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居眠り卿とファッテンの海賊  作者: 中里勇史
ガロナ水軍

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6/11

フェリーニナ

 ウィンが放り込まれたのは、牢屋などではなく普通の小屋だった。出入り口の外側には見張りがいるようだが、窓から堂々と逃げ出せそうだ。

 「いまひとつ、『監禁してやろう』という意気込みが感じられないな」

 「この小屋から逃げたところで、この島からは逃げられませんしね」

 「アデン、なぜ黙ってたんだい?」

 「私が口を挟んだら話がややこしくなるだけでしょう」

 「連中、海賊とは違うみたいだね」

 「そうですか?」

 「海賊が人を拉致するのは身代金を取るためだよ。でも彼らはそもそも身代金を取ろうという考えがなかったじゃないか」

 「お頭は興味を持ったようですが」

 「こっちが身代金の話を持ち出したことを面白がっただけに見えたな」

 そんなことを話していたら、小屋の扉が開き、ウィンをさらった2人の男と女性が入ってきた。

 「あんたかい、帝国の小役人ってのは」

 女性はウィンの目の前までやって来て、ウィンを見下ろした。肉付きが乏しい、しなやかな肢体。挑戦的で妙に艶っぽい瞳。長い黒髪を1本の三つ編みにして後ろに垂らしている。日焼けした肌と白い歯が互いを引き立て合っている。

 「ヘルル・セレイス・ウィンだよ。君は?」

 「ガロナ・フェリーニナ。ガロナ水軍の頭、ガロナ・ベンブークの娘さ」

 あの男はガロナ・ベンブークというのか。

 「あんたを人質にして帝国から身代金を取れだって?」

 「私は皇帝直属の監察使だ。多分、結構払ってくれるはずだよ。多分……。払ってくれるかなぁ……」

 だんだん自信がなくなってきた。

 「けどね、アタシらは海賊みたいな真似をするつもりはないね」

 「海賊じゃないのかい?」

 「水軍だって言ってるだろ」

 「違いが分からない」

 ウィンが首をひねっているのを見て、フェリーニナは面倒になったらしい。「ニム、ダルナ、コイツに説明してやりな」

 やたらとウィンのことを敵視している2人の要領の悪い説明を整理すると、ガロナ水軍とは島や暗礁が多いファッテン伯領の海で、海上の治安維持や水先案内人を生業とする。ファッテン伯領における海上戦力でもあり、水軍を提供する見返りとして海上の通行税の徴収権も代々認められているという存在らしい。

 「なるほど、立派な仕事じゃないか!」とウィンが称賛すると、ニムとダルナは顔を赤らめて「そ、そうか?」などと言いながらモジモジした。照れているらしい。

 「するとファッテン伯の話と食い違うな。彼は島の連中に手を焼いている。海賊行為をしていると言っていた」

 「何だとこの野郎。ブッ殺すぞ」と怒鳴られたが、ニムなのかダルナなのか分からない。

 「私に怒らないでよ。もちろん君らが海賊じゃないことは分かってるさ。私が人質として価値があるかどうかも分からずに拉致するなんて無駄なことはしない」

 「無駄で悪かったな!」と、ニムかダルナが叫んだ。海賊じゃないと言いつつ「殺すぞ」と脅してみたりするなど、支離滅裂だ。つまり単にガラが悪いだけなのだ。海賊なら、もっと効率的かつ計画的に悪事を働くものだ。

 「つまり、ファッテン伯が嘘をついている。あるいは勘違いをしている、ということだ」

 そんなウィンを、フェリーニナは黙って観察していた。

 「アタシらの言い分をあっさり信じるんだね」

 「この結論が最も合理的だと思っただけだよ。とすると、海賊ってのは何だい? そもそも存在しないってことかい?」

 「それが、どうやら居るらしいんだな」と、雷鳴のような声が加わった。お頭、ガロナ・ベンブークだ。

 改めてガロナとフェリーニナを見較べた。全然似ていない。

 「お前、今失礼なことを考えただろう」と言って、ガロナがウィンを睨んだ。

 ともかく、海賊は存在するらしい。海賊は、貿易船などを襲って金品を奪っているのだという。確かに実害は発生しているのだ。この海域の治安維持も任されているガロナ水軍としても捨て置けない問題なのだが、「なかなか尻尾をつかめないのだ」と言って、ガロナは肩を落とした。

 「それなのに、なぜガロナ水軍が海賊みたいな扱いを受けてんの?」

 「知らねえよ。ファッテン伯は俺たちが海賊やってるって言い触らしてんだ」とニムかダルナが叫んだ。どっちがどっちなのか分からない。

 「なら、海賊を捕まえよう。それで水軍にかけられたぬれ衣は晴れる。自分たちで海賊を捕まえるんだよ!」とウィンがたきつけると、フェリーニナが応じた。「いいね、やろうじゃないか。海賊をとっ捕まえてファッテン伯につきだしてやろうじゃないか!」

 「ところで……」と、ニムだかダルナだかがつぶやいた。

 「どうやって捕まえるんだ?」

 全員がウィンの顔を見た。ウィンはやる気が感じられない目をして、頭をかいた。

 「え、そんなの知らないよ」

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