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Bullet Returner~遺産回収部隊~  作者: ライオット
第二章 魔都戦乱
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第二章 第一話 シャンハイナイト


中華皇国、上海。


長江河口南岸に位置し、北京に続く経済都市。


人口は約二千万人。その内上海での戸籍を持っているのが千四百万、持っていない外来人口が九百万と、人で溢れかえる大都市である。


巨大な高層ビルが建ち並ぶが、映画や漫画などにもある建物同士がくっ付いた建築物は多々あり、未だ妖術使いなどが彷徨いているとか。


そして何より、此処上海は川を中心に街が建っている様なもので、車以外で船やジェットスキーなどを使うことが多い。


そんな上海にある、とある点心飯店。


時刻は午後六時、真之助達が訓練を終えて銭湯に向かっている時である。



其処では鳥かごに九官鳥といった小さめの飼い鳥を連れてきて買い取りなどを話し合うことも出来る。


その中で、二人の男が飲茶を楽しんでいた。


彼の名は「張・潤發チャン・ユンファ

香港警察の警部であり、香港俳優に似ているらしく彼を「テキーラ」と呼ぶこともある。

一方隣の男はロシア人。


名前は「ウラジーミル・R・マカロフ」。


謎の組み合わせの中、二人は茶と蒸籠の餃子や焼売などを食べながら語り合っていた。




「しかし、初対面なのに飲茶をするなんて初めてだ」


「そうなのか?随分手慣れていたみたいだが?」


「職業柄、臆する事が無いからそんなもんさ」


張は、はみかみながら答えると、マカロフはそんなものと思い、蒸籠の中にある蒸し餃子に箸を伸ばし、辛子酢醤油に浸して口に放り込む。


中身は上海の特産品である渡り蟹の卵で、歯や舌でプチプチと潰れ、中から濃密な味わいが溢れる。


ロシア人は前大戦の影響か、中国もとい中華皇国には民度の低いイメージがある。

しかしこういった飲茶の文化に触れてみると、何となく文明人だと感じる。


そんな思いに浸っていると、ワゴンを押してきた露出の高いチャイナ服を着る少女が空の蒸篭を取っているところで覚めるように顔を上げる。


「…ユンファ、此処は所謂…"いかがわしい"店じゃあ?」


「んっ、上海じゃあよくある店だよ。こういった手合いの店の女の子は間違いなく出稼ぎの戸籍無し(ホワイトナンバー)さ」


「ふむ…」


張は怪訝そうな顔で答えると、マカロフも溜め息混じりに新しい蒸篭の蓋を開ける。



ホワイトナンバーとは。


一言で言うなれば、中国の一人っ子政策により、低所得者達が戸籍記録されていない子供の事を言う。


核家族化を狙った政策であったが、日本同様、高齢者達が多くなり、逆ピラミッド型のグラフを作ってしまう。


そして何よりも、政府の杜撰な調査で、一人っ子でない家族が戸籍記録しないため、結局どれほどの人口なのか検討が付かない結果となった。


中には育てきれなくなった子供を捨てる、中絶手術が出来ないので、産んでから何処かに捨てると、ストリートチルドレンやマンホール孤児も横行し、それを目につけたのが、中国マフィアであった。


まずは、ある程度飯を食わせ、仲間を呼び込み、ある程度の数の孤児が集まれば剪定するように顔の整った子供を性別に分け、"教育"を施す。


出稼ぎに来た若者に関しては、甘い誘惑で誘い込み、日本では摘発レベルのピンクサロンやマッサージをさせる。

美少女ならば男に、美男子ならば刺激欲しさにやってくる富裕層のマダムに。


剪定された孤児は中身を取り出され、家畜の餌にされるとか。

残った孤児も教育を施され、日本やアメリカなどの富裕層に生きたラブドールとされるのだろう…。





(結局は糧とされるのは弱い子供か…)


蒸篭のゴマ団子を一口で頬張り、中身の熱さに思わず驚いて冷えた烏龍茶を口に流し込むマカロフ。


彼もまた、愛するロシアの為に政界にも手を出したが、結局変わらなかった事に腹を立てた事もあった。

本来の共産主義も私腹を肥やす政治家や軍上層の高級官僚達が、社会貢献する者達から共産という利権泥棒を行って更に富を増やしたのだ。


かつてのスターリンならば、その者達を銃殺させ、弱きも強きに変える富国強民のソビエトを戻していた。


「…なあ、ユンファ…我等は無力だ…」


「おいおい、いきなり考えていたと思ったら何を言い出してるんだ?」


「…はぁ…国を変えること…日本の坂本竜馬を子供の時に見てからずっと夢であった…しかし、政界は汚かった…そして軍に入って新しい視点で見れば…結局変えられなかった。私は結局…大政奉還という偉業はなせない…」


ため息を度々ついて語ると、そのまま俯いてため息を吐く。


ふと張はマカロフの飲んでいる烏龍茶のグラスに目がいくと、右手で掴み、鼻の手前に持って行く。

少し嗅いでみると、正体が判明した。


「お前、紹興酒の烏龍茶割りなんて飲んでんのか?」


「…知らん、私は飲まないのでな~」


「ロシア人は酒に強いって聞いたが…」


40度のウォッカをワンアクションで飲むロシア人であるマカロフが比較的アルコールの強い紹興酒を飲んだとは言え、烏龍茶で薄まって居るので普通は酔う手前にもならないだろう。


そんな事を思っていると、張の視界に何か不審な三人組を確認する。

何を話しているかは分からないものの、テーブルに置かれた鳥かごの底に違和感を覚え、茶を飲みながら、ワゴンを押している少女に声をかける。


「すまない、君は日本円分かるかな?」


「えっ…ええ、一番高く買ってくれますけど…」


「それじゃあ、五千円。樋口一葉さんが描いてあるの好きかな?」


張はポケットから折り目の付いていない新札を開いて見せると、少女の瞳に輝きを見せる。


「そっ…それを私にくれるのかな?」


平静を装っているが、尻尾でも生えていればバタバタと振って歓喜して見える。

してやったりと張は顔をにやけさせ、耳元に口を寄せて、呟いた。


『…あの怪しい三人組に色目を使ってきてくれ。反応が鈍かったら身体を擦り寄せて色仕掛けでも…』


『えっ~!あの三人組はヤバいよ!間違いなくヤクザだね!!』


先ほどとうって変わり、拒否を示すが、更に張はポケットから札を取り、少女の開いた胸元に差し込んだ。


『二倍入れても?』


『うー、チップであるよ!』


文句の一つでも言いたいと思っている顔でワゴンを押し、三人組まで向かうと。


「アイヤー!お兄さん達はシュリの好みあるね~!」


満面の営業スマイルで話しかける。


しかし、三人組は不機嫌に形相を歪めて睨みを効かせた。


「あ゛あ゛!何話しかけてくんだよ?」


(ひぃ!?コワイアル!!でも…諭吉さんのために…)

「酷いアルな~、こんないたいけな女の子に怖い顔しないでよ~」


そう言って、一人の男の二の腕を抱き寄せる。


「んなっ!?」


豊満な胸部が二の腕を圧迫し、布越しでも分かるような感触が響くと男は顔を染めて驚愕する。


「私はね~、この店に勤めるのは金稼ぎだけじゃないのよ~、実は結構なエロ娘ある~」


その言葉に二人も驚く。


「本番は店の奥の個室…。延長料金ナシの特別サービスにするから…」


三人は目を合わせ、ゴクリとのどを鳴らす。


「…どうせなら…"4P"はどうアル?」


最後に桃色に染まった唇を小さな舌でなめずる。


男達はすっかりその気になり、鳥かごを持って少女の案内について行った。


「…さて。オ~イ、マカロフ?」


三人組が個室に行くところを確認してから相棒のマカロフを起こしにかかる。


「…スターリン万歳…共産主義万歳…」


「寝落ちてやがる…クソッたれ…」


俯いたまま寝ていることに軽く怒りを覚えるが、先を急いでいるので、立ち上がってその後を追った。





何度か従業員と目が合うが、個室の客と勘違いしたのか、何も言わずに通り過ぎる。

店の奥…潰れた風俗店と思われる作りの部屋に入っていくのを確認した後、服の内側に手を突っ込み、拳銃を二挺取り出した。


「…ふぅ…」


愛銃のM92FSを握り締め、息を静かに吐いた後。


右足で扉を蹴り上げ、準備をしようとする男達の足や腕を撃ち抜いた。


「ガア゛ア゛ア゛ァァァ!!」

「ギャァァアアア!!」

「グガァァァアアア!!」


撃たれた場所を押さえ、痛みを軽減しようとする。

張は銃をしまい、内ポケットから黒い手帳を取り、開いて見せた。


「香港警察だ。大人しくお縄につけ」


三人は悔しがるが、どうしようもなく口を閉じたまま下を俯いた。


「…よし。もしもし~上海警察ですか?俺は香港警察の張・潤發警部だ。すぐに救急車を呼んでくれ」


手に持つPDAで上海警察に連絡し、待機することにした。




数分後、上海警察のパトカー数台が店の前に到着を果たすとすぐに制服警官達が降り立ち、階段を駆け上がっていく。


何の騒ぎかと店の支配人が青い顔で降りてくるが、そんな事もお構いなしにズカズカと進入し、ユンファの捕まえた男三人を連れて行った。


其れを見通していると、スーツ姿の年配が頭を掻きながらユンファの隣にやってきてから、口を開いた。


「よう、香港警察の張・潤發警部殿か。初めまして、李・東玲リー・ドンレイ警部補だ」


「どうも、東玲警部補」


軽い会釈をしてから東玲は三人組の持っていた鳥かごに目をやり、指を差して問いかけ始める。


「なぁ、至って普通の鳥かごだが?」


「そうですかね?例えばこの鳥かごの底…市販品なのに厚くないですかな?」


「はっ?いやいや、鳥かごの製造メーカーは中国中にどれだけあると思ってる?そん中で厚底の鳥かごがあったって…」


「おかしいですよ?だって売り上げ低下のメーカーが続出しているのに、頑丈に厚底するとは思えない…それに、中に空洞みたいな音が~」


鳥かごの底をノックしてから、両手で掴み、回してみると。


「…ビンゴ」


底が開き、中身を見てみると。


「…コイツは?」


入っていた物は、丈夫なビニールに包まれた無色透明な液体であった。


「ヤツらが持ってたとすれば…ソリッドタイプのドラッグか?」


「…ソリッドタイプ…まさか…」


ユンファは一つ当てはまる事を思い出した。


「…まさか、コイツは"イクシオン"じゃないか?」


「…イッ…イクシオン!?」


東玲が驚き、頭を抱える。


近年増加する新型麻薬の一つであり、強い陶酔感と不眠不休で働けるという効果があり、貧困層や肉体労働系に売り捌かれている。

中には強い陶酔感をアップさせ、痛覚遮断や食事を当分摂取しなくとも動ける効果を作り出せるため、反政府ゲリラやテロリストも常用している。


が…それだけの効果に副作用も伴う。



確認された物では、凶暴化し、上位者の命令で攻撃を行うなど理性的行動が取れなくなると言った話がある。


それだけ危険なドラッグにWHOと国連では特殊禁止薬物に認定されたが…。


「未だに発生源が分かってない。ICPOが全力で探してる筈だが…」


「まあ、奴らがイクシオンに手ー出してるのは明白になった。後は三人組を吐かせるんで現場は宜しくお願いします」


「ああ、ケッチョンケッチョンにしてきて下さいや」


ドンレイ警部補はユンファにエールを送るように手を振り、それを一瞥してからユンファは部屋から出ていく。


スタスタと早歩きで店のホールにたどり着くと、机の上に突っ伏し、涎の洪水をさせたマカロフを発見した後、その足取りで席に向かい、起こそうとする。


「お~い、マカロフ。起きろ~」


耳元で語りかけても、肩を揺さぶって見ても、小さく唸るのみで、何のリアクションが無い。

仕方がなく、マカロフの肩を自身の肩で担ぎ上げ、千鳥足の様子で出口まで歩き出していった。





二階の店から階段をえっちらおっちらゆっくりと歩き、何とか外に出ると、マカロフは薄く目を開け閉めしてから前を向き、モザイク掛かった景色を軽く一瞥。


「…んっ…ンァァァ…」


「やっと起きたか」


溜め息混じりに呟いてから置いてある木箱の上に座らせた。


「…張か…」


「まったく、いつまでも寝てるなよ」


呆れて頭を掻きむしり、寝るまでの経緯を説明した。


「…って訳だ」


「かくかくしかじか乙」


未だ酔いが冷めてないらしく、サムズアップでにこやかに決める。

すぐさま握り拳で頭頂部を殴られたのは言うまでもなく。


「とにかく…あんたもICPOの捜査員なんだから仕事しろ」


「ハッハッハッ…飲酒した覚えないがな…」


再度拳骨を食らう。


涙目で頭頂部をさするマカロフを放っておき、ユンファは自分の車であるインプレッサ GC3 WRX STiに乗り込み、エンジンを掛けた後、マカロフに乗るように促せる。


仕方がないと思いながらも、後部座席のドアを開き、ソファーに寝っころぶように勢いよく飛び込んだ。


「う~い…」


「…全く」


何度目の溜め息か分からないほどしたな~としみじみ思いながら、ドアを閉め、警察署に向かおうとした。


そんな時にマカロフがふと顔を上げて一言呟いた。


「…ガンパウダーの臭いがする…」


「…何だって?」


「硝煙…薬莢の銅…ウッドの軋む音。撃鉄の…鐘…」


意味の分からない言葉にまだ酔ってると確信するユンファ。

しかし、その意味がすぐにわかった。


「張、耳を塞げ!!」


「ハァ?」


疑問にはなるものの、言われた通りに両手で耳を塞ぐ。


次の瞬間、隣のビルのベランダから一発のRPG-7弾頭が飛んでいき、数台先のパトカーに着弾し、様々な轟音が辺り一帯を響き渡らせた。


「うおっ!?」


いきなりの爆発に慌て掛けてから後ろを振り向くと、リアガラスに車の一部が突っ込み、巨大なひび割れを造り出す。

それに、口を開けたまま前を向き直り、顔を下に下げた。


「…ああ…俺の愛車が…」


「…気張れ」


マカロフが哀れみを送る中、続いてやってくるのは…。


「了他!!(奴らを殺せ!!)」


先の尖ったライフル弾の硝煙弾雨であった。




中国北方工業公司(ノリンコ)製のAK-47コピー「56式自動歩槍」の7.62mm×39ライフル弾がインプレッサの車体を蓮のように銃痕を作り出す。


AK-47特有のバナナのように曲がった弾倉の弾を使い切り、熱された銃口からはたばこの煙のように細い煙を炊き上げる。


撃っていた五人組は生きちゃ居まいと高をくくり、近付いて行くと…。




ガシャリとガラスを踏む音が鳴ると同時に二挺ずつ違う拳銃を持った二人はガラスの無くなった窓から恐ろしい速度で撃ち放ち、五人組の身体中をぼろ切れのごとく破壊した。


「……它是將死、娘媽(チェックメイトだ、クソッたれ)」


くわえた楊枝を五人組の死体に吐き捨てながら、ユンファは運転席側のドアを蹴破って、外に出た。

一方のマカロフは自身の愛銃「デザートイーグル」の弾倉を交換してから、同じように這い出た。


「ハァ…まだローンが残ってんだぞ…」


「ハッハッハッ…人生そんなものだ」


肩をすくんで答えるマカロフに怒りの視線を浴びせる。

しかしそれを無視して話をし始めた。


「さて、この様子だとまだ居そうだな…」


遠くから五トントラックのエンジン音が幾つか聞こえてくる。


「…武器ならあるぜ」


そう言って後ろのトランクを開け放つ。


「…ふっ。Она идеально подходит Zhang(パーフェクトだ張)」


母国語のロシア語で喋りながら取り出したのは.50 Beowulf弾を使用したM4 Beowulfライフルとピカティニーレールで装着するボルトアクションショットガン「M26 MASS」の二つ。

それを組み合わせ、ボルトを一回コッキングする。


一方のユンファはモスバーグM590を手に取り、ショットシェルを一発ずつ詰めてから40連マガジンのMP7を掴む。


それをスーツの中に着けたホルスターにしまい込んだ。


「…さて、マカロフ」


「うむ…」


「Я иду на войну Gonzo!」

「我要的戰爭奇聞趣事!」

(ガチンコの戦争をするぞ!)


二人は己の銃を持って走り出した。



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