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第一話 一年遅れの二年生


桜が咲き乱れる季節。


別れのひと月から出会いのひと月に移り変わり、学校もまた、入れ替えの季節となっている。



新暦2030年…。


ある人はケネディ大統領暗殺事件の全容が見れる年と言い、またある人は日本製コロニーに移民完了して一年たったと言う。


そんな年の関東圏、埼玉県春日部に住む青年の話だ。






ジリリリリリリ!


目覚ましのベルが鳴り響く中、布団から腕が伸び、スイッチを押す。


「……グゥ…」


目覚ましの上に乗った手は、その主の眠りと共に、ぶらりと力が抜けて垂れ下がる。


そして一桁位の時間が過ぎ、布団から飛び起きた。


朝6時45分。


「……少し寝過ごした」


彼はそう呟き、パジャマを脱ぎ、トレーニングジャージを着て、部屋を出て行く。


部屋から階段を下り、玄関に向かうと、シューズを履き、玄関のドアを開け、外に出る。


朝靄が漂う中、軽くストレッチをして足と腕を伸ばし、軽い歩調で走り出す。


リズムとテンポは一定に、両腕を振るい、呼吸もある程度の間隔で行う。


端から見れば只の運動好きなランナーだがアスリートから見れば、トレーニングの範疇を超え、本番レベルの運動を為していると言われるほどである。


それから約30分後、町内半径20㎞を走破して帰ってきたのである。


しかし彼は陸上や水泳といったスポーツをするアスリートではない。



帰宅するとキッチンからバターの焼ける香りが漂ってきている。

どうやら誰かが起きて、朝食を作っているところであろう。


青年はニヤリと端と端を吊り上げ、抜き足差し足でキッチンに向かう。


其処には幾分あどけなさを残したポニーテールと水色のエプロンを着ける少女がいた。

フライパンで、目玉焼きを焼き、ソーセージを沸騰した湯に入れている姿を確認し、青年はそのまま、首もとに腕を絡ませ。


「…ふっ~」


耳元に微弱な息を吹きかけた。


「ひゃうん///!?」


少女はビクッと感電したかのように震え、嬌声を発してしまう。


ケラケラと笑いながら青年は腹を抱えた。


「……んっ真兄!何してんの!!」


「あっ…いや…つい…」


「もう!また敏感になりかけたじゃない!!」


「…開発は順調…」


「じゃねぇよ!バカ真兄!」


少女が戸棚からH&K MP7を取り出し、青年に向け、撃ち放った。


「ちょ!?止めてすみれ!痛いのは勘弁!」


「痛い云々の前に死ね!」


キッチンが銃痕だらけになるなか、青年は防弾製椅子を盾に後退していく。


「悪かった!もう今後はいたしません!」


「もうそれは六度目じゃい!」


「あの時は同意の上だろ!」


「同意なのはブラの下と言ったでしょうが!直接触れて良いと言ってない!」


「それは事実だ!しかし妹の成長期の乳房をこの手で計りたいという兄の気持ちも分かってくれ!」


「分かるか!!分かってたまるか!!」


遂にはモスバーグ M500も取り出し、散弾霰が降り注ぐ結果となった。


青年こと、宮本・真之助と妹の宮本・すみれの兄弟喧嘩(一方的)の始まりである。





そんなキッチンの前のドア付近で煙草を吹かし、壁に寄りかかる中年男性がいた。


「…あなた、何してるの?」


兄弟喧嘩の騒ぎで起きてきた女性が待機する男性に向かい質問をする。


「…兄弟喧嘩の一部始終を観察中」


「…また修理費が…」


「俺が働いて稼ぐよ」


「あなたはいつも頼もしいのね…」


「大黒柱が頼もしくなかったら悲しいだろ…千紗英」


男性こと宮本・孝司は妻の宮本・千紗英に言い聞かせるように答える。


だが、このままではいけない。


「それじゃ…」


「…鉄拳制裁と行きましょう」



その後、よく響く音が二つほぼ同時に聞こえた。



「…全く…今日は始業式だと言うのに朝っぱらから喧嘩は無いだろう」


「父ちゃん、俺が一方的にやられてたの見てた?」


テーブルに四人、ハムエッグやソーセージ、トースト、缶詰フルーツ入りヨーグルトやサラダを適当に食べながら、会話をしていた。


すみれには一個、真之助には三個のたんこぶが出来ており、ばつの悪そうに食べる。


「…それで、すみれ?」


「なに?母さん」


「…胸の件だけど…」


喧嘩時の会話で気になる所を指摘する、母千紗英の言葉に、一筋汗を流して、小さく呟き始める。


「…あれは…只の気の迷いだったの…友達と喧嘩して、ムシャクシャしてたから…」


「…ムシャクシャしてたから?」


「そのまま真兄に『ブラ越しで触っていい!』って言っちゃったの…」


モジモジと顔を赤らめ、一言ずつ答えてゆく。千紗英にも心当たりがあるのか「ああ…」と口を開いて同意すると、またもや問題が発生した。


「さっきのには…誤解があって…幾ら触れるからって…ブラ越しじゃあ、可哀想かな…って思って…」


「…直接…いい…て言ったら…」


「言ったら?」


一呼吸置き。


「鷲掴みしてきた」


瞬間、千紗英はどこから抜き出したのか、ミネベア 9mm機関けん銃の銃口を真之助のこめかみに突き立てた。


「………何か話が読めないのだが…マイマザー」


「…直接までは何とか許そうと思ったのよ…まさか鷲掴みとは思わなかっただけ…」


「…それも誤解だ。左手の手錠がいきなり外れて転んだら…掴んじまったのよ…だから事故で…」


「事故ね…だったら切腹しなさい。介錯はアナタがしてちょうだい」


「さり気なく夫を巻き込むとは…恐ろしい主婦だぜ」


「あまり手に入らんミネベア製を持った主婦って聞いたこと無いのですが」


殺られると思い、防弾繊維で出来たバッグを取り、バターを塗られたトースト二枚にソーセージ、ハムエッグ、サラダのレタスで即座にサンドイッチを作り上げ。


「行ってきますーーーーー!!」


水筒に麦茶を入れ、そさくさと逃げていった。


「…逃げられたわ…」


「…タイムが六秒縮まったな…」





家の近くにある駅に直行し、改札口にある認証板に手を押し当てる。

認証され、改札が開くと、ゆったりとした足取りでホームからやってくる電車を待つ。

そんな数分間の暇の中、バッグからライトノベルを取り出し、足を組んで読み始める。


タイトルは「アウトブレイク」と言い、最近の主人公が弱キャラ物ではなく、元特殊部隊の退役大尉で、身の回りの物から知り合いの私物のライフル、ショットガン、米軍で置き去りにされたライフル等を使い、ゾンビやら意図的に作られた生物兵器と戦う物である。


只マイナー過ぎて本屋には置いておらず、直接作家に直談判して、何とか回してもらって居るのだ。


そうこうしている内に、学校近くに行く電車がホームに入って行くと、真之助はしおりを挟み、バッグに仕舞ってから入り口前に並び、ドアが開けられたのを確認し、電車の中に入って行った。





時代は変わっても、満員電車は何時でも起きることを改めて再確認出来る。


しかも、両隣には女子高生とスーツ姿の女性が立っているところ、疑似ハーレムを味わえるという妄想より、万が一何処かに触れたら痴漢扱いされる可能性に悲しみを覚える。


しばらく経ち、車内アナウンスから自分の目的地近くの駅に停まると伝えられ、そさくさと出入り口ドア付近まで掻くように進む。


アナウンスから停車を勧告されると、ドアが開き、雪崩のように人の波が真之助の背中を押し、為されるがまま、ホームを出て行った。



「………」


「よっ、真之助」


「………」


「人間津波にあったのか…」


「………」(コクッ)


真之助と同じ制服を着た男子生徒に力無く頷き、意志があることを見せる。


「まあ、しゃあない。まだバイク通学禁止中だし、あと一か月我慢だ」


「我慢できるか!和彦」


和彦と呼ばれた男子生徒は肩をすくめて苦笑する。


彼は二宮和彦。真之助の悪友であり、とある理由で一緒に付き合いだした親友でもある。


ちなみに真之助は自転車で通学していたが、春休み中二宮に貸したら追突事故を起こし、本人は軽い怪我程度だったが、自転車は原型を留めていなかった。


一応保険には入っており、丁度大型自動二輪車免許を持っているのでバイク通学をしようとしたら、約2か月の間バイク通学禁止を忘れていた。


「気にはしてないが…正直辛い」


「慣れれば何とかなるさ」


「だって、女子校の奴がわざとらしくくっついて来るんだぜ…」


「…それはラッキーと」


「触れたら痴漢冤罪被りかねん」


問答を繰り返し、二人は歩きながら校門を抜け、生徒玄関まで向かう。


「第一、そんな触って良いものじゃ無いだろが!」


「其処をなるべく事故に見立てれやイイだろう」


「被害者側が有利なんだよ!」


「だ~か~ら~、そんな嫌だったら混む時間帯の電車に乗らなきゃいいんじゃん」


「んなの無理だろが!」


生徒玄関中の響かせ問答している最中、二人の前に手が遮り、制止させる。


「全く…二人とも、少しは静かにしてくれない?」


その人物は腰まで伸びたロングにセーラー服を着た女子である。


「…立華か」


「二宮君、もう少しは反省の色を見せたらどうなの?あと、宮本君もトーンを下げてくれない?」


「…へいへい、分かりましたよ~」


「ちょっと!こらー!!」


和彦は事をぼやき、その場を去ってゆく。対して立華は怒りながら頬を膨らませ、腕を組む。真之助はとりあえず、一言を言うため、歩み寄って隣まで行く。


「立華、言っとくが気にはしてない。むしろ怪我が無くて良かったと思ってるんだ」


「…でも、あの態度は…」


「ちなみに喧嘩してた訳では無く、満員電車の中でわざとらしい密着ですり寄る女子校生を触るかどうかと言う話だ。ちなみに俺は触らんよ」


「…ますますサイテー」


「…そんな目で見ないで下さい」


ジト目で向けてくる中、両手で遮り、逸らそうとする。


「そういう行動をするって事は、何か後ろめたいことがあるのね?」


「ありません。目からビーム発しそうな目つきに脅えてるだけです」


「脅えるなーーーーー!」






「…と言う訳で、ホームルームは以上だ。明日から授業が始まるから気をしっかり持てよ!」


「起立、礼!」


始業式後のホームルームが終了し、クラスメート達は、友人と話したり、自分の荷物を持って出て行ったりと、帰宅の準備の中真之助は机に頬杖をつく。


すると目線の中から和彦と立華の姿を確認し、そちらに移す。


「真之助~ゲーセン行こうぜ!新台出てるとよ」


「例のマジロボ?」


「ああ!!リニューアル版だから調整されてるぜ!」


「好きねぇ…その情熱を勉強に集中したらどお?」


大の格ゲー好きの和彦の姿に呆れを覚える。が、しかし…。


「じゃあ、立華は即刻家に帰って予習やってればイイじゃねぇか」


「わっ…私も行くわよ!誰が行かないって言ったの!!」


「はぁ~、だったら素直にそう言えば良いだろ」


「それは…。とっ…とにかく!私も行きます!!」


「ハイハイ、それじゃ早速」


「あ、その事なんだが…」


ゲーセンに行こうとする最中、真之助は其れを制止させて、両手を合わせて頭を下げた。


「すまん、今日はバイトだ!」


「マジかよ…」


「また埋め合わせする」


「分かった、まあバイトじゃしゃあないな」


流石に理解したのか誘いを断った真之助の肩を叩いて、「気をつけとけ」と言葉を添えた。

真之助も申し訳無さそうに謝りながら、教室を出て行く。


「…さて、どうする?」


「…いっ…一緒に行くのはイヤ?」


「とんでもない!オールオッケーです!!」


サムズアップで答えた。



校門から出て、直ぐの所に一台の軍用車両が止まっている。


日本車のメーカーが自衛軍(憲法改正により、防衛中心の日本自衛軍に再編成された)向けに作った「ガンビット」と呼ばれるハンヴィーである。


真之介はその傍まで歩き、辺りを見回してから後部座席ドアの取っ手を引っ張り、開けてから素早く乗り込み、ドアを閉めた。


「どうも、ハイキュレーター宮本」


「出来たら学校に来て欲しくなかった」


向かい側に座る白いスーツの男性こと瓜生隆寛うりゅうたかひろにそうぼやく真之介に苦笑しながら、男性は口を開いていく。


「まあ、お仕事の確認のついでに貴方を自宅まで送ろうと思っていた所で」


「ついでかい…」


ついでという言葉にため息を吐く。瓜生はその姿を無視して話をし始める。


「今回は安心して下さい。貴方にとって素晴らしく簡単な仕事です」


「果たして翌日に支障が来ない物がどうか…」


「まあまあ」


真之介をたしなめながら、強固なアタッシュケースを開き、中にある資料を取り出す。


「今回は新宿区のとあるビルに行って貰います」


「ビル?遺跡じゃないのか?」


「ええ、何せ…」



「例の"教団"系の一派が良からぬ魔導書を入手したとの話です」




新宿区にあるビル。


表向きはベンチャー企業が全体を貸し切っている物の、実態は新興宗教の拠点の一つ。


しかしそれが只の新興宗教であれば良かったが…。


「まさかのダゴン系宗派とはな…」


先ほどのハンヴィー内で、真之介白い鎧のような物を着込みながら口を開く。


「ええ、しかもその魔導書は…結構厄介な代物らしいです」


米軍仕様のタクティカルスーツを身に纏う瓜生は問に答える。

其処に更なる疑問をぶつけてみた。


「…例えば?」


「上級までは技量的に無理でしょうが…サラマンダーやブラックドッグ位なら…」


「それは厄介になりそうだ」


武装を進め、必要な物を装着する。


真之介は黒い箱を取り出し、蓋を開ける。其処には銃身をシリンダーまで分厚く造られたリボルバーが収められている。

それを手に取り、シリンダーを外してから黒塗りの.454 Casull弾頭を確認し、元の弾倉に収め、シリンダーを着けてから右のホルスターにしまう。


「…この前のリボルバーでは重力魔導弾グラビティマジックバレットの反動で銃身が弾け飛んでしまいましたが…。今回は銃身をミスリル合金、銃全体を特殊合金で型造りから全て行いました。世界に一挺だけのリボルバーです」


「…前より少々重いが…銃を安定させるには丁度いい。とてもいい仕事だ」


「ありがとうございます。後は貴方仕様のガリルMARを」


「そうする。狭い中の対処法だ…」


都内のビル事情を考慮した装備で瓜生と真之介は階段を上って向かう。




中は只の会社風景。


社員のデスクにはパソコンや資料等が置かれており、至って普通の会社である。


二人は引き出しやガラス戸の本棚などを調べるが、あるのは経理や会社運営上の資料等。ネクロノミコンやらナコト写本の魔導書類は全く見かけられない。


無言で首を横に振るだけで四階建てビルの全域を調べるものの、発見には至らない。


「…カムフラージュにしちゃあ、出来過ぎだな…本当にダゴン系なの?」


「…支部の調査員はあまり頼りになりませんね…」


「まあ、無駄骨位が一番楽だから……ん?」


真之介は社長用のデスクで何かを見つけたのか、中に入り込む。


「何かありましたか?」


「…ああ」


探り出した物を瓜生に見せる。それはノートの紙を一部破って作った端書き程度の物で、六桁の番号が並べて書かれている。


「…どうおもう?」


「…此処の入り口にある四桁で開くシャッターがあります…ただ何故か六桁数を打てる仕組みになってます」


「それじゃあ一か八か…」


二人は入り口前まで降り、パスワード入力のパネルを見る。


確かに六桁打ち込めるが、普段は四桁で行っているはず。


「それでは打ち込んで見ます」


そう言い、六桁の数字を順番通りに打ってゆくと。


ピピッ!


小さい電子音が鳴り、何処かが開く音が聞こえる。

真之介はその音を頼りに一階のフロアを見渡すと、壁の一部にうっすらと線が見える。


恐る恐る壁に手をかけると、取っ手の様なものがあり、其れを持って押し引きをするが開かない。

其処で横に引いてみると、スライドして開いた。


「…bingo」


見つけたのは闇に続く階段。試しに特殊ゴム製蛍光ランプの投げ入れて時間を測り、どれくらいの長さかを調べる。


するとカツンと音が鳴り、ランプが止まったが、光の範囲にまだ先があるように見えた。


「…まだか」


「どうですか?」


真之介の元にやってきた瓜生は階段の中を覗き込みながら問う。


「先があるみたいだ。誰かが来ない内に行こう」


「明かりはどうします?もし我々以外の方々が居たら?」


「サーモビジョンが無いんじゃライト使うしか無い。それに万が一発見したらCQCで対処しよう」


「あくまでも不殺で?」


「場合によっては処理。拳銃やら爆弾持ってたら問答無用で撃ち殺すさ」


気乗りしない気持ちがある中答える。二人は銃の安全装置を解除し、備え付けのウェポンライトのスイッチを入れて辺りを強力な光源で照らす。


一歩ずつ蛍光ランプの転がる踊り場まで慎重に歩いていく。


カツン…カツン…カツン…


無機質な金属音が鳴る中、蛍光ランプを拾い上げ、横を振り返る。


その先には金属製のドアがあり、うっすらと見える部分にサビが浮いて見える。

どうやらあまり出入りされない場所なんであろう…。


サビが中まで廻っているのか、ドアノブを握り、回して見ると、ギギッっと不快な音と共に鉄臭いサビが手のひらに着く感覚もある。


どうやら鍵をされておらず、辺りを見回し、照らしてみると。


「…線路。線路がある」


「近くに地下鉄が通ってますから、予備線か、災害時の避難所でしょう」


「例の都市伝説か…」


「ええ、只一番信憑性の高い噂です」


ライトで索敵すると、一定間隔に立つ柱が見える。


東京の地下鉄には謎の連絡線があると言われている。かつては国鉄時代、都心に核シェルター建設計画も存在しており、政府要人の避難路として密かに造られたとも…。


実際はダイヤ調整として鉄道車両を納める為の格納庫として使われているらしい。


「…で、此処等で終着点じゃねぇよな?」


「それはそうでしょう。あんな仕掛けを施してこんな所を隠したいとは思えません」


「だよな…。それじゃ探すか…」



少し時間が経ち、散策をしていると地下鉄の線路内にある筈無い古びた木製の両開きドアを見つける。


鍵らしき物は見当たらず、慎重に手をかけて見ると、少し音を立てて押すことが出来る。


二人は無言で頷き、ゆっくりと音を立てないようにドアを開け、銃を構えながら侵入する。




其処はまるで教会であった。木製の長椅子に幾つもの長い蝋燭が置かれた燭台が適当に置かれている。


蝋燭の火がうっすらと辺りを照らし、一番奥にある祭壇らしき場所には何人もの人の影が囲んで何やら事をしていた。



真之介はハンドサインで慎重に進むように提示すると、瓜生は其れを応じ、端の通路側に二手に分かれる。



「…………」


黒いローブを着込んだ集団は何やら呟き、儀式をしているようである。銃のセーフティーを外し、その集団に銃口を向けて構える。


「…遂に我等の宿願の第一歩が…踏み出せる…」


ぱっと見リーダー各らしき男が両手を挙げて語ると短剣のようなものを取り出す。


真之介はその集団の隙間からとんでもないものを見つけ出した。


「…嘘だろ…」


其れは子供であった。歳も五・六歳位の幼い少女が祭壇に寝かされている。


今にも短剣を少女の胸元に刺そうと腕を振りかぶり、突きつけた。




その瞬間居ても経っても居られなかった。


ガリルMARを左手で撃ち放ち、短剣を持った腕を弾き飛ばす。

次に右手から長い居合い刀を引き抜き、左側の狂信者二人の首をはね飛ばす。


異変に気がついた右側の狂信者二人は懐を探ろうとするが、頭を数発撃ち抜かれ、仲良く絶命してゆく。


弾け飛んだ腕を押さえ、その場でうずくまるリーダーを一瞥のみをし、真之介は少女の首元に指の第二関節を当てて脈を計る。


「…はぁ…生きてる」


「私は生きた心地がありません」


安堵する真之介に言いたいことがありそうに口を開くが、結果オーライ主義なのか、ため息を一つついて口を開き続ける。


「この男はどうします?」


「…警察に連れてく…訳には行かない」


「まあ、我々はあくまでも魔導書が手に入れば、用済みなので」


「ああ」


刀をリーダーの首元に掛け、刃をちらつかせる。


「…何か言うことは?」


「貴様等!分かっているのか!」


「はぁ?」


「私は自民党(自由民政党)の牧野だぞ!」


男は痛みに耐えながら答える。


自民党と言えば、最近野党に変わってしまったものの、党員最大数を誇る巨大な一派であるが、長らく総理やら大臣系統を出してきた要らないプライドで全体を腐らせた支持率数%の低級政治家どもである。


しかし真之介と瓜生は屁でもない脅しに目を丸くする。


「貴様等!早く私を治療「誰がするって言った?」…どういう事だ!」


口元を釣り上げるが、目は笑っていない。


「私達は貴方を生かすと言われてないので…申し訳ありませんが、証拠隠滅と言うことで…」


「ばっ…バカな!!私を殺せば貴様たちが厄介になるだけだ!」


「あんたみたいなクソ政治家が死んだら少しくらいは綺麗になるだろ?」


今度は目元も笑みを浮かべる。だいぶ怪しい物だが。


「ひっ…ヒィィィィイ゛イ゛イ゛!!」


恐怖が勝っているのか、千切れた腕に目もくれず、太筆で線を書くように、大量の血を引かせながら後ずらすが、真之介の歩調の方が早く、刀を振るい、牧野の首を斬り飛ばした。

バチャリ!と切断面から床に落ち、血の水たまりを作り出す。



「さて…帰る」


「此処はどうしますか?」


「後は処理班に回そう。何せ"死に立て"の死体が五つもあるから、活き活きしてそうだ…」


「…ですね」


少女を抱き上げこの場から去る中、ため息を二人はついた。






車の中でガリルMARの安全装置を掛け、薬室から弾丸を抜き、弾倉を外すと、クッション材入りのアタッシュケースにしまい込む。


ふと真之介は後部座席のシートに寝かせた少女を一瞥。


「安心して下さい。身元が分かり次第、ご家庭に送り届けます」


「…ああ、只」


「只…何か?」


「面影があるんだよ…」


そう一言言うと、前を向き、頬杖をつく。


瓜生はその事に言及せず、運転手として仕事を果たす。



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