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魅せられて

作者: 月夜六九

訪れてくださいまして、ありがとうございます。

これは2005年6月に書いた短編です。

途中、読者の皆様を馬鹿にしたような表現がございますが、笑ってやり過ごして、力を抜いて読んで下さいませ。

今日はいい天気だ。


俺は午後の得意先まわりがスムーズに済み、時間の余裕ができたので、自販機で缶コーヒーを買って、たまに立ち寄る国道沿いのやや広めの公園で一休みすることにした。

ベンチに座って缶コーヒーを飲みタバコに火をつけ深く吸い込みゆっくりと吐き出しホッとする。

一日の中で充実する一時である。


公園内はブナの木が目の前やあちらこちらに植えられており、幾人かの小さい子供を連れたお母さんたちや俺と似たようなスーツ姿の男性もいるし若い女性のスーツ姿も見受けられた。

その他、この近所の人なのかここをねぐらにしているのか分からないようなよれよれの服を着た初老の男性に私服の学生らしい女性もおり、みなそれぞれベンチに座ったりゆっくりあるいたりして、自分自身の世界に浸っている。


俺も自分自身の世界の中にひたりボーっとして公園内の人々や風景に目を漂わせていたところ、徐々に前方の一点に集中し、見入っていってしまった。


なんとも魅力的だ。


肌の色は限りなく黒に近いがつやがあり、しわ一つないような滑らかな質感をもっている。そしてそれは、健康的であり全体的にすらりと引き締まったラインを形成している。

そういう面で若々しさを感じるが、軽さはなく上品で、落ち着いた存在感がある。

さらに、凛とした姿で立ちながらもこちらを受け入れ、包み込んでくれそうな優しさも醸し出している。


俺よりも若いのか年をとっているのかは判断しかねるが、それはどうでもいい。

こちらを見ているような感じがしたが、そんな意識はないだろう。

いや、なんだかこっちを意識しているようにも感じられる。ありえない。

ありえないだろうがそう俺は感じた。

俺の中に急激にその肌にその体に顔をすりすりしたい欲望が渦巻いてきた。

前方に立っているそのものではないが、同じような質感を持った肌なら、手で触ったりなでたことは昔あることはあった。

ただ、感触は昔となってしまったのでうろ覚えである。

欲望が沸いてきているが行動にうつす勇気がない。


公園内を見渡すといまだに人がちらほらと点在しており、目線が気になって顔をすりすり擦り付けるなんてことをする勇気は沸かない。

そんな姿を見られたら変な人、下手したら変態と見られるかもしれない。

人目を気にするシャイな部分が俺にはある。


しかし、どうしてこうも魅せられてしまっているのだろうか?

これと同じような格好をしたもの、肌質のものは街を歩いていてもよく見かけるし、この公園内にも見受けられる。

決して珍しいものではない。

むしろ年中見ている。

しかし、同じタイプを見かけてはいるがいままでじっくり見たことがあるかといっても興味を持っていたわけでもないし、人通りの多い場所で立ち止まって真剣に見つめるのも変な風に思われてしまうだろう。

今、目の前に見えているのも外見はよく見かけるスタイルと変わりはないし、中身も分類も同じであろう。

ただ俺は今こうして公園のベンチに座ってじっくり眺めることによって、急にその魅力を知ったのかもしれない。


気づいたのだ。


そうそう、感じたことをだけを先に言ってしまったが、多くの読者諸君は察してくれているだろう。

しかし、中には人間の女性のここと勘違いしていやらしい想像をかきたててしまうスケべな読者諸君がいると思う。

そんな諸君は頭の中でいつもそのような事ばかり考えてしまっているから思考回路がすべてスケべな方向へ行ってしまう恐れがあるから注意したまえ。

まったく困ったものだ。

まあ、多くの健全な読者諸君は俺の気持ちを察してくれていると信じているがね。

それは何かというのを説明する前に感じたことを言ってしまった俺も悪いかもしれないが、念のため説明すると、俺は目の前にあるブナの木に見入ってしまったのだ。


じっくり観ると実に美しいものである。

どこにでもある珍しくない木だが、この木に顔をすりすりさせた事のある知人はいないと思う。果たしてどんな感触であるのだろうか?


俺はタバコを吸い終わると携帯灰皿にいれ、缶コーヒーを飲みながらカバンを持って、ゆっくりとその木に近づいていった。

しかし、俺はシャイで人目を気にする性質たちなので、あくまでさりげなく、ブナの木を見つめる事はせず考え事でもしているかのように、うつむき加減に近づいていった。

木の横に来ると体を反転させ、背中をつけ、木によっかかった。ひんやりとした感触が背中に伝わってきた。

営業カバンを足元に置いて、空いた手でさりげなく木肌を触ると、程よいざらざら感が心地よかった。ここまではいい、しかし、顔をすりすりするのはどうも勇気がいる。

木によりかかりながら、辺りを見回すとちょうどよい具合に俺を視界に入れていたであろう人々がそれぞれベンチを立って、公園から立ち去ろうと背中を見せていた。

今がチャンスかもしれない。

缶コーヒーを飲み干しカバンの上に置くと、俺は身をひるがえし、すりすりと顔を木肌に擦りつけようという体勢をとった。

木を包み込むように両手を木肌に押さえつけ、顔を近づけていった。いよいよ。いよいよすりすりできる。


喜びの瞬間が迫ったその時である。

事もあろうに視界の下方に悪寒を伴った不気味な影の存在に気づいた。恐る恐る目線をその影のほうへ移すと、不思議そうな顔をして、俺の事を見つめている小さな男の子と女の子が立っていた。

あたかも変な人がいるかのように警戒しながらも興味深そうな目だ。

なんで、こんな時に現れやがるんだ。

俺は子供は嫌いじゃないが、悔しくてたまらず、そのときばかりは殺気を持った目で子供達をにらみ返した。

すると、女の子の方が泣き出し男の子はびっくりしたのかその場にへたり込んでしまった。

ざまあみやがれ俺の邪魔をした天罰だ。

俺は悪魔の嘲笑を浮かべ復讐の達成感に浸っていると、突如、

「みよちゃんどうしたの?」

「ケンタまたいじめたの?」

という声が木の向こう側から聞こえた。

時を待たずに母親が二人ぶなの木の向こうから姿を現すと俺の存在に気づき、真顔になって子供に駆け寄り抱きかかえ

「この子に何かしたんですか!?」

とあたかも変態ロリオヤジでもみるかのような軽蔑と恐れをなした目で俺を睨んだ。

「はっ?」

俺は何を言ってよいのかどういう態度をとってよいのかわからなかった。

その場で両手はブナの木にくっつけたまま凍りついてしまった。

どこかでカラスが馬鹿にしているかのように鳴いていた。

「早くここからでていって!」

もう一人の母親は俺にそう叫んだ。


泣きたい気持ちになり、上を見上げるとブナの葉が優しくそよ風になびきながら木漏れ日をチラチラと垣間見せていた。

俺は心の中で叫んだ。

「悪女め、優しい顔して俺を誘惑し落としいれたな」

しかし、そよ風にゆらぐ葉は「そうじゃない」と叫んでいるようにも感じられた。

そして、「人間社会が偏見と邪心でいびつになっているから、私達とのささやかな交流もしにくくなっているのよ、昔はもっと触れ合っていたのに最近はどんどん距離が離れていって寂しいわ」

俺にはそう聞こえた。

「お前も寂しい思いをしているんだな、また近いうちに会いにくるぜ。そしてまた話そうじゃないか。それまで元気でいてくれよ。じゃあな」

俺は心の中でそう話しかけるとうなづいたように小枝がしなった。

唯一俺を理解してくれる心の友を見つけたかのように俺はすがすがしい気持ちになり、偏見に満ちた邪心の母親と木を愛でる気持ちを理解できない鈍感なガキどもを無視して公園の出口へと向かった。


出口の手前のクズカゴに缶を捨て、その場で振り向くとブナの木は寂しそうにこちらを見つめていた。

俺は静かに手のひらを挙げさよならを伝え公園を後にした。

すりすりできなかったのが心残りだった。


せっかく理解しあえた途端に分かれる運命に落ちいった恋人同士のようだ。国道に出ると所々で排気ガスを浴びながらけなげに生きている木々の存在を強く感じ愛しくなったが、かといって何ができるわけでもなく何をすればいいのかもわからず歩いていくうちに、駅のそばまで来た。

空はうっすらと赤みを帯びてきて、俺の頭の中は人ごみの中で現実が目を覚まし仕事の事で徐々にいっぱいになっていった。

主人公の”俺”は、私ではありませんが、似ている面を持っております。

まだまだ、文章表現が未熟ですね。(笑)

読んで下さいまして、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] なかなか面白かったです。 黒猫かなぁとか思いながら読んでたんですが…。まさかブナの木だったとは、意外でした。 こういう恋愛(?)もありなのかもしれませんね(笑) 現実に戻っていく最後の文章が…
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