第二話 転校生の彼は阿修羅
アーカム学園都市にある第一区。
此処はあまり宜しくない連中が戯れており、一人で出歩く事所か、数人でも危うい場所である。
そんな危険地区に彼女は数人の男達に囲まれていた。
「あっ…そ…その…」
「かわいいな~、ちょっと俺達とカラオケしない?奢るからさ」
「バッ~カ~、カラオケなんかよりいい店が有るんだぜ、地下なんだけどよ~」
「キャッハハハ!テメェら突っ走りすぎだろが!まあ俺もこんな子と宜しくやりたいですがね!!」
下卑た笑い声を響かせると彼女はビクリッと震え、目元から涙を流す。
「オイオイ、泣かせんなよ~」
「いいじゃん、どうせ後で泣くほどイかせてやるし~」
「それに"コイツ"があれば一気に従順なワンちゃんに大変身だ」
男達は煽るように答え、ポケットから短い注射針の付いたビニール製のスポイトを取り出してから。
「ちょっと押さえてて~」
彼女の首もとの静脈に刺そうとする。
彼女は逃げようとするが、大の男二人、腕っ節に自信があるようで、瞬時に腕と足を掴まれ、羽交い締めにされてしまった。
「やっ…やだ…やめっ……て」
「嫌よ嫌よも好きの内ってな♪」
「何かちがくねぇ?」
「良いんだよ、大体合ってる」
そう言うと、彼女の腰あたりを跨ぎ、膝を付いてから顎を押さえ、首筋を自分の舌で這うようになめずった。
「う~ん、デリシャス!」
「変態だな、お前…」
「何だよ、首って顔や手と違って、性感帯のある所だ…つまり胸やらアソコと違って露出してんだぞ!!」
「…また始まった…。そんなに舐めたいなら早く終わらせろ!」
「へいへい」
ぶっきらぼうに答え、針の先を首筋の皮膚に刺そうとした。
「テメェら、寄って集ってショウジョウバエみたいだな」
後ろから男の声が響く。
「…あ?」
全員が振り向くと、如何にも柄の悪そうな学生がいた。
なぜ学生だと感づいたかと言うと、黒い学ランを前開きに羽織り、シャツなどを着ていた、優等生とは言えない奴である。
其れをみた全員は仲間に入りたいのか?と思い、誘いを掛けることにする。
「ようよう、兄ちゃん。もしよかったら一緒にヤラねぇ?人数居た方が燃えるんだよ」
「…ふっ、人数居るほど燃えるか…それは同感だな」
「…だろ?」
同意したと思い、一瞬気を緩めた瞬間。
「ガチの喧嘩(殴り合い)は多数対一が燃えるぜ!!」
学生は瞬きの間に走り抜け、跨っていた男の鼻を拳で潰すように殴り、上顎や顔面の骨を砕きながら数メートル先の積まれたダンボールの中に吹っ飛ばされた。
「…あっ…れ?」
仲間の飛ばされた所を見ると、鼻が縦に潰れ、何本もの歯が口から飛び出ていた。
そんな仲間の姿を見たとき、二人の男は直感した。
殺さなければ…此方が殺られる…。
幸い仲間は頑丈であったため、脳震盪で済んでいたが、端から見れば死んでるように見える。
勘違いした二人は己の武器を繰り出す。
「…やるぞ」
ミシミシと身体から音が鳴ると、服を破り、巨大な岩石を思わせる皮膚を作り出す。
それはどんな刃物も通さないゴーレムのようだ。
もう一人は壁に付いた鉄パイプを剥ぎ取り、両手で振り回す。
「…ネクストヒューマンか…」
二人の行動から察した学生は一言呟いてから右手と左手を開き、手のひらを合わせた。
「……ちょっと本気出す」
両手から段々と何かが侵食し、金属の装甲を創り出す。
「…寄生化…second!!」
両肩にエンジンのような燃焼装置から火花が飛び散り、両足を地面にかじり付くよう踏ん張る。
そして、繰り出されるのは…。
「ヘル…ダブルクラッシャー!!」
オレンジ色の光と、音速を超える拳速であった。
「…あっ……れ?」
何があったか分からない彼女は辺りを見回すが…何も無い。
只辺りがゴムの擦った焦げ臭い匂いだけである。
ふと、何かが掛けられているのに気が付くとそれを手に取る。
「…学…ラン?」
それに見覚えがある。
そう、彼女が見た学生の着ていたものだ。
よく見れば所々破れていたり、ほつれがあったり等、ボロボロである。
「…かっ…返さ…なきゃ…」
そう思い、彼女は立ち上がり、路地裏を後にする。
彼女こと、「那賀知世子」の不思議な出来事。
翌日、アーカム校にて…。
「…と言う…話…」
「ふ~ん、三人の男…しかもネクストヒューマンを伸しちまう奴か…」
那賀は昨日の顛末を真之助、和彦、立華、ブル、ローガン、凛湖、智夏の七人に相談を持ち掛けていた。
「そんな強い奴が居るなんてねぇ~知らなかったわ~」
凛湖はファイティングポーズを決めてシャドーボクシングをしながら答える。
ローガンやブルは学ランの形状や素材を見て、一つ断言する。
「学ランを見た限り…ウチの物じゃない。すると…」
「このタイプは関東圏で我が校しか使っていない…つまりは転校生では?」
二人の情報を纏め、真之助はとある事を思い出す。
「…確か神戸辺りの商業校であったな~」
「商業校?」
真之助の発言を真っ先に反応したのは浅間であった。
そんな疑問に答えるように、真之助は口を開く。
「ああ、工業用のシステムプログラムやらエンジン新しく作ってインプレッサを峠で走らせたり、あっちじゃ有名らしいぜ」
「…つまり?」
「やるのが実践的。浅草の町工場レベルを普段から、機材も大分揃ってる話」
「ほう…それは魅力的だな」
その事に真っ先に反応するのはローガン。やはり自作のGASを運用するに至ってメカニックには目がない。
しかし、一番食いついてくる筈の人物が居ないことを思い出した真之助はクラス委員長の立華に問いかけた。
「なぁ、委員長」
「…何?」
「蒼鬼の奴は?時間にはルーズじゃない筈だけど…」
「…ああ~」
何かを思い出したのか、立ち上がり全員に聞こえるように答え始める。
「今日、勤めてる工場に新人が来るみたいでね。一時限は自習だから説明したら来るって言ってたわ」
「へぇ…新人か…」
「何でも神戸の商業校から来たらしいの」
全員が其れを聞き、数秒間無言で考え始める。
そして…。
『…へっ?』
疑問文がハモった。
ホームルームが終了後。
職員会議の為担当教師である帯村は教室から出ない事と、節度を持って騒がしくしないことを条件に教室から退出していった。
モヒカン、リーゼント達に取っては守れそうに無い約束だと思いがちだが、統率が取れているので、静かに本やMP3プレイヤーで静かにしていたり、その他麻雀やトランプ等のテーブルゲームを静か目にやっていたりと、普通の高校生である。
そんな中ガラリと前の引き戸が開かれ、現れたのはいつもの無口、無表情な蒼鬼であった。
事前に話を聞いていた連中は疑問に感じながらも、特に気にせず元に戻っていく。
蒼鬼が自身の席に着くと真之助がやってきてしゃがみこんで話し始めた。
「おはよう蒼鬼、一時限は来ないって聞いたが?」
「…ちょっと、此方の都合でな…新人がこの高校に転入するからこっちを先に案内をしようと…」
「なるほど…で、その新人ってどんな奴?」
そう言うと、蒼鬼は少し考えて答える。
「…期待の人物」
ガクッとオチの後の芸人のように肩を落とす。
「そんな事を聞いてる訳じゃない」
そっちか、と相槌してから。
「…人物としてはまだ会ったばかりだ…心理カウンセラーじゃないのに分からないだろ」
「それでも雰囲気とか、話してれば感覚は掴めるだろ?」
「…残念だが、話し方からでは分からなかった…」
「…はぁ…それは難題だな」
どういう対応で接するか、ノーヒントと言うハードモードに考え込む真之助。
こんなエクスペンタブルズな曲者揃いを相手にして来ても対処に困るとは思えない蒼鬼は、とりあえず大丈夫だと言っておく。
「万が一何かがあっても対処できる。それは保証する」
「ああ、問題が"ウチ"に来るからな~」
「容姿は普通だったぞ。まあ作業服のツナギだから何とも言えないが…」
「性格がメイトリックス大佐やらランボーだとかライバックだったらどうする?まだステイサム位なら交渉出来るけど」
「其れレベルは流石にない」
にわかに信じがたい真之助だが、これでも人の見る目のある蒼鬼がそう言うので信じることにする。
そして時が過ぎ、二時限目。
社会を担当する帯村(此処では帯ワンと呼ぶ)は教室に入り、壇上に上がると口を開いた。
「…今日、知っている者も居るとは思うが…我が校の理事長推薦で転入生がやってくる事になった」
辺りは静まり返り、帯ワンはそのまま扉の向こうに喋りだした。
「…それじゃあ…入ってくれ」
その言葉に連動し、引き戸が音を立てて開かれた。
「………」
其処に居たのは、昨日那賀を助けた学生であった。
学ランは着ておらず、Yシャツとズボンのみ。
彼は歩き、壇上に上がってから帯ワンの隣に立った。
「彼の名は『有村昂』君だ」
頭はツンツンとハリネズミのようで、鋭く尖った目つきは喧嘩を仕掛けようとしているようだ。
彼はだるそうに肩をすくませて、立っていると帯ワンは自己紹介を促せる。
仕方が無いと見て、口を開いた。
「有村昂…前は神戸市立高穂商業校で工業科にいた…。趣味は機械いじり、好きな食べ物はラーメンだ」
簡潔にそこらに投げるように答える中、凛湖が高らかに手を挙げてアピールし始める。
その顔は嬉々としていた。
「…四宮、何か質問か?」
此処で聞かなかったら面倒なので帯ワンはやれやれと呆れながら差した。
ハイ!と元気よく答えてから立ち上がり、聞きたい質問をハキハキと喋った。
「昂っちは強いのかな?」
渾名のように呼ばれた有村は何か諦めたように口を開く。
「…どういうので?」
「勿論、喧嘩!ガチの殴り合いさね!!」
そう言うと右手の拳を左手で包み、ゴキゴキと指の関節を鳴らす。
帯ワンは教卓(防砲製)に隠れ、有村は売られた喧嘩を買うつもりで前に出た。
モヒカン、リーゼント達は急いで机でバリケードを作り、一方のPMC学科メンバーはまたかと呆れ果てて傍観する。
「自己紹介する。あたいは四宮凛湖。オーガのハイブリッドさ」
「…なるほど、だから二本の角が生えてるのか…」
「…力には自信があるさね。昂っちはそこんとこどうかい?」
「…俺も…腕っ節には自信満々だ!」
両者握り拳を作り、一歩一歩歩いていく。
そして両者が腕を振り上げ、拳同士がぶつかろうとした。
が、何故か衝撃の類が無く、何かによって掠らされたのだ。
「…っだと!?」
何かに邪魔され、前を見ていると。
「な~にやってんのさ~」
「アダダダダ!ヒタイ!ヒタイ!!」
両頬を摘まれ、引っ張られる凛湖と、其れをする真之助がいた。
どうやらあのストレートを受け流したのは真之助らしい。
「…おい、テメェ…」
「あっ?何だ?」
「人の喧嘩に水差してんじゃねぇ!!」
怒声を浴びせながら右腕を振りかぶり、真之助の顔面に殴りつける。
が、左手で受け流し、手首を捻らせてから引き寄せて、投げ出された。
その際、左手の掌底を顎に受け、仰向けに倒れ伏せる。
「ガッハッ!!」
背中に叩きつけられて肺の空気が一挙に押し出される。
倒された有村は立ち上がろうと腕を上げようとするが、麻痺したかのように動かなくなっていた。
「…グッ!どうしてだ!!」
「無理に立とうとすんなよ」
そう言うと有村の腕を掴み、立ち上がらせてから、近くの椅子を引っ張り、座らせた。
「なっ!どう言うことだ!?」
「う~ん、ちょっと神経の信号を電気で麻痺らせた」
「…電気…だ?」
「ああ、ビリッと来てからの顎に掌底を浴びせた。三半規管もまだ治りきって無いだろ?」
何のことかさっぱりと理解出来ないが、立ち上がろうとしても足がふらつき、滑り落ちそうになる。
そんな姿をニヤニヤと笑みを浮かべて口を開く。
「今の所は大人しくしてくれさ。殴り合いをホントにしたいなら、五限目にでもさ…」
「…グッ…」
悔しく思い、ギリッと音を立てて歯噛みをする。
そして予告された五時限目の時間になった。
今回、有村昂のキャラクター原案を書いてくださったロムスカ王さん、ありがとうございました。
敵キャラ、モブ何でもいいのでキャラクターのアイデア、気が向きましたらどなたでもお越し下さい。




