第十話 The Great Escape and relative
背表紙的まえがき
幼稚園
真先生「はいみんな~、お遊戯の時間だよ~」
ブル「せんせーどの~、せっしゃははっきょくけんごっこがしたいでござる~」
真先生「それやったらぶっ壊れるから許可出来ません」
あさま「せんせー、せんせーはかずひこせんせーとべっといんするなら"せめかうけ"どっちがいいでしょうか~?」
真先生「先生はベットインするのは男じゃないな~普通にお嫁さんだな~」
ちよこ「せっ…せせせせ!せん……せー?」
真先生「噛みすぎだなチョコちゃん」
「………」
「………」
「………」
二人と一体(身体全体を電子化してPDAにいる)は直通ルートを遡りながら登っている。
とてつもなく気まずそうに。
「…悪かったよ、だからそんなに怒るな…」
「………」
「……ハァ…」
ムスッとした顔でそっぽを向くパンドラ。真之助はいじりすぎた事を後悔しながらも歩みを止めない。
PDA内のダイダオスはため息を吐きながらやれやれと肩を竦め、戒めのごとく小言を吐く。
「全く、何事もやり過ぎと言う物には注意せよと言うのだ」
「一緒になってやってた奴の口がほざくか?」
「ほう?其れは誰の事やら~」
「今度アルツハイマーの検査をしてみるといい、必ず陽性反応だ」
そんな軽口を叩いていると出口らしき場所に到達する。
どうやら真之助が落ちたのは其処から数メートルも離れておらず、SCARを構えていたマカロフと出くわした。
「…あら?凛湖と張は?」
「…先に行かせたよ。全く…いつまで待たせれば済むか…」
「すまんすまん…あれ?」
真之助はある疑問が思い浮かぶ。
マカロフの視界にはパンドラが映るはずだが、何故か気にも止めずに足を引きずって歩く。
ふと、耳元で囁くようにパンドラが口を開く。
『余は精霊。幻想的な物を信じぬならば見ることは出来ぬ。しかもある一定年齢での』
「…つまり子ども心が無いと駄目か……ってそれは露骨に俺を馬鹿にしてるのか!?」
『先程のお返しじゃ。まあ具現化も出来るのでな。そこら辺は心配おらぬ』
「…まあ説明が省略出来て助かる」
「…?」
何も無いところに話しかける真之助の姿を気味悪く思いながら、マカロフはエレベーターの扉を開け、中に入る。
真之助も急いで中に入り、ボタンを押し、地上に向かって行く。
辿り着いたのはどこかのショッピングモールの裏手側。
荷物搬入や従業員入り口として使われていたのであろうか、大きなシャッターやら片側開きのドアが其処に有る。
エレベーターの前には工事中と書かれた看板やテープ、赤いコーンが置かれている。
「やったねたえちゃん!地上に出れたよ!!」
「それはフラグだ!?」
ツッコミを入れるマカロフ。
しばらく進むと、乱暴にシャッターを壊されたディスカウントストアがあり、其処を二人で覗く。
と。
「何やってんだ?」
「「ん?」」
張と凛湖はスナック菓子やらカップめんを開いて食っていた。
ディスカウントストアであるため、アウトドア用携帯コンロややかんも完備しており、災害時であれば一番利用しやすい店でもある。
その中でモシャモシャとポテトチップスを食べ、周りに食べカスを付けながら怒り気味に口を開いた。
「遅い~!乙女を待たせるのは男じゃないよ!」
「ふっ、いい男には自然と待ってくれる女が居るんだよ。後どちらかと言ったら"漢女"では?」
「ヒドイ!アタいだって女の子じゃい!」
食べカスを飛ばす凛湖の姿を見てもあまり女性らしい清楚さが見当たらない。
真之助はふと神社生まれの浅間の身の純潔さを思いふける。
が、内心御腐れ趣味や汚れきった性癖に更に頭を抱える事態に発展してしまう。
『…うむ…今の女は少し雑じゃな…』
『ハァ…あまり慎ましげはなさそうなお嬢さんだこと…』
PDAのダイダオスとパンドラは共にジェネレーションギャップを感じえながらため息を吐いた。
「…っよし、当分は動かさないようにしとけ」
「ああ、そうさせて貰う」
足にテーピングをし、固定して動かさないようにする。
マカロフは患部を忌々しく見た後、ため息をつきながら立ち上がる。
「うん、大分楽になった」
「そりゃ良かった」
真之助は残りのテープを懐にしまいながら答える。
ふと、張が口を開いた。
「しかし、真は接骨とかが得意なんだな。驚いた」
「接骨自体はスポーツやってる奴はみんな出来る。それに難しいものでもないし、要点覚えればいいんだよ」
「そんなものか…」
スタスタ歩き、異常が無いことを確認。
後は鉄製の棒に布を巻き、腕の脇に挟めるようにする。
これにより手製の松葉杖が出来上がった。
「これで何とか行けそうだ」
「もし取れそうなら、またテープを貼って固定しろよ。痛み止めも此処に」
「わかったわかった、其処までしなくとも痛いのは困るからちゃんとしますって」
「…ならいい」
何を言っても聞かなそうなので其れ以上は語らずに終える。
「さてと、此処でお別れだな」
突然、真之助が突拍子も無い事を言い、二人は驚く。
張は真之助の発言に驚きつつ問いかけた。
「おいおい、どうするつもりだよ」
「どうするって。これからこの事件の元凶を探りに行くんだよ。なあ?」
「そうそう。ひとっ走りみたいな感じで?」
真之助、凛湖はそう言って店内から出ようとする。
しかし、張は納得がいかない。
「そんな問題じゃないだろ!?」
「………」
「………」
「早く街から出るぞ。お前等が関わっていい問題じゃない」
「むしろお前等が関わる必要はもう無いんだ!此処までやってれば誰からも何も言う権利は無い!」
張は行かせまいと怒声混じりで叫ぶが、真之助は目を閉じ、静かに首を横に振る。
そして呟くように一言、答えた。
「…やんなきゃ。誰かがやんなきゃ…いけないだろ?」
「………」
「誰かにやらせるより…自分がやった方が確実なんだよ」
まるで自分に戒めるように、真之助は呟いて店から出て行く。
凛湖も、ごめんと言わんばかりに頭を下げ、その後を追っていった。
「………」
「…少ししたら行こう、張」
「…ああ。そうする」
「…よかったの?」
「………」
ショッピングモールを抜け、PDAを頼りにある場所に向かう真之助に凛湖は心配そうに問いかける。
真之助はその心配を拭うように口を開き、答えた。
「これは俺達の任務だ。誰であろうとも邪魔はさせない。そうだろ?」
「…でも…」
「俺達の行く場所は…分かってるだろ?」
「………」
「この事件の元凶。"D-Virus"の発生源…それを背負わせたくない」
口元を震わせる。
凛湖は真之助の背中を見ながら、静かに両手を回し、ゆっくりと抱きしめる。
「分かってる。君も辛いのは」
「………」
「だから、終わりにしよう。アタい…私達が…」
「……ああ」
真之助は凛湖の手に触れ、上を見上げる。
暗い夜空には光を放つ満月と星がチカチカと光り輝いていた。
改めて覚悟を決めた真之助と凛湖の背中を見ながら、パンドラは顎に手を当て、ため息を吐く。
「…人とは面倒なものだな。余には分からぬ…」
『ソナタには分からぬのかな?葛藤と言う物を』
隣で見えないように具現化したダイダオスはパンドラに問いかけると、フッと笑みを浮かべて言い放つ。
「我等が葛藤を?そんな物は非効率的だ。するならやるなと言いたい」
『ほう、言い切りますな。だがその葛藤があるからこそ、エンデミュオンはこれだけ成長したのでは無いかな?』
ダイダオスはパンドラをおちょくるように向けると、額にしわを寄せ、腕を組んで怒り始める。
「…フン!余には分からぬ!!」
「其処は開き直る所では無いのだがな……」
手を当て、困り顔でため息を吐くダイダオスであった。
PM2:00
廃工場跡と思われる空間には、ガラスで出来た培養器やパソコン、薬品のラベルが貼られた瓶や注射器、試験管等。
如何にも研究所と言わんばかりの場所であった。
独特の薬品臭の漂う中、真之助はデスクに置かれた資料を軽く目に通し、それらの存在を確認する。
「…『D-Virus経過観察』…『変異状況結果報告』…『D-Virusによる新しい兵器』…『N.C.S.(ナイトメアクリーチャーズ)第一号』……間違い無いな」
「此処が…」
「……ああ、此処に来るまで出会った奴らは…二ヶ月前の時と類似点があった…」
二日前....
「…N.C.S.?」
ギルガメッシュインダストリーの社長室、いつも通り、真之助は来客用のソファーでコーヒーを頂きつつ、話を聞いていた。
向かい側のルーファウスも手に持つ資料を目に通しながら話を続けた。
「ああ、ナイトメアクリーチャーズの略で…南米の麻薬カルテルが一挙に殲滅された話がよく耳にしてな。それらが関わってるらしい」
「ナイトメアクリーチャーズって、兵器なのか?」
「多分な。どんな物か分からないが…噂では遺伝子改造によって生み出された生物兵器の類らしい。実用性は未だ不明」
顔を歪め、嫌な物だと感じながらクリップで束ねられた資料を真之助の前の机に置く。
其れを目に通し、画質の低い写真を見ながら真之助は呟いた。
「…爬虫類か、これ?」
「さあな?もしかしたら魚人かもしれないぞ」
「何其れ、やだ」
若干鳥肌が立ち、引き気味になる真之助。よっぽど魚人にいい思い出が無いのだろう。
そんな真之助を尻目に、ルーファウスは更に口を開く。
「とにかく、何とか調べた結果…出荷先は中国らしいとの事だ。調べる機会があったら調べてくれ…」
「…了解」
「…後、唯一キーワードがあるとすれば……」
「"D-Virus"って言うらしいぞ、その生物兵器に使用するウィルスの名前は…」
「……木下臓猿が生んだ物が此処にあるとは…クソッ…」
「…どうする?一応C4は幾つかは…」
「勿論使わせて貰う。忌々しい物をこの世から消さなきゃならんからな」
そう言い、C4を重要箇所に配置していく。
凛湖は此処にある物がかつて真之助の愛する人物を苦しめるものだと知っている。
だからこそ、其れを撲滅するため、可燃性の高い薬品をバラまき、燃えやすいように紙の上に掛ける。
あらかた準備がし終わった後、二人はそのまま研究所から出る。
二人は無言のまま研究所の外、商業船や漁船、巨大な観覧船のある水上都市に出る。
真之助はC4の起爆スイッチを押し、研究所が巨大な爆発を起こして崩れ去るのを確認する。
重要な証拠は手に入れたため、これで任務は終了、後は帰還するのみ。
しかし其れを許すのはその場には居なかった。
「よくもまあ…やってくれましたね…」
「!?」
「………」
突然、声が聞こえる。
凛湖はSCARを構え、警戒態勢を取る。
「我々の一族を根絶やしにする事を厭わず…更には研究を邪魔するとは…」
「…ハッ!冗談が過ぎるぜヴァンパイアの親玉さんよ…ミスターマーカス」
マーカスと呼ばれた声の主は、何処からともなく、コウモリを羽ばたかせ、其れを寄せ集める。
そして、コウモリ達が固まり、人型に変化すると。
表は黒、裏地は赤のマント、高級感漂うダークスーツを纏う美男子が其処にいた。
「お久しぶりですな…ナインヘッドドラゴン…」
「どうも、ロードヴァンパイア殿。あの忌々しい研究はテメェがやってたとはな…今度こそ消滅させてやる」
真之助は九頭竜の構えを取る。それを見たマーカスは鼻で笑い、口を開く。
「ほう…あの時は少し場が悪かったのでね…しかし今は私の時間…」
「たかが人がかなうと思わない事だ!」
次の瞬間、SCARを構えた凛湖は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「アグッ!?」
「凛湖!?」
真之助は後ろを振り向こうとする。しかしマーカスは瞬時に真之助に詰め寄り、掌底を顎に喰らわせる。
「ガッ!?」
「不安要素は徹底的に排除させて頂きます」
本来なら気絶してもおかしくはない。しかし真之助は気力で踏ん張り、マーカスに向けて左手を振り上げる。
「!?」
マーカスの胸元に拳を当て、気で体内の生体電流を一点に集中、それを一気に放った。
「アガガガガガ!?」
「喰らいやがれ!!」
九頭 左竜・雷掌はマーカスの身体全体をスタンガン何十発分の電流が駆け巡る。
ブスブスと煙を上げる中、マーカスは何事も無かったように笑い、真之助を突き飛ばす。
そして。
「ハァァァアアア!」
マーカスの拳は真之助の額に打ち込み、吹き飛ばされた。
続き
ダイダオス「先生…元に戻らないんです…」
真先生「誰だよ!元が誰なんだよ!?」
続け!




