-3.
私と内藤くんは図書室から外に出た。とりあえず、中庭にあるベンチに座る。
「内藤くん。そういえば今日はバスケ部はないの?」
「今日は休みです。」
「じゃあ夕飯当番?」
「はい・・・でも俺は、さっきはそれなりって言いましたけど、実際はカレーばっかりです。切った形を気にしなくていいのと、ルーさえあれば作れるんで」
「あー・・・」男3人暮らしだっけ・・・質より量か。
「兄たちは俺より料理上手です。特に一番上の兄は、もともと思いつきで動くヤツなんですけど、ある日突然“俺は料理男子になる!”と言い出して、料理を始めたんです。」
「へ~。」
「今や、兄の肉じゃがは母親より上じゃないかと、2番目の兄と話してます」
「・・・すごいね。」
内藤くんの話が途切れて静かになる。
運動部のかけ声や吹奏楽部が練習している音が聞こえてくるだけになる。
「あの川田さん。」
「はい?」
「さっきの話ですけど」
「はい」私はちょっと背筋を伸ばす。
「俺とつきあってくれませんか。」
「・・・・・私、まだ広瀬先輩への気持ちにケリをつけられないの。その状態で内藤くんとつきあう、というのは無理。」
私の言葉に内藤くんの顔がこわばる。
「ちゃんと内藤くんのことを好きな女の子と付き合わなくちゃだめだよ。もてるでしょ?」
そう言って私は内藤くんの正面に立つ。
「・・・・・」内藤くんは黙って私を見たまま立ち上がった。背の高さに思わず後ろに後ずさる。
やっぱり大きいなあ。これは、いわゆる頭ひとつ分というやつですか。
私が160センチだから・・・内藤くんは180超えてるはずだ。
「川田さん。じゃあ心の整理がついたら俺を彼氏の第一候補に考えてください」
「はあ?なにそれ」なんだそれ。
「それとも、年下は彼氏にできませんか?たかが一学年の差ですが」
「えーっと・・・今まで、そんなこと考えもしなかった」
「じゃあ、これから考えてください、川田さん。それまでは仲のいい後輩ポジションでいいですから。」
さっきまでの顔を赤くしていた内藤くんはいったいどこに行ったんだ。もしや、この押しの強さが本性か?
「なんか内藤くん、さっきまでとずいぶん態度が違うんだね」
「そうですか?たぶん、川田さんに自分の気持ちを伝えて気が楽になったんですよ。さっきまでガチガチに緊張してました。」
内藤くんが笑う。
あ、笑うと顔がちょっとかわいくなるんだ・・・私は、さっきまで全然知らなかった男の子の違う一面を見て、なぜかどきまぎしてしまって顔をそらす。
「川田さん。唯さんって呼んでもいいですか?」
「は、はいい?な、なんで??」
「だって俺、唯さんの彼氏に立候補してるんだから、ちょっと特別っぽくしたいじゃないですか」
「というか、もう呼んでるし!!」
「あ、そうですね。ついでに俺のことは裕介くんと・・・」
「呼ばないわよっ!!」
「あ、そうですか。まあ、それはおいおいということで。唯さん、俺と駅まで一緒に帰りましょうよ。」
「はああ?」
さ、帰りましょうと、内藤くんは私を見てにっこりと笑った。
そして現在、内藤くんと並んで帰っている私。
「唯さん。俺、ほんとうはそんなに気長じゃないんですけど、唯さんなら待てます」
「だから、待たなくていいから。違う方向に目を向けなよ」
「ここぞというときの粘りは内藤家の遺伝なんですよ」
「そんなの知らないわよっ!」
やばい・・・普通にこのやりとりが楽しい。私は、たぶんこの男の子と恋をする・・・かも。
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内藤くん、王子と同じ匂いがする・・・