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会長の本屋さん

作者: ヤナギ
掲載日:2026/06/12

『5月になりましたが、1年生たちは慣れましたか? 部活、勉強、バイト。あなたなりに、高校生活を有意義なものにしましょう』


有意義…。


壇上で喋る会長みたいに、格好よくもないし、堂々とできない。高校に入り、1ヶ月経つけど、未だに友達はいない。


けど、バイトできるから。

お金を貯めて『コミケ』に参加したい!

山口県の山陰側にある田舎から、山陽側にある宇部空港の飛行機で、あの『オタクの聖域』の『コミケ』に!


でも、人見知りの私がバイトか…。




「本好きなんだっけ? バイトなんだし、本屋で働いてみたらいいんじゃない? チェーンじゃなくて、個人で経営している所。先生が一応言っておくから。場所わかる?」


一応言っておく、てどういうことなんだろう?


私は、その個人経営の、ちっちゃな本屋さんの前に立つ。

存在は知っていた。けど、入ったことはない。近くに大きなチェーン店があるから。


場所には来た。

でも、入る勇気が…。


軍資金のため…、あの『コミケ』に参加して、同人誌をたくさん買うため。


私はお金が必要なんだ!


意を決し、ドアを開ける。


「らっしゃーい」

若い店員さんの声。

というか、よく知ってる、なんなら、今朝体育館で聞いた。


「か、会長…?」

「1年生の…」

「会長も働いているんですか? ここで」

「私の家が経営しているんだ」

「へ、へー」


「採用!」

「え!?」



次の日。

アルバイト初日。


「本当に可愛いよね、君って」

「は、はあ」

「前の髪切って瞳が見えるようになったら超可愛いと思うんだ、私。嫌?」

「か、会長とは比べ物になりませんよ」


カウンター、私と会長さんは並んで椅子に座っている。


平日の夕方だからか、客は全くいない。

本当、何で経営できてるんだろう?

配達とか、かな。


宝石の隣に、石炭。

同じ女子高生なのに、何でこんなにも違うんだろう。

近くで見ると、より格好よく、けど可愛くもあって。

私なんか…。


「か、会長も本が好きなんですね」

「いや? お金もらえるからバイトしてるだけ。本は漫画くらいかな」

「そ、そうですか」


会話が続かない…。

お客さんが来たら声出さないと。できるかな?


「よし。

お客さんが来るまで色々自己紹介しよ?」

「は、はあ」

「店が終わったら一緒にご飯食べようよ」

「恐縮です」

「もっと仲良くなろうよー」

笑顔で私に触れてくるけど、私は「ハハハ…」としか返さない。しかも私の笑みは引きつっている。


会長と仲良くなれるか、

きちんと私はバイトできるのか、

『コミケ』に参加するためだけど不安すぎて仕方ない。



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