最終話
挿絵はAIが作成してます。
その日は少し寒かった。メルージェの好きな紅茶をいれて、アルフレッドと子供たち四人はメルージェの部屋をノックし、静かに中へ入った。
メルージェは、ベッドの上で起き上がり、窓の外を眺めていた。
「起きていて平気なのか?」
アルフレッドが慌てて、やせ細った背中を支える。
「ぇぇ…」
か細く答えると、ブライトが紅茶を差し出す。するとメルージェは香りで何かわかったようで、目をキラキラさせて一口飲んだ。
「母様の好きな紅茶ね!美味しわ。ありがとうブライト。」
アルフレッドも、子供たちも、国王の時のように急にメルージェが居なくなるかもしれない不安からか、病気になってずっと、メルージェの部屋で過ごすようになっていた。
アルフレッドとブライトは、公務の事で話し合い、エレンは刺繍をしたり、幼い二人はベッドの上で、本を広げたり、思い思いに絵を描いている。
穏やかな時間だった。
まるで、いつもと変わらない一日のように。
その中で――メルージェだけが、静かに目を細めていた。
九歳の末娘の髪を撫でながら、その温もりを確かめるように、ゆっくりと指を滑らせる。
(ああ……この時間が、ずっと続けばいいのに)
小さく息を吐く。
その吐息は、どこかひどく軽くて――
ふと、手の動きが止まった。
けれど、誰もまだ気づかない。
穏やかな時間は、そのまま流れ続けている。
やがて。
メルージェは、末娘の頭に手を添えたまま、
まるで眠るように、静かに息を引き取った。
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ヒューリはサラと結婚はせず、引き留められても別れを選び、メルージェと過ごした別荘へと身を寄せていた。
獣人にも分け隔てなく接し、あの頃と変わらぬ日々を、ただ静かに繰り返している。
そんなある日、
「ヒューリくん!!」
執事長が血相を変えて駆け寄り、震える手で新聞を差し出した。その目は、すでに涙で滲んでいる。
「は?……なんだよ、これ…」
そこには――王太子妃の頃のメルージェの肖像画。
そして、その下に記された言葉。
――病死。
「……嘘だ」
かすれた声が、ぽつりと落ちる。
気づけばヒューリは新聞を持って、メルージェの部屋へ入って行き、そのまま泣き崩れた。
「うっ…ぅぐ……メル、ジェ…嘘だろ…
…死ぬ時は、手を、握っててほしかったんじゃねぇのかよ!……あーーくそ!」
ヒューリは新聞を投げようとしたが、メルージェの肖像画が目に入り、思いとどまった。その変わらない笑顔を見るとまた涙が溢れ出て、止まらなかった。
別荘や町の人たちは重苦しい雰囲気に包まれていた。何もする気が起きなかったが、皆に迷惑をかけたくなくて、淡々と仕事をこなしていた。10日ほどだったある日、ただ生きいているだけに意味をなくして、湖の辺の木陰に背中を預け、メルージェの面影を探すように目を閉じていた。
「あぁ、メルージェ…生きていればいつかまた会えると思っていたのに…。いくら俺より寿命が短いからって、こんな早く逝っちまうとはよ…」
大きな独り言を言っていると、後ろからザリっと砂を踏む音がする。ヒューリは目を開けそちらを見ると、フードを目深にかぶった少女が立っていた。
「貴方が狐の獣人のヒューリさん?」
「誰だ?」
ヒューリは苛立ちながら言うと、その少女はフードを取って微笑んだ。
「へ?」
少女はエレンだった。
ヒューリは目を丸くして、エレンに近寄ると声を振り絞った。
「は?…お前誰だ?メルージェに、似てるが…
――髪と瞳の色…が……っ!」
「はい。思ってる通りよ。パパ。」
「いや、何言ってんだ?」
「ふふ。お母様から、手紙を預かってます」
そう言って手紙を差し出され、ヒューリはその場で綺麗に封を開けて見てみる。
「ヒューリへ
やっぱり貴方の子供だったのよ!
メルージェ」
たった一行の手紙。
だがヒューリには、この別荘で過ごした、天真爛漫に笑い、愛し愛されていた頃のメルージェの姿が、確かに浮かんだ。
「なんだそりゃ……ほんと俺の主は……」
はっと息を詰め、かすれた声で呟く。
「……お前は、何も変わってないんだな……」
その場に崩れ落ちるヒューリの背を、エレンはそっと撫でた。
こらえきれず、彼女の瞳からも涙がこぼれる。
やがて二人は、言葉を交わすこともなく、静かに別荘へと歩き出した。
おわり。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
長編を書くのは初めてだったので、無事書き切る事が出来て、嬉しく思ってます。
書いていて、思わず涙ぐむ場面もありました。それくらい思い入れのある物語になりました。
この物語や登場人物たちを、少しでも好きになっていただけたら、幸いです。
あらためて、本当にありがとうございました。




