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第三話 pick up girl


人捜しについては瓜生に任せ、次なる仕事の為に、ある高層ビルにやってきていた。


真之介は制服の内ポケットからカードを取り出し、入り口にある改札の認証に押し当て、入ってゆく。


スーツを来た社員達はせわしなく歩く中、真之介は急ぐ用事がある訳でなく、いつもの歩調でエスカレーターを使用しエレベーターに入った。


目指す場所は最上階。階を示す電子板の数字がめまぐるしく変わり、中にいた人間も途中途中、目的の階に降りてゆく。

次第に一人になる感覚を覚えながらも、最上階に着くとエレベーターから降り、閉まる姿を一瞥、何もなかったように歩いてゆく。


目的の部屋前にはモデルにスカウトされてもおかしくない美人女性がいる。


彼女の名は片桐冴子。此処の会長秘書であり、俺にとっては上官に値する。


「あら?久しぶりね、宮本君」


「お久しぶりであります、片桐上官殿!」


彼は軍隊式の敬礼をする。今回はアメリカ海兵隊らしい。


「今日はどうしたの?仕事なら瓜生君から聞けば…」


「ちょっと俺が入り用をやって貰ってるので…今日は俺が来ました」


「あら、彼に何を頼んだかは聞かないけど…彼も優秀だからね…」


「俺としたらミュージアムより探偵の方が性に合ってる気がするよ」


そう答え、部屋のドアをノックする。


「………」


「………」


「…居るの?」


「…ええ、また何か作ってる可能性がありますけど…」


いつまでも返って来ない返答に、二人はまたかと思う。仕方が無く真之介はドアノブを回し、中に入ってゆく。





会長室は意外と簡素な所である。別段広くなく、所々趣味であろう工具やら部品が置かれている。今度は何をやっているのか?と思っていると。


「…さて…これで完成!」


三十代前半の男が現れる。Yシャツは油圧のオイルに染まり、所々引っ掛けて破けている部分がある。


大きめの機械を弄くり回しているこの男こそがこの企業「ギルガメッシュ・インダストリー」の会長であり、ミュージアム日本支局局長「ルーファウス・アルフォン」である。







この世界には様々な古代遺跡があるものの、その中には今の科学で解析できないとされる技術が存在する。


それらは兵器に変わることもあれば人類おろか星一つ分を消し去る物も発見はされていないが、存在する。


それらを密かに回収、及び元の場所に安置したり、元の持ち主に返したりする秘密結社がある。


それはミュージアム。


かつてエジプトの墓守りや古代フェニキアの博物館の管理者達の集まりらしく、当時から超文明の遺産を集めていた。


今では表向き国際的財団法人で、NGOや赤十字社のスポンサーとして出資していれば、退役軍人を教官に警備系PMCを設立してたりと、広く活動している。


その中でもギルガメッシュ・インダストリーは世界的トップシェアを誇る、一流大企業だ。

まあ、殆どの技術は遺産解析による恩恵であり、端から見たらチートにしか見えない。


そもそもミュージアム自体表向きロックフェラーだとかロスチャイルドだとか言われ、フリーメーソンの母体やらイルミナティやら言われたりもする。


それが否定できない部分があり、実際回収の為ならちょっとした行為もやる。そのちょっとした行為が大幅な経済制裁やら暗殺も含めてである。





汚れの目立つ格好の中、タオルで顔のオイルを拭い、真之介を招く。


「やぁ真之介~、電話で聞いたけど」


「次の仕事は?」


「次?ああ~、心配せずとも」


と机の引き出しから「外部持ち出し厳禁」と赤い判の押されたファイルを取り出し、真之介に渡す。


それは一冊の古びた古文書、手に薄手のゴム手袋を着け、中身を拝見する。


それは間違いなく、平城京平安京時代の書物だと分かった。


「…これは?」


「えっと…稗田阿礼の執筆らしい」


「稗田阿礼?古事記の作者?」


「ああ、未だ謎とされる人物が書いた本だよ。しかし未発表の物だから、今まで倉庫に眠りっぱなし」


あっけらかんと答える中、とある疑問が浮かび上がる。


「…稗田阿礼だったら…これって、かぐや姫伝説の奴じゃないのか?」


「うん、君の父である宮本孝司さんが十年前に解決した話だよ」


その事に一つ問いかける。


「封印した話が何故今に?」


「…実は続きがあってね…」


何やら裏がある含みを込めながら、少しずつ語ってゆく。






「一番最後のページに付着した血液を退けてみると、分かったことが一つ。なんとこの本は三番目に書かれた物なんだ」


「三番目?」


「ああ、どうやら稗田阿礼は同じ物を三つ書き、一つは何処か海を渡って消えたらしい…ただ問題が二つめの所在なんだ…」


「今となっちゃ意味なさない代物何だろ?」


「まあ、最後まで聞いてくれ」


そう話し、もう一つのファイルを渡す。


「…ん?左馬介異聞?」


「時は戦国1582年、天正10年の時代。天下を手中に納めんとした織田信長は重臣明智光秀の謀反により、自殺したと言われている。その資料には信長の死から南光坊天海として生きるまでの生涯つづった物だと…」


それを受け取り、真之介は再度ページを捲り、流し読んでゆく。

話の内容は眉唾ものだが、その程度ならわざわざ取り出して見せるとは思えない。


「疑問を感じるよね?」


「三文小説程度の話をミュージアム支部局長が持ってくるなんざ冗談に見える」


「実はこの異聞には、ちょっとした仕掛けがあって…最初のページから三ページを重ねて透かして見てよ」


言われた通りに透かせて見る。すると所々違う色の墨を使っているのか、文字が見え始める。


「気がついたのはつい先日。魔術術式じゃないけど、法術の類が使われてた」


「…つまりは?」


「天海僧正は万が一でもその仕掛けが見えないようにしてたんだ」


真之介はその事に疑問を感じる。この仕掛け自体言われなければ分からないのに、わざわざ手間のかかる法術を掛ける理由が不明なのだ。


「…何故に?」


「それを見れば分かるよ」


とりあえず、写し出された文章を読んでゆく。







かつては織田の重臣明智光秀の甥として異国に旅をさせて貰い、自分も有意義であり、信長公にご恩被りたいと思っていた。


だがお心が変わり果てた。


桶狭間の合戦にて、飛来してきた一本の矢が喉に刺さり、伏せったと話を聞くが…。自分が謁見したとき、元気そうにカッカッと高笑いしていた。


よもや西洋医術の賜物なのか?それとも南蛮人の信仰するキリストと同じように生き返ったのか?その時は分からなかった。


それからと言うもの…残虐さを見せるようになる。


敵の武将の腕や足の付け根を切り、吊しながら血を流させて殺すこともあれば、延暦寺を燃やし尽くし、逃げた僧達を無残に斬殺するなど、かつて天下を統一し、異国の支配をさせない国を創ろうとしていた大義ありし大名で無くなってしまった…。



自分は叔父上と相談し、信長公を天下人にさせぬよう謀反を起こし、成功させた。


しかし燃え盛る本能寺で自害したと見てはいるものの、実際亡骸を見てはおらず、確信が持てずにいた。


そんなある日、再度本能寺を見聞する機会が入った。

遺骸があると言われる場所を調べて見るものの、骨のかけらも燃え切ったためか、周りの燃えカスと区別の付かないのが現状。


その時私は落胆した。


が…、自身の足元に何か違和感を感じ取る。何か急いで埋めたような後が残っていた。


すぐさま掘り起こして見るに、とある書物を発見したり。


その名は「稗田阿礼私事草本」と書かれ、文体から察するに平城京~平安京の時代で書かれたものだ。


それを恐る恐る見てみるに…とんでも無いことが書かれていた。



不死の薬が燃やされ、その煙を吸った蝙蝠達は富士の樹海にある鍾乳洞で今も生きていると。


あの桶狭間で死ななかった訳が判明した。だが私にはそれが出来ない。


不死の化け物を倒せる訳がない。だがせめて信長を封印する事は出来るやもしれない。






どれほど経ったであろう。私は信長を封印し、即神仏としてこの世から昇華されるのを待っていた。


しかしいずれ信長は復活する。この謎を解けし者よ、どうか信長を倒し、あやつの野望を打ち砕いて欲しい…。





「…これが正しいとすれば、信長もなよたけの鬼みたいになってるのか?」


「いや、桶狭間で死んだ話からすると、前から蝙蝠を摂取してるんじゃ?」


「…やだな…吸血鬼ならともかく、不死身なんてどう倒せという?」


「四肢切断して何処か遠くに?」


「なんかどろろを思い出す」


明らかなる嫌悪感を醸し出す中、二つのファイルをしまい込み、頑張れと要らぬエールを送る。


拳を突き付けたくなる衝動を押さえながら、一つある事を思い出した。


「ルーファウス、一つ思い出したんだが…」


「何だい?」


「前の魔導書の件だが…コピー以外のは見つかったか?」


「…いや、どうにも魔導書本体は持ってないらしい」


「…はっ?」


予想外の事に驚く。


「それじゃあ…」


「誰かに渡したかな?と思う。奪われたりすれば取り返すだろうし、コピーでも効力があるから、元の持ち主に返したという線も…」


顎に手を当てて、自身の仮説を言ってゆくルーファウスに真之介は溜め息混じりに言葉を発する。


「じゃあ、ふりだしから?」


「だね」


更に落胆し、哀しみを覚える…。





ギルガメッシュ・インダストリー前


側車付きのCB1300に降り立つは、スーツ姿の宮本考司である。


側車にニコニコとヘルメットを取る沙耶を肩車させ、楽しくスキップして中に入っていった。


「じいたんスゴい~」


「はっはは~じいたんは凄いぞ~」


最早目にも痛くないくらいの孫バカに変わり果てる考司。これが傭兵及びミュージアム時代、two hand devilと呼ばれた最強の傭兵とは思わないだろう。


今日やってきた理由は一つ。前に取った沙耶のDNA検査である。



回想…。


『貴方…一応…しんちゃんの子供だとしたら…』


『…うん、調べよう』


(だから背中にD.Eを仕込まないで欲しい)


終了…。


「…なんか当たるフラグじゃない?」


確定的な結果にどう立ち向かうか、ふと考える。


「…やっぱり長くグダグダにするくらいなら…きっぱり言わないとな」


そう…息子の過ちを受け止めるのが父だから…。己の心に決め、いざ向かう。





「…何やってるんだ?」


家に帰ろうとした矢先、考司と沙耶がメディカル部門に向かっていたので声をかけることにする。


その前に考司に見つかるのだが。


「おう、真之介」


「お父たん~お父たん~」


「親父、真後ろでよくわかったな…後もうちょい静かにな、沙耶」


「まだまだ現役なんでな。二百位読み取れる」


しれっと並外れた事を口走り、真之介を呆れさせる。

最も事実なのだからどうしようもない。


「ああ、そうだ。真之介もちょっと来い」


「ん?」


「この子とお前の関係でな…」


と上にいる沙耶に目を向けて答える。


「…例のDNA検査の結果が出たらしい」


「……で?その結果は…」


「これから聞きに行くところだ」


神妙な面持ちに眉間を押さえ、今後のことを思う。


「…とにかく、結果を聞いてからにしよう。その後悩めば良いじゃないか」


「でも、まだ俺は高校生だから…」


「バカッ、お前を産んだ母さんはまだ16だったんだぞ…まあその時の僕は20だから養うことは出来た」


「……」


「でもな、子育ては結局長生きしてても同じことなんだよ。最初から出来ないことだらけだ。だから今責任感を持って頑張るのが"父親"だと思う」


「…でも、分からないことがある。だったら僕や母さんを頼りなさい」


「…親父…」


「とは言っても、まだ結果は分からないからな…」


その言葉に対し、フッと笑みを浮かべて反論をする。


「いいや、結果はどうであれ、俺はパパになってやるさ」


諦めた訳でも自暴自棄でも無い。ただ純粋に父親になることを望んだのである。


「それじゃあ…行くか」


「ああ」






白い蛍光灯の光る研究室。其処で真之介、考司、沙耶の三人は椅子に座り、前にいる研究員の話を聞く。


「…彼女のDNAを調べた結果、約50%の割合で貴方と一致しました。その為この子…沙耶ちゃんの父親と断言出来ます」


「それは承知済みだ。その続きを聞きたい」


「…はい、其方の方で…」


研究員はファイルから一枚の用紙を取り出す。


「血液検査、その他造形データをハイキュレーター宮本から取りました所…約70%程当てはまりました」


「…70%?」


「ええ…血液とは言っても、宮本氏の知りうる情報であり、サンプルが無い以上、確定的な部分がありません。せめて髪の毛でもあれば…」


「…まぁ、やってその結果は仕方が無い」


「すいません……ですが、逆に考えて見ますと、造形データと血液型だけで半分以上一致させることは滅多にありません。可能性は高いです」


「…ありがとう」


そう答えた後、研究員はファイルをしまい頭を下げてから室内を出て行く。


「…やっぱり…"キーちゃん"か…」


半ば分かりきったように呟くと、考司が何かに気が付いたのか、おもむろに口を開いた。


「…キーちゃんって…あの子だっけ?」


「……はぁ…」


かつての子供の頃の記憶に思い耽る。






『しんくん!しんくん!』


其処には八歳位の少女がいた。


黒髪のロングに、夏の日差しに焼けた褐色の肌から見るに、健康的な子供であった。



「………」


「ちょっと待て、確かあの子の年を換算したら…」


「…ああ、九歳の時に生まれたと思う」


つまりは初潮すら迎えていたか分からないのである。其処で大の大人ですら耐え難い痛みである出産を行ったのである。


「キーちゃん……」


「それで…彼女は?」


考司の言葉に真之介は口を重く開いた。


「…三年前、クルージング船事故で行方不明者に同姓同名の人物がいた。只遺体が見つかって無いから…」


「…すまない」


「いいや…、もっと探すべきだった…そう思っただけ…」


「だけど…」


「それに…同姓同名だって…何人いてもおかしくない。だから…まだ探してみる」



「キーちゃんを見つけて…やる!」





宮本・孝司


CV 小山力也


伝説級の元ハイキュレーターで、ミュージアム資本の商社の課長。

頼れる父親で、二十歳の頃に真之介の父親となるが、その実力が原因で巨大組織に追われ、家族に危険を及ばないようにミュージアムに所属する過去がある。


反動の強いAK-47を片手で狙撃するほどの腕前、その結果twohand(二挺使い)と呼ばれる。




宮本・千紗英


CV 寿 美菜子


褐色肌。十四の時に真之介を産んだビックママであり、グルカ民族が生んだ殺戮闘士。

出会いがバルカン半島紛争で、孝司との初デートはシリア、プロポーズをし合ったのがソマリアなど、数々の紛争地域で愛を語ったセメント女子。


迫撃砲を持ち運んだり、キャリバー機関銃を撃ったりするので異名がトリガーハッピーと呼ばれてた。




宮本すみれ


CV 悠木碧


真之介と五歳離れた妹。宮本家の癒し系で歯止め役。現代っ子だが好きな物はスルメとメカブの酢の物。

銃は手にしないが、キッチンで戦うと両親すらかなわない。好きな俳優はスティーブン・セガール



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