第13話 最後の夜
性的描写があります。
倒れこんできたヒューリの耳をメルージェが撫でるとびくりと体が跳ねた。敏感な部分を不意に触れられ、先ほど果てたばかりだというのに、体の芯が再び疼き始めるのを感じる。
「……へぇ、そういうことするんだ。」
「え、ただ、かわいいなぁ。と…」
「残念。俺は今、そういう挑発に弱いんだわ。」
ニィッと口の端を吊り上げると、ヒューリは体勢を逆転させ、今度はメルージェが彼に跨る形にさせた。
きゃ!反転させられると、驚いてヒューリの胸に手を置いて見下す。
「これって…」
「自分で動いてみろってことだよ。」
悪戯っぽく笑いながら見上げてくる。彼の青色の瞳が、これから始まる新たな遊戯を期待してきらめいていた。
「俺ばっか動くのも不公平だろ? さっきみたいに可愛く啼いてくれたら、優しくしてやってもいいけど?」
主導権を握られているのは一瞬だと、思い知らせてやりたい。そんな意地の悪い考えが頭をよぎる。
「うぅ…」
ゆっくりと腰を下ろしていくうちに、先程とはまた違う圧迫感が内側をこじ開けていく。思わず漏れた甲高い声を聞いて、ヒューリは楽しそうに目を細めた。
「そんなんじゃ、全然足りねぇよ。」
「待って、私のタイミングが……はぁはぁ…感じ過ぎて、動けないの……」
「仕方ねぇな…」
ゆっくりとした上下運動では、到底満足できないヒューリは、メルージェの細い腰をがっしりと掴むと、まるで人形を扱うかのように、激しく上下に振り始めた。
「こうやって動くんだよ!」
「あっあっ。
なんで、いつもより怖いの?
うぅ…怒ってるんだよね…」
メルージェは顔を手で覆う。
「……は?」
突然の言葉に、ヒューリの猛攻がぴたりと止まった。メルージェの涙で頭が真っ白になる。なんでそうなるんだ、と苛立ちが募るが、それ以上に困惑が勝った。
「……おい、泣くなよ。怖かったか……? ごめん。……怒ってねぇよ。好きすぎて、優しく出来なかった。」
どこか途方に暮れたような声色になる。慌ててメルージェを抱きしめ、顔を覆う手に自分の手を重ねた。
「うぅ…」
涙を流しながらヒューリに抱きつくと、ヒューリは優しく頭を撫でながら深く口付けをすると、塩辛い味がした。
先程までの意地悪な動きとは全く違う、ただ純粋な欲求に任せた、激しい衝動が始まった。
「ごめんな…お前が俺の全部なんだ…!」
もう言葉は不要だった。互いの肌を求め、熱を貪り、快感の波に身を委ねる。二度目の絶頂は、二人同時に訪れた。
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お腹が空いた。といつもの様にメルージェが言うとヒューリが遅めの昼食を持ってきて、二人は穏やかな会話をしながら食べていた。部屋のノックと共に執事長が声を掛け、メルージェが出ると、差し出した封筒を受け取った。
「ありがとう。」
ヒューリの隣で一緒に手紙を開いた。「父」と書かれた署名。
『メルージェ。王太子殿下から話は聞いた。お前が納得したのならお父様は何も言わないが…いや、辞めておこう。ヒューリを使用人として同行を認めてもらって良かったな。
1週間後に王城へ行くようにと言う事だ。
父より』
二人はタイムリミットは1週間後。と言うように見つめ合った。
その1週間はメルージェとヒューリは夫婦のように過ごした。
屋敷の者は、誰も二人を咎めるような人はいない。むしろ二人の方がお似合いだと思い憐れむ者も居た。
そして最後の夜。
ソファに腰掛けた二人はお茶を飲みながら談笑していると、メルージェが真剣な顔で、ヒューリにお願いをする。
「私、ヒューリと結婚したかった。だから、ヒューリに言って欲しい言葉があるの!」
また突拍子もない事を言い出すなー。とヒューリの顔は呆れていた。けど、付き合いは決して長くはないが、メルージェを理解していると自負はある。探りを入れながら聞くことにした。
「なんだよ。愛してる。とかか?」
「違うよ!それも言って欲しいけど…
夫婦みたいに過ごしてたんだよ?」
「あー、じゃあ…おじいさんとおばあさんになっても…」
「違う!!うぅーー…」
頬を膨らませて怒るメルージェを見て、ヒューリがクククっと笑う。
「はいはい、プロポーズか?」
少し面倒くさそうに言ってみると、メルージェはルンルンと期待に満ちた目で見つめていた。
「ったく、しょうがねぇな……。一回しか言わねぇから、よく聞けよ。」
メルージェの隣に片足を着いて、ごほん、と一つ咳払いをすると、わざとらしく芝居がかった仕草で、青色の瞳には真剣な光を帯びて彼女を見つめる。
「メルージェ・フォン・ヴァレンスティーノ。俺は奴隷の狐です。身分も、何もありません。ですが、この命に代えても、あなたを守り、愛し抜くと誓います。俺と……結婚してください。」
「……はぃ…」
メルージェの目は潤んで、今にも雫が零れ落ちそうになる。
「そんだけかよ。もっと感想ないの?」
恥ずかしさに悪態をつくが、メルージェにはわかっていた。それもまた愛おしかった。
「嬉しい…私も貴方を愛してます。」
「そうかよ。良かった…」
この幸せが永遠ではないことを二人はわかっていたが、今は縋るようにお互いを確かめ合い、その夜も溶けていった。
つづく。




