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調理部の恋愛事情  作者: 春隣 豆吉
Extra recipe:内藤 孝介の軌跡
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2.取調べ

 工藤に従うような感じで連れてこられたのは、大学からちょっと離れたカフェだった。単価がけっこう高いので学生が来ることはめったにない。

 ドアを開けると「やあ。いらっしゃい歩実ちゃん」とメガネをかけた繊細そうな男の人が工藤を見て微笑んだ。

「ちょっと奥のテーブル使わせて」

 歩実ちゃん?「鋼鉄・工藤」を歩実ちゃんと呼ぶこの人はいったい工藤とどういう関係だ。

 工藤は奥のテーブルに座ると、俺にも座るように促した。

「工藤。お前を“歩実ちゃん”と呼ぶ男の人がいるのが俺は驚きだよ」

「それどういう意味よ、内藤」

「それは僕も知りたいなあ」いつのまにか男の人が来て、水を置いてくれる。

「僕はここのオーナー兼マスターの大塚です。きみは?」と俺に向けるこの人の顔は目が笑ってない・・・

「お、俺は工藤と同級生で内藤といいます。今は大学院で勉強中です。」

「へえ、歩実ちゃんの同級生・・・・ということは奏ちゃんとも同級生?」

「そうなの。今日はね、この内藤に話があってここを使わせてもらおうとおもって・・・あ、紅茶ふたつ。」となぜか工藤がしどろもどろになっている。うわー、こりゃめずらしい。

 大塚さんはそんな工藤をちょっと面白がりながらも、「かしこまりました。今もってくるからね」と立ち去った。

「工藤」

「なによ」

「大塚さんって何者?工藤を名前呼びなんてただ者じゃないだろう」

「・・・内藤が奏とどういうつもりなのかの返答しだいで教えてあげてもいいわよ」

 大塚さんがいなくなると、工藤の口調はいつもの鋼鉄バージョンになっていた。


「この間、久々に奏と飲みに行ったんだけど様子がおかしかったの。本人は話したがらなかったんだけど、そこは私と奏の仲だから。」

「・・・無理やり聞き出したな」

「見過ごせるわけないでしょう?さあ、吐いてもらいましょうか。あんた、いったいどういうつもり?」

「お、俺はだな・・・」と話しかけたところに、紅茶のいい香りが漂う。

「はい、お待たせ。ダージリンでよかったかな。それから歩実ちゃん。人に物を尋ねるときは、もっと優しくいかないと。内藤くんだって優しく聞かれれば全部話すのにね?」

 なんか、工藤とはまた違った圧力が大塚さんから出ていると感じるのは俺だけか?

「大塚さん・・・助言はありがたいのですが、優しく聞いてくる工藤のほうが恐ろしいです」

「なるほど。・・・・きみは本当に歩実ちゃんとは友達だけのようだ。」

「もう!!大塚さんは向こう行ってて!!」

 工藤に言われて、大塚さんはふわりと笑って立ち去った。

「なあ、工藤・・・」

「だから、内藤の返答しだいで教えてあげるわ。さあ、どうなの」


 俺は、小野への気持ちを工藤に話した。工藤はバカじゃないので、話を聞く耳を持っている。

「ふうん。内藤は奏のよさに気がついたわけだ。大人になったわね」

「どうして上から目線なんだ」

「だって。内藤が今まで付き合ってた女子って、つけまつげバッサバサで、しゃべり方がちょっと甘えた口調で荷物は持ってもらうのが当たり前、もちろん料理はしたことない。

 ついでに言うなら趣味はドライブその実態は運転しないで連れてってもらうということが好きなだけで、何が食べたいと聞かれれば“なんでもいい~”って言っておきながら、“違うのが食べたかったなあ”って可愛く言えば許されるって思ってるタイプばっかりだったじゃん」

「お前、そんな細かく分析することないだろうが・・・当たってるけど」

 工藤の容赦のなさは昔からちっとも変わってない。こいつは本当に社会人として働いてるんだろうか。

「まあ、内藤が本気っぽいのは分かったわ」

「ぽい、じゃなくて本気なんだ」

「あら、ごめんなさい。過去の行状から疑っちゃったわ。じゃあ、少しだけ教えてあげる」

「何をだよ」

「奏はさ、内藤のことを嫌いじゃないのよ。ただね、今まで友達だったのを、急にそういう目で見られても困るって感じだったわね。“とりあえず手近な存在で手をうつことにしたのかなあ”って言ってたわよ。」

「それは違う!」

「じゃあ、それを奏に伝えなくちゃ。いきなり抱きついて口説いていい?なんてどこの恋愛ドラマよ。まあ、せいぜい頑張ってね」

 工藤は今日一番のそれはそれは黒い微笑みを俺に向けた。


「ここは私が支払うわ」と、工藤が伝票を持ってさっさと立ちあがり、俺はそのあとに続いた。

 大塚さんが「内藤くん。奏ちゃんだって内藤くんが真面目なのがわかればきっと応えてくれるよ」となぜか俺にアドバイスしてくれた。

「大塚さん、よけいなこと言わないでよ」工藤があわてて口をはさむ。

「僕は内藤くん、いいと思うけど?さっきの話だと今は更正したみたいだし」

 俺はどんだけチャラチャラした男だと思われていたんだろうか・・・ていうか聞いてたんですか。

「ところで工藤。大塚さんとはどんな間柄・・・」

「幼なじみで、婚約者ってところかな。指輪はまだだけどね」大塚さんがにっこり笑って教えてくれた。

「は~婚約者ですかあ・・・はあ?婚約者??」

「大塚さん!!」

 この日、俺は真っ赤になってうろたえる工藤という、じつに珍しい代物を目撃したのだった。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


取調べのはずが、鋼鉄・工藤さんの意外な一面が明らかに(笑)。


さっそく番外編のアイデアをいただいてしまいました。

ありがとうございます。

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