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調理部の恋愛事情  作者: 春隣 豆吉
Recipe-3:長谷川 志保の照準
7/33

-1.

 私の恋は、3歳からの15年モノだ。なにしろ、物心つくころには既に大好きだったんだから。

 5歳の頃に一度敗北して、高校入学のときに二度目の敗北。

 2度あることは3度あるのか、3度目の正直なるか。


 隣に住んでいる吉村さんの家には、28歳の「お兄ちゃん」がいる。

 この「お兄ちゃん」こと、吉村 恭一くんは、専心館から有名国立大医学部にストレートで合格し、今は同じ沿線にある大学病院に勤務している。

 吉村さんの家は「吉村医院」という個人病院を開業していて、隣に住んでいることもあり、ずっと長谷川家のかかりつけ医としてお世話になっている。

 恭一くん・・・恭ちゃんは、自分が「医院の跡取り」だということを早くから自覚していたらしく、周りの男の子たちが「しょうらいはプロ野球選手」だとか「おれはサッカー選手」などと言っているなか、「俺は家の医院を継ぐから、医者」と言い切ったらしい(吉村のおばさん談)。

 お母さんに怒られて泣いているとなぐさめてくれたし、転んで怪我をすれば吉村のおじさんのところに背負って連れて行ってくれた。文字の練習にもいつもつきあってくれた。

 これで、恭ちゃんを好きにならないわけがない。私はずどんと恋に落ちてしまったのだ。

「きょうちゃん。しほ、きょうちゃんがだいすき。しほをおよめさんにしてくれる?」

 私としては本気の告白だったんだけど、当時私は5歳、恭ちゃんは15歳。

 当然、子供のたわごとだと思った恭ちゃんは、私の頭をなでると「志保。そういうせりふはどこで覚えたんだ?」と笑ったのだった。

 第一ラウンド、敗北の瞬間だった。


 第二ラウンドは、私が泰斗に合格したときだ。

 その頃、恭ちゃんはまだ一人暮らしをしてなくて勤務先の大学病院に自宅から通っていた。だけど医師の生活は多忙で、私はすっかり恭ちゃんを見かけなくなっていた。

 その日、私は泰斗の制服を母と取りに行き早速部屋で着てみることにした。

 紺色のジャケットと紺色ベースのタータンチェックのプリーツスカート。リボンは藤色でブラウスは白。やっぱり紺のハイソックスが合うかな・・・そう思ってクローゼットから紺のハイソックスをだしてはいてみる。

 いそいそと着用して鏡をみると、思わずその前でくるりと回転してしまった。やっぱり中学の制服と違って自分がすこし大人びた気がした。この制服着て、この間買ったばかりのローファーはいて・・・やっぱりスニーカー登校の中学生とは違うよなあ。もっとも、泰斗は制服をちゃんと着てブラウスも白ければ形も決まってないし、靴だってかかとの低い黒か紺の靴、もしくはスニーカーでもいいのだ。

 母に見せようと階下に行くと、ちょうど吉村のおばさんが母とおしゃべりをしていた。

「あらー、志保ちゃん。あら泰斗の制服ね?似合うわよ~」

「おばちゃん、こんにちは。ありがとうございます」

「やっぱり、女の子はいいわね。恭一は学ランだったでしょ~?あれも悪くないけど、可愛くないのよね~。その点、女の子は制服も私服もかわいいしさ~・・・ねえねえ志保ちゃん。うちにお嫁にいらっしゃいよ。」

「え、えーっとお」

 私が困って母を見ると、母はにこにこして見ているだけだ。お母さん、私の気持ちを知っているので、応援しているつもりらしい。

 そんなやり取りをしているときに、うちのインターフォンがなった。


 出てみると画面には恭ちゃんが映っている。 私は制服のまま、玄関のドアをあけた。

 スラリとした体型にクールな顔立ち。メタルフレームのメガネがあまりに似合いすぎ・・・やっぱり恭ちゃん、かっこいい・・・・うっとりしそうになるのを必死におさえて応対する。

「恭ちゃん、どうしたの?」

「うちの母親来てるだろ」

「おばちゃん?来てるよ。呼んでこよっか?」

「悪いな。ところで志保、それ泰斗の制服か」

「そう!恭ちゃん、似合う?」私は思わず鏡の前みたいに一回り。

「ま、制服ってのは誰にでも似合うようにできてるからな」

「もう!!」私が思わずふくれると恭ちゃんは、笑いながら子供の頃と同じように私の頭をぐりぐりする。

「恭ちゃん、髪の毛が乱れるよ~。もう!私、高校生なんだからさ。一緒にいたら恭ちゃんと恋人同士に間違えられちゃうかもよ」ちょっと恭ちゃんの反応をうかがう。

「そんなわけあるか。俺はオトナの女しか興味ないの」恭ちゃんに鼻で笑われた・・・。

「ふうん。じゃあ、私が大人になったらデートしてくれる?」

「志保が大人にねえ・・・。おまえはいつまでたっても子供じゃないのか」

「女の子は変わるよ。あとで後悔しても知らないから・・・あ、おばちゃん呼んでくるね」

 私は恭ちゃんの言葉を待たずに家に入った。自分で言った発言に今さらどきどきしてしまい、おばちゃんに恭ちゃんが呼んでると告げたあと部屋で「わたしったらなんてことを~~!!」と頭を抱えた高校入学直前の一日。

 恭ちゃん、少しは私にどきっとしたかなあと思ったけど、その後も相変わらずの子ども扱いのため、自分の発言に後悔しただけだった。


 そして、現在。

 私が高校入学したのと同じくらいに恭ちゃんは一人暮らしを始め、顔を合わせる機会は減った。そして大学合格を喜んでくれたけど、相変わらずの「妹」扱いで片思いは続行中。

 何人も彼女がいたみたいだけど、母経由のおばちゃん情報によると結婚の気配がないので、私はちょっとほっとしている。でも・・・・どうしたら、恭ちゃんに女性としてみてもらえるのかな。

  高校時代は「予算強奪の長谷川」とか言われてたけど・・・恋と予算もぎ取りは違う・・・ほんと、どうしよう。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


それにしても3歳か・・・自分で設定しておいてなんですが

一途なのか刷り込まれたのか・・・。



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