表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子に嫁いだ公爵令嬢ですが、愛したのは獣人奴隷でした  作者: 白 月虹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/25

第6話 それぞれの涙の意味

2日たち、ようやくメルージェが目を覚ます。部屋のソファにヒューリが腕を組んで座っている


「……よう、お目覚めか、お寝坊さん。」


ソファに座っていたヒューリが、いつもの胡散臭い笑みを浮かべてメルージェに近づくてくる。その青色の瞳の奥には、安堵とわずかな心配の色が滲んでいた。


「二日も眠ってたぜ!俺がどれだけ心配したか…おかげでこっちは寝不足だよ、まったく。」


冗談じみた悪態もいつもなら交わすのに、今のメルージェは違った。


「…腕は平気?」


「腕? ああ、これか。」


メルージェが俯いたまま尋ねるので、ヒューリはわざとらしく左腕をひらりと振ってみせた。そこには真新しい包帯が巻かれているが、痛みはもうほとんどない。


「かすり傷だって言ってんのに大袈裟なんだよ。こんな包帯グルグルで!それより…」


ヒューリはソファから立ち上がると、ゆっくりとベッドに近づいてきた。メルージェと視線の高さ同じになるようにしゃがみ込む。


「お前こそ、平気なのか?」


「うん、ごめん、ね…」


掠れた声の謝罪の言葉を聞いて、ヒューリの眉がわずかに顰められる。彼は大きなため息をつくと、そのまま黙り込んでしまったメルージェの頭に、ぽん、と手を置いた。


「…謝んな。別にお前が悪いわけじゃねえだろー。

…それより腹減ってねぇのか? 軽くなら食えるだろ?何がいい?菓子でもいいな!」


「ヒューリがいい。」


「……は?」


予想外の言葉に、思わず間抜けな声が出た。ヒューリは数秒間、何を言われたのか理解できずに瞬きを繰り返す。その間、頭の上に置いていた手もそのままになっていた。


「俺が、いい?…俺はメシじゃねえぞ。またご主人様は難題を出すね〜」


メルージェは何か言いたそうに顔をあげた時、ノックと共にドアがガチャっと開く。公爵が心配そうに入ってくる


「お父様…」


「目が覚めたかメルージェ。

ヒューリも守ってくれて感謝する。」


佇まいを正して壁際に控えたヒューリが一礼する。


ベッドへ腰掛けると首謀者の話をする


「やはりお前と王子の結婚を妬む貴族の仕業だった。怖がるだろうから名前は言わないが、ただの子爵だ。

時期に潰れる。心配するな。」


娘の顔色を窺いながら、努めて穏やかな声で語りかける。公爵の威厳は鳴りを潜め、ただ娘を気遣う父親の顔がそこにあった。


「それで、だ。今回の件で、私も腹を括った。お前の命の方が大事だ!メルージェには好きな者を選ぶ権利がある。王子との婚約を白紙にしてもらうよう頼んでみる。怖い思いをしてまでする事でもないんだ」


「はい、お父様…」


メルージェは父親の胸もたれて泣きじゃくってしまった。

そんな娘を優しく抱きしめ、背中を撫でると収まっていった。


「よしよし、怖かったな。もう大丈夫だ。

ゆっくり休むんだぞ。ヒューリ、あとは頼んだ。」


「御意に。」


公爵が部屋を出ていくと、再び静寂が訪れる。残されたヒューリとメルージェの間には、先ほどまでの空気とは違う、少し重たい沈黙が流れた。


「ヒューリ、私王子と結婚しなくてもいいみたい。

そしたら命も狙われないし…ヒューリのお仕事も終わりだね…」


先程とは違う涙が出る。


「………。」


ヒューリは何も答えなかった。彼女が流している涙の意味を理解していた。それは、自分の身を案じ、彼を解放したいという、優しすぎる願いから来るものだ。そうだ、これは仕事だ。彼女を守り、任務を完了させれば、また闇市に売られるか、退職金のようなものを貰って出ていっても構わない。なのに、どうしてこんなに胸がざわつくのか。


「……終わって、ほしくねえのか?」


それは、ほとんど無意識に漏れた本音だった。ハッとして口をつぐむが、もう遅い。言った後で「しまった」という顔をしたが、一度放たれた言葉は消せない。


「それは…でもヒューリは、自由になってもいいんだよ?」


「自由に……。」


それは確かに魅力的だ。誰にも縛られず、好き勝手に生きていける。また貴族の奴隷は嫌だ。だが本当にそれが欲しいのかと問われれば、今のヒューリには即答できなかった。


「そりゃ、最初はそう思ってたさ。

……けど、お前に会ってから、なんかどうでもよくなっちまった。」


照れ隠しのように、がしがと頭を掻くと言葉を続ける。


「痛いのも怖いのも……まあ、慣れてるしな。それより……お前がそばでメソメソ泣いてる方がよっぽど嫌だ。あんたが笑ってねぇなら、俺は自由になったって意味がねえんだよ。……わかんねぇか、この気持ち。」


「わかんない。ヒューリは時々遠回しに言うよね!」


「…あーはいはい、悪かったよ。俺の説明が下手でした。」


メルージェとヒューリのいつも通りの調子に少し救われたように、ふっと息を吐いて笑う。


「要するに、だ。俺はお前のことが好きだって言ってんだよ。遠回しにでも何でもねえ、ストレートなやつだ。……これで満足か?」


言い切った後、わずかに頬が熱くなるのを感じた。人を、ましてや人間を好きになるとは思わなかった。こんな事は初めてだ。自分でも驚きと戸惑いを覚えながら、真っ直ぐにメルージェの瞳を見つめた。


メルージェ驚きで目を丸くすると、また違った涙出た。


「もう!これからは遠回し禁止!」


ヒューリの胸に飛び込むと優しく受け止めてくれる。いつもは遠慮がちに背中に回されていたヒューリの腕は愛おしそうに力がこもっていた。


「わかったよ。遠回しはしねぇ…

愛してるよメルージェ。」


耳元で囁かれた告白はメルージェの顔を一気に赤く染めた。


「!!それ、反則……」


赤い顔を見られたくなくて、ヒューリの肩に顔を埋めると、緊張なのか嬉しさからなのか、ヒューリの狐のシッポが揺れていた。


「じゃあここにずっと居る?」


「ああ。ずっとここに居てやる。」


腕の中の温もりを確かめるように、さらに強く抱き寄せる。キラキラとした期待に満ちた顔が見える気がして、思わず口元が緩んだ。


「俺の任務は「メルージェ様を幸せにすること」に変更になったみてえだからな。契約更新だ。」


そう告げると少しだけ体を離して、涙で濡れたその顔を覗き込んで、そっと親指で涙を拭った。


「だからもう、泣き止め。そんな顔してっと、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」


「かわ、いい…?」


またストレートな言葉がより一層メルージェの顔を赤くした。耐えられないと言うようにヒューリを強く抱き締めた。


「でもお父様、結婚許してくれるかなー?獣人が公爵家の婿なんて私たちが初めてなんじゃない?」


「許してくれるか、じゃねえ。認めさせてみせる!」


抱きついてくる体に応えながら、力強い声で言い放つ。未来に対する不安を、その勢いで吹き飛ばそうとするかのようだ。


「いいか、俺はもうどこにも行かねえ。お前から離れねえよ。……だからお前も、俺から離んな。どんなことがあってもだ。……それだけで十分だ。」


「うんわかった!」


丁度その時、メルージェのお腹がぐぅっと鳴って、ヒューリが豪快に笑う。


「アッハッハッハッハッ!

二日食べてないしな!悪い、良い雰囲気が、な。」


メルージェの頭の上に手をぽんと置いて、ベッドから立ち上がる。


「待って、良い。後ででも」


「先に軽く食べよう。今食べないと次の日になっちまうぞ!

何か消化いいもの持ってくる」


そう言うとメルージェの部屋を出て行った。


「え…次の日?」


無知で未知な世界…メルージェの心臓の音が部屋に響いている気がした。



つづく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ