第24話 来訪者
ヒューリは自室のベッドに仰向けで天井を睨みつけていた。メルージェとのやり取りと、自分の不甲斐なさに苛まれていると、控えめなノックの音が扉の方から聞こえた。
「……誰だ?」
少しの期待を持って返事をすると、扉が開き、泣きそうなサラが立っていた。
「ヒューリ!」
サラはヒューリに駆け寄ると、そのまま彼の胸に顔を埋めた。彼女の体は小刻みに震えている。
「何だよ、そんな慌てて……。」
「ごめんなさい……!でも、もう我慢できなくて……!メルージェ様に話した。」
「おい、落ち着けよ。何があったんだ。」
困惑しながらも、背中を優しく撫でる。
「貴方と仲良くしないでって!怒鳴っちゃった…
でも、許してくださって…
ヒューリ、もうメルージェ様の事忘れて?
私が居るじゃない!」
サラは懇願するようにヒューリの背中に腕を回す。
「待て、待て待て。なんでそんな事になってだよ?王太子妃だぞ?」
「貴方が好きだからよ!」
サラの切羽詰まった声が、狭い部屋に悲鳴のように響いた。
「そりゃご主人様かもしれないけど、それだけでしょ?
好きになっちゃいけない人よ!?
あの人の代わりになればいいと思ってたけど、もうそれじゃ嫌なの!」
堰を切ったように、これまで溜め込んできた感情が溢れ出す。彼女はヒューリに強くしがみつき、肩が大きく波打ち、しゃくりあげる音だけが響いていた。
「……。」
ヒューリは言葉を失ったまま、サラの背中を摩る事しか出来なかった。サラの気持ちは、なんとなくはわかっていた。でもずっと気づかないふりをしていた。それが彼女を傷付けていたことに罪悪感を感じていた。
「泣くなよ。な?
悪かった…俺がお前に甘えてたから…」
「私といよう?メルージェ様の事は忘れて?」
ヒューリは応えない代わりに、彼女の頭を撫でた。そして橙色の大きな耳がぴくりと動き、困ったようにわずかに伏せられた。
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翌朝、王城は朝から活気づいていた。隣国からの使節団を迎えるため、貴族たちが華やかな衣装に身を包み、兵士たちは神妙な面持ちで行き交う。メルージェもまた、皇后主催の茶会に出席するため、豪華なドレスに袖を通し、侍女たちに髪を結われていた。鏡に映る自分の顔はどこか上の空で、昨夜のサラとの一件が頭から離れなかった。
一方、皇宮の裏手では、大量の花が運び込まれていた。
「おい、そこの!その花はこっちの花瓶だ!」
ヒューリが他の使用人にこき使われていた。彼はいつも通りの身軽な作業着姿で馬車のように動き回っていたが、その目にはうっすらと隈ができている。
「ヒューリ、少し休んだ方が……。」
「……平気だ。」
心配して声をかけたサラに、ヒューリは一瞬だけ視線を向け、短くそう返すと、すぐにまた仕事に戻ってしまう。二人の間にはまだ気まずい空気が流れていた。
そして使節団が到着すると、メルージェとアルフレッドで出迎える。
ガルシア王国の辺境伯が一礼すると城に入って行き、従者やメイド達も後へ続く。
「やぁ!アルフレッド殿下!」
少し年上の辺境伯が笑顔で馬車から降り、アルフレッドへ握手を求めながら近づくと、アルフレッドも笑顔でそれに応じた。
「久しぶりですね。遠出は疲れましたでしょう。」
「そうですね。それより、王妃殿下にも挨拶させて頂きたい。」
辺境伯の目は、アルフレッド越しにメルージェを捉えると、ニコリ微笑んだ。
その笑顔に応えるように、メルージェはお辞儀と共に自己紹介をした。
「メルージェと申します。」
「可愛らしい妃殿下ですね。
アルフレッド殿下が羨ましい!」
「ありがとうございます。
立ち話もなんですから、応接間へご案内します。」
そう言うと辺境伯とメイドたちを、メルージェ自ら応接室へと案内した。
つづく。




