第29話 国王死去
そして次の日、帽子を被ってないエレンとおじいちゃん・おばあちゃんは、何時間も共に過ごした。
会えてなかった数年間を埋めるように、毎日エレンは国王の元を訪れていた。そして1ヶ月が経ったある日、一人で訪れたエレンが話していると、さっきまで返事をしていた国王が何も言わなくなったのだ。
「………」
「おじいさま?ねえ聞いてる?」
肩を揺すっても何の反応もなく、怖くなったエレンは、急いで部屋を飛び出し、大声で助けを求めると、何人ものメイドや使用人がやってきた。
王宮医とアルフレッドも到着すると、国王の元へ行く前にエレンの姿が目に入った。
「エレン!帽子は?一人で来てたのか?」
「帽子、は…急いでて、どこかしら?…」
もう遅かったが、アルフレッドが上着を脱ぎ、エレンの頭から被せた。
離れの者以外はエレンをちゃんと見た事がなかったため、髪の毛の色が違う事は、噂くらいしか耳にしていなかった。だが周りの者たちは、このやり取りで疑惑が確信になった。
「父上は?」
「亡くなられてますね…」
「そうか…」
「老衰です。最後までエレン様が傍に居たことが幸せだったのでしょう…穏やかなお顔ですよ。」
「おじいさま…」
アルフレッドは、胸で泣きじゃくるエレンをあやすように、背中を撫でていた。
少しすると、皇后とメルージェ慌ただしく入ってきた。
「うぅ…陛下!…うぅ…」
皇后は国王の、まだ暖かい手を握り、涙を流し、メルージェは、アルフレッドの腕に顔を埋め、エレンと一緒に泣いていた。
3日後、この国を導いてくれた国王の葬儀が始まり、国民は涙した。そして、アルフレッドに王位が移った。憔悴しきった皇后はエレンと居たい。と言って離れに移り住んだ。
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月日は流れ、四人の子供はすくすくと育っていたが、やはりエレンの成長速度は遅く、自分でもおかしいと思っていても、誰にも相談出来ず、悩んでいた。
そんな時、メルージェが倒れた。
「メルージェ様。症状はあったのでは?」
王宮医が尋ねる。
「……えぇ。」
「何か悪い病気なのか?」
ベッドに横たわるメルージェの手を、アルフレッドは強く握る。
「……もう、あまり長くは…」
王宮医が熱くなる目頭を抑えながら、ゆっくり言った。
「――は!?」
アルフレッドの手から力が抜けた。
ゆっくり進行していく病で、メルージェも最初は腹痛くらいだと思っていた。だが、重度の疲労感と微熱と、徐々に色々な症状が襲い、倒れたのだ。そしてこれは自分への罰だと、彼女は誰にも言わず受け入れた。
数日後、公務を終えて、メルージェの様子を見に来たアルフレッドに、声をかけた。
「アル…ごめんね。」
「何がだ?」
「エレンの事…」
「それは…もう良いんだ。
メルが、居なくなる方、のが…今は辛い。」
最後は、何を言ってるかわからないくらい、涙声だった。
「アルの事ちゃんと好きよ。」
「メル…こんな時に言うなんて卑怯だぞ。」
メルージェに口付けをすると、優しく抱き寄せた。
「あのね、エレンに、全て話したい。」
「それは!……っ。」
「あの子はもう大人よ。そして、ここから出してあげたい。」
「エレンも居なくなるのか!?」
「感謝してる。でもエレンは気づいてるわ…人の視線も声も、人間より感じ取ってしまうから、ここにいても辛いでしょ?」
「……。エレンが決める事だ。」
「わかってるわ。」
そして、メルージェはエレンと二人だけの空間で、愛しいヒューリの事を話した。
「でも忘れないで、お父様はエレンを一番愛してるのよ。」
「知ってる。お母様にそっくり!って言って、スリスリしてくるし…気持ち悪いでしょ?」
「ふふふ。もしもここでは生きずらいなら、公爵おじい様の別荘へ行きなさい。あそこの人たちは、全てを知っていて、あなたを大歓迎してくれるわ。」
「うん。でも、まだここに居る。
…その、獣人のパパはかっこいい?」
エレンがヒューリに興味を持った事、そしてパパと呼んだ事が嬉しくて、メルージェは目を細くして応えた。
「えぇ。かっこいいわよ!それに不器用で、優しいの!
きっとエレンが疑問に思ってることに、答えてくれるわ。」
「そう。」
エレンはキラキラした目で話すメルージェに、最初は驚いたが、やっぱり。と思う所もあった。
なんだか胸の仕えが少し取れた気もして、変わりに違う感情も芽生え初めていた。
つづく。




