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Bullet Returner~遺産回収部隊~  作者: ライオット
第一章 京乱戯画
6/35

第五話 忍び行く影


午前三時…京都烏丸通り



一人の男が長屋家屋の屋根に立つ。


頭には目まで覆う兜、手甲や服装は戦国時代の忍そのものだが、履き物は軍人が使うミリタリーブーツといった機能性を重視した格好をしている。


男は遠くを見据えながら、忍ぶ何かを察知し、右手から取り出した五寸釘位の得物を投げ込む。


それらは額や目玉を貫き、奥底まで沈み込ませ、殺害する。


「………」


しかし、何かがおかしい。


そう睨んだ瞬間、クナイや短めの矢が射られる。

男はすぐさま回避、反撃に何処から兎も角指の間に手裏剣を差し込み、勢い良く投げ込んだ。


「………」


しかし、一つ間隔を開けた後、再び降り注ぐ。


男は瞬時に察する。相手は人間では無いと。


前を見据えると、長刀を構える侍のような者達が現れる。

腰にはMP5KやMP5K-PDWを鞘と同じ位置に所持していた。


「………」


意を決し、背中からは短めの忍者刀を二本抜き、ホルスターからZ-Mウェポンズ ストライクガンを二挺、刀と一緒に握りしめる。


侍達は無言で刀を振り上げ、袈裟斬りを仕掛けた。



「………ガハッ…」


下水の詰まるような音が口元から響くと、倒れ始めた。


「……貴様…風魔の出か…」


「だとすれば?」


「…八代目…五代目風魔小太郎の再来…か…ならば我等ではかなわぬな」


「貴方達は自分の役割ロールを演じきった…それは誇るべきだ」


「…ふっ、まだ二十歳も経っていない若造に説法を説かれるとは…時代も…変わったな……」


寂しさを含めた笑みを浮かべ、侍はその身から命を無くしていった。

彼、風魔小太郎は円になろうとする月を見据え、身体を黒い風となって消え去った。


周りに残るのは、黒い鴉の羽のみ。





大阪府警の管轄である南警察署の取調室。


ソースとマヨネーズが焼ける香りが漂い、食欲をそそる。

高火力鉄板の上にキャベツを筆頭に小麦粉を山芋と水で溶いた生地に厚切り豚バラと目玉焼き、天かすを盛り上げた豚玉お好み焼きが焼かれていた。


それを食するのは真之介。取り調べをしていた刑事も、調書を書く巡査も、何故か舌づつみしている。


「お次は何焼く?」


「チヂミが良いです!キムチとイカ、後ニラをいっぱいに!」


真之介は巡査のリクエストを聞くと持ち運び用のまな板と鉄線すら切れるサバイバルナイフでニラやキムチを切り始める。


「チヂミダレ作りますか?」


「お願い」


巡査もノリノリで醤油やら酢やら蜂蜜を混ぜてタレを作り始めた。


ふと刑事は思う…。


「…俺達は何やってたっけ?」


思い出せば、真之介が有ったことを話し、信じられなかった。

その時、巡査が「お好み焼き食いてぇ…」と言い出すと、隣で取り調べをしていた瓜生が段ボールを置いて隣に戻っていった。

中を覗くと、ギルガメッシュ・インダストリー製高火力ホットプレート(最大三百度)と返しへら、竹箸、お好み焼きの材料が詰まっていた。


時間は午前三時。夕食を抜いていた男三人は換気扇全開で事を行う。


幾つかお隣にお裾分けをした後、満足げな巡査を尻目に机に突っ伏してうなだれる刑事だった。


「…何やってんの…俺」


「まあまあ、そんな落ち込むなよ」


「原因が普通に慰めんな、ボケェ」


「美味かっただろ?妹には勝てないけど」


「…ああ、大満足だ…それが更に悲しいんだよ」


ほとほと呆れかえる。


仕方が無く、後片付けをしながら事件の調書を取る事を決め、科捜研に行った上司をどう文句を言うか考え込んだ。





科捜研…、アメリカではCSIと呼ばれる科学面での捜査研究所。


被害者に付着した毛髪や衣類の繊維で身元を判明させることも、どんな状況で殺されたかも調べ上げられる技術を持つ、警察の最新捜査の最前線である。


そんな科捜研に奇妙な物を運び込まれる。



千里は相変わらずの隈を作った顔でチュッパチャプスをくわえて待っていた。


大阪本部内にある解剖室前。


被害者の遺体に残された証拠を手に入れる場所であり、その後遺体を綺麗に整える場所でもある。

待ってから三十分。解剖中のランプが消えた事が分かると、手慣れたように手術着と使い捨てゴム手袋を着けて中に入る。


其処には四人、執刀医と助手、写真係と調書製作の構成となっており、千里は執刀医に口を開いた。


「…で、ご感想は?」


何やら皮肉めいた物言いに、肩をすくめて答え始める。


「…とても…興味深い」


只、あまり好ましくない表情をする。


「まず…我々の理論上で、人間がこの羽で飛ぶことは不可能だと思う」


「それで飛んできたんだ。飛べないなんて有り得ない」


「其処なんだよ」


口元のマスクを外し、執刀医である男性は用意された椅子に座る。


「…体重、身長…どれを取っても飛べるとは思えない…ただこれだけの羽があるなら…飛べないことの方がおかしく見える…」

「教授、貴方から聞いたことあるけど…確か熊蜂は理論上飛べないって言ってたよね?」


「ああ…、何故飛べるのか…未だ分かっていない。ただもしかして"魔術"の類では無かろうか?」


用意された水を一気に口に流し込み、呼吸を整える。


「魔術?」


「熊蜂は置いておく。これらは例のバロックレポートによる変態だとしよう。その物は魔導書の類ならば変化の際に魔法も使えるようになったのかもしれない」


「…そんな事有り得ないでしょ?」


「だが、この世界はどうかな?超古代文明や数千年も続く魔術師と呼ばれる集団。最近じゃあ、ルルイエ浮上説なんて物も説かれている時代だ…」


監察医の言葉にごくりとつばを飲み込む。考えて見れば、一度妖怪の類と闘ったこともあれば、真之介が尋常ではない技を見せた時なんて、想像絶するものだ。


今更有り得ないと言えるのか?今まで会ってきた異変を馬鹿馬鹿しいと思えるか?


答えは否、最早只一人の人間が知ることを越えていたのだった。


「…はぁ…どうしろって言うのさ…」


「すまないが、まだあるんだよ」


「えぇ…」


嫌だと考えるものの、現場にいた刑事なので見聞せねばならない。

悲しきかなそれがお勤めなのだ。


「君って、脳みそ見たことある?」


「人体模型程度なら」


「それではご開帳」


遺体の頭蓋骨上部を重箱のふたを開けるようにすると、黄色みがかった皺のある大脳が見えた。


「…うわ…」


ネットリとナメクジの粘液みたいな保護膜が垂れる所、なまじ現場慣れした千里はじっくりと見てしまう。


「見てほしい、この部分を」


「何それ…ウプッ…」


「此処は脳幹と言って、脊椎から脳全体を繋ぐ場所だ。例えるなら中継点だね」


後頭部に繋がるケーブルの様な物をピンセットで差しながら、解説してゆく。


「それは分かったけど…本題は?」


「…実はね…この脳幹に結構スペースが空くのだよ」


「スペース?つまり隙間?」


「ああ、しかもこれらの遺体は成人男性とさほど変わりないのに、脳全体をどんなに見ても小さいんだ」


「…小さい…つまり、ただ身体が大きいだけじゃ?」


「それだけなら…だがこの大きさは異常だ。部分的に見ても、あるべきはずの器官が何処にも見当たらない」


次々脳を部分別に分けてバットの上に乗せていく。医学的知識を持ち合わせていない千里にとってはピンと来ないものの、監察医の言葉には大分説得される。


「…なら、そのスペースに何か詰まってたとか?寄生虫みたいなのとか…」


「はっはは…ありそうで怖いな…」


なまじ冗談に聞こえない事に、背筋から悪寒を感じ取った気がする。






深夜四時、


ほとんどの警官は家に帰らず、行方不明者の捜索で慌ただしい中、待合所で瓜生、真之介の両名は千里の帰りを待っていた。


「……」パチッ


「瓜生、それ二歩」


「…あっ」


将棋で。


現在十戦中九勝零敗一分という瓜生の惨敗記録が更新されて行く。


「この間はモノポリーで負けたよな…」


「ついさっきの人生ゲームも」


「将棋やる前はたしか…こいこいか」


「まさか亥の鹿蝶が取れると思ったら、青短四枚なんて…」


「だからこいこいは難しい」


パチッと駒と板の弾く音が聞こえると、瓜生は引きつった笑いで。


「参りました」


十一戦中、十勝零敗一分となった。





警察署向かいにあるコンビニ「ファミマ(マフィアの方のファミリー)」で売られているホット点心(ゴマ団子、蒸し餃子、焼売、トンポーロウ)を買い、瓜生は自動ドアを抜け、店内の暖房で温められた身体に冷たい突風が吹き荒れ、不意に今年の異常気象を考える。


「…寒暖の差が激しいと言っても、外気温が十度以下は流石に…」


あまり寒いのが苦手な東南アジア生まれの瓜生にとって、ダッフルコートは手放せないアイテムである。


五月のゴールデンウイークになっても初冬と変わらぬ気候により、春に採れる野菜や果実類が育たず、品薄状態となっているらしい。

近年、地球温暖化とは言われているものの、赤道直下型気候では無く、カナダや北アメリカ系の寒冷地化が進んでいる所から見るに、南極や北極の氷が溶けて塩分が薄まり、世界の氷河期になるのではないか!?と脅されている。


寒がりの瓜生にとって死活問題ではあるが、その分暖房器具が出来るので、本人は気にしていないのだろう。

そんな、異常気象を考えながらゆったりとした足取りで歩いていく。


警察署のガラスドアを開けて入り、待っていた真之介に点心の入った紙袋を渡す。


「サンキュー」


「罰ゲームなので」


「だったらもっと強くなってろよ…」


「はぁ、そうします」


出来レースの気分に包まれながらも、パックの蓋を開け、中のトンポーロウを箸で千切り、口に入れて咀嚼する。


八角の独特な香りに、程良く抜けた脂分は脂身をさっぱり食べさせると共に、醤油と砂糖の甘辛い濃厚なコクを生み出し、非常に美味である。

添え付けの花巻(アンの入っていない蒸しパン)の上に乗せて食べれば更に輪郭を見せる。

まるで本格中華料理を食べているようだった。


「コンビニフードもレベルたけぇな」


「ええ」


ゴマ団子の香ばしさを楽しみながら同意する。

先程までお好み焼きを食べていたとは思えないほどの食べぶりは、他者から見れば大食い選手か何かと勘違いされそうである。


ふと焼売に手をつけようとしたとき、何か異変に気づく。


「…瓜生」


「どうしましたか?」


何かイヤな予感を察知すると、用意していたケースを手元に寄せ、いつでも出せるようにする。


「今、エクスカリバーは?」


「用意した車の中です」


「…まあ、このカーボンナノチューブ製の防弾ジャケットでも何とかなると…思う」


玄関を見据え、何かに警戒する姿に瓜生は同様のケースを同じように寄せる。



警察署の自動ドアが開かれ、現れたのは…。


俗にチーマーと言われるダボダボのズボンにフード付きの服を着た未成年者らしき男が四人と其方系の刺繍入りネクタイをしたスーツの男。

そして中でも異様なのが、戦国辺りの甲冑を身に纏った巨漢が赤い穂先の大槍を携えていた。


チーマーの一人がガムを噛みながら、ポケットから何かを取り出すと、他の三人も同じものを取り出し、注射器状の付いた針を首の動脈に刺し、中の液体を注入した。


チーマー達は笑いながら、背負うリュックの中身を出した。

それを見た真之介は思わず呟いた。


「…おいおい…」


出されたのはM4A1、カスタムキットを搭載できるSOPMODタイプであった。

それは軍の官給品と一線を成す高級品で主にPMCが使う物。


いくら昔よりも銃規制が緩くなったとはいえ、アサルトライフルは一般人が使うものではない。


M4A1を出したチーマー達は再度リュックから五十連弾倉、レーザーサイト、フォアグリップを手にし、取り付けた後。


「…やっちまって良いッスか?」


銃口を前に向け、チーマーの一人がスーツの伊達男に問いかけた。

伊達男もニヤリと口端を吊り上げ。


「…ああ、たまには…発散しないとな?」


言葉を発した。


次の瞬間、目の前にある極上肉を喰らうハイエナの如く、獲物に向け牙と言うべきアサルトライフルをフルオートで撃ち放った。


瓜生と真之介はそれぞれ、とっさに受付と頑丈そうな長椅子に隠れた。


5.56㎜NATOライフル弾による銃撃は、近くにいる警官や清掃員を容赦なく貫き、重度の銃創を作り出してゆく。


真之介はカウンターアタックをすべく、ケースからガリルMAR、M1911A1スネークマッチを取り、ブラインドショット(遮蔽撃ち)を行った。


「チィ!彼処の野郎チャカ持ってやがる!撃ちまくれ!!」


其れに応じたチーマー達は目標を真之介のいる受付を撃ち始める。


ライフル弾が受付のコンクリートを徐々に砕いていき、粉塵を飛ばす中、ガリルの弾倉を変えながらスマホを取り出し、瓜生に掛け始めた。

着信音が鳴ってすぐ、繋がると前置きもなく。


『其方は大変そうで…』


「ああ、持たんかも…」


『それでは、どうなさいますか?』


何をするか問いかけ始める。


真之介は、迅速に事態を解決しなければこの警察署がターミネーターよろしく皆殺しとなりかねない。

幾つか此方の弾が当たった気がするものの、あの打っていた何かが原因なのか、痛みを感じず、ラリったような顔のままだ。


「相手は、何かドラッグを打ち込んだ可能性がある。瓜生は撃たれた警官やらを引きずってでも安地(安全地帯の略、STG用語)につれてけ。後は残りの警官に拳銃持たせてバリケードを作っとけ。気休めだがSATが来るまでは持つ」


『了解、今組み立てが終わったので』


「…何組立してた?」


『ええ、私愛用のAR-25、バヨネット装備です』


「じゃあ、援護射撃しながら二人回収してくれ」


『了解』


カシャンとコッキングレバーを引く音が聞こえる。

真之介と瓜生はタイミングを合わせ、立ち上がり、チーマー達に反撃を行った。


7.62mm×51ライフル弾は確実に肩や脚を貫き、非殺傷を心掛けるものの、痛がるおろか銃創から流れ出す血を一瞥もせず、瓜生に向け、撃つ。


「くっ!」


普通ならば気絶していてもおかしくない。しかし狂った笑みを浮かべ、嬉々として殺しに来る姿は異常性を高めていた。


思わず舌打ちをする中、今の状況を打破する為、瓜生は重傷の二人を助け出す事に専念する。

コート内側のグレネードポーチからスモークグレネードを二つ、ピンを抜き、一つはチーマー達の目くらましに、もう一つは自分の行動察知を防ぐためばらまいた。


イカの墨吐きのように周りを黒い靄で覆われ、チーマー達も困惑するものの、伊達男は顎に手を当て、考え込む。


「…何やら手でも?まあいい」


思わず口から言葉をこぼす。


「あの優男はほっときましょう。我々はあの受付に逃げた青年が一番の目的です」


「しっ…しかし、いいんですか?」


チーマー達のリーダーが困惑した表情で語りかける。すると伊達男は不機嫌そうに顔を浮かべて口を開いた。


「君達のスポンサーは誰ですか?分かってなさそうなら…今月分のイクシオンは無かったことに」


「すっ…すいやせんでした!!」


リーダーは全力で頭を下げる。その姿に無表情で見下し、ため息を吐いて喋り出す。


「…今度私に頭の悪い会話をすれば、どうなるか…」


「…何でもします…だから…」


「なら、全力で戦ってください。でなければ死にますので」


「…はっ…はい!!」


再度M4A1を握り直し、煙が晴れるまで時を待つ。


伊達男は怪訝そうな顔で目を閉じると、立っている甲冑の侍が物静かに口を開く。


「あれは、負けますが…」


「其れについては構わない。一応イクシオンの注入はしてある。例え非殺傷で倒しても副作用の"心筋梗塞"で死ぬのがオチです」


「…つまり」


「宣戦布告…もしくは一度だけ見てみたいのです…」


「"九頭竜"…深海の大破壊竜の伝えし蝦夷の古武術を」





『回収完了しました』


「よ~し、そのまま彼方の警官達を歯止めさせてて~」


『了解、貴方は?』


「…一丁、ぶちかましてくる」


瓜生に向け、真之介は何かスイッチを入れた宣言をする。

ガリルMARとM1911A1を置き、ポケットから指第二関節まで露出したハンドグリップを着ける。

それはグリップの甲と第二関節表の部分に金属製のガードが付けられている。


それを皺無く嵌め、何度か握って確かめた後、立ち上がり、受付を飛び越えて前を見据える。


黒いスモークが晴れ、獲物を狩り取れると待ちに待ったチーマー達の姿はまさにハイエナそのもの。

若干引きながら、構えを作る。


それは中国武術の蟷螂拳に似ているが、手の形は手刀のようにピンと伸び、両足を地面に叩きつけるかの如くがっしりと付ける。

中国武術にある物全てを収束したような構えに、チーマー達は睨まれた蛙の様であった。


「…ち…ちくしょー!!」


一人が叫びながら、腰に付けていたグルカナイフ(ククリ)を引き抜き、真之介の頭部を狙って振り上げた。



「…あっ…あい?」


何がなんだか分からない。そんな顔をしながら反転する世界で。


堅い床を頭から激突し、あらぬ方に曲がった下半身をゴキリッと音を鳴らして逆海老反りに倒れたのだった。


リーダーは自分の見た光景が信じられない。

合気道に似た"流し"を行い、イクシオンによる肉体強化された腕っ節はグルカナイフを持った右腕の肘を外し、腰椎部分の腹を軸に、頭から落としたのだ。


口から泡を吐き、鼻から血を流している姿に助かる見込みが無いと感じられる。


訳も分からなかった。


全員(伊達男、甲冑除く)はM4A1のトリガーを目一杯引き、射殺そうと躍起になった。


真之介は無表情でそれらを見据え、ゆっくりと歩きながら、迫り来る弾丸を移動せず姿勢を変え、手甲で弾き、余裕綽々とする。


カチィン!


不意に起こった金属音。


銃の消炎器部分フラッシュハイダーから漏れ出す熱と煙を見た瞬間、全員は恐ろしくなった。


俗にエマージェンシーリロード。弾倉が空になってから新しいのに換える、慣れないマシンガンやアサルトライフルを持つ素人では有りがちな失敗の一つ。


優秀な軍人であれば、徹底的に撃った弾数を覚えているため、切れる前に新しい弾倉を取り出し、数発残っていても取り換える訓練を施されている。

だが、そもそも身を晒して馬鹿みたいに弾をばらまいていれば、素人に毛の生えた程度だと教えているもの。


慌ただしく新しい弾倉を取り出す最中、真之介を一瞬だけ視界から遠ざけた。それが寿命の終わりと思わず。


コンマ数秒、人間であれば四秒の距離を一秒以下で辿り着き、握った拳をチーマーの横っ腹に叩き込み、身体を上"跳ばした"。


宙に一回転したあと、左掌底を繰り出し、踏み込んで強烈な打撃を放つ。

クッションの入った長椅子をめり込ませ、チーマーは息を絶えさせる。


もう一人はナイフを抜こうと、腰に手を当てようとする。

その瞬間、一気に間合いを詰め、左手に気のエネルギーを溜め、胸部に押し当てた。


「…!」


突然、雷に打たれたように全身を震わせ、皮膚や髪の毛、目玉を焦がし、重度の火傷を起こし、倒れる。


「アッ…アガッ…」


一分も経っていない内に有り得ない技で倒されてくる状況にリーダーは覚悟を決め、手に持つナイフを振りかぶった。


それを真之介は左掌底で肘関節を反対に折り曲げ、悲鳴も上げさせぬ内に、足の踏み込みと右の正拳突きが決まった。





向かい側のファミマでは、店員が雑誌に手を取り、廃棄処分の焼き鳥をつまんでいた。


店内からはラジオCMなどが流されているだけ。


物静かなものであった…が。


雑誌コーナーの後ろのガラスを突き破り、酒、生活用品、スナック菓子、挙げ句の果てに一番奥の飲料棚を突き破り、破壊した。


あまりの騒音に店員は椅子から転げ落ち、カウンターに隠れる事になってしまった。




「…流石は"ナインヘッドドラゴン"…誰かがクトゥルフアーツと言っているが…やはりこちらの方が名に合っている」


伊達男はパチパチと拍手をしながら語り、歩く。


「君にこんな下っ端をやらせて失礼だとは思う。だが万が一と思ってね?」


心無き言葉を並べて語る伊達男に嫌気が差し。


左手を握り込んでから、親指を弾くように何かを撃ち出す。


それは伊達男の頬を一直線に赤い血を浮き出させる。

それに対し気にも止めずニヤリと笑んで口を開いた。


「そうでした、貴方位になれば汗腺を操り、汗を弾丸のように撃ち出すことも出来ましたね」


「んな事はどうでもいい。久しぶりだな…"石田成三"」


石田成三と呼ばれ、伊達男はクックックッと笑いを堪えながら一言。


「お久しぶりですな、あの時の少年。まさかミュージアムのハイキュレーターになっているとは…いやいや、現実とは小説より奇なりとは言ったものです」


肩を竦ませて堪える中、苛立ちを隠せない真之介に燐を撒くが如く話しかけてた。


「いやはや~香奈多お嬢様をさがしていたらまさかな~」


「…何だと?」


一つ、気になる事を喋る成三に我を疑った。


「知らないのかな?なるほど…宗介殿は貴方まで騙し通していたのですか…」


「何が言いたい」


「…良いでしょう。一つ教えます」





「実は生きているのです。我が木下グループ総帥の直結の孫である木下香奈多…つまり貴方が"キーちゃん"と呼んでいた、姫様です」



木下グループ…。


戦前から旧日本軍に物資搬入を行い、戦後のドタバタからまんまとそれらを入手し、闇市で売りさばき、のし上がった大企業の一つ。


時代を先読みし、関西のテレビ産業や製造業、米軍向けに作り出したクラブやソープ業など、裏表両方に利権と人脈を作り出し、クレーマーやその他同業者達の睨みを効かせるため、総会屋じみた物まで手を出していた。


木下は関西の鉄砲と言われ、浪速のヤクザ達も手出し出来ない。


其処のお嬢様、それがキーちゃんであった。





「…生きてる…だと?」


「ええ、一時期身内争いじみた事がありまして、両親共に病気で亡くした香奈多お嬢様を我が木下グループ総帥である、木下臓猿ぞうえん翁が後継者として迎え入れたのです…」


一呼吸置き、語り出す。


「しかし、それを良く見なかった長男…つまり香奈多お嬢様の叔父である宗介殿は、クルージング船事故を意図的に起こしたのです」


「………」


「権力争いとは古今東西…何処にでも有ります…力が強ければ強いほど…奪い取りたがるのですよ…血みどろになってでも」


如何せん信用の薄い発言であるものの、殆ど情報の無い真之介には真偽を確かめることは出来ない。

しかし、真に受けるほど考えが浮かばない訳でもない。


「…本当に生きてるのか?」


「ええ、私にとって香奈多お嬢様は命懸けでお守りしたい御方です。ただ、行方を眩ますのが不思議でなりませんが…」


一つ確信を抱く。過去キーちゃんの言葉の中には、木下の印象が悪く、幼少の頃から嫌悪していた事がわかる。

そんな中でももう一つ、成三の言葉を信用出来ない事実があった。



木下宗介。キーちゃんの叔父であるが、両親を亡くしたキーちゃんに優しく接し、木下の権力が及ばない孤児院に匿わせたのである。


当時、喘息持ちで足を骨折していた真之介は孝司と千紗英の提案により、岩手にある友人が管理する孤児院に一年ほどいた。


年頃の少年には、過疎地域にある孤児院は退屈であり、足を怪我していたために外で遊ぶこともままならない。

しかも同年代の友達とは折り合いが悪く、くすぶって、寝ているばかりであった。


そんなある日、気分転換を目的に外のベンチで小難しい本を読んでいた時、誰かが自分の前に居ることに気が付く。


黒いロングで白いワンピースを着こなし、褐色の肌にあどけない笑顔で見ていた。



その瞬間、真之介は…一目惚れしたのだ。


適度に日に焼けた肌、左右の瞳の色が違うオッドアイ、健康的で運動が好きだと感じられる肢体、何よりも袖のないワンピースから覗かれる脇と見えそうで見えない胸部のチラつき感。


思春期真っ盛りの少年には、何とも毒を通り越した芸術品にも見えていたろう。


何よりも、彼女は自分に対して問いかけており、その声も…心から刺激を受ける。


何もかも彼女に恋をした。何もかも彼女を愛そうと感じた。


何もかも…彼女を手に入れたいと願った。


それから一年、彼女と過ごし、お互いが好きになる所までに至る。



しかし、終わりは告げた。


木下グループは彼女を連れて行く事を決めた。彼女は真之介と一緒に居たいと懇願したが、それは聞き入られない。


そして最後の夜。




『…しんくん。私のこと…好き?』


涙がボロボロと流す中、彼女は問いかける。


『…僕は…大好きさ』


たった其れだけ。


混じりっ気も嘘も付かない、純粋な言葉に彼女は答えた。


『…しんくんに…私の"初めて"をあげる!』


真之介は何がなんだか分からない。ただ彼女をどうするべきか、何となく、祖先から伝わる遺伝子が感じ取る。



月の光に包まれ、二人はキスをしながら、抱き合った。




数秒ほど思い出に浸り、結論を下した。


「…アンタらは敵だね」


再び構え、相手に対して敵意を示す。


成三はやれやれと肩を竦ませ、口を開いた。


「まあ、貴方を協力させるといつ寝首をかいてくるか賜ったものじゃない」


「生憎寝首かくような中じゃないがな」



一言付け足す。


やれやれと呟いてから、踵を返し、顔だけを振り向いた。


「それでは、後日にお会いしましょう」


「………」


「二日後に我々木下グループ主催の祭りを醍醐寺にて行います。良ければどうぞ、ご足労願います」


招待状らしき物を近くの椅子に置き、成三と甲冑男は消えていなくなった。



少し困ったように頭を掻き、どうするべきか、悩んだ。





武装その一


レイジングブルカスタム「カラドボルグ」


世界で数人しか撃てない重力魔導弾仕様の八インチマグナム。

口径はアーカードの使用するカスールオートと同じ.454Casull


ガリルMAR

AKシリーズに該当されるアサルトライフルを短機関銃レベルまで短くしたライフル。


これの改造版も存在する。



AR-25

アメリカを代表するガンスミス、ユージン・ストーナーがナイツ・アーマメント社と作り上げた自動小銃をダットサイト、専用銃剣などを取り付けた有る意味瓜生専用ライフル。

近接も使うため、全部品が特殊合金製である。



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