第二話 high school boy or DADDY?
「…お父たん?」
ピクリと眉がつり上がる。
目の前の少女がそう俺に語りかけてきたのだ。
…お父たん…ああ!違う言語だ!そうそう…ほら!よく洋楽でそれとなく聞こえたり、そう言っている気がしたり…そうそう!そう言うのってあるよな~。
「…お父たん~!」
俺の想像は中国製ビルみたいに儚く崩れ去った。
後ろでウチの家族が何やら驚愕している。それは俺もそうだよ!驚愕してるのは俺もだよ!!
「…真之介…話がある…」
「すみれ、この子…お名前は?」
「沙耶~」
「はい、それじゃあ沙耶ちゃんをお願い」
「…Yes Ma'am…」
すみれは沙耶を連れて自分の部屋に連れて行った。
「…それじゃあ…O・HA・NA・SHIをしましょう…」
俺は死を悟ってしまった。
思わず。
事の発端はこうだ。
瓜生は現状況、一番安全圏のセーフハウスを検索してみた所…俺の家が適合したと…。
その時はふざけるなと言いたかったが、何分自分が助けてしまった。
ならば最後まで護衛をするのが筋であり、義理人情から言っても仕方が無いのである。
幸いウチの両親は俺の仕事事情をよく知ってるし(と言う前にかつて親父が所属していた)、そんな事情抜きでも匿ってくれる。
俺はその事を確信しながら、この子を家に連れて行った。
そして玄関先、両親と妹のすみれが出迎えられ、電話先で話したことを復唱し、事なく終わりを…迎えるはずだった。
居間に俺が正座で座らされ、両親が対面する。
母は口は笑っているが、目は違う。何か嫌な目つきだ。
父は、何とか怒りを納めようと、母に語るものの、効果は薄い。
俺はキチンと話すつもりだ。背中に覗くG36Cが脅しをかけてても。
ゴトンッ!
すいません、FN ハイパワーが飛び出てきたらちょっと難しいな…。
「さて…訳を聞きましょう」
そうそう、俺は其れを話したかった!
とにかく今回の仕事のことを入念に話し、納得させよう。
「…今日…お仕事で怪しい集団の隠れ家を襲撃してきた…」
「でしょうね。火薬の匂いがするから」
「…それで生贄にされかかってたところを、ぶっ殺した」
「あの子が生贄に?」
「はい…」
「身元はわかってる?」
「今調べ中。何処から連れてこられたか分からんので、警察に直連絡している」
その後も幾つかの質問をした後、我が母の怒りは静まって見えた。
何とか銃をしまってくれ、一安心する。
「…さて、ついさっきのあの子の発言だけど…」
「今日会ったのが初めてです。勘違いだと思います…」
「それじゃ…もしも、勘違いとかじゃなかったら?」
だから再びハイパワー持たないで欲しい。それは脅迫だよ!?
「…少し聞いてみます」
「そうね…でも今日は遅いから、明日にしましょう」
「YES Ma'am」
翌日、沙耶から事情聴取及び朝食を取る。
今日は何故か長野県の郷土料理「おにかけうどん」だった。
たしか母方の親戚から教わったもので、醤油系うどんだしに刻み昆布、椎茸、長ネギ、人参、油揚げ、ちくわを煮込んだ汁に茹でて水にさらしたうどんをラーメンを茹でるカゴに一人前ずつ汁にくぐらせて食べると言うハレの日(特別な日)の食べ物だ。ちなみに各家庭では汁を入れたり入れなかったりと、ある意味椀子そばによく似ている。
沙耶は好き嫌いが無いのか、うどんを器用に啜り、綺麗に完食する。そんな姿を聖母マリアの如く微笑む母に俺は安堵した。
これなら何とかなりそう。
父は若干食が進んでいない。まあ今激怒したら母愛用のUS EX-41がコッキングされるからだろう。
母は自分のお椀と箸を片づけ、再度椅子に座り、にこやかに口を開く。
「昨日の続きをはなしましょうか?」
俺は喉元にうどんの固まりを詰まる感覚を覚える。もしくはメスに睨まれるオスのカマキリの気分だ。
「沙耶ちゃん」
「なに~?」
人見知りをしないのか我が母に屈託の無い笑顔で問いに答える。
「沙耶ちゃんのお父さんってウチの真ちゃん?」
「うん!この人がお父たん!」
ピシリッと何かが割れる音が響く。
「本当に沙耶ちゃんのお父さん?」
「うん!お母たんがいつも写真で見せてくれたから分かるよ~」
無邪気とは時に恐ろしい武器に変わると聞いたが…マジだった。
この子は恐ろしい事をサラリと言いのけ、父、すみれ、俺を一気に青ざめさせた。
母は若くして祖母にジョブチェンジ。
此処で幸運値をロール…1D+運5+固定4。
幸運 1/5/4=ファンブル
何でやねん!
成功16ってまじかよ!10以下ファンブルってありえへん!?
「…さて、ちょっぴりO・SHI・O・KIしないとね?」
ちょっぴりのお仕置きの後、学校に向かった…。
学校内。
あの後母が不機嫌になり、弁当を手に入れる機会を失った俺はもしもの為に箱買いしたカップめんとカンパン、野菜ジュースを片手に屋上に向かう。
もう片方には職員室近くの給湯器から手に入れた熱湯入りの水筒を持っている。
基本昼は一人で食べているが、決してぼっちでは…無いと思う。
まあ、考えて見れば別の高校で一年留年して、年齢は18。
本来は受験生であるが…。
「……思い出すだけでムカムカしてくる…」
そもそも俺は一年間違う学校に通っていた。
曰わく御息子御息女のやんごとない私立高校に入学していた。
バカに見える俺だが、実際一年間のテスト成績は学年全体で片手で数えられる順位にいつもいた。
勿論実力だ。
別に特殊な勉強法とかでは無いが、英語の文法は現地で鍛え上げられ、歴史は高校レベルを軽く超える。数学や理科もある意味使用せざる得ない時もあるし、国語も日本限定で覚えておいてる。
身体的も格闘術を会得して、仕事柄戦ったりするもので、凶器になりかねないし、スペックも高い。
自分で言うのもなんだが、容姿は悪くない。TRPGで言うなれば13と多少ひねくれてはいるが、付き合いを考えればある程度譲るたちだ。
だから上手くやってけるかな?とは思った。
だが入学から三ヶ月。
めんどくさい事に巻き込まれた。
『僕の派閥に入ってよ?』
ソイツは高野と呼ばれ、結構な御曹司だ。
一つ二百万もするロレックスを旧モデルだから取り巻きに譲ったり、月に一度豪勢な宮廷料理レベルのパーティーを派閥の人間に開いたりととことん先祖から続く金持ちを体現していた。
ただ、俺には滑稽に見える。
子牛のリブロースだとか、キャビアやらフォアグラやらよりも、カルビのクッパやウズラのゆで卵、牛レバーの方が良かった。ロレックスより耐火防水のミリタリーウォッチが何千倍も嬉しい。
ロマネコンティの味より缶チューハイの方が良かった。
つまり言いたいことは…「断った」。
唖然としてやがる。
それから約六ヶ月間、机の上に花瓶やらゴミやら置かれることもあれば、下駄箱に誹謗中傷のお手紙が押し込まれていた。
喧嘩をやろうにも、小隊規模の特殊部隊を倒す俺がたかが大会行ってる程度の奴やらドス位持ったチンピラ二十程度返り討ちに出来るが…其れはしなかった。
バレないくらいやられ、御曹司に逆らわない奴らが威を借りる狐のように加わる。
正直ド低脳に関わる気にもなれない。
だが事件が起きた。
その時弁当が見つからなかった。
鞄の中を探っても出てこない。
すると御曹司が取り巻きを連れて俺の弁当を開けてこう言いはなった。
『庶民の弁当とは…まるで餌だ…』
俺は一つ手榴弾のピンが抜ける音が鳴る。
一口食べて…、俺の顔に吹き出す。
『カァーー!不味い!!同情にも値するよ!』
次に手榴弾のレバーが飛んでゆく。
そして其れを俺の頭にぶちまけ、空箱を外に放り投げた。
『…もう…君は…這いずり回るゴキブリと一緒だ』
頭の中の手榴弾は…。
『それは…』
『ん?』
『コッチのセリフだドサンピン!』破片を散り飛ばして、爆発した。
御曹司の顔面は拳状にめり込み、数メートル程机をなぎ倒してゆく。
それに唖然とする中、すぐさま取り巻きにいたボクシング部のエースにアッパーカット、隣にいた空手の名門通いをハイキックで左肩ごと粉砕。
相撲部の巨漢は張り手を突こうとするが、腕を掴み、関節を逆に折り曲げ、悲鳴を上げていると俺は肘打ちを顔に決めてノックダウン。
それが一分も掛からずに終わる。
『…俺の侮辱だけなら許容してた…』
今日実は母、風邪を引いていたが、俺の為に頑張って作ってくれた。
確かにところどころ焦げてたり極端にしょっぱかったりしてただろう。
だが、俺には些細ほどにも思わない。
コイツ等の食べる高級料理よりも暖かみがあるそれを食べるのが唯一の楽しみだった。
『だが、二つ…食べ物を粗末にした。俺の親を侮辱した…これが許せなかった』
正直やり過ぎと言われるだろう。だが後悔なぞ一片も無いし、むしろせいせいした。
その後、阿鼻叫喚の地獄絵図になった教室に教師たちが俺を取り押さえ、説教をし始め、それが御曹司の親と父が来るまで長く続いた。
これで終わりではない。
御曹司の父は明らかに暴力と言い放つ。
クラスメートの証言でもガキでも分かり易く、あちら側に優位な事しか無い。
この状況から言えば退学間違い無かったが…。御曹司の父はこんな事を言ったのだ。
『これから私の息子に許しを乞えば、留年で許しましょう』
平たく言えば、御曹司の使いッパシリになれと言うわけだ。
父は殆ど何も言わず、腕を机に乗せて話を聞く。
『貴方も息子さんに言って下さい。謝れと…』
次の瞬間、父の目が目一杯開かれ、机を叩いた。
『話を聞いてみたが…どうやら間違いなのは…貴方方では無いかな?』
皮肉をたっぷり込めたコメントを言うと、沸点の低い御曹司父は眉間に十字のしわを作り、答えた。
『もはや…子の親ありとは言ったものです…全く下品極まりない!!』
『どういう事で?』
『言ったでしょう!貴方みたいな責任を取らない親だから子供は犯罪を犯すのです!見なさい!怪我をした四人は次の大会に出られません。これは高校最後の大会を無残にも彼のせいで無駄にされたんですよ!』
正直正論ではあるものの。
『ならば、私の息子に喧嘩をふっかけなければ良かったじゃないですか?』
『ハァ?それとこれは関係無いでしょう!』
『いいえ…もしふっかけなければ、怪我を負うことなく、大会にも出れたでしょう?それに例えそれを知らなかったとします。もし家の真之介が只の高校生だったら?殴りかかってリンチされていたでしょう…もしかしたらそれで病院に行けば明らかに大会に支障を来しますよね?』
本来は此方が正論なんだ…。
もし俺が弱かったら、暴行も受けて自殺する可能性もあった。
結果としては、やってきたと言う意味で自業自得なのだ。むしろ感謝されなければならない。
何せ全員一発しか殴って無いのだから…。
『あっ…貴方のおっしゃって居ることは分かりますか?』
『ええ…訴えるべきは家の息子の方だと?』
『…PTA総会の議題にさせて頂きます』
『どうぞ、ご勝手に。私達には関係ありませんので』
『ハァ?』
『何せ、息子は今日限りでこの学校を自主退学すると』
『なっ…何を!?』
『あと、約六ヶ月間のイジメダイジェストが録音や録画、写真でもありますよ~』
そう…只やられてただけではない。高性能ステルスUAVによる録画、録音。ペン型カメラや偽装消しゴムによる録画、録音など、隠しきれない事実が握りしめられている。
殆ど瓜生が管理しており、一挙にネットに放り出せば個人情報や苛めていた人間が晒され、学校の怠慢も出される。
しかも主犯格の御曹司も御曹司父の会社にどれだけの被害が出るであろう。
そうなれば此処での立場は変わる。
『…さて、幾つか言います。我々に対して何かを行えば我々の仲間が貴方方の醜態が晒されます。脱税やら学費横領やら…裏口の九千万やら…』
一通りの脅し文句を言い切った後、御曹司父と監督者の校長はうなだれて、父に従うしか無かった。
その後立場が逆になったが、どうにもイヤだったのでSDカードを粉砕して燃やした。
実際金ズルだとかにするとマジで犯罪になりかねない。
その後バレるも何も、誰かが告発し、御曹司父の会社は倒産。
今頃御曹司は東南アジアの奴隷として働いているだろう。
ご冥福を祈り、今後の対策を建てることにする。
short character introduction
宮本・真之介
CV 野島健児
とある理由で一年留年した高校二年。
勉学はそこそこできる方だが、英語と歴史が大得意。
とある組織に属しており、マーシャルアーツ顔負けの格闘術と卓越した銃の使い手。
使う銃は世界で数人しか使えない重力魔導弾使用のリボルバー「カラドボルグ」とガリルMAR。
瓜生隆寛
CV 東地宏樹
真之介のサポート役。
冷静で博学めいた人物で趣味は詩とクラシック。
主に扱うのは遠、中距離使用のバトルライフルである「M14EBR」など。




