第五話 Messaggero di Dio e il vampiro
およそ二時間前…
「あっ……あ…」
ガタガタと肩を振るわせ、その光景を見続けるしかない。
「…ア゛ァ…ア゛ァ」
「ヴォ…ヴォォォ…」
「ンゥゥ…ン゛ゥゥ…」
所々破れた衣服は埃まみれになり、まるで浮浪者の様にも見えるが、一つだけ違う点があった…。
千切れた腕や不自然に曲がった足首、そして喰われたと思われる歯形の傷口は…。
"腐食"していたのだ。腐敗し、骨が見えるほどドロドロに。
「あっ…た…助け…」
男は這って逃げようとしたが、それは願われなかった。
何故なら足首に万力を挟んだような感覚が走り、逃げようにも逃げられないのだ。
恐る恐るその正体を探ろうと振り向いて見た。
「……ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!」
彼の最後の光景は…血まみれの口元と、一度噛みつけば毟り取れる程鋭くなった牙であった。
「ギャッハハハ!見ろよあのオヤジ!!ジタバタもがいて死にやがったぜ!!」
「クソ婆が子鹿のようにブルブル震えてんのは笑えるぞ!!」
「アッハハハ!サイコー!」
ビルの窓から阿鼻叫喚の惨事を酒を片手に鑑賞している集団がいる。
それらはヴァンパイアの下層に属するスードラ達であり、本来は主であるロードヴァンパイアの使役される立場であるが…。
彼等には使役される首輪が無い言わば「野良」であるが、ロードから供給される血液が無い限りすぐに死に絶えてしまうが、そういった物が見当たらない。
すると、一人のスードラがバックから携帯注射器を取り出してから首筋に刺し、中の液体を注入する。
そうしているとスードラの顔は快感に満ち溢れ、口を半開きにして満悦な気分を味わう。
「良いぜ…、このイクシオンって奴は…」
「ああ、雇い主の部下にもそれを使ったらしいが…悪くねぇな…」
「其処の女にもヤりながら打ってみたらよがり狂ってイッちまったぜ」
「良いなそれ、俺にも渡せよ」
「ああ、しゃあねぇな」
一人のスードラに渡すと下卑た笑みでイクシオンを手に取り、眺めてから、隣で怯えきっている少女を乱暴に連れ出した。
「いやぁぁぁ!やめてぇぇぇ!!」
「大人しくしろや!極上の快楽に溺れながら生きれるのってサイコーだろ!!」
少女は暴れ、逃げ出そうとするが、大の男でもあるヴァンパイアから逃れることは出来ない。
そのまま外の廊下に連れ出されていった。
「…おいおい、野外プレイってアイツは犬かよ」
「まあ楽しんでるんだからいいんじゃね?」
「「ギャッハハハ!!」」
ツボにハマったように高笑いし、腹を抱えると、突然。
「ギャァァアアア!?」
先程のスードラの断末魔が響いた。
部屋にいる全員はドアを見るが、一人が肩をすくませ、一言。
「締まりが良すぎて千切れちまったのかな?」
「「「ソレサイコー!!」」」
そんな冗談で笑っているところ、何て事もないと判断したらしい。
しかし次の瞬間、ドアを突き抜け、何かがスードラ一人に突き刺さった。
「ガッギャァ!?」
「「「!?」」」
それはヴァンパイアの弱点である心臓を深々と突き刺し、燃え散る身体に助けを求めるが、叶わずに崩れ去った。
残ったのは一本の片刃のバヨネットであった。
唖然とした顔をする三人。
ドアがゆっくり内側に開いていくと、現れたのは司祭服を着た青年であった。
彼は右手に先程のバヨネットと銀の光沢を放つ手斧を持っていた。
「………」
コツ…コツ…と分厚い靴底と床の当たる音が響く。
スードラ達は持っていたFALカービンのクローンであるSA58を手に持ち、青年に向け、撃ち放った。
7.62mm×51ライフル弾が司祭服ごと貫き、臓腑や筋肉を砕いていく。
遂には腕が吹き飛び、ドチャリと生々しい落下音が響くと、青年は膝を付き、そのまま死に伏せた。
「…ハッハハハ!抵抗すると思ってたら意外と素っ気ねぇぜ!!」
「ギャッハハハ!!ウケる!!」
「アッハハハ!」
拍子抜けした三人は口を開いて大笑いし、再度青年の死体を確認しようとした瞬間。
「…死ね、化物共!」
吹き飛んだ筈の腕から手斧の刃の反対側、スパイクの付いたハンマーをスードラの一人の右頬に叩き込む。
メシャリと下顎と上顎が巻き込まれ、頭部と首下が泣き別れる。
何が起きたか分からないまま、二人は三本のバヨネットを腹部に刺され、そのまま上に向けてかっ捌かれた。
「…amen」
絶命し、燃え散っていく光景を見ながらそうつぶやく。
「…どうした?」
「あっ…其処の奴らから連絡が取れなくて…」
通信を取っていたスードラが中級ヴァンパイアのルークに対し、現状を答える。
「…奴らめ…乱交パーティーなぞやってるのだろう…」
「質の悪いスードラ共は嫌いです。やはり我々武装親衛隊【SS】で無くては…」
「…全くだ」
相手方を強く批判し、愚痴を吐いていると通信から若干何かエコー掛かった雑音が入る。
「…何だ?」
それを聞いたルークが問いかけるが、何なのかがさっぱり分からないと首を振りながら答える。
そしてエコー掛かった通信は徐々に鮮明さを取り戻し、答え始めた。
『…我等は…神の代行者…我等が使命は、我等に仇なし、神を冒涜する愚者達を…骨の髄まで討ち滅ぼす事…』
『『『『『Amen!!(エイメン)』』』』』
それは間違いなく宣戦布告。
すぐさま態勢を取ろうとルークは号令を掛けようとした瞬間。
巨大な爆裂音と共にルークの頭は吹き飛んだ。
「ガァァァ!?」
残った声帯が断末魔を上げ、恐らく銀製の弾丸であろうそれがヴァンパイアの身体を燃え盛る松明のように熱を帯びさせて絶命させる。
ルークが殺られる瞬間、スードラは通信機を抱え、遮蔽物に隠れてから震える口で受話器に喋りかけようとしたが。
「此方第一防衛線、只今攻撃を」
強力な弾丸は二発、スードラの左肩と心臓を壁ごと貫いた。
「ガハッ!?」
スードラは気道から溢れ出す血流と水銀によって汚染され、段々消滅する感覚を味わいながら、燃え散っていく。
先程の青年はビル手前にある四車線のハイウェイで己の手斧とバヨネットを持ちながらゆったりと歩いていた。
燃え盛る街をぐるりと見渡し、ばつの悪そうな顔で口を閉じていると。
「ラキリー神父…いえ、『クロード・D・ラキリーウォーカー枢機卿』」
眼鏡を掛けた男が一人、クロードと呼ばれた青年の前で跪き、答える。
「我等ヴァチカン法王庁埋葬第零課【パラディナス】、総勢六十名の武装神父隊を結成出来ました!」
「…ああ、ご苦労。それでは」
クロードば踵を返し、その光景を見る。
其処には、刃渡り80~90㎝の両刃投擲剣とクリス・スーパーV"ベクター"を持ち、深々とフードを被った神父達の軍隊であった。
「…聞け。我等が使命は何だ?」
クロードから発せられる声は全員に届き、口を揃えて答える。
「「「「我等が使命は!神の代行者として、愚者達を討ち滅ぼすこと!」」」」
「ならば進め!亡者共に鉄槌を!!裁きを我等が下すぞ!」
「「「「Tes.(テスタメント)!」」」」
代行者達は行進し、その巨大さを示す。
そしてクロードは手斧とバヨネット合わせて交差させ、自分達のシンボルである十字を作り出した。
これがヴァチカン法王庁埋葬第零課【パラディナス】である。
ヴァチカン法王庁埋葬第零課
ヴァチカン市国内に存在する非公式の組織。
彼等は言わば"神の代わりに仇成すものを狩る集団"だが、不死者や化物も神が創造したものであり、それらを滅ぼす事は良しとはしない。
が、彼等は神の名を一時的に借りて滅ぼすルーン系魔術を行使するのである意味"神罰者"でもある。
主にケブラー繊維やカーボンナノチューブを織り込んで造られたフード付き司祭服を着込み、洗礼魔術で造られた書本から剣や銃を取り出す。
その中でも、若くしてヴァチカンの枢機卿に選ばれた「クロード・D・ラキリーウォーカー」は、スパイクの付いたハンマーとアックスを組み合わせた一体型トマホークとチタニウムとオリハルコンを合金化したバヨネットを持つ。
そして自身の身体を改造し、生物工学の粋を集めて作り出された「自己再生能力」と「回復増幅」「形状記憶能力」、そして強固なサイボーグ用人工筋繊維による怪力を武器に戦う「聖騎士」である。
一薙、二薙、短機関銃やアサルトライフルを撃ち放つスードラ達はバヨネットと手斧によって身体中を切り裂かれ、燃え散らしていく。
死者のグールは小間切れ肉となり、襲われる前に消滅していった。
「なっ…何なんだよ奴らは!?」
恐れながら、銃の引き金を引き続ける。
武装神父達はケブラー繊維を使用していても、次第に綻び、服の隙間に銃弾が入り込んで自身の命を落としていく。
しかし、彼等から恐怖や憎しみは感じられない。
たとえ隣の仲間が倒れ伏せようとも、立ち止まる事無く、淡々と無表情にアンデッド達を"地獄"に送り返す。
「…死ね。この世の理から外れし者達よ!伝説の彼方に…」
幾本もの手斧が回転しながら投げ放たれ、グールやスードラの身体に突き刺さり、大規模な爆発を起こした。
それを見たルーク達はイクシオンに似た注射器を手に取り、首元に突き刺してから中身を注入した。
「…行くぞ、我等の新しき力を見せてやる!」
そう言うと、ルーク達の腕を頑丈な鱗に覆われ、指からは刃のような爪を生やす。
「……ハァァァアアア!!」
そのまま駆け出し、クロードに凶刃を向けようとした。
「…チェストォォォォォオオオ!!」
が、巨大な影が四つの光刃を振るい、四枚下ろしと化した。
切られた断面から肉の焦げ付く匂いがほとばしり、灰となる。
間を置く暇も与えさせず、巨大な影は右二つの光刃を回転させて振りかぶり、ルーク達の身体を切り裂いた。
「…他愛無し」
それは光刃を納めてから懐にしまい、振り向く。
そいつは白を基調とした長身のサイボーグで、四つの腕をつなぎ合わせ、二本に変える。
「ラキリー、背中を見せるのがポリシーなのかな?」
「ふっふっふ、別にドMという訳じゃないぞ、グリーヴァス」
グリーヴァスと呼ばれたサイボーグはやれやれと肩を竦ませて表現する。
「さて、我が隊も揃ったぞ。進軍開始かな?」
「いいや…」
勿体ぶりながら後ろを振り向き近くの建物を差す。
と。
「ギャァァァアアア!?」
窓ガラスを突き破り、そのまま道路に刺さった鉄パイプを焼き魚の串のごとく身体を突き破り、灰となって消え去った。
「…薩摩の首切り武者のお出ましだ」
薩摩の首切り武者と呼ばれた青年こと「島津豊久」は得物の野太刀とブロードソードを鞘にしまい、肩に背負ってから窓から飛び降りる。
10㎡以上ある高さをそのまま車のボンネットにメキメキと壊しながら着地し、地上に降り立った。
格好は帷子を二重にし、司祭服を前開き、乱暴に着込み、どうもこんにちわと言いたげにクロードに詰め寄る。
「よう、オイの獲物は何処か?ソイ等は打たれ弱っ~て飽き飽きじゃけん」
「すまないな、豊久。だがヴァンパイアは普通の人間より強いんだがな…」
「ばってんクロードよ~。骨のある奴の首を狩んのが仕事じゃろう?」
「………」
笑顔のまま眉間を震わせ、何も答えられないくらい呆れかえるクロード。
仕方がないと見たか、豊久に手で勝手にしてろと言わんばかりに降る。
それに感づいたため、急ぎ足でほかの場所に行った。
「…良いのか?」
心配気味にグリーヴァスが問いかけるが顎に手を当てて一言。
「どうせすぐに帰ってくる」
それにグリーヴァスは納得した。
「我々は仕事が終わり次第、此処から去る。いいか?」
「ああ、カーディナル」
そう言って進軍開始しようとした矢先。
「うぁぁぁあああ!?誰か助けてくれ!!」
路地裏から叫び声が響き渡る。
「…今のは?」
「多分偵察していた神父だ」
「ならば早く行かねば」
二人はすぐさま声のした路地裏に向かう。
其処は凄惨な状態であった。
千切れ飛んだ手には服の裾が付いており、それが司祭服の断片だと確認出来る。
顎を砕かれ、ダラリと下がった舌と上顎が露出し、ピクリと動かなくなっている。
其処には化物がいた。
ヌメリと粘着質の体液を垂らし、身体が照りを見せる。
それは四つの蜘蛛のような足を生やし、腹からは幼児位の腕が付いていた。
背中はその腕よりも太く、鎌のような物を突き立て、一人の神父を刺し殺した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」
一人の神父がクリス・スーパーVを撃ち込もうとするが、もう一体の化物に腕を刺されて防がれ、頭部を腹の腕によって握り潰された。
「■■■■■■!!」
この世の物とは思えない雄叫びを上げ、下顎が二股に分かれ、断面の牙を露出させると、弾けた頭部をくわえて啜りだした。
「…!…!…!」
ビクビクと痙攣するが、段々と動きが鈍くなり、しまいに動かなくなると飽きた玩具を捨てるように死体をゴミの山に投げはなった。
「……■■■■■…」
化物達は次なる獲物を吟味するように歩き出す。
そして彼等が見たモノは。
「AeeeeeIiMeeeN!!(エ゛ェェェイ゛ィメン゛ッッ!!)」
怒濤の形相をしたクロードが手斧とバヨネットを振るい、眼前に自分達を映す刃を見た時であった。
化物の首を薙払い、身体中をかっ捌いていく。
「■■■■■■!?」
血管らしき場所から体液を撒き散らし、鎌を振るおうとしても手斧の一振りで両腕を斬り飛ばす。
「■■■■■■■!!」
腹の腕を伸ばし、抵抗を試みようとするが顎に鉄拳が入り、強力なアッパーカットを放った。
「■■■■■■!?」
上に突き上げられ、下に落ちようとした時。
「…ジャッジメント!」
十字に斬り裂かれ、塵となって消え去った。
「…次に消え去るのは誰だ?」
クロードは手斧とバヨネットの刃を擦らせながら答えた。
そして彼は走り出す。
「死を与えよう…エ゛ェェェイ゛ィメン゛ッッ!!」
恐怖を知らない筈の者達に恐怖を与えるため。
クロード・D・ラキリーウォーカー
CV 櫻井孝宏
?歳
ヴァチカン法王庁埋葬第零課【パラディナス】のリーダーであり、ヴァチカンのエース。
スパイク付きのハンマーと分厚い刃の一体型トマホークの手斧と峰にソードブレイカーを付けたバヨネットを扱う。
魔術と科学の融合により、再生と回復、形状記憶を持ち、サイボーグ用人工筋繊維を埋め込まれているため、パワーに関しても折り紙付き。
普段は優しいらしい。
グリーヴァス
CV 後藤哲夫
武装神父隊の一人。
白を基調としたフレームのサイボーグであり、腕が二つに割れ、四つに増やせる。
光刃のフォトンセイバーを使用する。
意外と温厚。
島津豊久
CV 鈴村健一
薩摩の首切り武者。
具足と司祭服を羽織り、戦場に出るバーサーカー。
己の身丈と同じくらいの野太刀を振るう。




