第六話 Battaglia metropolitana sindrome
皆さん、明けましておめでとう御座います(遅い!?)
今年も宜しくお願いします!
炸裂音や金属音が断続的に響き、辺りに薬莢を撒き散らすと真之助、凛湖は全速力で走り出していた。
「nonstop!nonstop!」
「もういやだ!お家帰りたい!!」
何故逃げているのか?
それは後ろから迫る大量の"グール"の群れが居るのだから…。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
車両一台分の横幅を埋め尽くすほどの亡者達が二人を追いかける。
二人は六路線程の広さを持つ場所を横断するように走り、振り切ろうとした。
「クソッ!ゾンビじゃないから走るのはOKなのかよ!!」
「普通ならゆっくりでしょう!!」
文句を垂れる二人は仕方が無く手持ちの手榴弾を二つずつグール集団に投げ込んだ。
「とりあえずドガーンだ!」
そう言い放つと手榴弾が炸裂し、約5メーター範囲のグール達が吹き飛ばされ、薙払われる。
しかしそう簡単には死なず、腕や足を失ってもやり方を工夫しながらゆっくりと進み始め、後方の巻き込まれなかったグール達も続々と押し押せてきた。
「…チクショー!足止めにもならんか!」
「これぞ焼け石に水!」
「的確過ぎて泣けるぜ!!」
再び走り出す二人。
一方その頃。
ポンプアクション独特のコッキング音を響かせ、モスバーグM590の12ゲージ弾が火を噴く。
「ヤッハー!喰らいな、腐れ野郎共!!」
同時に.50 Beowulf弾の重くのし掛かる断続音とマズルフラッシュが辺りを覆い、支配していく。
張とマカロフの二人は上海警察署に向かおうとしていたが、どうにも悪路が続き、比較的被害の少ない地下鉄での移動を考えつき、降り立って見ればグール達の温床となっていた。
マカロフはBeowulfの弾倉を外し、ドラムマガジン型弾倉(40連)を装填する。
「とりあえず吹っ飛べ!」
.50 Beowulf弾という強力な弾丸がグールの身体を泥人形のように吹き飛ばし、薙払っていく。
張、マカロフの強力な武装になす術無くグール達は鎮圧されていった。
「ふっ…是无辜的、无是狗屎(他愛無いぜクソッたれ共)」
「弾切れには程遠いな」
二人は各々、銃の装弾をしながから一言口を開く。
現在、彼等の居る場所は都市部の駅で、幾つも路線があり、乗り換え等で使用されることが多い。
そのため中は広く、デパートの地下等にも通じており、一種の地下街となっていた。
「…さて、どう目指す?」
マカロフがデザートイーグルのスライドを引きながら問いかける。
それは張は何か考えていたのだろうかと言う少し不安げなもの。
すると張はこんな事を答えた。
「…んっ?そんなの無いが?」
ズルッとずっこけるマカロフ。
「だって駅なら電車を動かせば良いだろうな~と思ってたわけさ」
「…おいおい…それりゃねぇだろ」
肩を落とし、泣き言に近い声を発して答える。
そんな中駅のホームに一つの電車が動いていた。
それはゆっくりと人が歩むくらい進んでいるのだ。
「…何かあれ、動いてるぞ」
気が付いたマカロフが一言。
「…確かに、ゆっくりとだが…」
何故その電車が動いているのか?二人は疑問に思いながらすぐ目の前まで近づき、ガラス窓の光景を見る。
何故か車内の電灯がチカチカと切れたり点いたり、壊れているように見えるそれは何やらイヤなことを暗示しているようにも感じ取れた。
そして次の瞬間。
「ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「「!?」」
血みどろのグール達が窓を破り、溢れるように飛び出てきたのだ。
二人はすぐさま銃を構え、グール達に先手を取る。
銃口から散弾と五十口径が放たれ、多くのグールを亡き者に変えていくが、物量の多さに舌打ちをする張は口を開き、マカロフに向かって叫んだ。
「早く逃げるぞ、マカロフ!」
マカロフは何も言わずにベオウルフ脇に抱え、走り出す。
一方の張はその身の切り替えの早さに驚きつつも同じ様に走り出した。
二人は振り向くことは一切せず、電車の進む方の逆側を走り、ホームから路線に降り立ち、全速力で走り去っていく。
マカロフ、張は二~三十分走るとゼェ…ハァ…と息を吐いて膝に手を付く。
多分、全力疾走は久々なのだろうか、日頃のデスクワークと運動不足が祟ったのか…なかなか疲れが取れない。
二人ともどんなに遊んでも疲れ知らずのティーンエイジャー時代をしみじみ思い浮かべ、同時にため息をつく。
「…さて、真っ暗だな」
そう言ってマカロフはベオウルフのハンドガードに着けたタクティカルライトのスイッチを押し、点灯する。
張もモスバーグに予め付けられたライトを点灯させ、その光で周りを見渡す。
「此処で襲われでもすれば一巻の終わりだな」
「縁起でもないことを…まあ事実でもあるが…」
張の冗談とは取れない冗談に若干呆れながらもマカロフは答える。
二人はトンネルの路線上を辿って行きながら辺りを見回すと。
「…ドアだ」
「ああ…」
点検用のドアらしきものがそこにあった。
試しに張がドアノブを捻って見るが、鍵が掛かっているか、錆び付いているか、ガチャガチャと音を立てるだけで終わる。
肩をすくめる張の様子を見ると、当たり前であろうが、開いていないと判断し、先に進むように指を差し、歩き出す。
ふと、張がトンネルの先を見てみると、二つの光が上下に振り回っているのが見えた。
「…何だあれ?」
隣のマカロフに尋ねてみる。
マカロフも首を横に振り、分からないことを示してみると、その光の正体を調べるべく、もう一回見てみた。
「…近付いてるな…」
「ああ。多分生存者か?」
「…だが…何で走ってる?」
二人はその疑問にすぐさま到達した。
男の掛け声と共に。
「そのドアブチ破れぇぇぇぇ!!」
真之助と凛湖はグールの波から逃れるべく数百メーターもの距離を短距離走以上のスピードで走っていた。
一方の張、マカロフはすぐに蝶番とドアノブに照準を定め、撃ち放つ。
轟音が響き、ドアに大穴を空けた後、二人が息を合わせ、強力な蹴りを同時に放ち、ドアをひしゃげる程にブチ開けた。
ドアが倒れてすぐ、二人は中に入り、周りをクリアリンク(内部確認)をし、安全を確かめてから先程のドアを持ち、人一人の隙間を作るように立てかけ、張は声を上げて真之助、凛湖に叫んだ。
「即将上!会死的!?(早く来い!死ぬぞ!?)」
手を差し伸べる張の姿に二人は更にスピードを上げ、ドアまで走り抜いた。
すぐに張は凛湖を掴み、中に入れてから真之助を中に入れる。
そしてドアを閉め、手頃な物を探していると。
「どけ、張!」
マカロフが張をどかし、何やら巨大な機械を持ってやってきた。
「おいマカロフ。ソイツは!?」
「ちょいと上に在ったから借りてきた!其処の鉄骨を上げろ!!」
何も言えなくなった張は鉄骨を持ち、指示された場所にくっ付ける。
そしてマカロフは機械の銃口らしき所を鉄骨に付け、トリガーを引く。
が、軽い音が出て、何かが鉄骨の表面を削るのみであった。
「…あっ…あれ?こうやるんじゃあ…」
「マカロフ!何してんだ、早く!?」
予想外の出来事に使っていた本人も呆気を取られていると。
「…Я использую это,Иван(こう使うんだよ、イワン)」
流暢なロシア語で真之助が語りかけ、機械を取り、トリガーを引きっぱなしにしてから。
鉄骨越しの壁に打ち付けた。
巨大な金属音が辺りを轟かせる中、機械から蒸気の吹き出る音が鳴り、真之助は後腐れ無く、その場に投げ捨てる。
そしてすぐにドアから亡者の群れが獲物を得ようと叩いてくるが、幾重にも積み重ねた鉄骨の前には、ビクともしない。
しばらくすると諦めたのかドアの叩く音が止み、去っていくように音が消え去った。
「…あっーーーーー!人生どれほど逢ったか分からないほどの絶体絶命!!」
突然真之助が叫び、三人がビクリと驚愕させる。
すぐに張が苦情を上げた。
「うるさいぞ!結構狭いんだから静かにしろ!」
対する真之助は。
「だってさ~30分も走ったんだぜ!一瞬死んだ曾祖父さん見えかけたぞ!?」
会ったことのない祖先を口に出す。
「…たく、何処かのヤツを思い出すぜ…」
「俺も其処まで口の悪い奴には身に覚えが…」
張と真之助はお互い顔を合わせる。
そして気が付いた。
「「…うぉ!?」」
「真!?」
「張!?」
お互いの名前を言い合い拳を合わせる。
凛湖とマカロフは何のことやらさっぱりと訳が分からない。
すると真之助から口を開いた。
「前の遺跡調査で紛れ込んだ奴でね。動く石像にショットガンやら蹴りやらぶちかましてたんだぜ!」
「ソレ言うなら機関銃撃ちまくってやがったじゃねぇか」
「あい?そうだったっけ?」
キョトンとする。
ため息を吐き、眉間を押さえながら張は立ち上がってその場を一瞥する。
少しひらけた空間に、錆び付いた螺旋階段が奥にあり、此処から上に上がれると考えられる。
しかし、年数が経っているのか、三つある留め具のボルトが一つ無くなっており、安全性に欠けている。
上を見上げてみれば12~13㎡以上の高さがあり、万が一ボルトが外れて下に落ちれば助かる確率は低いであろう。
(…まぁ、登ってくしかねぇけど…)
諦めも肝心だと考え、一同に見えるように指で階段を差した。
「…あれに登るか?」
「しかないだろ?」
すぐに真之助が返してくる。
張は無言で頷き、階段の手すりを掴んでから軽く揺らしてみる。
案の定、ガタガタと留め具の緩んだ振動音が響く。
それを見た真之助は腰に手を当て、上を見上げながら口を開いた。
「…何処まで耐えられると思う?」
「……大の大人が四人位ならすぐ落ちることはない……予想だが」
「まあ、贅沢出来ないな」
そう言って一歩階段に足を踏み入れる。
ギィ…と金属の軋む音が鳴るが、それに構わず足を段の高さまで上げて滑らせるように次の段に踏み入れる。
それを二、三回繰り返し、手で円を作り、この方法を提案する。
張、マカロフ、凛湖の三人は無言で頷き、立ち上がる。
真之助はそのままその歩行方法を繰り返しながら、HK417を構え、登って行く。
普通ならば10分程度で上り下り出来る高さだが、ゆっくりと階段に負担を掛けないように登るため、予想以上に時間がかかっている。
それは揺れる吊り橋の上で針穴に糸を通す様なもの。
全員の顔は汗を滲ませ、筋肉は乳酸が溜まり、疲労を蓄積させる。
「…いつまで登れば着くんだ…」
マカロフが目に入った汗を拭いながら張に問いかける。
「さあな、そろそろだとは思うが…」
検討がつかない張の言い分にマカロフはドッと疲れが押し寄せて来た感覚に苛まれる。
一方、真之助は口を狭め、呼吸を長く行い、心拍数を押さえるようにする中、微弱ながら下から何か異変を感じさせる。
「ん?」
さほど気には止めず、再度登って行くと更に何か異変を感じ取った。
「…何だ?」
何か巨大で足の速いモノが音を立てて此方にやってくるような気がしてならない。
「………」
此処まで来ると杞憂だと感じがしない。
真之助は自身の直感を最大限に使い、答えを出し、大声で叫んだ。
「走れぇぇぇぇーーーーー!!」
それと同時に補強されたドアが吹き飛び、周りの壁を砂糖細工の様にボロボロと崩しながら、音の主が現れた。
それは蜘蛛の体と蟹の爪を付け足した巨大な化物だ。
タランチュラにも見えるフォルムだが、毛ではなくタラバ蟹の甲羅で覆われ、見るからに刺せそうなトゲがビッチリと生えていた。
それはワサワサと口の触角を動かし、泡を吐きながら広い視野を見渡せる複眼で獲物を探る。
ふと、奥の階段が不規則に揺れているのを確認し、上を眺めると。
「ダァァァア゛ア゛ちくしょう!!」
後先気に出来ない四人が早足で登っているのを見た。
それは、獲物を発見して喜ぶように口をワシャワシャと激しく動かし、壁に向かって走り出した。
その様子を見た一同は青ざめた顔で前に向き直り、更にスピードを上げた。
張は必死な形相で乱暴に問いかける。
「なんだありゃ!蜘蛛と蟹の化物だぞ!?」
「知らん!大方誰かが育てたのが逃げて立派に成長した話にはならんだろうな!!」
「俺達はコントをやってるんじゃない!!」
真之助が二人にツッコんだ。
とっくに階段の耐久力を気にしている場合では無いが、何とか保ってくれたらしく、真之助は階段の先に上開き式の扉を見つけた。
「やったぜ!何とか脱出出来る!」
「四の五の言わずに突っ走る!」
四人が更にスピードを上げ、何とか天井に到達する。
蜘蛛と蟹のキメラは意気揚々に壁と登って来た階段を巻き込みながら引っかけるようによじ登っていた。
「勝った!第三部完」
真之助が何やらフラグめいた事を口走った。
それが奇しくも当たってしまう。
「…ありゃ?開かない?」
「「「…へっ?」」」
この場の筋肉担当、凛湖が拳で扉を殴ったり、離れてからAA-12で撃ったりしてみるが、何故か開く様子が見当たらない。
それもそのはず、何故ならば鉄製の扉のひしゃげさせた部分からは"コンクリート"が見えていた。
「…つまり、どういうことだってばよ?」
「…デッドスペースだ…」
「…何だって?」
張が思い出したように口を開く。それが死刑宣告のように感じ取れた。
「現場の奴が忘れて点検用の通路をそのまま塗り固めやがったんだ…しかも上にもう一つ地下鉄が通ってるから発破レベルじゃねぇと…」
「脱出おろか、壊すことも…」
へなへなと凛湖がその場でへたり込む。
次第に階段の留め金が綻んでいることが分かってくると意を決した三人は下を向き、己の銃を繰り出し。
「とにかく撃ちまくれ!!」
「クソッたれーーーーー!!」
「どうにでもなれや畜生ーーーーー!!」
銃火を放った。
流石のキメラも獲物が牙を向いてくるとは思っておらず、集中的に目や口辺りを撃ち込まれ、今まで体験したことの無い激痛に見舞われた。
そして、激痛を和らげるためか、キメラは瞬く間に大暴れをし、震度4クラスの揺れを起こす。
「うぉう!?」
只でさえ揺れる階段は、今まで保っていた留め具を一本一本、バチンッ!と壊し、振り子や天秤のように振り回す。
「手すりに掴まれ!」
「そうする!」バキッ!
真之助の指示に従った凛湖は手すりに掴まったが、よっぽど錆び付いて居たのか、うまい棒のように脆く折れた。
「あっ…」
「りっ…凛湖!?」
上体は既に手すりを越え、ゆっくりと頭から落ちようとした。
真之助はすぐに手を掴もうとするが、届かないことが判明し、足を伸ばして、凛湖の腹部に抱きつくように捉えた。
「真!?」
張が手を伸ばそうとしても間に合わない。
真之助はすぐさま凛湖の頭を胸元に抱き寄せ、自分が背中側になるようにする。
そして真之助は狙いを定めたようにキメラの顔ド真ん中に突っ込んだ。
何が起きたか分からないままキメラは凛湖を抱いた真之助にぶち当たり、若干脳しんとうの感覚になりながら条件反射的に爪で階段をひしゃげるように掴み。
ガラガラと壁から足が外れ、落下をし始めた。
この時、階段の耐久力に限界が来たため、バキィィィン!という物凄い音を立てながら、張とマカロフは同じ運命を辿る。
そしてキメラが一番下の床に叩きつけられた瞬間、床のコンクリートにひびが入り、更なる崩壊音を響かせ。
「うぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛!」
「畜生ーーーーー!!」
「キャァァァアアア!」
「うぉぉぉぉお゛お゛お゛!」
四人は奈落の底に落ち続けた。
四人が落ち続け、何も見えない中、先に巨大な水音が響いた後、着水した。
「………!?」
真っ暗闇の中、何も出来ないまま水の中に突っ込んだ真之助は体中に圧迫感に見舞われながら、凛湖を抱え込み、右手だけで上を目指す。
真之助は耳元に手を当て、イヤホンマイクに内蔵された水中稼働可能なタクティカルライトを点け、水面が近いことを確認して、飛び出した。
「ぷはっ!!…ハァ…ハァ…ハァ…」
しっかりと呼吸し、肺に溜まった二酸化炭素を抜いていく。
しばらく心拍数を抑え、それから水面を泳ぎ、陸らしき場所に向かう。
凛湖を抱えながら陸に上がり、すぐさま凛湖の口元に耳を当て、呼吸の有無を確認。
何やら気管支から泡の立つ音が聞こえ、呼吸が正常ではないと判断し、真之助は内心謝りながら凛湖のタクティカルベストを脱がし、胸元をはだけさせる。
次に両手を合わせるように組み、左胸の右側辺りに手を置き、すぐに力を込めた。
それを十回、行ってから顎をあげ、喉に舌が落ちないようにしてから口元を自分の口で塞ぎ、空気を送り込む。
それを十回、心臓マッサージと交互で4セット行う。
真之助は手汗握りしめ、段々と落ち着きの見えない表情をしながらも必死で心肺蘇生を繰り返すが、それをあざ笑うがごとく、凛湖の唇が青ざめていく。
「…おい、凛湖…起きろよ…」
心臓マッサージをしながら必死に呼びかける。
心停止してから2~3分までならば九割は助かるものの、それ以降となれば生存確率が下がる。
5分以上経つとよっぽどの事がなければ助かることが出来なくなる。
そうなれば彼女の命は儚く消えるであろう。
真之助は必死に問いかけた。
「…死ぬなよ…お前が死んだら…どうすんだ…」
「生きろよ…生きてたら抱きつくぐらいしてやる…フレンチキス位何遍もやってやる…」
その声は泣き言に近い。
「だから……だから起きろよーーーーー!!」
右手を高く上げてから、拳を心臓のド真ん中に思いっきり叩きつけた。
「…ごぷっ…がはっ…ゴホッゴホッ!?」
凛湖は口から水を吐き出し、咳をしながら胸辺りを押さえる。
「…あっ…」
何が起きたか検討のつかない真之助は呆然としながら目を丸く開ける。
どうやら右手拳がちょうど心臓にヒットして昏睡から目を醒ましたのだ。
「…しっ…真?」
「…ハァーー」
真之助は安堵を浮かべて深いため息を吐き出した。
目が虚ろながら、はっきりと答えられる辺り、もう危機的状況から出られたと思う。
そして凛湖はゆっくりと上体を起こし他の方を向いている真之助の顔を両手で掴み、自分の顔に向ける。
「…何でしょうか?」
「……真…やっぱり大好き!」
発言してからすぐに両手を引き寄せ、真之助は凛湖にキスをされた。
「…フグッ!?」
驚愕を覚え、突き返そうとするが、相手は先ほどまで命の危機を体験していた。
そして自身が「キス位何遍もやってやる」と言う発言に、されるがままとなった。
唇を合わせ、お互いの唾液を潤滑液としながら舌を這わせるように侵入させる。
唾液が泡立ち、舌先で歯茎や上顎、お互いの舌が絡み合うように織り交ぜる。
凛湖の顔が火照ったように赤く染め上げる中、されるがままの真之助はこれ以上の性的興奮を押さえながら金属製の床に爪を立てていた。
「…ぷはっ…」
二人が唇を離すと名残惜しそうに唾液が糸を引き、その場に垂れる。
凛湖の苦しげに呼吸をする蠱惑さに冷や汗と理性の防衛をしながら少し後ずさろうとするが。
「…待って…もう…一回…」
首に両腕を絡め、離そうとせず、更に求め始めた。
一方の真之助は呆れ顔で答える。
「おいおい、これは一回だけだ」
「ケチんぼ~。今度は真之助が~」
「するかバカ」
今度は遠慮なくチョップを繰り出す。
「キャイン!?」
「とにかく…ほら立てよ」
「いやだ~ハグしてよ~」
「……ハァ~…」
顔に手を当て、深くため息を吐いた。




