第21話 王太子妃の仕事
翌朝。鳥のさえずりで目が覚めると、隣には同じく裸のアルフレッドが満足げな顔で眠っている。
昨夜の出来事が夢ではなかったのだと実感しながら、ベッドから抜け出すと、部屋の扉が静かにノックされた。
「おはようございます。お目覚めでいらっしゃいますか?」
「はい。ちょっと待って!」
ガウンを羽織ってドアを開ける
「アルフレッド殿下はまだ寝てますので…」
情事跡を見られるのは恥ずかしくて、自分が部屋の外へ出て対応する。
「承知いたしました。こちらにお着替えをご用意いたしましたので。」
侍女はにこやかに一礼すると、手際よくガーメントバッグからドレスを取り出して見せる。それは、上品な紺色を基調とした、新しい夫人としての品格を示すようなデザインだった。
「本日は、王妃様主催のお茶会にご出席いただく予定でございます。ご準備が整いましたら、お声がけください。」
「わかりました。」
アルフレッドを叩き起こし、服を着せて皇務へ向かわせると、侍女に声をかけると
次々と部屋に入り、てきぱきと準備を進めていく。湯の入った銀の桶、化粧道具が並んだ小箪笥、そして朝食が運ばれてくる。メルージェはされるがままに身体を清め、着飾られていった。
「さて、本日のお髪は……こちらのルビーの髪飾りがよろしいかと。殿下の赤毛の髪にも合っておりますし。」
そう言って、小さなベルベットの箱から深紅の宝石がついた髪飾りを取り出した。
「ええ、素敵ね!お願いするわ」
「かしこまりました。」
侍女長は満面の笑みで頷き、慣れた手つきで髪にそれを挿していく。真紅のルビーが髪の上で鮮やかに輝き、幼さを残す顔立ちに華やいだ印象を与えた。
「素敵ですわ!さぁ、参りましょう。王妃様がお待ちです。」
メルージェは広大な庭園へ連れて行かれると、これまた大きなガゼボがあり、テーブルには豪華な茶菓子と花が飾られていた。すでに何人かの高位貴婦人が集まっており、その中でひときわ豪華なドレスを身にまとい、扇子で優雅に口元を隠している女性がいた。この国の王妃、アンネリーゼだ。
「王妃様に朝のご挨拶を申し上げます。
この度はお茶会へのお誘いありがとうございます。」
ドレスの裾を持ち上げ会釈をしながら挨拶する。
「まあ、そんなに畏まらなくてもよろしいのよ、メルージェ
貴方の事は幼い頃から知っていますから。」
アンネリーゼは扇をゆっくりと閉じ、テーブルの上に置いて、座るよう促す。
貴族たちに改めてメルージェを紹介すると、見定める者も居れば、喜ぶ者も居た。
お茶会は滞りなく終わり、部屋へ戻ろうとしたメルージェにアンネリーゼが最後に声をかける。
「王太子妃の仕事の一つで、使用人たちの管理をして貰いたいの。」
「はい…わかりました。」
アンネリーゼが笑顔でその場から立ち去ると、メルージェは複雑な心境と共にアルフレッドの部屋へ戻っていき、早速仕事に取り掛かった。
数日後、慣れてきたこともあり、アルフレッドの執務室の間借りから自室で仕事をする事にしたメルージェは、その夜戻る事にした。書類を持って歩いていると、自室の前の廊下に男女の影があった。…誰だかはすぐにわかった。
胸がぎゅっとなったが平静を装い、2人の邪魔をしないよう静かに自室へ入ろうとする。
「メルージェ、様。どうしたんですか?」
ヒューリは動揺のあまり、サラと手を繋いだまま話しかけてきた。サラはメルージェの前でも私たちは恋人だと見せつけているようで嬉しかった。
「これから、たまにだけど自室で仕事する事にしたの。アルフレッドの執務室だと、お互いやりずらいし…」
「そうですか…大変なんですね…」
「後でお茶をおもちしましょうか?」
「いいえ、大丈夫よ」
サラの申し出を断ると、その場から早く立ち去りたくて自室へ入っていった。
「……王太子妃も大変なのね。疲れた顔して…」
「……そうだな」
ヒューリは短く答え、視線は閉ざされた扉に向けられたままだった。彼の頭の中では、先ほどのメルージェの強張った笑顔と、傷ついたような眼差しが繰り返し再生されていた。
「ほら、行くぞ。俺の部屋で良いよな。」
メルージェは自室に入ると、涙が溢れ出ていた。ヒューリが知らない人に見えた事も、まだ好きだと言う気持ちもあり、心はぐちゃぐちゃだった。
その頃、ヒューリの部屋では――。
入るなりサラに深い口付けをして、乱暴に服を剥ぎ取るとベッドへ押し倒した。
「あっ、ヒューリどうしたの?
はっんっ…」
サラにはわかっていた。ヒューリがまだメルージェ想っている事、さっき会った時動揺してる事も。でも相手は王太子妃。何も出来なく、自分にしがみつく人が居ないのもまた優越感だった。
「……今夜はお前をぐちゃぐちゃにしたい。」
ヒューリの顔は苦悩に歪んでいた。どんなでもいいから傍に居ると決めたのに、壊したのは自分だ。自業自得なのにやはりメルージェを忘れられないでいた。
その想いを払拭するため、サラを激しく求めたのだった。
つづく。




