第七話 御屋敷襲撃
夜の京都は華やかに彩られ、日本内外から多くの客が入る。
そんな夜の京の都を見渡せる高台にある大きな屋敷が一つ。
木下の屋敷にはその手の黒服が警備を行って居る中、茂みや隠れられる場所には新型の光学迷彩を付けた傭兵が待機している。
そんな厳重な警備をする屋敷の離れにある茶室に灯りが灯っていた。
茶室の中に二人、茶を点てる老人と着物を羽織る香奈多である。
茶筅が陶器の茶碗を擦る音と抹茶の泡立つ音が響く中、香奈多は静かにそれを見続ける。
老人は混ざった抹茶を厚紙の上に乗せ、茶菓子の練り切りと共に香奈多の前に置かれた。
香奈多はそれを一瞥し、茶碗の底を左手に右手を側面に持ち、三回右手で回してから、静かに茶碗に口を付け、流し込むように飲み込んだ。
「…結構なお手前で…」
そんな一言を告げると、老人は独特の笑い声を発する。
「コッカカカ、何時にも増して綺麗な作法じゃのう、香奈多や…」
「…この葉は静岡産ですね?若干ながら渋みが強く感じます」
「コッカカカ…それだけで良く良く…。今年は異常気象でのう、なるべくは近い物を選んだが…」
「いいえ、茶菓子と頂くならば…これぐらいが宜しいと思います…」
「やはり、香奈多は優しいのう…」
その姿はまさしく好好爺であったが、依然と香奈多の顔に変わりない。
其れもそのはず、この老人こそが木下グループの総帥であり、沙耶を攫うキッカケの人物、「木下臓猿」本人である。
端から見れば、孫娘に尽くすご老人にしか見えないが、中身は目的の為なら血縁者も生贄にし、人の不幸を舐めとって悦に浸る妖怪だと考えられる。
香奈多は外側は気丈に示しているものの、心の中では、恐ろしさを感じ取ってしまい、今にも崩れそうに感じていた。
だが、二つの事柄のおかげか、今尚強固な体勢を保てた。
「…御爺様、明日の花見までに…」
「知っておるぞ…大事な想い人と今生の別れ…儂は無粋な事はせん…香奈多の想うままに会って来るが良い」
「寛大なお心…本当に有り難き幸せです…」
「良きかな良きかな…未練を残すことはせぬように…」
臓猿はまるで嫁を送る親のように言葉を並べ、話す。
自身の命が後僅かだと感じ得るも、スッと雪のごとく溶けて消えていく、気がした。
そんな茶室から少し離れて、木下の屋敷にある料亭。
そこに一人の男が酒の席にいた。
男からは、堅気の人間には無い空気を漂わせているが、威圧感が有るわけでもなく、只その場を己なりに楽しんでいるようにも見えている。
男は芸者から御酌された酒を一瞥し、それを口から喉に流し込む。
二人の芸者から慎ましげに拍手されながら「良い飲みっぷりやす~」と褒められた。
「いや~そんな飲みっぷりの良さには感服ですな~」
「いえいえ。私はこれでも下戸でしてね…こうやって一気に煽らないと喉にも通らないのでね」
「いやはや。まさかあの"松永久秀"殿がそんな所が御有りとは…知りはしませんでした~」
松永と呼ばれた男の前には、あの石田成三が座っている。
「そういえば、明日は我が木下グループ主催で行う醍醐の花見がありますが…宜しければご参加出来ますか?」
「大変ありがたいと思っていますが…丁度明日は予定があり、今日の最終で帰らなければならないのです…」
「それは残念です…、それではまた来年にでも…」
「考えておきましょう…」
松永はそう答え、注がれた酒を仰ぐ。
それからと言うもの、表には出さないが、すっかり出来上がった松永は門前に止まっているハイヤーの後部ドアに乗り込んでいた。
「それでは松永様、またのご来店をお待ちしております」
「ふっふふ、当分忙しくなったので忘れた頃かもしれないでしょう」
「これでもお客様のお顔とお名前は覚えるのが本分ですので、一年以内ならば大丈夫ですよ」
「ならば、楽しみにしてます」
そう言い、バタンとドアの閉まる音がしてからすぐに走り去っていった。
成三はその光景を見てから、踵を返して屋敷に戻っていく。
ハイヤーの中で、松永は目を閉じて考えながら、ポツポツ呟く。
「…ミナトくん」
「…何でしょうか?」
「…今、あの屋敷で爆発が起きたとしても…平常通りで予定を進めてくれたまえ…」
運転手であるミナトと言う女性に語る。
何か含みを込めた言い方に若干疑問を覚えるものの、松永のよく分からない発言は毎度の事と分かりきって居たため、ミナトはあまり気にせず、運転に集中する。
その数分後、発破工事のような炸裂音が二度聞こえ、額から冷や汗が一筋垂れる事になるが、「自分は関係ない…自分の仕事では無い」とお祈りのように呟いて、通常業務を行う。
今日の営業が終了し、閉じた木製の門は、爆発が起き、巨大な穴を作り出す。
一つの影は手にしているG36KとガリルMARに取り付けられたH&K社のグレネードランチャー、AG36のバレルを横にずらし、空薬莢を取って新しいグレネード弾を装填する。
影の正体である真之介は、普段装着するフルフェイスヘルメットを着けず、顔をむき出しのまま辺りを見回し、索敵を行う。
ゆっくりと敷地内に足を踏み入れ、歩いて行くと、斜め横と前方から大量の銃撃音とマズルフラッシュが雷の如く真之介を襲いかかった。
「…やはり来ましたか…」
縁側の廊下で困り気味に呟く成三と、臨戦態勢の島左近は立っていた。
「…どうしますか?」
「ふむ…一旦様子見です…蝦夷の古武術使いは予想外でした…」
「予想外?」
敷地内の巨大な庭の林を見ながら、成三のあまり調子の良くない姿を一瞥する。
かの石田三成には劣るかもしれないが、あの策略に自信のある成三があまり思わしくない気持ちであるのが不思議であった。
「…実は警察署で会った後に調べて見たら…どうやら沙耶姫様の父親でしたと…」
「…確か知っていたのでは?」
「…沙耶姫様に関しては才蔵が独自に動いていたので…。全く、香奈多様を連れてくる事にこれだけ余計なおまけが付いてくるとは…」
若干愚痴を零す成三。
つまり、香奈多と真之介の間については才蔵から入手したもので、その才蔵が二人の間に娘がいることを隠していた。
(沙耶が生まれる前に偽装事故をしたため、知る由もなかった)
才蔵からはとりあえず大事な人と聞いていただけで、もっと情報を聞き出さなかったのも、才蔵の信頼度が高かったが為の失敗である。
その結果、眠れる竜の耳元にシンバルを思いっきり叩きつけた様なもの。
成三のうっかりによっていらぬ被害を作ってしまった。
「…で、どうなさいますか?このまま傍観では明日の儀式に響きかねません」
「…左近…貴方が行ってあげなさい」
「…承知しました」
うっかり癖の主人の手助けをするのが、それを覚悟し、誓った家臣の役目。
そう思いながら、何時もより甲冑が重く感じ、のそのそと向かっていく。
7.62㎜弾頭が地面に着弾すると、土をえぐり、砂埃を撒き散らす。
世界的に有名な自動小銃のAK-47の現代式カスタムの集団掃射の前に生きているわけが無い。
そう確信していた傭兵達はにやけた顔で数歩近付いた瞬間。
ダッダダダダ!!
二つのマズルフラッシュと共に炸裂徹甲弾とAP弾が傭兵三人を貫き、物言わぬ死体となった。
それを見た傭兵達は顔を青ざめて、砂埃が晴れる光景を見た。
「…ガッデム…」
一人が不意にそんな事を漏らす。
あれだけ撃たれたはずの真之介には弾痕の一つおろか、GASの外装に傷すら着いていない。
G36KのイシュタルとガリルMARのサイクロプスの銃口からは硝煙が細く上に昇っているところから、つい先ほどの銃撃が其れだと再確認される。
これは悪い夢だと考えるが、それをすぐさま考え直される。
短い発砲音が聞こえると、隣にいた仲間が肩や心臓部分に命中し、命を散らしていった。
命のやりとりならば戦場で何回もあった。だが絶望的状況ではない。
ましてたった一人に百人単位で戦うことであった為、覚悟なんてものは微塵もなかった。
気が付けば、"其れ"に対して新兵のように弾をまき散らしていた。
仲間に当たろうとも、最早照準など定まっていなくても、滅ぼそうとしていた。
そしてその傭兵の顎に掌底が決まり、あえなく死んでいった。
『九頭竜の使い手は人間とは思わないことです』
「…人間と思うなと…」
主人から言われた警告に疑問が浮かぶ。
警察署での手際の良さは驚きを隠せなかったものの、所詮痛みを無くしたチーマー程度ならば自分もあれだけの事は出来る。
しかし今回は戦場を渡る傭兵。
出所や前評判を見る辺り、これと言って良い部分が無く、私兵部隊を消耗したくない成三が格安で手に入るPMCとして雇ったのだ。
そいつ等には一応イクシオンを打たせ、強靭にさせた為、殺せはしないが、行って全滅とは無いだろう。
そう高をくくったものの、不安が無いのかと言えばそうではない。
むしろ不安が汗と共に吹き出している。
自分の汗腺から不安と言う名の汗が結構な量で垂れている気がする。
理由とすれば、あの成三が幾つか言った話である。
『九頭竜は、仙人を倒すために生まれた仙術であると同時に、異界生物と立ち向かうためにも考案された…』
そのため、電圧を叩きつける拳術や両足で相手の首を地面に倒す技もある。
人間よりも神話生物を倒すことに着眼点としている。
そう考えるならば、誤って呼び出した異界の生物達が敢え無く亡くなったのも頷ける。
(実際は並みの防弾を貫く弾頭のサブマシンガンでメッタ撃ち)
そんな事を思っているのと同時刻。
支給品のUSSR PKカスタムを撃ち尽くし、新しい箱型弾倉からベルトに繋がれた弾丸を取り付けようとしたが、サイクロプスの炸裂徹甲弾が額を貫き、絶命させる。
『九頭竜は索敵、方向感知に優れ、触っただけで電気のプラスとマイナスを察知する…其れを応用出来れば、闇の中の敵を見つけることが出来るだろう』
イクシオンによる痛覚麻痺や筋力増加をへし折るかのように脅威的な二つの異なる弾丸が傭兵達の身体を引き裂き、物言わぬ死体となる。
『彼の動体視力がどんな物かは知らないが…撃たれた弾丸見えるんじゃないかな~』
亜音速の弾丸の雨が降り注ぐが、軽く身体を動かしたり、数歩ステップを決め、余裕綽々でくぐり抜けて行く。
そして反撃と言わんばかりにイシュタル、サイクロプスの掃射に近い銃撃で蹴散らした。
まだ反撃を終わらせるつもりが無いのか、イシュタル、サイクロプスを背中に掛け、何処からともなくM24柄付手榴弾のような柄付き手榴弾を両手の指の間に挟んで八個程持ってから、ピンを抜き、投げ放つ。
次の瞬間、柄の底部からロケット花火のように火が飛び出し、上に飛んでから、下に急降下。
辺り一面に絨毯爆撃に近い炸裂が響いた。
辺りの光景は、まるでベトコンを刈り取る爆撃機が通り過ぎたように感じる。
左近は呆れ果てた。
杉や楢の木が銃弾数発が横に当たり、薙ぎ倒されたり、パチパチと音を立てて松ノ木や観賞用の植物が火に炙られていたり、地面が大きく抉れていたり、誰の物か分からないほど荒らされた遺体など、ミッドウェー海戦顔負けの凄惨さであった。
まさか此処までとは思っておらず、主人の警告を改めて考え直し、槍を構えた。
「…我が名は島左近…貴殿がナインヘッドドラゴン…九頭竜の使い手か?」
「…ああ、あんたこそ。あの時動かなかった奴だな。正直寝てたんじゃねぇか?」
「ふっふふ、動くときのタイミングを計っていただけだ」
(マジで眠くて寝息たててたかもしれんがな…)
若干空気が軽かったり重かったりする中、左近は槍を前に突き出し、真之介はイシュタル、サイクロプスを構え、銃口を向ける。
「…こい!この島左近の剛槍を受けてみよ!」
先に繰り出したのは左近。鬼を思わせる巨体の持ち主とは思えない踏み込みによる初速は、40㎡ほど離れた真之介を一気に詰め寄り、剛槍が横に薙払った。
しかし槍の切っ先に首をはねた感覚が覚えず、改めて見直すと、その場から消え去っていた。
驚きを隠せない左近はおもむろに上を見上げると、GASの足の裏が見え、視界を黒く染め上げた。
絵面的には五角の星かダチョウ大の黄色い鳥が頭上で円を書いて飛んでいるであろう。
甲冑に着ける顔当てが無ければ顔面陥没して、一生SANチェックされるような醜くなった三男みたいになっていたろう…。
絶賛気絶中の左近を尻目に屋敷に向かった。
「おやおや、意外と早くにいらっしゃいましたな~」
遠目で眺め、一言。
尋常ではない速力で、駆ける姿を確認すると、服の裾から二つの鉄扇を取り出す。
「さてさて、最近戦闘は左近に任せっきりでしたので…」
金属同士のこすれる音が響き、勢いよく開かれることによって、更に音を鳴らす。
「ちょっくら頑張らせて貰います」
真之介は成三を確認した瞬間、サイクロプスの銃口を定め、弾倉の弾が切れるまで撃ち放つ。
弾丸は空を螺旋状に切り、突き進んで行き、成三を破壊しようとする。
それに何の気もなしに両手の鉄扇で、全ての弾丸を弾き落とした。
対化物用に開発された炸裂徹甲弾は並みの装甲車を貫く程の威力を誇り、只の鉄扇ならばボロボロに使い物にならない。
しかし傷付いた様子もなく、光り輝く銀色の表面のままであった。
「……」
その場に立ち止まり、銃での戦闘が不利だと感じ取り、イシュタルとサイクロプスを背中に取り付ける。
徒手空拳を選んだ様子に、満足げに微笑む成三は何度か鉄扇を開閉を繰り返し、それを見通す。
「………っは!!」
強力な踏み込みを行い、一瞬にして視界から消え去る。
まばたきする間も無く、成三の左側面に到達し、掌底を喰らわせようとする。
これは九頭竜の基本の一つ「九頭・右竜翔扇」で、相手を空中に飛ばして身動きを取れないようにする技である。
其処から様々な技を派生させて繋げるコンボの一つだが、それを鉄扇で流すように弾き、右手の鉄扇を開いた状態で勢い良く突き出す。
今までの死線からの経験が高速で全身に響き渡り、真之介はそれを左アッパーカットで鉄扇の腹部分を叩き込み、無理矢理攻撃を逸らした。
双方の攻撃が外れた瞬間、二人は追うことが出来ない速度で外れ、再び間合いを取って構えた。
両方共に無言のまま頬や額に汗をかき、それを静かに垂れ落ちる。
再び鉄扇を閉じ、前に突き出す。
それを応じるかのように、更に構えを強く力を入れる。
捕食者同士の睨み合いの如く、十も経つ事無く、それは切って落とされた。
鉄扇の連撃と九頭竜の返しと交互に当ては受け流し、当たったと思えば防御され、両手拳と鉄扇から熱が帯び、火花が飛び散るまで白熱していた。
「オラオラオラオラオラ!!」
更に拳速を上げる。
「フッハハハハハ!!無駄です!!」
鉄扇の受け流しと鉄壁な防御でそれに立ち向かう。
お互いの武装が摩擦による熱で段々赤く熱せられていく中、成三から真之介に問いかけた。
「貴方はどちらを選ばれるのですか?」
「…どう言うことだ!!」
拳の攻撃を止め、右足を上げて強力な蹴りの連撃を放つ。
「娘さんについては我々の手違いです。まあ連れてきてくれたので結果オーライなのですが」
「何が結果オーライだ!!」
蹴りの連撃ガードしているが、拳の数倍もの威力を誇る脚力に若干押され気味になる。
「娘さんは…貴方にお返ししましょう。目的は完遂しましたゆえ」
「んだと!?」
「貴方は父親。あの娘と血の繋がった家族であれば尚更ですが…。只、香奈多様の話は別です」
成三は蹴りを避け、間合いを取る。
それを追撃せず、構えを解かずにその話を聞き入れる。
「貴方と香奈多様は御結婚も成されておらず、嫁いでも居ません。つまりは我が木下の一族として掟に従うのは道理であり、筋の通った話では?」
「ざけんじゃねぇ!てめぇらキーちゃんを生贄に使いたいだけじゃ「その通り」…ッ…」
「彼女はそれを望みました。我々はそれを尊重し、人として最後の時間を過ごして貰っています」
「むしろ、貴方がおかしいのです。お家騒動に余所者がしゃしゃり出るのは貴方の趣味ですか?」
「………」
成三の正論に、何も言うことは出来ない。続けて話をする。
「ならばお下がりなさい。此処の修理費やその他諸々は貴方の実力に免じて…」
「一つ聞かせろ」
「…ハァ…何でしょうか?」
若干ため息を漏らしながら、真之介の話を聞くことにする。
「…信長復活ってのはどう言うことだ?」
「おやおや、其処まで気が付いて…」
「それがあるんだったら話は違ってくるな…」
そう言って、構えを解くと、腰元のホルスターからカラドボルグを抜き、銃口を向ける。
装填されているのは黒い弾頭の.454Casull弾。
いくら化け物じみている鉄扇捌きとは言え、かの大妖怪ですら消滅させた人外用であれば、只では済まされない。
それこそ「再生者」や「不死の王」でない限り。
流石にそれに焦りを感じ取ると、額から冷や汗をかきながらどうするべきか考える。
「いやはや~」
仕方が無く一言、時間稼ぎをする。
「いやいや~まるで我々が信長復活をしようとしてるみたいじゃないですか~。ひどいな~ただのジョークなのに~」
最早冷め切った感がある最中、もう片方からイシュタルを取り出し、足下を撃った。
「アッヒィィィィ!」
それをフィクションによくあるステップ避けで、足をバタつかせて回避。
弾が切れるまで撃ち続け、弾を送り出す空撃ち音が響くと、残念そうに渋々とイシュタルをしまい始める。
成三は鉄扇を開いて扇ぎ、顔中から流れる脂汗を乾燥させる。
そんな姿を一瞥し、引き金に掛ける指を少しずつ強くしていく。
「…いやいや。もう少し話し合いましょう!そうすればきっと分かり合えます!」
「…もう分かり切ってる」
引き金と共に、撃鉄が引かれ、薬莢の其処を叩かんとした瞬間。
一発の銃声が響き、真之介に違和感を覚えさせる。
喉から溢れ出るような感覚がよぎり、脇腹辺りから強烈な痛みが走った。
ふと、引き金から外し、痛む部分を一瞥すると…。
エクスカリバーの装甲を破り、直径3~4㎝程の抉れた穴が出来ており、其処から赤とオイルの黄色っぽい色の混合液が見えた。
そうして、二三歩おぼつかない足取りをして…うつ伏せに倒れ込んだ。
(…バカだな…スナイパーなんて居るに決まってるのに…闘牛みたいに突撃してたらヘッドショットして下さいって言ってる物じゃん…イッッ…)
脇腹を押さえて出血を止めようとする最中もう一発、肝臓のした辺りを貫いた。
閉じていた口が開き、拳一つ分の血の塊が吐き出され、地面を赤く染める。
強烈な痛みと出血による貧血症状の中、様々な考えが浮かび上がる。
そんな中、成三は笑みを浮かべて答える。
「名誉の為に一言…もし貴方がこのままその弾丸を撃ち放っていましたら…死んでいましたよ?」
そう言うと、拳銃のトカレフを取り出し、真之介に握らせて撃つように仕向ける。
意識が朦朧しかける最中、二発の弾丸が放たれ、成三の顔面に当たる所だった。
何かに弾かれた音が響き、弾丸はコロコロと綺麗に縦に潰れた物が転がり、真之介の目線前に辿り着く。
「これは絶対防御陣と言いまして…タイミングよくガードをすれば特殊なゲージが溜まり、貴方の撃とうとした弾丸ごと貴方に今までの攻撃の威力が返ると言うものです」
「もし私の口車に乗っていたら…この庭は消し飛んでいる事でしょう」
(…其れおろか比叡山の山頂丸々無くなっちまうかも…)
「少し止め方に難がありますが…香奈多様に感謝すべきですね…」
(…っ!?)
彼女の名前が出ると、身体が強張る。
成三は、鉄扇で扇ぎ、事の顛末を話し始める。
「恐らく…御館様が仕向けたのでしょう…『主の覚悟を見せてみよ…』とか?」
「カッカッカ…成三よ、相変わらず儂の声真似は得意よのう…」
成三が御館様と言う人間の真似をしていたとき突然、その横に杖を突いた小柄の老人が現れる。
「おやおや、臓猿様…。いつの間に」
「カッカッカ…儂の蟲毒で呼んだ蟲を主の後ろに付かせてのう…ちょっくら見物させて貰ってた所じゃて…」
「ハァ…趣味の悪さには私は同意も共感もありません…」
「カッカッカ…理解出来ぬならそれでいいじゃて」
独特な笑いをしながら、あまりよろしくない趣味に凝る姿に「あれは頂けない」と首を横に振って示す。
自分の主義では無いのか、嫌気を分からない程度に醸し出している。
ふと、臓猿は何か良い考えが思いついたのか、真之介に近づき、顎を掴んで自身の瞳と合わせる。
「…成三や…この男が気に入った…儂直々に育て上げようではないか…」
「臓猿様。それはちょっと…」
「何かのう…」
臓猿は成三の制止に納得のいかない気持ちを露わにするが、成三はそれに納得のいくよう、答え始めた。
「この者はミュージアムのハイキュレーター。下手に手出しすれば後々厄介です。第一それを行えば香奈多様との関係は砂上の楼閣。荒立てるのは良くないです」
「ふむ…蝦夷の古武術使いを手元に置きたかったのだが…まあ仕方がない。それに迎えも来ているみたいじゃな」
何かを悟った臓猿は一機のヘリが此方に向かっている事を見つける。
「して…、どうするかな?」
「…ちょっとお話するだけで終わります」
彼等はヘリから降り立つ黒ずくめの特殊部隊と共に、完全武装の瓜生が来るのを待つことにした。
龍宮・香奈多(母親姓)
CV 高垣彩陽
木下家直系の娘であり、沙耶の母親。
真之介からキーちゃんと呼ばれた人でありこの小説プロローグで大暴れしてた女の子でもある。
実はスナイパーの素質があり、約三キロの投げられた一セントコインのど真ん中を二発当てた程。
大概はチェイ・タック M200やM82A1などの長距離対物ライフルを使用する。
乗り物は試作機のF-35Bとハンヴィー(M2キャリバー重機関銃とMk.19グレネード機関銃搭載)
ちなみに弟分がいるものの、海外にでており、作者も登場させる機会を完全に見失ってしまった。
木下・臓猿
CV 津嘉山正種
木下家の家長であり、一族の長。
同時に木下グループの会長であるが、公では成三が出ており、表舞台には上がらない。
表面上では好好爺を装っているが、中身は吐き気を催す狂気の魔翁。
中の人と同じように異界の蟲や生物を操るネクロマンサーだと言われる反面、驚異的な説得力で一つの宗教を作り上げたカリスマ性の持ち主。
二話目の牧野がやっていた儀式も臓猿の教えであった。
真之介をいたく気に入った模様。