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「ここが志保のバイト先か。」
「そうだよ。恭ちゃん、メニューはテーブルにあるから決めたら・・・お呼びください。」
私がそういって席を離れようとすると「志保」と恭ちゃんは私を呼び止めた。
「はい?」
「今日のおすすめのケーキと紅茶。よろしく」
「・・・・紅茶にレモンかミルクはつけますか?」
「ストレートで」
「かしこまりました」
恭ちゃんはいつもコーヒーしか飲まないのに・・・どういう心境の変化だ。
その後、恭ちゃんはケーキと紅茶を食べ終わるとレジのところにいた私に「今日は何時で終わる?」と低い声で聞いてきた。
「え。・・・今日は片づけをして、9時くらい」私も思わず聞こえないように低い声で答える。
「・・・・そこのファミレスで待ってるから、終わったら来るように」
恭ちゃんは、そういうと店を出て行った。
「長谷川ちゃん。今の人、だれ?なんというか・・・・迫力のある人だね」
「あ、あの。私の家の隣に住んでいる幼馴染なんです」
「へー、そうなの?ほんとに幼馴染なだけ?」店長さんに冷やかされる。
「ただの幼馴染ですよ~。」私は大好きだけど、恭ちゃんの気持ちは私には分からない。
「そうなの~。さて、もうお客様もいないし閉店しましょうか」
「はい」私はそういうと、表の表札を「本日の営業は終了しました」に変更して、店内の片づけを始めた。
片づけを終えて、店をでたのは9時近かった。私は恭ちゃんから指定されたファミレスに向かう。
恭ちゃんはテーブルの上でパソコンを開いていた。
「恭ちゃん、お待たせ」
「おつかれ。夕食食べていくか?」
「ううん。9時過ぎたら食べないようにしてるから」
「おなか、すいてないのか?」
「お店で賄いご飯食べたから大丈夫」
「じゃあ、何か飲むか」
「うん・・・、じゃあウーロン茶。」
恭ちゃんは注文を取りに来た店員さんにウーロン茶とコーヒーのお代わりを頼んで、パソコンを閉じた。
聞きたいことはいっぱいあるけど、どう切り出していいもんだか・・・考えているうちにウーロン茶が来たので、私は黙ってそれを飲んだ。
私が飲み終わったのを見た恭ちゃんは、自分もコーヒーを飲み終えると「出るぞ」といって伝票を持っていってしまう。私もあわてて、恭ちゃんの後に続いた。
二人で並んで帰るなんてはじめてかも・・・幼馴染といっても、10歳も違うと生活サイクルは全然違うのだ。
「さっきは驚いたか?」恭ちゃんが切り出した。
「うん、いきなり来たから驚いたよ。素になっちゃった」
「たしかに、あの応対のしかたは店員じゃなかったな」恭ちゃんが笑う。
私は恭ちゃんが笑うといつもどきどきするのだ。普段鉄面皮なので、レアものの笑顔は破壊力抜群だ。
「さっき、どうして店に来たときあんな怖い顔をしていたの?」
すると、恭ちゃんの様子がまた変わってこんどはちょっとうろたえている。
「あ、あれは・・・うちの母親と長谷川のおばさんにはめられたんだ」
「はあ?」
「志保のバイト先が男性ばかりで心配~とか、俺の前で話し始めて・・・母親が、私らの代わりに見て来いと言い出したんだ。」
私は、このとき私の気持ちが母親から吉村のおばちゃんに知られているということを確信した。もしやおばちゃん、私たちをくっつける気満載だってこと?
「男の人?うーん・・・店長のご主人がケーキ屋さんやってて、ケーキを持ってきてくれるけど・・・他に男の人っていないよ?」
「俺も、実際店に来て女性ばかりだということに気づいた。母親にだまされるとは思わなかったよ」
もしも、もしもだよ。本当に私のバイト先が男性ばっかりだったら恭ちゃんは、どうしたんだろう。
聞いてもいいかな、聞いちゃえ。
「ねえ恭ちゃん。もし、おばちゃんの言うとおり、バイト先が男性ばっかりだったらどうしようと思ってたの?」
「その場で連れ帰った。」
「・・・・はい?」
「そんな危ないバイト先に志保を働かせると思うか?俺がもっと安全なバイトを探してやるといい含めて、その場で辞めさせるつもりだった」
「き、恭ちゃん・・・なにその過保護っぷり」
「でもまあ、あの店は女性ばかりだし。変な人間が入ってくる場所でもなさそうだ。でもな、志保」
「はい?」
「俺が休みになる日をあとで教えるから、その日にバイトがある場合は必ず電話しろ」
「へ?なんで」
「こんな遅くに一人歩きをさせるわけにいかないだろう?迎えに来る。それ以外の日はちゃんと防犯ブザーを持て。いいな?」
恭ちゃんの口調は、私が逆らうことを許さないというものだった。
~その頃の吉村家&長谷川家の母親たち~
「ねえねえ、順ちゃん。恭一のあわってぷり面白かったわね」
「いつも冷静な恭一くんが、すごい形相で飛び出して行ったわね・・・あれってやっぱり脈あるのかしら。どう思う?弥生ちゃん」
「あるに決まってるわよ。志保ちゃんは、あの鉄面皮息子が唯一本音を見せている女の子なのよ。私たち、いつ親戚になれるかしら」
「楽しみね。私も今のうちから主人を説得しておこうかしら。」
双方の母親は楽しそうに電話で盛り上がっていた。
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志保の恋の行方はいかに・・・・あ。まだ何も考えてない(汗)。
次回からは視点が変わるかもです。




