストーカー? これもあり得ない。優奈は基本引きこもり生活万歳な生活だ。必要最低限しか外に出ないのにストーカーのつき様もない。


 アレコレとうんうん考えていると突然声がかかった。

「お目覚めですかぁ?」

 可愛らしい子供のような声に目を開けると、至近距離に金髪美少女がいた。

「ぉわっ!」

 思わず声をあげてしまったが、向こうは気にしていないようだ。むしろ満足気?

 ニコニコ笑いながらふわっと浮いて(・・・)優奈から離れる。


(浮いてる・・・というか、羽が生えてる)


 優奈が呆然としていると背中に蝙蝠羽を生やした少女が声をかけてきた。

「お加減はいかがですかぁ?」

「え、あぁ、だいぶイイデス?」

 思わず疑問系になってしまうのは仕方のないことだろう。

 何せ、頭の調子が絶賛不良中、大混乱だ。


(何これ、夢じゃないよね? ほっぺを抓ってみればいいの?)


 むぎっと頬をつねってみるが覚める気配はない。


(・・・ダメだ。現実か? いや、リアルな夢ならば痛みくらい感じるはずだ)


 それでも感じるシーツの手触り、肌に感じる空気、目に映る見たこともない精緻な細工の天蓋はやけにリアルだ。


(いやいや、そんな夢もあるかもしれない。私ってば意外と想像力豊か・・・)


 優奈が必死に現実逃避素ていると、美少女の顔が再び間近に迫った。

「すみませぇん。何か混乱してるとこ悪いんですけど、お加減いいんでしたらもう一回魔王様に会ってもらえますかぁ?」

 そう言われて、カチンと優奈は固まった。


(魔王? 今この娘、魔王って言った?)


「あっれぇ・・・固まっちゃった。リリィ、メデューサじゃないんだけど?」

 どうやらこの美少女はリリィというようだ。

 見た目通りの可愛らしい名前だ。

 優奈は魔王という名詞を聞かなかったことにして、リリィの愛らしい仕草に目をやる。


(だいたい何、魔王って?! そんな聞くにも恐ろしいものに会うなんて・・・無理無理。聞かなかったことにしましょう)


 リリィはパタパタと羽を動かし、優奈から離れると小声でボソボソと何かつぶやいている。

 何か考え事でもしているのだろうか?

 人差し指を口元に当てている仕草などは特に可愛らしい。


(目の保養だ・・・)


 優奈がじっとリリィを見ていると、急に何かが覆いかぶさってきた。

 体に感じる重みはないに等しいが、身近に迫る影に目をまたたく。

「え、ちょっ・・・」

 一瞬反応が遅れたものの、身の危険を感じ優奈は手足をジタバタと動かした。

 だが、目の前の影には通用せず、あっさりと抑え込まれてしまった。

「大人しくしていろ。・・・まだ疲労が濃いか。もう少し治療してやる」

 低い男性の声で間近にそう言われ、優奈は再び固まった。


(何この声、反則でしょ?! 好みすぎる・・・)


 優奈がそう思っているうちに、影がぐっと迫り優奈の口に柔らかな感触が触れた。

 流石にこの感触が何かはすぐにわかった。

 腐っても結婚歴5年の女だ。これが何かくらいわかるか。


(・・・何で私、キスされてるの?!)


 優奈の心の叫びも虚しく、唇は貪られ、息苦しさから僅かに口を開いたところに舌が捻じ込まれてきた。


(や、やばい。意識が持ってかれる・・・)


 舌を絡め取ら丁寧にそれを愛撫され、吸い上げられる。飽きることを知らないように舌は口腔内を蹂躙し、上顎を擽り、歯列の後ろをなぞって、また舌を弄ぶ。

 抵抗しなければ、と思うのに優奈の身体からはだんだんと力が抜けていき、いつしかされるがままになってしまった。

「・・・っふぁ」

 唇が僅かに離れた隙に空気を求め吐息を漏らすが、すぐに塞がれ再び唇を貪られた。

 そうして漸く解放された頃には優奈の身体から力は抜け切ってしまい、自分でもわかるほどに熱を持っていた。

 チュッと態とらしく音を立てて唇を離した男は、優奈から離れて意地悪く笑った。

「どうだ? 気持ち良かっただろう? 最後まで、してやろうか?」

 優奈はカッと顔に血を登らせて力一杯叫んでやった。

「結構です!」



 優奈がそう叫ぶと男は何がおかしかったのか笑ながら体を起こしてベットに端に腰掛けた。

「もう起き上がれるだろう?」

 そう言って手を伸ばされ優奈は嫌そうに眉をしかめた。

 起き上がりたい気はあるが、この男の言いなりになるのも嫌だった。

 いくらイケメンとはいえ、乙女の(って年齢でもないし、乙女でもないが)唇は安くない。


(ごめんよ、旦那様! 不可抗力だったのだ。許してくれ!)


 そうこの男、かなりのイケメンで見た目はたぶん、20代前半。黒髪黒目、少し浅黒い肌に西洋ばりのくっきり濃い顔立ちをしている。


(無駄にいい顔しやがって、・・・むかつく)


 理不尽な怒りもあいまって優奈は男を睨みつけていた。

「ほぉ」

 何が面白かったのか男はまたもニヤニヤと笑い出した。

「そんな目をして、誘っているのか?」

 そう言って男は楽しそうに再び優奈の上に乗り上げてきた。

 逆に優奈はあからさまに怯え、首を思いっきり横に振った。

「誘ってない! 誘ってないから! 何をどうしたらそうなるの?!」

 優奈がそう言って完全拒否を示すと、男は再び体を起こして優奈から離れていった。

「なら、起き上がれ」

 それを見てホッと安堵の息を漏らすと、優奈は渋々ながらも言われたとおりに大人しく体を起こした。


「問題ないか、歩いてみろ」

 と言われ優奈はベットから足をそっと慎重に下ろす。

 ふかふかの絨毯に足が沈む。絨毯の毛並みが足をくすぐる事に若干の違和感(・・・)を感じたが、今日は調子がいいのだろうと、無視した。


(それにしても、随分といい絨毯ですね)


 内心嫌味な感想を漏らし、ゆっくりと立ち上がる。

 いつもと違い(・・・・・・)支えもなしに立ち上がることに不安を覚えたが、難なく立ち上がれた。


(あ、れ・・・?)


 よろけることを想定していた身としては驚きの状態だ。

 そのまま言われた通りに足を踏み出して数歩歩いてみた。

「・・・?!」

 声にならない驚きを隠しきれず、優奈は何度か足踏みした後に、飛び上がってみたり、屈伸運動をしてみたりする。

 そうして気が済むと、自分の足を見た。

 ついで手を見て何度かグッパッと握ったり開いたりする。


(違和感がない。・・・普通に動く!)


 優奈は1人諸手をあげて喜びを表現した。

 そこでようやく周りに目がいき、腹を抱えて笑っているリリィと、笑を堪えている男が目に入った。

 優奈は一気に顔を赤く染め、挙げていた両手をおろした。


「どうだ? 身体に不備はないか? 界渡りの負担を治したついでに他の不備も治しておいた。・・・いかがかな?」

 そう聞かれ、優奈は驚きと共に素直に礼を言った。


 2年前、いわゆる難病を発症して以来優奈の手足は思うように動かなくなっていた。全く歩けないわけではなかったし、動かせないわけでもなかった。だが、常人とは明らかに違っていた。

 常に痺れの残った状態の手足。温度感覚がおかしいため火傷に気づくのも遅れる。動かせなくはないが平衡感覚が失われがちな足はすぐにふらつき、寝起きは特にひどい。そして少し歩けばすぐに疲れが出てきてしまい、体全体が思うように動かせなくなった。

 何度も何度も、なぜ私がこんな病気に? どうして治らないの? と思った。

 それが、叶ったのだ。


(・・・つまり夢ってことか?)


 優奈は改めて現状を思い知った。

 2年間、優奈は自分のおかれた状況をしっかりと調べあげ、理解し把握してきた。それ故に、こうもあっさりと治るような病気でないことを理解していた。

 優奈の病気は、現状人間が開発した医療でできる手段としては副作用の多い投薬をもって進行を遅らせる、急性増悪時には更に副作用の多い治療薬でもって抑え付ける、くらいしかないはずだ。海外では血液丸々交換って方法をしたりもしてるらしいが、それも効果があるとは言い難いらしい。

 つまり、そんな簡単に治るはずはない! という結論だ。


 混乱から立ち直った優奈の目の前にはいつの間にか男が立っていた。

 少し不機嫌そうに眉を寄せているのは何故だろう?


「随分と色々考え込んでいるようだが、・・・とりあえず言っておくぞ? ここはお前のいた世界ではない。そしてお前の身体の不備はこの俺、魔族の王であるラディアスが治した。疑うな」


 魔王サマの声を聞き終わると優奈は再びフリーズした。



 今、この男は何か言っていなかったか?


 それ、どういう意味だ?


 とりあえず、どうしたらいい?



 そうして優奈が固まっている事をよそに、魔王サマはリリィにあれこれ指示を出して部屋をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ