3.ケガの功名
工藤との遭遇の次の日、俺が構内を歩いていると「内藤!」と小野から声をかけられた。
「おはよー、内藤」
「おはよう、小野」
すると小野はいきなり「昨日はごめん!」と頭を下げてきた。
「え?どうして小野が?」
「昨日、歩実につかまったんでしょう??本人からもメールきたし、昨日研究室でも話題に出てたから」
「研究室で話題って?」
「内藤がすごい美人の後ろを下僕のように歩いていくのをみたって。で、聞こえてきた美人の外見が歩実そのものじゃない。もう、ほんっとごめん!私がよけいなことを言ったばかりに内藤に迷惑かけちゃって」
下僕のように歩いてくのをみたって・・・まあ、確かに工藤と並ぶとたいていの男は下僕だ。
「大丈夫だよ。なんかすごいもの見れたし」と俺が言うと、小野は一瞬考えたようだけど、ああそっか、とうなずいた。
「大塚さんの店に行ったのね?」
「そう。・・・工藤も赤面とかするんだな」
「内藤は大学の歩実しか知らないものね。でも、私は大塚さんと一緒のときの歩実が本来の姿だと思うわ」
工藤もそうなんだけど、この二人は互いの話をするときになんとも優しい顔をする。鋼鉄な工藤と冷静沈着な小野は正反対だと思うんだけど、どうして仲良くなったんだろう。
「なあ、聞いていいか」
「なに?」
「小野と工藤って正反対のタイプだと思うんだけど、その・・・どうして仲良くなったんだ?」
「ああ。内藤に話したことなかったっけ。たいした話じゃないけど、立ち話ってのもちょっとなあ。・・・あ、そうだ。この間のお礼に、今度は私がご馳走するから今日の夜一緒に夕飯を食べない?といってもラーメンなんだけどさ。歩実と一緒に行って美味しかった店なのよ。どう?」
「ラーメンは好きだから構わないけど・・・小野と工藤ってラーメン屋行くのか。」
この二人が行くとさぞかし目立つだろうなあ・・・。
「それって偏見だよ。あ、でも歩実の隣になった人は皆一瞬びっくりするわね」
何度かそういうことがあったらしく、小野がふふふと笑った。俺はその笑顔に見とれてしまった。
黒塗りのどんぶりに透明なスープ、中太麺に厚めのチャーシューが3枚、海苔となると、そして煮玉子。
「塩ラーメン煮玉子つき、お待たせしました~」
店員さんがテーブルに置いた瞬間、小野の顔が輝く。
「うう~、これこれ。やっぱりラーメンは塩よね。内藤はしょうゆが好きなのね。知らなかった。」
「そうだな、俺はしょうゆ派だ。それにしても、よくこの店みつけたな」
その店は大学のある駅のメイン通りからちょっと外れた裏路地にひっそりと開店していた。外見や備品は古いものの隅々まで清潔な店内と、女性が店長のせいなのか女性同士や女性一人の客が多い。
「歩実と休講のときにぶらぶらしててお腹がすいたときに、偶然目についたの。おいしそうな匂いにつられて入ったのが最初。今では一人でくることもあるわ。歩実も顔を出してるはずよ」
「俺に教えてよかったの?」
「何か問題があるの?一緒に夕飯を食べるなら美味しいものを食べたいでしょう。で、今一番私が美味しいと思うのがここだから。気取らないのが一番よ」
すると頼んでないのに餃子が置かれた。見ると、店長さんらしき女性がテーブルに来ている。
「はい、おまけ。奏ちゃん、彼氏?」
「違うよ。大学の友達」
「ふうん。イケメンじゃないの」
「そうでしょ?大学でもモテモテよ」
「なるほど、確かにもてそうだわ」そういうと、店長さんは厨房に戻った。
小野のおすすめだけあって、あっさりしつつもコクのあるスープと麺のバランスが絶妙で、チャーシューの味も抜群。餃子も肉汁ジューシーでうまい。
「なあ、工藤と仲良くなったきっかけとかって聞いてもいいか?」
「本当にたいした話じゃないよ?うちの大学って一年生のときは学部関係なく一般教養の授業じゃない。取ってる講義が同じことが多くて、顔を合わせているうちに意気投合したの。
まあ、私も歩実も女の子たちからちょっと浮いててね。私は一人行動好きだからいいんだけど、歩実は容姿を一方的に妬まれてたのよ。ひどい話よね。」
「なるほど。」
「内藤は一年生の頃から華やかだったもんね~」小野は何を思い出してるのかニヤニヤしている。
「うるせー。俺は高校が男子校で、共学が3年ぶりだったんだよっ。ちょっとくらい浮かれてもいいだろうが」
「高校のときも彼女いたんでしょうが」
「いたけど、やっぱり大学生と高校生は違うから」
「それで浮かれっぱなしのまま現在に至るわけね」
イタリアンのときより、小野との会話が弾む。あのときも楽しかったけど、今日のほうが断然楽しい。
俺は工藤にお礼をするべきか真剣に考えてしまった。
読了ありがとうございました。
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ラーメンは塩が好きです。
それはさておき、孝介と奏ちゃん。
歩実のおかげで少し間柄が変化の予感です。




