第5話 襲撃
両親にヒューリの事を話すと、闇市に1人で行った事を咎めるだけで、子供たちに優しい両親は、ヒューリの事を承諾してくれた。それからしばらくは平穏な日々が続いていた。当のメルージェとヒューリの関係は、誰にも知られぬまま、さらに奇妙な形で深まっていた。
2人は昼下がりの街へ買い物へ出かけていた。
「お疲れさん、ご主人様。今日はずいぶんと長居だったな。」
隣を歩くヒューリが、からりとした口調で声をかける。今日も彼は完璧に怪しい人物がいないか冷徹な観察眼で周囲を窺っている。
「…で、帰りになんか甘いモンでも食って帰るか? 俺の奢りだ。今日の俺の働きは満点だったろ?」
「うん!満点満点!」
「よし!決まりだな!」
2人はお店に向かうため大通りを歩いていると、曲がり角からフードを被った獣人がメルージェに刃物を向けて向かってきた。
「チッ!」
舌打ちと同時に、彼は振り返りざまにメルージェを庇うように立ち塞がる。ガキンッ!という甲高い金属音が響き渡り、振り下ろされたナイフがヒューリのナイフに当たり火花が散る。
「てめぇ…!前に襲ってきたやつらの仲間か!?」
ヒューリは距離をとり、メルージェを逃がそうと後ろへ誘導する。臨戦態勢で相手を睨みつけた。
曲がり角から現れたのは、体格の良い猪の獣人。その目には殺意が籠っている。
「下がってろ! 一匹だけのようだが、油断はするな!」
「うん……」
カタカタ震えるメルージェ。従兄弟が怪我をした事が思い出して動けない。
「ぁあ…」
「…ッ! くそが…!」
芳しくない反応にヒューリの表情が険しくなる。目の前の敵に集中しながらも、背後のメルージェの状態が気になって仕方がない。
「おい、しっかりしろ!ご主人様!聞こえてんか!」
叫びながら、牽制するように足元の石を蹴り上げる。それが猪の男の額に当たり、一瞬怯ませた。
「早く下がれ!終わったら菓子食うんだろ!」
とにかく声をかけ、意識をこちらに引き戻そうと試みる。戦闘中に余裕があるとは到底言えないが、今はそれだけが最優先だった。
ずず、ずず。とゆっくりだけど確実に後ろに下がるメルージェ。すると、やはりもう一人居た獣人がメルージェの前に現れる。
「なッ…!?」
まずい。と思った瞬間には既に遅かった。ヒューリが助けに向かおうとしたその時、すでに短剣を振りかぶった獣人の影がメルージェに覆いかぶさっていた。
しゃがみこむメルージェ。しかしそれは恐怖による硬直的な動きでしかなかった。目の前に迫る刃を、彼女はただ見上げることしかできない。
「殺される」
その言葉が頭をよぎった瞬間。
「メルージェ!」
名前呼ぶと同時にメルージェの前に立つ獣人に体当たりをする。その時、獣人のナイフがヒューリ腕を掠めた。
「うぅ!」
白昼の事もあって警察官がすぐ集まり、2人の獣人は捕まった。
ヒューリの腕からは血が滴っているのを
見たメルージェの顔は青ざめていった。
「あっあぁ…ごめんなさい。ヒューリに傷を増やして欲しかった訳じゃないのに…」
メルージェは涙を流しながら意識を手放してしまう。
警察によって騒ぎはあっという間に鎮圧された。捕らえられた獣人たちは悪態をつきながら連行されていく。大通りは野次馬でごった返していた。
「おい、メルージェ!…くそっ!」
腕の傷を押さえながら駆け寄るとメルージェが意識を失ったのを見て、ヒューリは忌々しげに呟く。出血はあるものの、幸い傷は浅い。
近くにいた警察官に事情を簡潔に説明し、屋敷への帰路につくことを告げた。そして気を失っているメルージェを軽々と横抱きにする。
「菓子食べに行きたかったな…」
誰に言うでもなくそう呟くと、屋敷への道を歩き始めた。橙色の髪の狐の青年が少女を抱えて歩く姿は、どこかちぐはぐで、しかし妙にしっくりきているようにも見えた。
つづく。
挿絵はAIによって生成されています。




