会長の本屋さん
『5月になりましたが、1年生たちは慣れましたか? 部活、勉強、バイト。あなたなりに、高校生活を有意義なものにしましょう』
有意義…。
壇上で喋る会長みたいに、格好よくもないし、堂々とできない。高校に入り、1ヶ月経つけど、未だに友達はいない。
けど、バイトできるから。
お金を貯めて『コミケ』に参加したい!
山口県の山陰側にある田舎から、山陽側にある宇部空港の飛行機で、あの『オタクの聖域』の『コミケ』に!
でも、人見知りの私がバイトか…。
「本好きなんだっけ? バイトなんだし、本屋で働いてみたらいいんじゃない? チェーンじゃなくて、個人で経営している所。先生が一応言っておくから。場所わかる?」
一応言っておく、てどういうことなんだろう?
私は、その個人経営の、ちっちゃな本屋さんの前に立つ。
存在は知っていた。けど、入ったことはない。近くに大きなチェーン店があるから。
場所には来た。
でも、入る勇気が…。
軍資金のため…、あの『コミケ』に参加して、同人誌をたくさん買うため。
私はお金が必要なんだ!
意を決し、ドアを開ける。
「らっしゃーい」
若い店員さんの声。
というか、よく知ってる、なんなら、今朝体育館で聞いた。
「か、会長…?」
「1年生の…」
「会長も働いているんですか? ここで」
「私の家が経営しているんだ」
「へ、へー」
「採用!」
「え!?」
次の日。
アルバイト初日。
「本当に可愛いよね、君って」
「は、はあ」
「前の髪切って瞳が見えるようになったら超可愛いと思うんだ、私。嫌?」
「か、会長とは比べ物になりませんよ」
カウンター、私と会長さんは並んで椅子に座っている。
平日の夕方だからか、客は全くいない。
本当、何で経営できてるんだろう?
配達とか、かな。
宝石の隣に、石炭。
同じ女子高生なのに、何でこんなにも違うんだろう。
近くで見ると、より格好よく、けど可愛くもあって。
私なんか…。
「か、会長も本が好きなんですね」
「いや? お金もらえるからバイトしてるだけ。本は漫画くらいかな」
「そ、そうですか」
会話が続かない…。
お客さんが来たら声出さないと。できるかな?
「よし。
お客さんが来るまで色々自己紹介しよ?」
「は、はあ」
「店が終わったら一緒にご飯食べようよ」
「恐縮です」
「もっと仲良くなろうよー」
笑顔で私に触れてくるけど、私は「ハハハ…」としか返さない。しかも私の笑みは引きつっている。
会長と仲良くなれるか、
きちんと私はバイトできるのか、
『コミケ』に参加するためだけど不安すぎて仕方ない。




