1.内藤 裕介の心配事
季節はいつの間にか2学期も半ばで、3年生の大半は部活動を引退した。俺の彼女である唯さんも、調理部を引退し受験勉強の真っ最中で、予備校に行ったり学校での補習授業を受けたりと忙しそうだ。
でも、そのどちらもない日は図書室で勉強して俺の部活が終わるのを待っていてくれる。
休みの日も俺が部活で会えないし、二人で一緒に帰る時間はとても貴重なデートなのだ。
うちの学校の図書室はけっこう広い。蔵書も豊富らしい・・・。らしいというのは、二番目の兄・駿介の彼女である武内が図書委員で、何かの拍子にそんなことを言ってたからだ。
入ってすぐに唯さんを探す・・・あ、いたいた。俺は静かに唯さんのいる机に向かって歩いた。
そっと隣の席に座って「唯さん」って静かに声をかけると、唯さんが「ああ、内藤くん。もう、そんな時間なんだね」と言ってにっこり笑う。
唯さん、まだ俺のこと「内藤くん」なんだよなー。早く「裕介くん」って呼んでくれないかなー。
俺の思惑など全然わかってないだろう唯さんは、向かい側に座っている女子に声をかけた。
「じゃあ、涼乃。私、先に帰るわね。王子はいつこっちに来るって?」
「補習が終わってからだから、そろそろじゃない?」涼乃と呼ばれた3年生の人が答えた。
「あ、内藤くん。私の親友の岡崎 涼乃だよ。涼乃、こちらが内藤くん」
彼女が唯さんの親友の岡崎さん・・・。ていうことは、テニス部の早川さんの彼女か。
「はじめまして、岡崎です。唯ちゃんを大切にしないと許さないわよ」
岡崎さんが俺のことを真面目な顔で見る。
俺が「わかりました」と答えると、岡崎さんはにっこり笑った。どうやら“合格”したのかなあ・・・。
岡崎さんより先に図書室を出て、二人で並んで歩く。
「さっきは、涼乃が変なこといってごめんね。」
唯さんが俺に謝るけど、全然変なことじゃない。親友の彼氏が一学年下で、よく知らない相手だから心配になったんだろうと俺は思ってる。
「全然、変なことじゃないよ。その、俺年下だし」
「確かにね~。社会人になると歳の差ってあんまり感じないらしいけど、学年の差で考えるとすごく開きを感じるのよね」
唯さん、そこは納得しないでほしいんだけど・・・。
「確かに私が無事に大学入ったら、内藤くんが高3で受験生かあ。」
唯さんがポツリという。
「唯さん」
「はい?」
俺は思わず無言で唯さんの手をつないだ。指をからめる恋人つなぎってやつ。
「へっ?」唯さんがびっくりして俺をみる。
「大丈夫。一学年差なんてたいしたことない。だけど俺のほうも心配だよ」
「はあ?」唯さんはなに言ってんだコイツと言う目で俺を見る。
・・・・唯さんって全然わかってない。
「唯さんが大学生になって他の大学の男子と知り合ったりすると、そのとき俺、大学生と比べられちゃうのかなとか、考えるよ」
「そんなこと」唯さんが困った顔をする。きっと俺が不安に思ってるなんて全然考えてなかったんだろうな。
「だからさ、俺は唯さんに大丈夫って言い続けることに決めてるんだ。言い続けてると何か俺のほうも大丈夫って思えてくるんだよね」
「そっか・・・そうね。じゃあ、私も内藤くんに大丈夫って言うね」
唯さんが笑う。それだけで心の中が浮き足立つ。俺たちはそのまま手をつないで一緒に帰ることにした。
「・・・・裕介。手を見ながらニヤニヤするのをやめてくれないか」
駿介兄ちゃんに言われて俺は思わずはっとした。
「俺、ニヤニヤしてた?」
「お~、してたしてた。気味悪いくらい」駿介兄ちゃんに聞いたはずなのに、返事をしたのは孝介兄ちゃん。
「孝介兄ちゃんには聞いてないだろ」
「どうせ彼女と初めて手をつないで思い出に浸ってるんだろ。青いねえ~」
図星をさされて何もいえない俺を見た駿介兄ちゃんが「兄さん。からかうなよ」とかばってくれる。
「へいへい。駿介が怒るとこわいからなあ。お兄ちゃんは黙りますよ。まったく弟二人に彼女が出来て俺だけ取り残されちゃったよ」
「孝介兄ちゃんは、いつも違う女の人を連れてるじゃないか。彼女だろ?」
俺がそういうと孝介兄ちゃんは「お前ね、連れてるからって彼女だとは限らないんだよ」とにやにやする。
「じゃあ何だよ」
「・・・まあ、合コンでお持ち帰りしただけとか。そのあと一回会っただけとか。」
孝介兄ちゃんに聞いた俺が馬鹿だった。俺は駿介兄ちゃんたちみたいな恋愛を唯さんとする。絶対。
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Recipe-6は男の子(一人男の子じゃないのがいますけど(汗))側から書く予定です。




