第28話 一目会いたくて
そしてお披露目当日。
新聞で知ったヒューリが、フードを被って大量の人混みの中に紛れていた。
(結局、一人目は誰の子供だったのか…)
ずっと気になっていたヒューリは、見られるのではないかと、壁に身を隠しならが今か今かと、待っていた。
しばらくすると、赤ちゃんを抱いて国王が姿を現す。
歓声が湧き、それに驚いた王子が泣いてしまうと、国民が静かになる。と、微笑ましい出来事の後、国王が演説をした。
ヒューリは数年ぶりのメルージェから目が離せなかった。やっと20歳を超えたメルージェは、母親の顔の中にも、まだ少女の面影もあった。
(メルージェ…メルージェ…)
心の中で呼び続けると、メルージェがヒューリの方を見る。遠くて顔はハッキリわからなかったが、ヒューリだと思えた。
ヒューリは目が合ったような気がして、思わず顔を伏せてしまった。
それが確信に変え、 メルージェは涙を堪えて微笑んだ。ヒューリもまたそんなメルージェを見て涙が出そうになり、その場を離れた。
(あぁ、くそ。姫を見に来たのに…ダメだ!帰ろ…)
ヒューリが帰路に着いた頃、国王の演説も終わっていた。
こうして平和に暮らして3年が経つ頃、エレンとブライトに違いが感じ始めた。
エレンは7歳、ブライトは3歳になるのに、背丈があまり変わらない。
会話もブライトとさほど変わらない。
メルージェと王宮医はある仮説にたどり着いた。
「もしかしたら、成長速度が遅いのでしょう……」
「やっぱり…私も思っていました。」
獣人は全盛期で成長が急激に遅くなる。なのでヒューリも、見た目は20代だが実年齢は58歳だった。
その獣人と人間のハーフ。前例がないため、寿命もわからない。
「メルージェ様。この事が王宮研究所の人たちに知られれば、エレン様がどういう扱いをされるかわりません!お気をつけてください。」
「そうね…陛下もアルフレッドの子じゃないなら、研究に手を貸すかも…可哀想だけど、このまま離れに居ましょう。」
国王主催の催し物以外は、姿は現さず、病弱で貫き通していた。その間、メルージェは男の子と女の子を一人ずつ産んだ。
間もなくして国王は、老体のため床に伏せるようになり、メルージェはお見舞いに連日通っていた。
――そんなある日。
「メルージェ、エレンは元気か?」
「はい今は。病に波がありまして…」
「そうか…メルージェ、実はな、全て知っているのだよ。」
「え?…」
動揺を隠しきれないメルージェに、国王は続けた。
「エレンに会って、何回目かの時だ、妻が言ったんだ。
アルフレッドの子ではない。と。でもそれを咎めるつもりはないから、わしにも黙っていろと。」
「そんな…
――隠していた事、申し訳、ありません…」
崩れるように膝まづいて許しをこうと、皇后が部屋へ入ってきた。
「まぁ!何をしてるの?あなた!メルージェに何を言ったの!?」
凄い剣幕の皇后に、国王はうろたえ、メルージェは泣き、収集がつかなくなってしまった。
そんな中、王宮医が入ってくると、三人を宥め、やっと落ち着いた。
「ごめんなさいね。メルージェ…
実はその時、アルフレッドを問い詰めたの。そしたら認めたし、それで良い。って言ったの。
メルの子は俺の子だって。その覚悟があるならもう何も言わないでおこうって、私も決めたの。」
「何?わしはアルフレッドの話は知らんよ?」
「貴方は居なかったからいいの!」
「なら教えてくれてもいいじゃないか…」
そんな国王陛下夫妻のやり取りを見て、メルージェは微笑ましく思い、心も落ち着いた。
「あの子の父親は、連れてきた狐の獣人です。」
アルフレッドが伝えたかもしれないが、自分から告白したくてポツリと言った。
二人は知ってか知らぬかわからない表情で、「そう」とだけ言った。
その後は何気ない話をし、メルージェが離れに戻ろうとした時、国王がポツリと零した。
「エレンに会いたいなぁ…。」
メルージェの瞳からポロポロと涙が落ちた。誰にも知られてはいけない秘密。10年、気を張ってお城で生きてきた彼女は、その言葉に救われた気がした。
「っ…明日、必ず!」
つづく。




