恋の女神 アイラス 【シナリオ形式】
■概要
受注のシナリオがどうしても上手く書けず、リハビリを兼ねて気分転換に書いた32P想定現代FTのラブコメ。でもそういうのに限ってなんか気に入ったり……?(汗)
ラストはちょっとした考えオチにしましたが、意味がわからなくても楽しめるだろうと思います。また例によってページ割や演出イメージは便宜的な仮の指定です。
■あらすじ
恋の女神と名乗るアイラス天が、男子高校生の金井裕里のところに現れた。が、裕里は「恋なんかしてない」と言い張る。アイラスは、裕里と仲のいい女子、バンドでギターを弾いてる朱鷺田綺音の存在に気付くが、彼女には別に好きな人がいた。そこで裕里の願い事とは……
■主要人物
裕里:
金井裕里。男子高校生。おとなしくて、少し勉強のできるタイプ。
(注:ガリベンタイプではない)
アイラス:
新米の女神。どちらかというとインド風の女神をイメージさせる装い。
髪は後ろで縛り長く垂らしている。
綺音:
朱鷺田綺音。裕里の友達で女子。バンド「アブサラス」でギターを弾いてる
元気なコ。
化学の先生:
白衣の化学教師。
ボーカル:
バンド「アプサラス」のボーカリストで、通称「センパイ」。
[1]
アイラス、満面の笑顔で
アイラス「こんにちは、金井裕里さん」「恋の女神、アイラス天です」
「アイちゃんて呼んでもいいですよ?」
裕里「……」(汗)
窓をはさんで、?階の室内に登校の支度中の裕里と、外で空中に
浮いてるアイラス。
アイラス「あ、信じてませんね?」「ただのイタい人とか思ってる?」
裕里「いや、ただのイタい人は普通、窓の外に浮いてないし。」「で、その
女神様が俺に何か?」
[2]
ありったけの笑顔でポーズを取り
アイラス「あなたの恋を叶えにきましたッ❤❤❤」
T「恋の女神 アイラス」
[3]
通学中で歩いている裕里(すでに時間経過)、アイラスには見向きも
せずに
裕里「別に、恋なんかしてないし」
アイラスは舞うように歩きながらその後を追うが、仏具のような
デザインのコンパクト鏡を手に
アイラス「えー? 恋愛センサーにこんなにピンピンきてるのに?」
裕里、見向きもしないまま
裕里「それより、アイラス天って聞いたことないけど、どこの神様?」
アイラス「こんどできたんです」「天界でも行政改革がありまして、
廃止された部署もあれば、私みたいに新設の天部も❤」
[4]
裕里、ようやく振り向き、不審気に
裕里「それはわかったけど、そんなカッコで目立たない?」
アイラス「大丈夫、あなたにしか見えてませんから」
裕里「じゃあ俺、まるであぶない人じゃないか!!」
通行人A「なにあれ?」
通行人B「一人でぶつぶつ言って、誰もいないのに怒鳴ってる」
キーンコーン……とチャイムの音。そこはもう学校。
稀音「金井~」
綺音はレザーケースに入ったギターを背負ってる。
[5]
裕里の机。
綺音「神話とか詳しかったよね」「またちょっと聞きたいことあるん
だけど……」
裕里(ちょっとどきまぎ)「あ…うん」
綺音「アイラス天って、どっかの神話にある?」
裕里、ドキッ。
裕里「さ、さあ……聞いたこと無いな」
綺音「金井でも知らないんだ……」
綺音、指を口に当ててちょっと考える仕種をして、
綺音「ありがと」
裕里「うん」
軽く手をあげて立ち去る。
裕里の後ろにアイラスが、何かわかったような笑み。
アイラス「ふ~ん」
[6]
裕里、振り向いて嫌そうに
裕里「なんだよ?」
アイラス「あのコにも降りてますね、アイラス天」
裕里「朱鷺田にも? アイラス天て、あんたひとりじゃないの?」
アイラス天「神話に詳しいんじゃないんですか?」「天部の神ってのは、
それぞれ何万柱もいるんですよ」「日本人とかインド人とかロシア人とか
が何億人もいるように」
裕里「ああ、そういえば……寿命もあって転生するんだよね?」
アイラス(胸を張って)「ええ。アイラス天は8万歳くらいと聞いてます」
裕里(あきれて心の声)「天界の行革って、ネアンデルタール人のころ?」
アイラス(問い詰め調で)「そ・れ・よ・り・も」
[7]
廊下。裕里の後を舞うようについて歩くアイラス。
アイラス「そろそろ教えてくださいよ~」「あなたが恋してるのは、
誰?」
裕里「してないってば」
アイラス、困惑して、仏具みたいなコンパクト鏡を見ながら
アイラス「だって、恋愛センサーがこんなに反応してるのに……」
裕里「壊れてんじゃないの?」
アイラス、むっとして
アイラス「神のアイテムは壊れて誤動作したりしませんよ」「あなたは
ゼッタイ恋してます」
裕里、ふたたび背を向けて
裕里「してないってば」
アイラス、後ろから
アイラス「してる」
裕里「してない」
アイラス「してる」
裕里「してない」
アイラス「してる」
裕里、キレて振り向き
裕里「してないっつってんだろ!」
[8]
化学の先生「何をしてないんだ、金井?」
裕里「あ、いや……」(汗)
化学の先生「ちょうどよかった。なにもしてないなら手伝ってくれないか?
教材の準備なんだが…」
裕里「ええ~?」(汗)
化学の先生、真顔を近づけて指を一本出し
化学の先生「報酬として、中間テストに出す問題をひとつだけ教えよう」
裕里「先生、それは不正だと思います」(汗)
化学準備室。裕里はダンボールをどかして教材を探している。(先生は
いない)
アイラス「けっきょく、無償で手伝うんですね?」
裕里「しかたないだろ」
アイラス、メモりながら
アイラス「金井裕里は、頼まれるとイヤと言えない性格、と」
裕里「なにメモってんだ?」
アイラス「仕事の役に立ちそうな情報はいちおう」
と、そこへ扉が開いて
綺音「あれ? 金井?」
[9]
裕里「どうしたの、朱鷺田?」
綺音「化学の先生に用があって……いないんだ。」「あんた何やってんの?」
裕里「その先生に頼まれて、荷物運び」
綺音「手伝おうか?」
裕里「いいの?」
廊下、ダンボールを手に二人で歩きながら
綺音「いつもお世話になってるしね」「作詞のネタとか、テストのヤマとか」
裕里「……わるいな」
[10]
後ろでメモしているのは……
アイラス「金井裕里はテストのヤマと称して情報漏洩……」
裕里「本当にヤマだよ、人聞きの悪いこと言うな!」
綺音「?」「どうしたの?」
裕里「いや、なんでもない」「ところでさっき、アイラス天とか言って
たけど……」
綺音、ボッ、と顔が赤くなる。
[11]
裕里、気付かないように
裕里「恋の女神とかいうやつとちがう?」
綺音「知ってるの?」
裕里、困った表情で目を逸らして誤魔化す
裕里「知ってるような知らないような」
そのうしろでケケケというような表情で笑うアイラス。(注:綺音には
見えてない)
裕里、探るように
裕里「ところで、バンドの練習は順調?」
綺音「あっ、うん」「きょうも放課後だよ」
[12]
二人、話しながら廊下を去っていく
裕里「学祭が楽しみだな~」
綺音「バンドコンクールで優勝したら、何かおごってね?」
裕里「おい、俺がおごるのか!?」
綺音「だって優勝したらさ……」
裕里「ああ、そうだっけ。がんばれよ、……どっちも」
綺音「……うん❤」
綺音、顔を赤らめて肯く。
離れて見ているアイラス。ちよっと嫉妬する女の子のような表情。
アイラス「…………」
(時間経過)
アイラス、不機嫌そうに(まるで浮気を詰問しようとする恋人の如く)
アイラス「なんとなーくわかりました」
裕里「何が?」
[13]
そこは裕里の部屋。
アイラス、問い詰めるように
アイラス「裕里さんは、朱鷺田綺音さんに恋をしてる。そうですね?」
裕里、ぶぶっ、と吹き出す。
裕里「ちっ、ちっ、ちっ、違っ……!」
アイラス(腕をさすって、自信アリ気に)「OK! アイラス天がその恋、
叶えちゃいましょう!」
裕里、キレる。
裕里「余計なことするなっ!」
[14]
裕里、怒ったようにまくしたてる。
裕里「俺は朱鷺田のこと嫌いじゃないけど、付き合いたいとかは考えてない!」
「考えたくないんだよ!」
アイラスは驚いている。
裕里「だいたい、俺は神頼みなんかしてないぞ? 勝手に出て来て人に欲心を
起こさせようなんて、むしろ悪魔じゃないのか!?」
アイラス、大ショック。
裕里を見ながらへたり込む。
アイラス「あ……」
[15]
その様子を見て裕里も勢いを殺がれる。
裕里「あれ……? 言い過ぎた?」
アイラス「……いいんです」
アイラス、真っ青な表情で自分を抱きしめながら
アイラス「神と魔は紙一重……同じ望みを叶える天部でも、
人をいい方へ導けば神、悪い方へ誘惑すれば魔」「それだけですから」
裕里「えっと……」
アイラス「私、恋の女神になったばかりで、これが初仕事だったんです」「願いの
ある人を助けて神となりたかった……」「それが間違いなら……悪魔になって
しまうなら……」
[16]
アイラス、泣きながら窓の外へ出て行こうとする
アイラス「天に帰ります」「もうお会いすることはありま……」
裕里「アイラス、待って!」
手を掴まれ、アイラスは涙を散らせながら驚いて振り向く。
裕里、視線を逸らしながら力なく笑って
裕里「恋の女神・アイラス天に、ひとつ願い事をしてもいいかな?」
[17]
舞台でバンドが演奏中。なぜか剣道や柔道、合気道、少林寺などのカッコが
コスチューム。
観客は喚声と笑い。
アナウンス「ありがとうございました、武道系クラブのメンバーによる
「ケンゼン・イチニョーズ」、曲名は「気合いだラプソディ」でした~」
裕里、客席にいて緊張した面持ち。
裕里の心の声「がんばれ、朱鷺田!」
アナウンス「次は2年と3年の有志による」
[18]
アナウンス「バンド名「アプサラス」、曲はオリジナル「ミルクの海であなたと
出会って」!」
綺音を含むバンドの演奏が始まる。
男女のメンバーは必死に演奏、ボーカルの男は楽しそうに歌う。
その後ろで、ちょっと上気した顔でボーカルを見ながらギターを弾いてる
綺音。
複雑な笑みをうかべて、なにか歓声を上げてる裕里。
アイラスはそのうしろに。
アイラス「…………」
[19]
楽屋に使われてる教室。
そこへ入ってくる裕里。
裕里「おつかれー!」
綺音「金井? ……助かったよ!」
ボーカル「金井君だっけ? 作詞協力とかバンド名とか、いろいろお世話に
なったって」
裕里「あっ、センパイ……いえ、ウケたようでなによりでした」
ボーカル「インド神話をネタにするなんてどうかとも思ったけど」「うまく
ファンタジーっぽいラブソングになったよね。バンド名もゴロがいいし」
綺音(顔を上気させて)「ええ、大成功と思います」「もう、優勝まちがい
なし!」
裕里「……」
[20]
裕里「じゃ、表彰の舞台も頑張って」
綺音「はーい!」
ボーカル「ありがとう!」
学祭で人通りのある廊下を歩きながら
裕里「アイラス」「「アプサラス」は優勝できるんだろ?」
アイラス(言いにくそうに)「……ダメです」
[21]
裕里「なんでだよ! もっとウケたバンドがあっても、お前の力でなんとか……」
アイラス(困って)「それは不正だと思います」
裕里、口に手を当てて考え込みながら
裕里「朱鷺田にもアイラス天がついてるはずだ……なんとかなるはず……」
アイラス「不正で手にした恋は、ろくな結末になりませんよ?」
裕里「…………」
(時間経過)
裕里、歯を食いしばって拳を握り締め、ドンッと壁を叩く。
[22]
裕里「願い事、叶ってないじゃん!」「あいつ、優勝できなかった……」
アイラス(困惑)「アイラス天は恋の女神で、勝負の神じゃありませんから」
裕里「でも朱鷺田は、優勝してセンパイに告るつもりだったんだ!」「あの曲
だって、ホントはセンパイへのメッセージなんだぞ!?」
アイラス(胸元から見上げて)「裕里さんは……朱鷺田綺音さんのラブメッセージを
手伝ったんですか?」
裕里「…………」(目を逸らす)
[23]
アイラス、責めるように
アイラス「恋は生存競争なんです。譲り合いなんかやってたら敗者決定ですよ?」
裕里「それでもっ!」
裕里、絶叫するように主張。
裕里「あいつの喜ぶ顔が見たいんだよ! それだけなんだ、俺の願いはそれだけ
なんだ、悪いかッ!」
アイラス、溜息。
それからにこっと笑い、
アイラス「彼女にもアイラス天がついてます」
[24]
階段を駆け登っていく裕里。
アイラスの声(と笑顔のイメージ)「必要なのは、綺音さんの背中を押すことだけ……」
夕闇の屋上。
放送「片づけは明日。後夜祭の準備を始めてください……」
裕里「ここにいたか、朱鷺田!」
綺音(あわてて涙を隠そうとしながら)「金井……」
裕里「まだ終ってない! 終ってないぞ!」
綺音「でも、優勝できなかったし……」
裕里、綺音の肩を掴み、
裕里「朱鷺田綺音! お前の作った歌は優勝のためだけにあったのか!?」
[25]
綺音、驚いて裕里を見る
裕里「違うだろ。想いを表現して、伝えるために作ったんだろ。」「ぶつけて
こい、その気持ちをセンパイに。もしダメだったら俺が責任とってやる!」
綺音、しばらく呆然としていたが
綺音「そ、そうだよね……まだ終ってない」
その表情に力が篭り、涙を拭いて
綺音「告白してくる、センパイに!」
裕里「がんばれ、綺音!」
[26]
見送る裕里。
アイラス「本音が出ましたね」
裕里「?」
アイラス「「ダメだったら俺が責任とってやる」」
裕里、その言葉の意味にハッと気付いて顔が真っ赤になる。
しかしアイラスは残念そうに
アイラス「でも……彼女の願いは叶ってしまいます」
[27]
アイラス、空を仰いで微笑しながらも複雑そう。
アイラス「神が手伝いに現れたということは、その願いがすでに叶う宿命に
なってるということなんです」
客席に誰もいなくなった講堂のステージ。
ボーカルのセンパイと、涙を流しながらキスしている綺音。
その幸せそうなミラーイメージがバブルアウト。
[28]
裕里とアイラスは二人で屋上でグランドの後夜祭を見ながら。
アイラス「でもなんか変……本人以外の恋が願い事なんて」
裕里「じゃあさ、アイラスを俺の恋人にしたいって願い事をしたら、それも
叶えてくれるの?」
アイラス「え…!!」(真っ赤)
アイラス、もじもじして壁に「の」の字を書きながら
アイラス「り、理論的には可能ですけど……天部と人間の恋は不正だと
思います」
「それじゃ、8万年ほど待ってくれます? 寿命がきて人間に
転生すれば……」
裕里「人間が8万年も待てるかッ」「冗談、冗談だよ!」
[29]
金網につかまり、見下ろしながら……
裕里「これでいいんだ。俺のことなんて、あいつの喜ぶ顔にくらべたら
どうでもいいんだから」「その程度だったんだから」
アイラス「…………」「!」
金網を掴む裕里の手がちょっと震えている。
アイラス「…………」
アイラス、そっと近寄り
[30]
アイラス、裕里をうしろからぎゅっと抱きしめる。
裕里「!」
裕里、驚いて振り向き
裕里「アイラス?」
アイラス「大丈夫……こんな優しい裕里さんには、必ず素敵な恋が待ってます。
女神のの私が保証しちゃいます」「でも次は、他人に譲っちゃだめですよ?」
[31]
裕里「アイラス……」
アイラス「じゃあ、願いを叶えたのでこれでお別れです……こんど会うときは、
あなた自身の恋を願ってくださいね!」
天に昇っていくアイラス。
裕里「アイラス!」
アイラス「さようなら……」
裕里「…………」
[32]
夜、裕里の部屋。
裕里「で、天に帰ったはずなのになんでここにいるの?」
アイラス「恋愛センサーにかかったからです」「私が来たからには、裕里さんの
新しい恋はもう叶う宿命❤」
アイラス、メモ帳を手に無邪気な笑顔でのぞきき込んで
アイラス「で、相手は誰ですか? 教えてください、はやく、はやくぅ❤」
裕里は必死に視線を逸らして
裕里(心の声)「言えるわけないだろ、「君だ」なんて!!」
アイラス(セリフのみ)「願いを叶えるまで、恋の女神アイラス天は帰りません
からね?」
裕里(セリフのみ)「……(汗)」
~ 終 ~